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標~進むべき道~  作者: 渋谷幸芽
29/33

進展

「さっきの事なんだけど・・・・・・なぁ、本当に今度の期末試験、勝てるのか?あいつらに」

「そんなの・・・・・・無意味な確認しないでよ!もう、絶対に勝つしかないでしょう!って言うか若林が心配するような事でもないでしょう」

好美は軽く素っ気なく若林に答えながら脇を通り過ぎた。

その腕を若林が縋るように強くつかんできた。

「・・・・・頼む!絶対に勝ってくれ!」

「痛い!は?ちょっと、何なの、何で若林がそこまで必死になってるの?」

若林は好美から手を離し周囲を見回した後、白状した。

「実は、犯人、俺なんだ、さっきのダサいって・・・・・・」

「・・・・・・そうだったんだ」

「ああ、我慢の限界で口をついて出ていた」

「そっか、でも、あの時、若林が言ってくれなかったら、あのまま本気で殴られてたかも、ありがとう!これは尚更負けられないね」

そんな話をしている所に悠太が入ってきた。

「為末・・・・・」

「何?」

「もう後には引けないけど、あんな啖呵切っちゃって本当に大丈夫か?」

「もう!2人して同じ心配しないでよ!まぁ心配になる気持ちは判るけど!」

そんな話をしながら3人の脳裏に歩の顔が浮かんだ。

「ねぇ!こうなったら3人で鏑木さんに勉強教えてもらおう!」

好美の提案に、けれど悠太が、この状況下に於いても躊躇を見せた。

そんな悠太を心配そうに見守りながら若林が助言した。

「色々思う所もあると思うけど、ここは鏑木に頭を下げるべきじゃないか?」

「俺は別に頭下げるのが嫌とかじゃなくてさ・・・・・」

「判ってるよ、だって私にも有るから・・・・・・余りに虫が良すぎるって後ろめたさが」

悩みに悩んで部活動終了のチャイムが鳴り響いたタイミングで2人決断した。



 しっかり駐輪場の陰に身を隠し辺りに警戒を続けながら歩の動きを注視した。

疲労感を滲ませながら学校の敷地の外に出て行こうとする歩を意を決し悠太が呼び止めた。

「|鏑木!ちょっと」

歩が足を止め訝し気に周囲を見回した。

好美が手招きして歩の注意を引いた。

「為末さん?」

訝し気に近づいてきた歩が駐輪場の陰に隠れている3人を覗き込んだ。

「こんな所で何しているの?珍しい組み合わせだね」

「ちょっと悪い、座ってくれ、乾達に見つかると面倒だから」

若林が警戒しながら周囲を見回した。

言われて歩も周囲を警戒した後、座って駐輪場の陰に隠れた。

「ごめん・・・・・それで?私に何か用?」

「うん!実は鏑木さんに頼みたい事があるの、聞いてくれる?」

「何?内容によっては断るけど」

好美は最後まで後ろめたさを抱きながら切り出した。

「さっき、あんな事言ったけど、実は乾達に勝つ自信ないんだよね、順位も、いつも中の中って感じだし、勉強出来る方じゃないし、でも、絶対に負けるわけにいかないから鏑木さんに勉強教えて貰いたいの」

「何だ、そんな事」

微かに警戒しながら好美の話を聞いていた歩の表情と態度が完全に軟化した。

「良いよ、解らない事は遠慮なく聞いて?でも、何で勝負に関係ない若林まで居るの?」

「・・・・犯人、俺なんだ、さっきの」

喋る度に曇る眼鏡が鬱陶しくてマスクをずらして告白した。

「え・・・・」

「掃除もしない、威圧的、もう我慢の限界で思わず口をついて」

告白して、直ぐにまたマスクを戻した。

「・・・・そういえば、若林、ずっとマスクしているよな?風邪でもないのに」

悠太が不思議そうに若林を見た。

「・・・・1年の時、俺、乾と武川と同じグラスだったんだけど、イジメられたとか大袈裟な事じゃないんだけど、歯並びが悪いって武川に言われて、気持ち悪いから口元見せるな!って言われて、以来マスクが手放せなくて」

「最低だね!何様なの本当に!絶対に負けられないね!」

好美が改めて闘志を燃やした。

「自分の口が災いしたわけだけど、そんなワケで自分勝手の都合だけど、2人には絶対に勝ってほしいんだ!だから鏑木の力が必要なんだ、だから俺たちに勉強教えてくれ、甲本に標的にされたくなくて自分を守るために酷い事してきたけど」

耳が痛すぎる若林の告白に悠太は気まずそうに目を泳がせた。

「この機会にちゃんと謝りたい!手紙で謝るだけなんて卑怯な気がしていたけど、なかなか声を掛けられなくて、本当に悪かった」

「私も・・・・無視したり、色んな最低な事をしておきながら手紙だけで済ませて、うやむやにしてきたけど、それじゃあ駄目だよね!本当にごめんね鏑木さん、謝っても謝りきれないけど」

「一番悪かったのは俺だ・・・・若林達は仕方なくイジメに加担していただけだ、本当に虫が良すぎると思われるかもしれないけど、期末試験が終わるまで力を貸して下さい」

「判った・・・・今はとにかく、乾達には絶対に勝たないとならないから勉強頑張ろう!若林も!あいつら見返してやりたいなら一緒に勉強しよう!」

「あれ?そういえば鏑木、教科書全部使い物にならなくなった筈なのに全然、成績を落さなかったよな」

「あー私、上に双子の兄が居て、お兄ちゃんの教科書を貰って対策していたから」

「凄いね、私なんて教科書、何もされてないのに成績悪いよ」

若林が失笑しながら同調した。

「俺も同じ、頑張ろう」

「ところでさ、どこで勉強会やる?鏑木さんの家とか行ったら迷惑?」

「え、いや、ダメじゃないけど・・・・・」

歩が一瞬、躊躇を見せた後、条件を出した。

「家に来る前に3人に1つ約束してほしいの」

3人、真剣に頷いて見せると歩が胸の内を明かした。

「お母さんの前でイジメの話は絶対にしないで、女手一つで育ててくれた母親に心配かけたくなくて私お母さんにイジメに遭っていたこと話してないから、普通の友達っていう(てい)で振舞ってほしいの」

それぞれ複雑な気持ちになりながら真剣な眼差しで頷いた。

「あ、でも俺、お前のお兄さんに2度と俺の前に現れるな!と言われているんだ」

「そうなの?でも、今日はお兄ちゃん、仕事が遅番だから大丈夫だよ」


「良い家だな」

案内された鏑木家の前で若林が羨ましそうに呟いた。

「俺、団地暮らしだから憧れる、戸建住宅」

「因みに私も今はアパート暮らし」

「今は?」

悠太と若林が不思議そうに好美を振り返った。

「私の事は気にしないで、そんな事より、ホント、素敵な家だね」

「ありがとう、お爺ちゃんとお婆ちゃんが(つい)住処(すみか)で建てた家なんだ、私達が移住してきて暫くして、相次いで2人とも亡くなっちゃったけど」

「移住?」

好美と若林が不思議そうに復唱した。

「そっか、為末さんと若林には話してなかったっけ、もともと私達、東北に住んでたの」

「・・・・被災者だったの?」

「うん、あの地震で、お父さんと、お父さん側の、お爺ちゃんお婆ちゃんが亡くなって、住んでいた家も全壊して、だから地震の数年前に、ここに移住していた、お母さんの両親を頼って移住してきたの」

「凄く大変だったんだね」

「・・・・・・うん、でも大変な思いしているのは皆一緒だけどね、だから「大変だった」を言い訳にしないって誓って移住してきたんだ、まあ、この話はこれ位にして、さ、どうぞ、入って?」

歩は3人を家の中に促し客間に通した。

「とりあえず、どの教科から勉強したい?」

「私は、まず大の苦手の数学から教えてほしいんだけど、甲本と若林は?」

「俺も別に数学からで良い」

「俺も」

「じゃあ、さっそく・・・・・」


 しばらく勉強を続けていると、千春が買い物袋を提げて帰宅してきた。

「お母さん、お帰りなさい、今日は居酒屋は休みだっけ?」

「ええ・・・・お友達が来ていたの?」

「うん・・・・」

「こんにちは、突然お邪魔して申し訳ありません、期末試験に向けて歩さんに勉強教えてもらっているんです、これから、ちょくちょくお邪魔すると思いますけど・・・・」

好美が遠慮気味に挨拶した。

「いらっしゃい、歩が大変お世話になっています、ゆっくりしていってね、遠慮しないでいつでも来てね、でも、お家の方たちは大丈夫なの?」

「はい、メールで勉強会してくるから遅くなると伝えてありますので」

「僕もメールで報告してあるので平気です」

「僕も平気です」

3人、努めて自然に会釈し、直ぐに勉強を再開した。

「大地は今日と明日も遅番だったわね」

歩がリビングの壁に張られた大地のシフトを確認して頷いた。

親子の会話を聞いて、万が一にも大地と顔を合わせたく無い悠太は安心した。

落ち着いた環境で勉強に打ち込んで個々に少し自信がついたところで解散した。

「では、突然お邪魔して長居してしまい申し訳ありませんでした」

好美達は何度も丁重に頭を下げ鏑木家を後にした。

「なぁ・・・・・・教科書あんな状態で帰ってから復習とか出来るのか?」

悲惨な状態の教科書を目の当たりにした若林が心配そうに悠太に確認した。

「教科書は諦めてる」

一層不安そうな眼差しを向けられ悠太が日頃の学習のコツを明かした。

「心配するなって!諦めてるのは教科書だけだ、教科書も確かに重要だけど、実は同じくらい授業中の口頭での説明が重要なんだ!その口頭での説明は一語一句逃さずノートに書き留めてるから帰ってから全く復習出来ない!って事にはならない」

「確かに、そうかも・・・・・・うん、肝に銘じておく!明日から口頭での説明にも注意してみる」

「私もそうしてみる!」

「じゃあ、俺こっちだから」

若林が軽く手を振って角を曲がっていった。

2人きりになった刹那、何とも言えない気まずさを覚えて黙々と別れ道までの短い距離を歩いた。

互いに沈黙を守り、好美が歩道橋の前で立ち止まった。

一段目に足を掛け、次の段を見据えながら別れを告げた。

「じゃあ私こっちだから」

「ああ」


 試験まで一日も無駄に出来ない好美たちは、翌日も歩の家に集まったが、予想していなかった事態が起きた。

悠太が本来なら鉢合わせる筈のない大地に遭遇し、容赦なく掴みかかられた。

余りに唐突すぎて一瞬、誰も悠太をフォローできなかった。

それでも歩が一早く間に入った。

「ちょっと、やめてよ、お兄ちゃん!それよりも何でこんな時間に家に居るの!今日も遅番じゃなかったの?」

「急病人が出て早番になったんだよ!それより何で、こんな奴を家に連れて来るんだ!」

「色々あって4人で期末試験の勉強をする事になったの、どうしても期末試験で良い点を取らないとならない事情が出来たの、期末試験が終わるまでの間だけでも許してあげて」

「・・・・・その事情とやらを説明しろ」

4人、顔を見合わせ、歩が、かいつまんで大地に話した。

好美も丁寧に頭を下げた。

「そういう理由で私達は何としてもクラスの秀才に負けるわけにいかないんです、出来るだけ静かに迷惑にならないように勉強しますので試験が終わるまでの間、3人でお邪魔させて下さい、立場上、こんなお願い出来ないのは重々承知しています、でも・・・・」

好美が「拒絶」を覚悟していると、2人の少年がゆっくり降りてきた。

「?」

一瞬、更に事態が悪化するのではと構えたが、2人は好美の予想を大きく裏切って、助け船を出した。

争いが収束しそうな様子に思わずホッとしていると・・・・・・。

「・・・・そうだ!良い機会だから、お前らに一つ聞きたい事がある!」

再び不穏の火種を大地が投入した。

「これの犯人捜しているんだ」

言いながら例の合成写真を出してきた。

「ああ、これ」

顔色一つ変えず歩が告白した。

「その件なら手紙で謝って貰ったよ」

「誰に?!」

「お兄ちゃん怒るから教えない」

「は?いや、教えろよ!解った!怒らないから教えて下さい!」

好美の横に立っていた若林が異様に目を泳がせていた。

ビクビクと壁際に逃げながら若林が勢いよく頭を下げて謝った。

「僕が断り切れず作りました!スミマセン」

即座に大地に間合いを詰められ悠太が慌てた。

「え?!いや、俺そんな命令してないし!」

「甲本に頼まれたなんて一言も言ってないだろう!武川に命令されたんだよ!水を飲むのにマスク外していたら武川に口元見られて!自分で見たくせに言いがかりつけてきて」

「口元?」

意味が解らず大地が首を捻った。

「許してやるから合成写真を作れって」

「お前、そういえばパソコン部だったな」

「とにかく、その件も、もう終わっているから写真も捨てちゃって」

大地から写真を取り上げ歩は破り捨てた。

「本当に悪かった・・・・・」

「良いよ、もう・・・・この件に関しては若林も被害者みたいなものだし!あいつら黙らせる為にも勉強頑張ろう、お兄ちゃん達も勉強に戻って」

漸く事態が収束した所で、この日も勉強会が始まった。

大地と悠太の鉢合わせというアクシデントは起きたものの、個々に動揺を抱えながらも勉強会そのものは、この日も非常に有意義に行われた。


 帰宅後、早速、教科書とノートを駆使して復習に励んだが、判らなくなった部分が出てきた。

丁寧に教科書とノートを見直してみたが疑問は解消されず・・・・・・。

「明日歩ちゃんに聞いてみよう」

附箋を張り付け、教えてもらいたいリストに書き足した所で、キッチンから燿子に呼ばれた。

「夕飯出来たよ」

「はい」

食卓には今日もバランスの取れた食事が並んでいた。

「いただきます」

「はい、どうぞ」

好美は軽く合掌してから大好きな豚汁を啜った。

器を置いて満面の笑みを見せる好美を見守りながら、燿子は焼き魚の身を箸でほぐした。

「勉強は順調?」

「うん!」

「御飯の後、ちょっと、寛子の所に行ってくるけど一緒に行く?」

「お姉ちゃんの所?あ・・・・・そっか、修学旅行のお土産を取りに行くって言ってたよね?」

一瞬迷って見せたが付いていく事にした。


 「いらっしゃい!」

「どう?楽しかった?修学旅行」

お土産を受け取りながら修学旅行の感想を聞いた。

「うん!思い切り楽しんできた!まあ、この後、憂鬱な期末試験が控えているんだけど・・・・・・」

好美は平和な学園生活を送っている寛子を羨ましく思いつつ、是が非でも武川達に期末試験で勝って自分も平和な学園生活を取り戻すことを心に誓った。

暫し、寛子の土産話を聞きながら平和に過ごして、程なく、お開きになった。


 帰宅して、お風呂上り、再び復習に取り掛かろうとした好美はメールが届いている事に気付いた。

時間を見ると、スマホを使用して良い時刻を過ぎていた。

燿子が入浴中だったので確認する気になれば容易に出来たが、この時間にメールを確認すれば、燿子に抜き打ちでスマホをチェックされた際に夜9時以降の使用がバレてしまうので何とか思いとどまった。


 好美が鳴り響く予鈴をボンヤリ聞きながら上履きに履き替えていると悠太も登校してきた。

「あ、おはよう」

「ああ・・・・」

妙に落ち着かない様子で巾着袋から上履きを取り出し履き替えながら、迷いを見せながら切り出した。

「・・・・・昨日、夜」

「夜?」

「やっぱ迷惑だったか?メール」

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