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標~進むべき道~  作者: 渋谷幸芽
28/33

結託~勝機を求めて~

若林は今の面倒な状況を切り抜ける為に必死に冷静になり頭を働かせ色々シミュレーションした。

当然ながら相応に投書した人物の秘密は守られるようになっている目安箱。

一度、箱の中に投函してしまえば中の投書を取り出せるのは鍵を管理してる教師のみ。

今のピンチを切り抜けるには、これしかない!と学校生活で抱いてる当たり障りの無い不満を聞かせた。

「可能なら岸本に担任を降りてほしいって書いて入れたんだ、まぁ流石に願いが叶うとは思えないけど、って言うか今の、絶対に言わないでくれよ」

「奇遇じゃん!俺たちも、それは常々思う!」

「お前も、たまには良い仕事するじゃん!何なら毎日でも投書しろよ」

乾が満足げに若林の肩に腕を回した後、直ぐに体を離して武川とともに下校していった。

何とかピンチを切り抜けた若林は暫し立ち尽くし、2人と時間をおいて学校を後にした。

本来なら感じる必要のない強いストレスを感じたが、それでも吐き出したい事を(したた)めたものを何とか無事に投書出来た事にホッとしていた。


「高浜さん?」

週末、格安の理髪店から出てきた悠太は店の前で偶然、高浜と行き会った。

「おー、髪切ってきたのか」

「はい!サッパリしました」

はにかみながら短くなった髪を撫でつけて、散髪直後の独特の手触りを堪能した。

「高浜さんは・・・・・」

「そこに・・・・・娘と女房の墓参りに行った帰りだ」

どうリアクションして良いか判らず立ち尽くしていると・・・・・。

「これからの予定は?」

「何もないです」

「なら、少し歩くか」

「はい!」

高浜は墓地裏の、鉄棒とブランコだけが在る小さな寂れた公園に向かった。

2人ゆっくり色褪せたブランコに腰かけた。

「こんな公園が有ったんですね」

「ああ」

「こんな穴場、知らなかった、高浜さん、よく来るんですか?」

「穴場・・・・なのか?此処は」

自分と、大きく価値観が違う悠太の発言に思わず引いて見せた後。

「来るのは初めてだ、公園が在るのは前から知ってたけどな」

早々と会話が完了してしまい、そして「穴場」などと心にもないキーワードを苦しまみれに付け加えてしまった事を後悔した。

下手に前言撤回すれば更に地獄の空気になるので、どうにか長く続きそうな「ネタ」を探した。

そんな悠太の焦りと緊張を知ってか知らずか。

「・・・・頑張ってるな、毎日」

唐突に褒められ一瞬、薄っすら浮かんだ「話題」が頭の中で散らかり消えていった。

「いつも学校で見ていて本当に感心する、あんな環境でも中間試験でも上位トップ10に食い込んでいたし、休まず登校してきているし」

唐突に好評価され悠太は思わず返答に困ってみせた。

そして一瞬迷って見せた後。

「正直言えば、学校なんて行きたくないって気持ちも有ります、でも償うって、戦う・・・・って、決めたので」

「決めた事をやり通す意志の強い奴は嫌いじゃない」

肯定的な言葉にホッとしながら燻り続ける思いを打ち明けた。

「・・・・・でも本当に毎日、思うんです、結局は自己満足なんじゃないかって、これが本当に正解なのか正直、判らなくて!こんな事、人に聞いて答えが出る事じゃないって解ってます!でも、償うって・・・・償えたって、自分なりの償い方は正しかった!と言える時が来るんでしょうか?絶対に許されない事をしてきてしまって、どんなに深く後悔して反省して誠心誠意で謝ったって鏑木に、とんでもない選択をさせてしまった事実は変わらない!!」

痛いほど伝わってくる悠太の苦悩を受け止めつつ自論を聞かせた。

「今は、正解か否かを求める時期じゃないし、もっと言えば正解か否かは、俺や、周りの奴らや、お前が決めて良い事じゃない、被害者が、どう受け止めるかなんじゃないか」

その一言に悠太が顔を上げた。

「相手に許される事が償いの全てじゃない・・・・・お前が苦しみ抜いて選んだ「償いの形」が、お前の中で正解なのか不正解なのか、そんな事を全然重要じゃない!この年まで生きてきて、お前が安心できる答えを導き出してやれないのも情けない話なのかもしれないが、大事なのは償いの形にこだわる事じゃなく、償い続けようとする気持ちと、二度と同じ事をしないと誓い守り続ける事だと俺は思う」

諭しながらも、自分には「被害者に許される」その瞬間を迎える事は一生ないのだと痛感して辛くなった。

高浜の助言に導かれ自分の方向性を改めて確認できた悠太がブランコに座り直し姿勢を正した。

「あの・・・・・色々ありがとうございます、おかげで迷いが消えました」

「そうか」

寂れた公園で、少し吹っ切れた様子の悠太と別れた後、高浜は再び墓石の前に立ち、懺悔した。

悠太に自論を聞かせつつも償うことに迷走しているのは自分の方だと痛感していた。

そして、未だに完成してないマフラーを今年中には必ず完成させることを誓い、その場を離れた。


 その頃、好美は。

最近オープンしたばかりの口コミも上々のケーキ屋さんでガラス張りの冷ケースの向こう側にズラリと並ぶ種類豊富のケーキに目を輝かせていた。

「どれも美味しそう!!好美、どれにするか決めた?」

「凄い目移りしちゃう!けど私も一押しのアップルパイに決めた!」

「はい、じゃあアップルパイ4つね」

「俺たち外で待ってるぞ」

混雑する店内。

会計を燿子に託し、好美たちは店の外で燿子を待った。

待ちながらボンヤリと道路を挟んだ向かい側の手芸屋を眺めていた好美は意外な人物が店に入っていく所を目撃した。

「・・・・岸本?」

何を購入したのか好奇心は働いたが折角の休日に岸本に関わりたくなくて気付かれる前に手芸屋に背中を向けた。

その店内に、更にもう一人意外な人物。

高浜が訪れていて2人は鉢合わせた。

お互い関わりたくなくて他人のフリでやり過ごして目的の物を購入して足早に店を出た。


個々に相応に平穏な週末を過ごし迎えた週明けの月曜日。

6時限目終了のチャイムが鳴り響く中、教科担当の教諭が期末の範囲を伝えた。

「よし、最後になるけど、今日やったところは今度の期末で出るから、しっかり押さえておけよ」

生徒たちはバラバラと返事をしながら、それぞれ教科書の余白にメモを残した。

好美も教科書の余白に出題されることを走り書きしながら、隣で静止して遠い目で使い物にならない教科書を見下ろしてる悠太を盗み見た。

・・・・・・・。

勉強道具をしまうと、乾と武川以外の生徒たちは、それぞれ掃除分担場所へと散っていった。

幸いにも乾達は違う場所に行ってくれたので掃除を妨害されることは無かった。

平和に掃除と帰りのホームルームを終えて好美が生徒玄関に降りていくと高浜に呼び止められた。

「あいつに返しておいてやれ」

言いながら差し出されたのは妙に変形した悠太の通学靴だった。

とりあえず受け取り、悠太の下駄箱に入れようとした時。

「簡単なことじゃないって・・・・・」

全く威圧感の無い声音で不意に語りかけられて下駄箱の扉に手を掛けたまま高浜を振り返った。

「あいつに味方してやるのは簡単じゃないのは判ってる、でも、どうにか助けてやってほしい、あいつは、あいつなりに必死に償おうとしてる」

不意に、高浜から掛けられた言葉が海野に別れ際に言われた「良い方向に進む事を諦めないでほしい」という言葉と重なった。

なぜ高浜が、そこまで悠太の味方になろうとするのか好美には判らなかった。

判らなかったが自分の中の本音を吐露した。

「甲本が今やってる事は戦いじゃない、償いでもない、イジメに遭っても必死に抵抗してやり返して学校に通い続けて、それで負けてない気になって、償ってる気になって安心してるだけ!私には、そう見えて仕方ないんです!」

「お前の目には、あいつがやってる事が「正解」には映らないのか?」

抑揚のない声音で確認され失言したのかと一瞬、思い切り目が泳いでしまったが覚悟を決めて肯定した。

「まあ、正解の物差しは皆やっぱり違うんだろうから、お前が、あいつを認められないのも無理はないか」

残念そうにされ、何とも気まずい沈黙が流れた。

「でも、だったら、せめて1人では何も変えられなくても2人でなら、3人でなら変えられる事もあるという事を、あいつが完全に諦めてしまう前に、万が一にも方向性を大きく誤る前に、その事に気付かせてやってほしい」

「方向性・・・・・」

その言葉に、歩の時のような失敗を、もう2度としてはならないと肝に銘じた。

「言いたい事はそれだけだ、じゃあな」

高浜は好美に「助言」すると残りの業務を消化する為に立ち去った。

好美は、高浜の本質に薄々気付きながら、その後ろ姿を見送った。

そして思いの丈を告げる為に悠太が降りてくるのを待った。

程なく、本日の日直の役目を全てこなした悠太が下駄箱に、やってきた。

誰かを待っている様子の好美と一瞬、対峙した後、すぐに悠太は好美が自分の靴を持ってる事に気付いた。

好美は今一度、周囲を確認して乾達の姿がない事を確信して靴を差し出した。

礼もなく暗い顔で靴を受け取る悠太を好美は思わず叱責した。

「あんたさ、もう本当に、いい加減に戦う気になってよ!」

すぐさま悠太が不機嫌そうな声音で反論した。

「お前、同じ事ずっと言い続けているけど俺のどこが戦ってないって言うんだよ!蹴られれば蹴り返すし殴られれば殴り返すし学校だって毎日登校している!」

予想通りの反論に盛大に溜息をつきながら、苛立ち交じりに思いをぶつけた。

「もう!何で判らないかな?!そんなの同じレベルになって醜い争いをしているだけでしょう!どうして、もう止めてくれ!ってハッキリ言わないの、どうして私達に力を貸してくれって相談してこないの?!いつまでそうやって独りで償ってるフリしてウジウジしてるの?!鏑木さんと同じ目に遭う事が償いじゃ無いでしょう!」

好美の言葉に、悠太は押し黙り立ち尽くした。

長く沈黙して、様々な思いを巡らせている様子の悠太を見守った。

やがて悠太の眼差しに微かな生気が戻ったのを確認して、好美はホッとした。

「じゃあ、言いたい事も言ったし、私は帰るけど」

「・・・・待ってくれ」

「何?」

「自分で蒔いた種だって事は充分判ってる!でも・・・・・助けてほしい、助けてください」

悠太の覚悟を聞いた刹那、何故か涙が溢れそうになった。

一言でも発したら涙が溢れる気がして、一呼吸置いた後で戦友になる事を誓った。

「でも、俺と関わる事でもしかしたら為末まで乾達に目をつけられる事になるかもしれない」

悠太は周囲に注意しながら好美を気遣った。

「とにかく充分に気をつけてくれ」


 『へぇ、そんな事が有ったんだね』

「うん」

『クラスも違うし、たいして助けてあげることも出来ないけど、1つアドバイスするけど、とにかく舐められない事だよ!!その為にも言葉の瞬発力が重要になるかも』

「ありがとう!うん、舐められない事を念頭に置いて明日からも頑張る、でも言葉の瞬発力か・・・・・・あまり自信ないな」

『難しく考えなくて良いと思う、不快な気持ちになったら、その感情に任せて言ってやれば良いよ』

真希のアドバイスを受けつつも、悠太の戦友になる事を決めながらも、やはり、イジメに立ち向かおうとする好美の心の真ん中では不安が蟠っていた。

タイムリミットを迎え燿子にスマホを預けてからも、暫し眠る事が出来なかった。


 翌日、ずっと冴えなかった悠太の顔色が珍しく良い事に歩も好美も内心安心した。

それでも、休み時間、悠太を追い詰めないと気が済まない乾と武川が、あの手この手で黒板を写す悠太を妨害した。

悠太が意に介する素振りを見せず写し終えると、邪魔しきれなかった事に腹を立てた乾が怒りの形相で悠太のノートを破り捨てた。

好美は不快感に腸が煮えくり返りそうになったが一旦、成り行きを見守る事にした。

負けじと悠太も怒りの形相で乾を睨み返しながらも身を屈め、散らばったノートに破片に手を伸ばした。

が、一瞬、武川の方が反応が早かった。

憎しみを込めて、けれど嬉々とした表情で散乱したノートを踏みにじった。

寸前で踏みにじられそうになった手を引きながら、勢いよく立ち上がり武川に掴みかかった。

周りはまた殴り合いに発展する事を警戒したが、悠太は、そのまま武川に、しがみつく様にして頭を垂れたまま懇願した。

「・・・・・・もう、頼むから止めてくれ!一学期、鏑木イジメで2人の大事な時間をつまらない事に使わせた事は心から謝る」

2人、一瞬顔を見合わせ、武川が乱暴に悠太の手を振り払って、懇願を冷たく一蹴した。

「は?何お前、全然判ってないじゃん、俺らが怒ってる理由!別に、つまらない時間なんて思わなかったのに!良いストレス発散が出来て良かったのに、なのに急に良い子ぶりやがって!こんな、つまらない事は無い!」

余りに屈折した考えに好美達は軽蔑の眼差しを2人に向けた。

異様にピりついた空気に包まれた教室。

そこに、トイレ休憩を終えた歩が静かに戻ってきた。

不愉快極まりない武川の発言に、そして歩が戻ってきた安心感も助け、覚悟を決めて不快感を解放した。

「・・・・・・・最低だね!本気で言ってるの?!イジメでストレス発散が出来るなんて狂ってるとしか思えない!」

「良い子ぶってないで良いから、お前も騙されたと思って、やってみろよ!クズを殴るとスッキリするから」

好美が必死に厄介な2人と対峙してる事を察した歩が気配を消して静かに乾の背後に立った。

歩の加勢を得られた事を確信した好美は、有利な状況だと感じて少しだけ大胆になって悠太を促した。

「・・・・って言ってるよ甲本!折角だからやっちゃいなよ、クズたちの所為で凄くストレス溜まってるでしょう」

「あ?喧嘩売ってるのか!」

相手が女子でも平気で掴みかかりそうな乾の背後をしっかり取った歩が的確に羽交い締めを決めた。

唐突に身体に触られ締め上げられ思わず声を上げた。

「ビックリした!気配消して人の後ろに立つな!そしてデカい図体でそんな締め上げたら苦しいだろう!離せよ!」

苦しがる乾を冷たく見下ろし悠太を促した。

「良いよ!甲本、今のうちに!一回位思い切り引っ叩いてもバチは当たらないよ」

加勢してきた歩を意外そうに見上げながらも協力を得て反撃に出た。

「・・・・・おう!」

好美は悠太の妨害しようとする武川を羽交い締めにした。

「何だ!離せよ!やるのか?!」

「やらない、私には勝ち目ないし」

「なら離せよ!」

「断る、乾の次はあんただからね!逃がさないよ!甲本、こいつ押さえるの大変だから早く!」

「ああ!」

好美のGOサインを受け悠太が渾身の力で頬を張った。

「・・・・・・・嘘じゃん、クズを殴っても全然スッキリしないんだけど!」

悠太が自分の掌を見下ろし理解に苦しんでる様子を見せた。

鼻から落ちる鮮血が上履きを汚したのを見届け、歩が乾から手を離してやると、すぐに強い力で今度は武川を押さえ込んで悠太を促した。

決して反撃を喰らわない安心感を覚えながら、武川の顔面にも憎しみを込めて平手を振り下ろした。

思わずスッキリするような派手な音が教室に響いた。

2人はジンジンヒリヒリする頬を覆いながら、不快に残る耳鳴りと垂れてくる鼻血に対処するので精一杯で元気に反撃する事は不可能だった。

「・・・・・・いつまでもしがみついてないで離せよ」

武川が体を捩って歩を振り払いながら鼻血を拭った。

「もう、あんた達みたいなクズと何一つ共有できる物なんて無いから、私達に甲本イジメとか、くだらない事を強要してこないでくれる?」

「何なんだ!お前ら好き勝手しやがって!マジでぶっ飛ばすぞ!」

武川が迷わず好美に掴みかかった。

強い力で掴みかかられて前のめりになったが毅然と睨みつけた。

「だっせぇ・・・・マジ、だせぇ」

教室のどこからか聞こえた非難の声に乾と武川が顔色を変えた。

「誰だ!今ダサいって言った奴!」

好美から手を離さないまま教室を見回して喚き散らした。

「鼻血が止まらなくなるから落ち着きなよ!誰だって良いじゃん、本当の事言われた位で切れたら駄目だよ、それより制服と上履きに鼻血が付いちゃっているよ、早く洗わないと落ちなくなるよ」

歩に言われ乾が一層切れた。

「ふざけるな!お前らの所為で、こうなったんだろう!」

「マジで俺たちにケンカ売った奴は速やかに出てこいよ、俺たちにケンカ売るなんて頭が悪過ぎなんだよ!」

「とりあえず、為末から手を離せ、まさか本気で女を殴るような馬鹿な事しないよな」

悠太に言われ、大きく舌打ちして武川が乱暴に手を離した。

乱れた制服を整え、臆せず好美が促した。

「とりあえず2人とも、鏑木さんが言うように洗ってきなよ、血液ってなかなか落ちないから」

「だから!お前が言うな!!ムカつくから!」

乱暴に扉を開け教室を出て行った2人。

歩に礼を述べたかったが、その前に次の授業の担当教師が入ってきてしまい、その後もタイミングを逃しまくって掃除の時間を迎えた。


 掃除の時間、好美達が教室の掃除をしていると自分たちの持ち場を投げ出し乾達が邪魔をしに来た。

「何?話なら後でたっぷり聞いてあげるから掃除しておいでよ!今週あんた達、男子トイレの掃除でしょう、また若林1人に掃除させているの?」

歩が、ウンザリして見せながら武川を退かしながら箒を動かした。

すかさず好美も塵取りを構えながら加勢した。

「サボるのは自由だけどさ、邪魔だけはしないでくれる?それとも手伝いたいの?」

「そんなわけないだろう!良いか、大事な話がある!お前ら放課後逃げるな!」

乾が教室で掃除をしている他の生徒たちも指さして威圧すると飽きたように出ていった。

 

 帰りのホームルームの後、他の掃除場所に居た生徒たちが何も知らず帰ろうとすると、乾と武川が前の扉と後ろの扉の前に立ち塞がった。

「話があるんだよ!さっきダサいって言った奴が名乗り出るまでお前ら帰れないから」

「は?聞いてないし!私、これから部活行かないとならないんだけど!」

「私も、今日は塾の日なんだから、退いて」

「ここから出たいなら犯人を探し出せ」

「ねぇ、皆暇じゃないの!邪魔ばかりしていないで良いから退いてよ!私も部活あるの!だいたい本当の事を言って忠告してくれた人をワザワザ探し出してどうする気なの?」

強引に教室を出ようとする歩を武川が突き飛ばした。

「帰って良いなんて言ってないだろう!もちろん舐めた真似出来ないように教え込むだけだ!」

「判った、じゃあ犯人は俺が責任もって探してやるよ!そしてお前らの前に(ひざまず)かせてやるよ!だから今すぐ此処から出せ!」

悠太の唐突の発言に、歩と好美も思わず振り返った。

「但し俺が期末試験の総合得点で万が一にもお前たちに負けたらの話になるけどな!俺が勝ったら、もう、イジメなんて、こんなくだらない事は止めるって約束しろよ!」

「馬鹿か!お前なんかが俺たちに勝てるわけがないだろう!」

「・・・・受けるのか、受けないのか?」

「どうする乾?」

「受けてやっても良いけど条件がある!」

「条件?」

「舐めた真似ばかりしている為末も俺たちに勝てたら素直に負けを認めて止めてやるよ」

乾が突き付けてきた条件に、それほど勉強が得意なわけではない好美が、流石に嫌な汗を流した。

悠太がチラリと(うかが)うと、しきりに目を泳がせていた。

それでも後に引ける状況ではないので好美は虚勢を張った。

「良いよ!私達が勝ったら本当に約束守ってよね!今日の約束、皆が聞いたからね、土壇場で約束破ったりしないでよね!」

「お前たちも約束守れよ」

「何か心配だから、お互いに一筆、黒板に書いて写真撮っておこうよ!土壇場で言い逃れなんて出来ないように」

歩が提案した。

歩の提案を受け、悠太が黒板に一筆書いた。

『期末試験の総合得点で乾氏と武川氏に敗れた時は約束通り侮辱した犯人を見つけ出し2人に土下座させます、甲本悠太・為末好美』

「ホラ、あんた達も私が言う通りに書いて!乾彰、武川哲也は期末試験の総合得点で甲本悠太と為末好美に負けたら2度とイジメもしないし甲本と鏑木さんに心から謝り、ダサい発言の犯人の事も勿論見逃します、掃除もサボりません」

好美にチョークを渡され、面倒臭そうに眉根を寄せながらも乾が好美の文言通り書いた。

「さ、携帯持っている人、皆、これ撮って」

歩に促され複数の生徒が写真を撮った。

既に勝ちを確信している乾と武川が余裕の表情で扉を開けて皆を解放した。

好美が冴えない顔色で帰りの身支度を整えていると、同じくさえない顔色の若林が教室に入ってきた。

「あれ?まだ残ってたんだ、若林」

「・・・・ちょっと為末に話がある」

「何?」

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