小さな勇気~姿なき共闘者~
「なぁ、誰だと思う?こんな舐めた真似するの」
言いながら武川がゴミを足元に叩きつけるように捨てて行った。
「どうも俺たちに楯突くやつが多いな」
乾も乱暴にゴミを足元に捨てながら、推測を立てた。
「甲本に仕返しされた感じ?」
一瞬、武川も、そんな気がしたが冷静に分析してすぐにその可能性を否定した。
「でも時間的に無理じゃないか?まず靴を探し出して、そのあと、均等に俺たちの下駄箱にゴミを割り振って何事もなかったかのように下校するって無理な気がする」
「確かに・・・・・・・」
そんな事を話しながら、足元にゴミを捨てていると、脚立を軽々と肩に引っ掛けた高浜が通りかかった。
まずい所を見られ、ゴミを握りしめたまま身動きが取れなくなった。
「おい」
「はい、すみません」
2人、叱責される前から思わず謝っていた。
「ゴミはゴミ箱に捨てろ!」
更なる叱責を覚悟したが、それ以上関る事無く立ち去って、渡り廊下の方向に消えていった。
嫌な汗を拭いながら、高浜の姿は確認できなくなったが、ゴミをそのままにして帰って高浜に見つかったら、次に高浜と鉢合わせた時、無事では済まない気がして素直に2人でゴミを集めてゴミ箱に捨てた。
2人が非常に不愉快な気持ちになっている所に、好美と真希が談笑しながら玄関に降りてきた。
「おい!俺たちの下駄箱にゴミ入れたの、お前等か」
「「は?」」
唐突に身に覚えのない嫌疑を掛けられ真希が不快感を露わにした後、わざと2人にぶつかりながら押し退け、聞き直した。
「下駄箱にゴミがどうしたって?」
「俺たちの下駄箱にゴミを入れたのはお前らかって聞いたんだよ!体育の授業の後までは何とも無かったんだ!」
掴みかかってきそうな勢いの乾に好美は敢えて冷静に無表情で答えた。
「ちょっと!2人とも頭が良いんだから冷静に考えなよ、そんな時間、私たちに有ったと思う?あんた達と違って私たちは掃除も真面目にしてるんだよ、あんたたちの下駄箱にゴミを入れる時間なんて有るはずないでしょう」
冷静な返答に、犯人は真希でも好美でも悠太でもない事を悟ったが、そうなると犯人は一層分からなくなった。
無事に嫌疑が晴れたところで好美も2人を押し退け靴に履き替えた。
そして開けられたままの2人の下駄箱を特に何も考えず振り返って見た。
「っていうか別に何もされてないじゃん、嘘だったの?」
「嘘じゃねえよ!ゴミを入れっぱなしにしてても仕方ないから捨てたんだよ!嘘つき呼ばわりしてるんじゃねえよ!謝れ!」
武川に謝罪を迫られ面倒くさそうに好美は謝って見せた。
「そうだったんですね、疑ってごめんなさい」
そうして好美からも謝罪を迫った。
「っていうか、あんたたちも私たちの事を疑ったよね?謝ってよ」
「そうだよ!謝ってよ」
「はいはい、すみませんでした」
その時、4人がいがみ合う下駄箱に若林が下校の為に近づいた。
特に親しくも無い4人と言葉を交わす事無く上履きから履き替え立ち去ったが。
「・・・・・・待てよ」
直ぐに乾が若林を追った。
「何?」
少しズレた眼鏡を中指で押し上げながら振り返った。
「今さ、俺たちの下駄箱にゴミを入れた犯人捜してるんだけど、知らねぇ?」
言われて若林も2人の下駄箱を見た。
「ゴミは、もう自分たちで片付けた後らしいよ」
真希に言われ若林が納得して見せた。
「悪いけど判らない」
興味無さそうに立ち去る若林に続いて好美達も2人を残し立ち去った。
「今日も良いこと無かったな」
塾の帰り、バーガーショップで溜息をつきながら乾がオレンジジュースを吸い上げた。
「無かったな、嫌な事は有ったけど」
武川もフライドポテトを咀嚼しながら不満を漏らした。
「って言うかマジで誰なんだろう、ゴミ入れた犯人」
乾がオレンジジュースが入った紙コップを置いてフィッシュバーガーに齧りつきながら憶測を立てた。
「・・・・・・もしかして、いや、でも流石に、それは無いか」
「何1人でブツブツ言ってるの?」
武川がフライドポテトを完食して傍らのウーロン茶を吸い上げながら訝しげに乾を見た。
「ん・・・・・今さ、消去法で色々考えてたんだけど、流石にないと思うけど一瞬、高浜が脳裏に浮かんだ」
「えー流石に、あー・・・・・でも可能性はゼロじゃないか・・・・・・・何か冷静に思い出すと俺ら、掃除の時間に為末や甲本や鏑木が真面目に掃除してる所、見てるよな、あいつらは、とりあえず今回の犯人リストから除外して問題無さそうだな、何となくだけど、クラスの奴等じゃ無い気がする」
「ああ・・・・・・・俺もそう思う、まあ、あんまり嫌がらせが続くようなら、それとなく高浜に探りを入れてみよう」
「それにしても、仮に今回の犯人が高浜となると、なかなか難しい戦いになりそうだな」
「スキャンダル的な何か、どうにかして探しておくか」
同じ頃、好美はライン電話で真希と話していた。
「それにしても、ホント、最悪だよね、あの2人」
『ねー、そして誰だろうね、あいつらの下駄箱にゴミ入れたの、称賛に価するよね』
「ホントだよ、あいつらが自分達が如何に間違った事をしてるか痛感出来るまで一度と言わず何回でも、嫌がらせ続けて欲しいね、どこの誰か知らないけど影ながら応援しちゃう」
『同志は一人でも多い方が良いもんね、可能なら、その人物とも手を組みたいね、滅茶苦茶難しいと思うけど高浜さんとか味方に付けられたら、あいつらを黙らせる事も可能だよね』
そんな事件があった後、程なく、試験勉強の強化週間に入って部活動は中止になった。
歩が身体の回復とテスト勉強に時間を有効活用している頃、好美は苦手な教科を真希と一緒に下校時間ギリギリまで図書室で勉強していた。
イマイチ解らない部分の克服を目指していたが、理解を深める前にタイムリミットが来てしまい、2人は慌ただしく図書室を後にした。
そして生徒玄関へと降りて行った好美は、上履きから通学靴に履き替えながら乾と武川の下駄箱が微かに開いていて、何故か濡れている事に気付いた。
「?」
そんな必要はないと思いながらも何となく開けて確認したくなった好美が手を伸ばしかけた時。
「ヨッシーどうしたの?」
「・・・・・・・・何でもないよ、帰ろう」
校舎を出て、正門を潜ろうとした時、乾が追いかけてきた。
「待てよ」
「何?くだらない話なら今度にしてくれない?」
2人、律儀に立ち止まり乾と対峙した。
2対1だったので好美は若干の心強さがあった。
「くだらなくないんだよ!大事な話だ!」
「あっそう、大事な話でも、また今度にしてくれない?中間試験が終わったら少しだけ話聞いてあげる、私さ、あんたと違って頭も良くないし、今はテスト勉強のための時間を一秒も無駄にしたくないの!今すぐ帰って真希ちゃんに教えてもらった所を忘れないうちに勉強を再開したいの!」
「そういう事!じゃあ、さようなら」
見せつけるように2人腕を組んで乾を置いて下校した。
乾は深追いを避け、足止めさせたところでメリットが無い2人を行かせた。
「・・・・・・・どう?奴ら、今回も白だった?」
武川が後ろから近づき、乾に感想を聞いた。
「・・・・・・ああ、って言ってもアリバイまでは確認しなかったけど、俺達の靴に悪戯する暇は無さそうな様子だった」
「本当に誰なんだろうな、今日、俺たちの靴を水浸しにしたの!この間、ゴミ入れた奴と絶対に同一犯だよな」
足裏に広がる不快感にイライラしながら、2人も学校を後にした。
そんな乾達の姿を遠くから眺めている人物が居た。
乾たちの姿が完全に見えなくなるのを見届けた後、その人物は颯爽と裏口から学校を出ていった。
「じゃあ、筆記用具以外、全部しまって」
試験監督の教師の指示で最後の追い込みで教科書と睨めっこしていた生徒達は筆記具以外の物を全て片付け、問題用紙と解答用紙が前の席の生徒から送られてくるのを静かに待った。
「はい!じゃあ始めて!」
出だしこそ順調だったが、好美は程なく難易度が高い問題に直面して思わず手を止めた。
その横で、悠太もまた眉間に皺を寄せシャーペンを握りしめていた。
2人、思わず頭を抱えたい気分になっている、その後ろで歩が軽快にシャーペンを走らせる音が聞こえた。
決して歩と競っているわけではなかったが、歩が奏でる、その音に、好美は焦燥感を覚えた。
そして一緒に勉強していたなら、今日の試験も、もう少し違う気持ちで臨めたのかと寂しい気持ちも湧き上がった。
とりあえず時間のペース配分があるので、好美は、じっくり向き合いたい問題は後回しにして、回答できる部分を埋めていった。
その横で悠太も同じ作戦で解答用紙を埋めていった。
予習復習が困難な教科書を使っていても、埋められる部分の方が多かった。
少し離れた席から武川が自分の予想を上回るペースでシャーペンを走らせる悠太の姿を盗み見て、つまらない気持ちに駆られた。
乾も前の席の武川の小さな動きに気付いて同様に悠太に視線を走らせ、同様に面白くないと感じたが、直ぐに意識を目の前の問題に移した。
何とか見直しの時間を確保出来るペースで解けた乾たちと違い、悠太も好美も見直しの時間を確保できなかった。
無情にも鳴り響くチャイムに思わず溜息をつきながらシャーペンを置いた。
程なく、後ろの席の歩から回ってきた解答用紙をチラ見すると相変わらずキレイな字で解答欄が全て埋められていた。
非常に正解率の高そうな歩の解答用紙の上に正解率の低そうな自分の解答用紙を重ね、前の席の生徒に解答用紙を送った。
その横で悠太も、後ろの席から送られてきた解答用紙に空欄が目立つ自分の解答用紙を重ね前の席の生徒に送った。
一時限目の理科の試験が終り、二時限目の英語の試験が始まるまでの短い休み時間、悠太は塗りつぶされた教科書を開く気になれなかった。
短い休み時間を個々に有効活用して、知識を固める為に教科書とノートを交互に確認出来るクラスメイト達を羨ましそうに見た後、席を立って教室を出て行った。
直後、チャンスとばかりに、早速、乾と武川が悠太の机の中から社会と英語のノートを引っ張り出しコンパスの針でビリビリと切り裂いた。
見ていて不快感しかなかったが、止めに入る事で追い込みの為の時間を削られる事は避けたくて見て見ぬフリをするしかなかった。
2人、気が済むまで悠太の復習の邪魔をして席に戻った。
程なく悠太が教室に戻ってきたが、もはや使い物にならない事は重々承知だったのでノートや教科書は開こうとしなかった。
ノートを開いて傷ついた姿を見たかった乾と武川が残念そうに顔を見合わせた後、二時限目の試験監督の教師が教室に入ってきたので、机の上の筆記具以外の物を片付けて問題用紙と解答用紙が配られるのを待った。
そして自分の所に送られてきた問題用紙を試験監督の教師の合図で表に反し「楽勝!」と感じながら解答欄を埋めていき、問題を終盤まで解いていって時間に余裕を感じたタイミングで2人、チラリと悠太の様子を盗み見た。
難しい顔で頭を抱え、手を止めてシャーペンを握りしめたり、書いたり消したりを繰り返す姿に2人大満足した。
その後、滞りなく2学期の中間試験、第1日目が終り簡単な掃除とホームルームの後、生徒達は下校した。
平和に真希と試験の出来を報告し合いながら歩いて、あっという間に、いつもの別れ道に来た。
「じゃ、また明日ね、真希ちゃん」
「うん、バイバイ」
1人になってすぐ、好美は不意に肩を叩かれた。
振り返ると、其処にいたのは小学校時代、お世話になった養護の海野だった。
「やっぱり好美ちゃんだった!」
「海野先生?!」
「久しぶり!元気そうね!学校は、もう終わったの?」
「ご無沙汰しています、そうなんです、今日明日で中間試験があって」
「そっか、そういえば、そんな時期ね」
「先生は、今日、保健室に居なくて良いんですか?」
「それがね・・・・・好美ちゃんが卒業した後にプライベートで色々あって、実は退職したの」




