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標~進むべき道~  作者: 渋谷幸芽
21/33

二学期

正直、微塵も罪の意識を抱いてない様子の乾や武川の前で自分の思いを口にするのは怖かった。

平気でクラスに暗雲を(もたら)そうとしている、退屈しのぎに次のターゲットを探すように教室を見回してる2人の前で自分の身の振り方を口にするのは勇気を要した。

それでも、物凄い勇気を出した悠太に続きたいと思った。

「私も鏑木さんに謝るよ、手紙書こう!」

好美が賛同した事で、1人、また1人と賛同した。

殆どの生徒が歩に、ちゃんと謝りたいという気持ちを共有している中、乾と武川が都度、威圧的に話し合いの邪魔をしてきた。

「書きたい奴は書けば良い!でも俺たちは手紙なんて書かないぞ」

言いながら憎悪を滾らせた眼差しで悠太を睨んでいた。

好美は見えない火花を散らす3人を傍観しながら、悠太が2人のターゲットになったのを確信した。

自分が手紙という方法を提案した事で武川たちに「敵認定」されたのではないかと内心、物凄く不安になったが、その時、見回りの教師が入ってきた事で、良くも悪くも空気がガラリと変った。

「何だ、お前等、早く帰れ!」

正直、武川たちに、また不穏な空気を齎される前に解散したいと思っていた好美たちはホッとしていた。

まだ明確に方向性が決まってない現状に不安げにしながら、悠太もとりあえず下校した。

そして電話やメールで意見を徴収し多数決で手紙での謝罪と言う事になったので早速リストを作った。

そうして、便箋など気の利いた物が無かったのでルーズリーフに思いをしたためた。

そんな中、好美からメールが届いた。

『1つ、あんたに確認しておきたい事があるんだけど良い?』

『何?』

『去年、あんたに言われて指令を回した事、鏑木さんに打ち明けていい?』

今更秘密にして欲しい事でもなかったので即行で返していた。

『好きにしろ』

返信を受け、好美は用意した便箋を見下ろし、ペンを取った。

『Dearest鏑木歩様

正直、何から書くのが正解か判らないけど、どの口が聞いてるのかと思われそうだけど、身体は大丈夫?

とても心配です。

そして、まずは一番伝えたい言葉を書かせて下さい。

本当にゴメンなさい。

そんな最悪な選択をさせてしまった事を本当に謝りたい。

Dearestなんて単語、使って良い立場じゃないのかもしれないけど、散々酷い事をしてきてしまったけど、鏑木さんは私にとって大事な人です。

きっと鏑木さんは、こういう事が起きた原因を知りたいと思うよね。

だから伝えておきたい。

あの時の鏑木さんに非なんて、どこにも無かった。

でも「いじめ」は起きてしまった。

私の後悔も言い訳も謝罪に必要ないと、或いは不快に思わせちゃうかもしれないけど、あの日、起きた事を話したいと思います。

キッカケは去年の2学期の始業式の日に、私の机の中から1枚のメモ用紙が見つかった事から始まるんだけど。

その紙には鏑木さんを無視しないと同じ目に遭う的な事が書かれてて、その時は、誰が入れたメモなのか判らなくて、見なかった事にして捨てちゃおうと思っていた矢先に、その紙を机に入れた犯人、甲本からクラスの人たちに回すように言われて私は最終的に保身を選んでしまいました。

言い訳に聞こえると思うけど実は私も小学校の時にイジメに遭ってたんだよね。

とても耐え難いもので、だから家族と相談して中学に上がるのと同時に学区外に引越してきたんだけど。

久し振りに、やっと手に入れたイジメと無縁の穏やかな日常を失いたくなくて結局、保身に走って何度も傷つけてしまったことは後悔してるし反省もしてる。

反省して、謝っても済まされる事ではないけど。

結局、平和な日常を失うのが怖くて、歯向かえず、断れずに裏切って、甲本に言われた通り席替えが行われた直後の授業中に紙を回しました。

その後も保身の為に何度も、何度も裏切った。

苦しい中で1人でずっと戦わせてしまった事、本当に謝りたい。

本当にゴメンなさい。

それでね、謝罪の手紙に私の希望なんて書くのは間違っているのかもしれないけど書く事を許して欲しい。

出来るなら友達に戻りたい。

いつかまた好美ちゃんって呼んで欲しい。

歩ちゃん、好美ちゃんって呼び合えた頃の関係に戻りたい。

でも無理だよね・・・・・・・。

私が、こんな事を書ける立場ではないんだろうけど2学期に学校で鏑木さんと会いたい。

今更学校なんて行きたくない!と思うかもしれないけど、甲本は、もうイジメなんてしないと思う。

だって私が、私達がこうして手紙を書いている経緯だって、甲本が鏑木さんに謝り続けるって勇気を出して立ち上がってくれたから、そんな甲本に続く事が出来たんだよ。

パフォーマンスなんかじゃなくて、甲本も心底自分のした事を後悔して反省していた。

それでも、やっぱり登校してくるのは容易な事ではないかもしれないけど学校で会いたい。

最後になるけど、当然の事と思われるだろうけど、もう友達に戻れないとしても、これから先、何があっても鏑木さんの事は裏切ったりしない事を約束します。

それでは、2学期、学校で再会できる事を祈りつつ、そろそろペンを置きます。

From 為末好美』


 翌日、地元のお祭の会場で、悠太と待ち合わせて歩への手紙を託した。

リストから自分の名前を消す悠太を見守りながら思わず申し出ていた。

「本当に1人で渡しに行くの?私も・・・・・・」

「大丈夫だ、じゃあ行ってくる」

覚悟を決めた眼差しで足早に夏祭り会場を後にする悠太を見送りながら結局大事な事を全てを人任せにしてしまってる事に焦りを感じた。

思わず罪悪感を抱きながらも、結局は追う事も出来ず、橋の袂でいつまでも立ち尽くしていた。


 そして迎えた2学期の始業式の日。

好美は以前と違って歩の下駄箱が何も悪戯されてないのを見届けて教室に向かった。

「おはよう」

「為末さん、おはよう、ねぇ、私達の手紙、ちゃんと鏑木さんに届いたかな」

「大丈夫だと思うよ」

「今日、来るかな、鏑木さん」

「・・・・・・会えたら良いね」

そんな話をしていると、警戒した様子で悠太が登校してきた。

悠太は誰とも目を合わせようとせず、席に着くと何かの本を読み始めた。

武川と乾が、そんな悠太の前後の席に座って早速、嫌な空気を作っていた。

好美たちは、そんな3人を遠巻きに見ながら、ソワソワと何度も教室の入口に目を走らせた。

大半の生徒が登校して来ている中、歩との再会を諦めかけた時。

遠慮気味に扉を開けて入ってきた長身の影に、好美達は小さく声を挙げた。

思わず話しかけたくなったが、教室内を見回し、警戒した眼差しで席に着く歩と、好美達は結局、挨拶さえ交わせなかった。

歩は誰とも言葉を交わさなかったが、近くに座っていた悠太たち3人の様子を険しい表情で伺っていた。

程なくチャイムが鳴り響いて、同時に岸本が入ってきた。

慌てて個々に本来の自分の席に戻った。

そして朝の挨拶も程々に出欠を確認していった。

全員の出席を確認出来た少々強めに出席簿を閉じて岸本は歩に謝罪を迫った。

不満を滲ませながらも謝罪を口にする歩を見て好美は思わず擁護したくなったが、その思いと裏腹に、何故かそんな自分にブレーキを掛けていた。

その時、悠太が立ち上がって遂に教師の前でイジメが有った事を告白した。

岸本は即座に慌てふためき今度は悠太を責め立てた。

「ちょっと!どういう事?!あなた1学期に私が聞いた時イジメは無かったって説明していたじゃない」

低レベルな怒り方を見せる岸本に淡々と飄々と応える悠太を見て好美の中で何かが弾けた。

真摯に歩と自分自身と、そして教師と向き合う悠太の勇姿を目の当たりにして好美も遂に自分の思いを担任とクラスメイト達に解放した。

「私もイジメをしていました、1年の時からずっと」

悠太と好美の勇気に次々と続く生徒達。

続々と告白され岸本の表情がどんどん険しくなった。

そして臭いものに蓋をするかのように打ち切らせた。

「良いわよ!もう、とにかく皆座りなさい!でも今はイジメの問題は解決したと考えて良いのね?」

悠太が今一度、自分の意志を明確にしてみせると頭を抱え溜息をつきながら教え子達に迫った。

「判ったわ!この話はこれで終わり!そして、この件は今後、間違っても絶対に口外しないで頂戴!」

勇気を持って立ち上がった生徒達は一斉に岸本に冷たい視線を向けたが気づかないフリを決め込んで夏休みの課題を集め始め強引に話をすり替えた。


 『じゃあ、今日は割と平和に過ぎたんだね』

「うん、歩ちゃんにも、やっと会えて・・・・・・でも班も違うしで今日は結局、話せなかったんだけどね」

『そっか、それにしても被害者の歩に謝罪を迫るとか本当に信じられないよね、岸本!教師としてと言うより人として理解出来ない』

2人で改めて憤った後、好美は肩を落としながら告白した。

「でも正直さ、文句の一言でも言ってやりたいって腹が立ったけど、例によって結局私は何も出来ず成り行きを見守ってたんだけど」

『・・・・・・・簡単じゃないよね、行動に移すのって、明日は話せると良いね、それにしても良かったね、甲本の奴、ようやく反省してくれたんだね』

「うん、でも、その所為で今度は甲本がターゲットになってるみたいなんだよね、乾と武川が張り付いてる」

『あいつ等ね、私、2人と同じ小学校だったんだけどさ、頭は良いんだけど、本当に性格悪いから今更だけど気をつけた方が良いよ』

「うん、一学期クラスメイトやってきて、それは幾度と無く目の当たりにしてきた、散々便乗して酷い事してきたのに、あの2人、結局歩ちゃんに謝らなかったし」

堪らず好美は盛大に溜息をついていた。

「嗚呼、明日の班変え、歩ちゃんと同じ班になりたい!!」

『そうなれる事を私も祈ってるよ』


 「じゃあ皆、席を移動して」

皆、一斉に引き当てた番号を手に黒板に書き出された通りの場所へと机と椅子を押して右往左往していた。

好美は教室内で可もなく不可もなくの窓際から3列目の前から4番目の場所に机と椅子を運んで座った。

その直ぐ後に、進路を譲り合いながら歩も、好美の直ぐ後ろに机と椅子を運んできた。

(え?)

思わず振り返った歩の手元には「4-2」の紙が握られていた。

歩もチラリと好美が手にしていた紙を確認した。

「よろしく」

感情を読み取れない声音だったが、非常に久し振りに歩から掛けられた言葉に好美は大きく頷いた。

「よろしく!!」

喜びを噛み締めていると冴えない顔色の悠太が、好美の隣に机と椅子を運んできた。

お互いに意外そうに顔を見合わせたが言葉を交わす事無く着席した。

程なく一時限目終了のチャイムが鳴った。

個々に新しい席順に一喜一憂しながら5分休憩を有効に活用した。

好美は勇気を出して、直ぐ後ろの歩の席を振り返ったが、そこに歩の姿は無かった。

「あれ?」

(焦らない焦らない・・・・・・)

放課後を迎えるまでに、せめて、もう一言ぐらい言葉を交わしたいと思いながら歩が戻ってくるのをソワソワしながら待った。

その横で悠太が二時限目の教科の数学の教科書を開いて表情を強張らせた事に気付いた。

「?」

直ぐに乱暴に閉じた教科書にマジックで目一杯の落書きがされてるのが見えた。

・・・・・・・・・。

「何だよ」

「別に」

なんとも言えない空気が流れ、居た堪れずに腰を上げた瞬間、歩が戻ってきた。

「鏑木さん、どこ行ってたの?」

「職員室」

簡潔にあっという間に終了した会話に、蟠りの深さを痛感した。

お互いの間に流れた妙な気まずさを察した歩が、もう少し打ち明けた。

「ちょっと両角先生に話したい事が有ったんだけど電話中だったから諦めて戻ってきた」

目下の目標にしていた二言目を無事に交わせて好美のテンションは妙に高くなっていた。

そのハイテンションに気付かれないように妙に高ぶる気持ちを懸命に押し殺し会話を更新した。

「そうなんだ?」

高ぶる気持ちが、かえって邪魔になってるのか、もっと会話を続けたかったのに何故か言葉が続かなくなってしまった。

言葉のチョイスを誤ったと後悔したが、好美の後悔を知ってか知らずか、歩は更に打ち明けた。

「陸上部、また戻りたいと思って・・・・・・・・・まあ、随分と自分勝手な事をしてきたし、両角先生と陸上部の皆が赦してくれたらの話なんだけど、部活が始まるまでに先生と、ちゃんと話したいと思って」

「そうなんだ、戻れると良いね!」

「うん」


  迎えた放課後。

好美は、真希と下校のタイミングが合わず1人、校舎を出た。

正面玄関を出てグラウンドに差し掛かった所で真剣に部活動に参加してる真希や、他の部員に混じって活動している歩の姿を見つけて無事に希望を叶えられた事を知った。

「許してもらえたんだ・・・・・・・・」

翌日、言葉を交わすキッカケをしっかり押さえて、歩とのスムーズな会話を何度もイメージトレーニングして、他に、どんな話題なら無理なく歩と言葉のキャッチボールが出来るか、あれこれ考えをめぐらせた。

考えを巡らせながら、しばし歩の姿を目で追った。

歩は1年生と一緒に雑用をこなしながらスタートダッシュのトレーニングをしていた。

けれど、その全ての動きに以前のような切れが無いのが遠目でも感じ取れた。

「無理も無いか・・・・・・」

それでも地面を蹴って前に前に足を出して、やり切ろうとしている歩を見ていて何だか胸が苦しくなった。

一度苦しくなったのをキッカケに、思い出したくない記憶の扉を何故か手当たり次第に開け始めた。

保身の為に悠太が入れたメモを廻した事や部活動中、グラウンドから自分を見つけて元気に手を振ってくれた歩を保身の為に思い切り無視してしまった一年前の苦い記憶が蘇り足早に立ち去ろうとした時、悠太が花壇の前で、しゃがみ込んでいるのを目撃した。

「何してるの?」

心の準備が無いまま声を掛けられた悠太が思わず前のめりになりながらも体勢を整えて振り返り立ち上がった。

「何だよ!ビックリするだろう!!」

「そんなに怒らなくても・・・・・・・」

ふと悠太の足元を見ると、片方が通学靴で、もう片方が上履きだった。

「・・・・・・靴、隠されたの?」

悠太は答えず花壇を念入にチェックした。

「ゴミ箱や掃除用具のバケツの中は?」

「無かった」

素っ気なく答えながら、不意に好美と、こんな会話をしている事に違和感を覚え、そして、どこからか2人の視線を感じて好美を遠ざけた。

「って言うか、お前に関係ないだろう、帰れよ」

「何ソレ、感じ悪い!そうだね、関係ないから帰るわ!」

吐き捨てて好美は颯爽と立ち去って見せた。

そうしながら、だけど好美は、やはり悠太が気になった。

靴は、ちゃんと見つけられたのか。

上手く2人と鉢合わせずに下校できたのか。

自分の小学校時代を思い出し憂鬱な気持ちになりつつ心配する事を止められないまま帰宅してきた。


 モヤモヤした気持ちを解消できないまま、 程なく帰宅してきた耀子と一緒に夕飯を作っていると、ラインが届いた。

一瞬、スマホを振り返ったが、確認してしまえばタイミング的に既読スルーになってしまうので直ぐに前を向き直って盛り付けに集中した。

立て続けに送りつけられるラインに今すぐでも確認したい気持ちに駆られながらも夕飯を優先にした。

「ごちそうさまでした」

食器を片付けた後、いそいそと自分の部屋に入って立て続けに送られてきていたラインを確認した。

ラインの相手は真希からで、また歩とケンカしたという報告だった。

「・・・・・え?」

『何があったの?』

『やっと両角先生の事を悪く言うのを止めたかと思ったら何故か急に今度は諸悪の根源が私のお姉ちゃんだと言い出した』

何故急にそのような展開になったのかを根掘り葉掘り聞いて良いものなのか。

どう返すべきか流石に悩んでいると、またラインが届いた。

『歩が何を考えているのか全然判らない、本当は私の事なんて友達と思ってないのかな』

『そんな事は無いと思うよ』

そう送った後、真希からのラインが途絶えた。

もしかして怒らせたのかと一抹の不安が過ぎって再度ラインを送ろうとしたが。

「好美、先にお風呂入っちゃって」

「うん・・・・・・・・」

「また明日」のメッセージも送り合わないまま途絶えたラインが気になったが着替えを用意して部屋を出た。


 入浴後、淡い期待を抱きつつスマホを確認したが真希からのラインは届いてなかった。

思い切って自分から送ってみようと思ったが、何故か指先は躊躇った。

ラインの画面を開いたままもてあそんでいると耀子も程なく浴室から出てきた。

そしてタイムリミットを告げられた。


 不安を抱えたまま迎えた翌日。

朝から顔を合わせる機会が無く、掃除の時間、やっとゴミ捨て場で行き会った。

好美は周りに他に人が居ない事を確認して妙に緊張しながら真希に声を掛けた。

「真希ちゃん、昨日の事なんだけど」

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