覚悟
『本当?何でわかったの?』
『思い切って岸本に聞いた、そして容態も聞いた、命に別状は無いみたいだけど意識不明って』
『早く意識が戻ると良いね』
好美が貴重な情報を得ている頃、悠太は利用客が居ない公園のベンチで一人、野菜ジュースを飲んでいた。
そしてボンヤリと空を見上げ、三者懇談での無意味なやり取りを思い出していた。
「お母様は入院中って言ってたわね」
「はい」
「まあ、あなたは成績も優秀だし、生活態度も悪くないし、敢えて保護者に話さないとならない事も無いから別に良いんだけど・・・・・まだ、どこの高校に行きたいとか全然決まってないと思うけど、今のまま行けば、どこだって行けるわ!この調子で頑張ってね?」
「・・・・・ありがとうございます」
大いに褒められながら浮かない表情を崩さない悠太を目の前にしながらも特に気に留めようともせず無駄と思える時間が流れた。
「ところで、学級委員のあなたに念のため聞いておきたい事が有るの」
「はい」
「鏑木さんの事なんだけど、今度ご家族に会いに行く予定になっていて、そこで色々と聞かれると思うんだけど、例えばクラスの中でイジメが有ったなんて事は無かったわよね」
「・・・・・・・」
「どうなの?甲本君」
「・・・・そんな事は、イジメは無かったという認識で良いと思います」
「そうよね、安心した!私のクラスに限って、そんな事無いわよね、判ったわ、先生からは以上です、何か、甲本君の方から話しておきたい事が有るようなら言って頂戴」
「特にありません」
「じゃあ、これで・・・・気を付けて帰ってね」
「はい、さようなら」
廊下に出て必死に押し殺していた溜息を、心置きなく盛大について階段を下りていくと、女子生徒たちの会話が耳に入った。
「聞いた?鏑木さん、首切って意識不明だって」
すれ違い様に、一年の時、同じクラスだった女子生徒達の、そんな会話を聞いてしまった悠太は思わず青ざめ振り返った。
「意識不明・・・・・」
今更ながら事の重大さを突き付けられ立ち尽していた。
それぞれ重い気持ちを抱えたまま迎えた終業式。
好美を含めA組の大半の生徒は去年とは違って、全くウキウキする事が出来ず、こんなに苦しい夏休みがあるのかと、全く心に響かない校長の話を聞いて、その日の大掃除等のスケジュールを順調 にこなし解散し、個々に夏休みを迎える事となった。
級友と手を振って玄関で靴に履き替えていると。
「あ、ヨッシー、一緒に帰ろう」
「え、部活・・・・・ぁ・・・・そっか、熱中症の危険性が高いから中止だっけ」
「うん!そういう事、朝練は出来たけどね」
「しかし、本当に暑いね、今日も」
思わず灼熱の太陽を見上げ、早速、額に滲んできた汗を拭って正門を出て帰宅の途についた。
「明日から夏休みだね、って言っても私は部活で、あんまり休日を満喫できないと思うけど、それでさ、こんな時に素直に喜べない部分もあるんだけど、今回、遂に私もハードル走の選手に選ばれたんだよね」
「うそ!おめでとう!!頑張ってね、私応援行くよ」
「ありがとう!」
好美は辺りを見回した後、コッソリ真希の意向を確認した。
「・・・・・じゃあ、いつか言ってたように告白するの?坂口君に」
問われて、真希も思わず辺りを見回し頬を朱に染め頷いた。
「そうだね、やっぱ、あの時ちゃんと伝えておけば良かった!なんて後悔はしたくないからね、覚悟決めて、大会前には告白したい・・・・・・馬鹿だよね、結果なんて判ってるのに、きっと、っていうか絶対に100%玉砕するから、その時は慰めて?」
そう話す真希の横顔は、真希にも充分な可能性が秘められている気がするほどキレイに見えた。
ジッと自分を見つめてる好美の視線に気付いた真希が一瞬困惑して見せた。
「・・・・・・え、私、何か変な事言った?」
「ううん、ごめん、見惚れてた、真希ちゃん最近、何だか凄くキレイ、お世辞なんかじゃなくて、覚悟決めたからかな、今日は一層キレイに見える、うん!それでこそ私の親友だよ!この胸は真希ちゃんの為に、いつでも空けておくから安心して気持ちを伝えておいで」
「ありがとう」
夏休みの序盤、好美は終盤に慌てたくなくて集中的に課題をこなしつつ歩の容態を案じ鬱々とした時間を送っていった。
そして真希の方は最後の調整に余念が無かった。
この日、本格的に暑くなる前にと朝練を切り上げた真希は大会の事について話があると両角に職員室に案内されていた。
「いよいよ今週末だな、後は過度にトレーニングをしても怪我の要因になるから過度な走りこみは控えた方が良い、明日からは今一度スタートダッシュやフォームの基礎を固めるぞ」
「はい」
「自主トレするなとは言わないけど、体調を崩すようなトレーニングは絶対にするな、適度にトレーニングした後は必ずクールダウンしろ、あとピンポイントでドーピング検査なんてされないと思うけど万が一、何かで薬を飲まないとならない事態が起きた時は充分に気をつけろ」
思わず過敏に反応しそうになるキーワードが飛び出し、胸がざわついたが、それも重要事項なので肝に銘じた。
「はい」
「よし、じゃあ気をつけて帰れよ」
「ありがとうございます」
尊いアドバイスを受け、本番までの心構えを肝に銘じている脇で、電話が鳴り響いた。
近くに居た教諭がワンコールで受話器を上げて対応した。
「少々お待ちくださいませ」
保留ボタンを押して受話器を置いて岸本に声を掛けた。
「岸本先生、鏑木さんのお母様から電話です、保留1番です」
職員室を出ようとした真希は思わず立ち止まり全神経を耳に集中させた。
岸本は面倒臭そうに受話器をあげ保留ボタンを押した。
「お電話代わりました岸本ですが・・・・・・そうですか、はい、意識も戻って後遺症の心配は無いんですね、かしこまりました」
非常に重要な報告を受けながら妙に軽くあしらってるように見えた。
得たい情報を得る事ができた真希は改めて岸本に不快感を抱きつつ職員室を後にした。
そして・・・・・・。
その頃、好美は久々に由美とショッピングモールで会った。
「好美ちゃん、久し振り!」
「元気そうだね、由美ちゃん、学校の方は、どう?」
「うん、意外と快適!どんな手段を使ったのか判らないけど、夏休みに入る少し前に美音子もフリースクールに行くようになってさ、お陰で普通に中学校生活を送れてる」
「良かったね!」
2人、簡易的に設けられた、仕切りなど一切無いイートインコーナーでドーナツとレモンティーを堪能しながら近況を報告し合った。
「うん!好美ちゃんの方は?その後どうなった?」
「それがね・・・・・・・・・・」
レモンティーを一口分だけ吸い上げて、誰も自分達に意識を向けていない事を確認した上で一学期に起きてしまった事を掻い摘んで話した。
「・・・・そうなんだ」
打ち明けながら、また涙が溢れそうになった。
「まだ今のところ、意識戻ったよ、とかいう話は聞いてないんだよね・・・・あれから、ずっと考えているんだよね、今の私に何ができるのかなって・・・・・でも答えが見つからなくて」
思い詰める好美を心配そうに見守りながら気の利いた言葉も、ましてアドバイスなんて見つからなかった。
それどころか小学校時代、自分が保身に走った所為で、或いは好美が歩と同じ選択をしていても不思議ではなかったのだと改めて胸が苦しくなった。
思わず一緒に泣きたい気持ちになっていた時。
「あれ、ヨッシー?」
「真希ちゃん」
由美が唐突にグイグイ介入してきた真希に一瞬、引きながら2人を交互に見て遠慮気味に確認した。
「・・・・・・中学の友達?」
「うん、って言うか、覚えてないかな、2人とも初対面じゃないよ?皆で巨大パフェ食べた時に会ってるよ、一度だけ」
好美に言われ、お互いに思い出した。
「「あー・・・・・・」」
「真希ちゃんは部活の帰り?」
「うん!それより吉報が舞い込んだよ!」
「え?」
「歩の意識が戻ったって!!」
「本当?!どこからの情報?」
「岸本が電話に出て、そう言ってたの」
2人、思わず抱きしめ合っていた。
「昨日、丁度お小遣い貰ったから膳は急げ!ってね、歩が好きそうなレターセットと交換日記用のノートを買って帰ろうと思って」
大きな喜びを分かち合う2人を複雑そうな眼差しで見ている由美に気付いた真希は軽く詫びて立去った。
「っていうか折角2人でお茶してたのに、邪魔しちゃってゴメン、じゃあ私、行くね、帰ったらラインするね」
「うん」
手を振って別れて、真希はイートインコーナーのすぐ近くのエレベーターに乗って2階フロアの文具店へと向かった。
適当に大学ノートを選び、時間を掛けて歩が好みそうなレターセットを探した。
そして百均でノートをデコレーションする為のグッズを買って店を出た。
「・・・・・・よし」
机の上に淡いピンク色の便箋を用意して、傍らのペンを取り上げた。
そして一文字ずつ丁寧にペンを滑らせた。
『Dearest歩へ
何から書くのが正解なのか正直判らないけど、まずは、やっぱり、この一言に尽きるかな。
親友なんて言いながら裏切り続けて、嫉妬から酷い事も沢山言って本当にゴメンね。
安易に「許して」なんて言える立場じゃないから心のままを、つづりたいと思う。
それでね、この事に関しては、やっぱり避けて通れない、スルーしたまま元の関係になんて戻れないと思うから触れていくけど。
謝っておきながら、またケンカになるような話題を引っ張り出して申し訳ないんだけど、私にとっては両角先生は最高の先生なんだよね。
お姉ちゃんも言ってたけど、両角先生になら安心して付いていける。
顧問が両角先生だからっていうのもあるのか判らないけど、陸上が、こんなに愉しいって思えるのは先生のお陰でもあると思ってる。
私にとっては、両角先生は、そういう先生なんだよね。
歩が、どうしても、それでも先生を信じられないって言うなら仕方ないと思う。
そう思ってしまう、歩には歩なりの考えや理由が有っての事なんだろうから。
でも、如何なる理由があろうと、もう二度と抗議とか言って大会を棄権したり先生を困らせるような事は絶対しないで欲しい。
お願いしたいのは、それだけ・・・・・・嫌な事を書いちゃったかもしれないけど、一緒に逃げずに、この問題を解決して、もう一度良い関係を築き直したい。
ところで話は変るけど、交換日記用のノートを独断と偏見で新調させて貰ったよ。
歩が気に入ってくれると嬉しいな。
デコシールでデコってみたよ。
最後に、私は歩の事が何だかんだ言っても、やっぱり大好きだから、そんな大好きな友達と真剣にやり直したいと思って本音を晒したよ。
体調と相談しながらで良いから歩の意見も聞かせて?
From真希』
思いの丈を綴った後、日記帳を開いて、これまでストックしてきたネタを書いて最初のページを埋め尽くした。
翌日、歩の家に行き、日記と手紙を大地に託した。
そうして一歩前に進んだ真希は、この日、立てたスケジュールを全て消化する為に覚悟を決めて翔と会う約束を取り付けた。
過度な走り込みは避けるようにアドバイスされたが、立ち止まったら誰かに涙を見られてしまいそうで走って家まで帰ってきていた。
そして、疲労が蟠る足に冷却スプレーを噴霧して、冷たい水で顔を洗って、少しだけ気持ちを落ち着かせ、その胸を空けておくと言っていた好美にライン電話を掛けていた。
丁度、課題も一区切りついたところだった好美は通話のアイコンをタップして画面の向こうの真希に手を振った。
「やっほー」
いつものノリで電話に出てくれる好美に、そんな何でもない事でさえ今は涙腺を刺激した。
『やっほーヨッシー』
手を振り返しながら応えつつ涙を溢れさせた。
「え?!どうしたの?真希ちゃん」
『・・・・・ゴメン』
「大丈夫、待つよ」
好美は液晶の向こうで涙を拭い続ける真希を気長に待った。
そして・・・・・・。
『さっき翔君に告白してきた!』
遂に覚悟を決めて行動に起した真希の「結果」報告を待った。
『そして玉砕したところ』
泣き笑いで報告する真希を好美は画面越しに心配の眼差しで見守った。
心底好美に心配されている事に気付いた真希は少しだけ強がって見せた。
『でもスッキリしたから、また一歩前に進める、この哀しみは全て大会にぶつける』
「土曜日だよね、誰にも負けない声援を送るからね!!」
『ありがとう・・・・・そして、もう1つ、私には、やらないとならない事がある』
別の覚悟を固めた様子の真希を、好美は画面越しに訝しげに見つめた。
『歩に会って来ようと思う、具体的に、いつ!とは決めてないんだけど、夏休み中には必ず』
ポーカーフェイスで真希の覚悟を受け止めて見せ、自分も必ず2学期が始まる前に自分の気持ちを歩に伝えようと決めた。
好美も何か覚悟を決めたような顔つきになった事を確認しながらも詮索は避けた。
『ヨッシー、色々ありがとう、話したら何かスッキリした』
「どういたしまして、じゃあ、土曜日、頑張ってね!」
『うん!』
手を振り合って、通話を終了するアイコンをお互いにタップした。
大勢の学校関係者、沢山の選手、多くの観客。
その中から好美は直ぐに真希を見つけ出した。
真希は大会の独特の雰囲気に呑まれる事なく、実力を発揮した順調に予選を勝ち抜いていった。
「・・・・・頑張ってるな、小沢、次、決勝か?」
スタンドの最前列を陣取り、真希に声援を送り続けていた好美の背後に翔が声を掛けた。
「坂口君も来てたんだ?」
「今来たところ、応援来てくれって言われてたし暇だったからな」
「そうなんだ?初出場なのに決勝まで勝ち進むなんて、真希ちゃん凄いよね!」
「ああ・・・・・」
何となく興味無さそうにしながらも決勝のコースを見下ろした。
一人ひとりコースと名前を呼び上げられ、手を挙げて一礼して応える選手達。
真希も例外ではなかった。
緊張した様子で手を挙げ、一礼して、その時を待った。
鳴り響く空包に、一斉に駆け出す。
ハードルを越えていってる間は、ほぼ横並び状態だった。
勝負が付いたのは全てのハードルを越えて直線に入ってからだった。
思わず夢中で翔も好美も声援を送っていた。
「真希ちゃん行け!!」
「逃げ切れ!小沢!!」
他の沢山の声援に紛れ、2人の、その声援が真希の耳に届いているのか怪しい限りだったが、真希がゴールするまで声援を送り続けた。
1着と2着が相次いでゴールして、真希は隣のコースの選手と3位を争っていた。
結果はスタンドから見た時、同着のように見えて、思わず翔は電光掲示板の表示を振り返った。
「おい!」
「え?」
「掲示板!!」
掲示板を指差し振り返るように促した。
好美は全力を出し切って呆然とコース外で立ち尽くす真希から視線を掲示板に移した。
真希は好タイムを叩き出し、4位と僅差であったが堂々の3位に輝いていた。
程なく表彰式と閉会式が執り行われ、全てのスケジュールを消化した選手達は続々と競技場の外に出て来た。
「真希ちゃん!!」
「小沢!」
「ヨッシー!翔君も、ありがとう!!来てくれてありがとう!優勝できなくて悔しいよ」
真希は悔しそうに、それでいて、どこか清々しさも漂わせ、複雑そうな眼差しで銅メダルを握りしめた。
「でも堂々の3位だよ!凄いよ、初出場でイキナリ表彰台なんて」
好美が親友を高く評価していると、3人の背後からユニフォームを見事に着こなした咲希が近づいてきた。
「へぇ、初出場で3位か、上出来だよ、因みに私は初出場の時は2位だったけど、次も頑張りな」
「あ・・・・・・・お姉さん、こんにちは」
翔と好美にに会釈され咲希も会釈を返した。
「ちょっと、お姉ちゃん、どさくさに紛れて自慢しないでよね」
「お姉さんも今日、試合ですか?あれ、でも、そのユニフォーム・・・・・・もしかして、テニスですか?」
「うん」
「陸上じゃないんですね」
深い意味もなく翔にサラリと言われた言葉に妙な間が生じた。
「・・・・・・・うん、じゃあ私の方も、そろそろ試合始まるから行くけど、2人とも、真希の為に応援来てくれてありがとう」
「「いえ、頑張ってください!」」
「頑張ってね、私はもう帰るけど」
「ちょっと、真希まで帰っちゃうの?お姉さまの大事な試合、応援していかないの?」
「しない、後で結果教えて?お姉ちゃんだって私の応援なんて二の次で、本当は両角先生が目当てだったんでしょう」
「あ、バレてる?とりあえず無事に先生の姿も拝めたし、気分がいいところで試合もサクサクっと勝ってくる!」
そして程なく迎えた学年登校日。
「おはよう、為末さん」
「おはよう」
少し離れた場所に並べられた歩の席に、今日も歩が着く事はない。
1人、また1人と自分の席に着いていく中、歩の席の空席が目に付いて仕方なかった。
そうしたのは紛れもなく自分達なのだと突きつけられ苦しくなった。
続々と生徒が登校してくる中、悠太の姿はチャイムが鳴る直前まで確認できなかった。
もしかしたら今日は欠席なのではないかと思った時、悠太が教室に入ってきた。
何か思い詰めた眼差しで教室の中を見回し、教卓の前に立って歩を除くクラスメイト達と対峙して覚悟を決めたように告げた。
「皆に話がある、今日の放課後、全員残ってください」
真剣な眼差しを向けてくる悠太から、好美は悠太の「覚悟」をヒシヒシと感じた。
そして岸本が教室に入ってくる前に悠太はクラスメイト達の視線を浴びながら席に着いた。
そんな変化を岸本は相変わらず気付こうともせず出欠の確認を事務的に進めた。
「皆さん元気そうで何よりです、今日はこれから体育館に移動して簡単な集会を行います、その後、通常の掃除をした後、下校になりますので、早速移動しましょうか」
好美たちは本日のスケジュールを説明され促されるまま席を立った。
体育館には大きな扇風機が幾つも設置されていてフル稼働していた。
お陰で外は今日も猛暑だったが、流石に涼しくはなかったが、熱中症に陥るリスクも無く耐えられるレベルではあった。
2年生の全クラスが体育館に集まった所で集会は始まった。
まずは休みの間に優秀な成績を修めた陸上部の真希を含め、水泳部と卓球部が壇上に促され表彰された。
表彰の後、所要時間30分弱の、戦争と原爆についての上映会が行われた。
しっかり視聴して改めて平和の尊さを胸に刻み、生徒たちは、各教室へと戻っていった。
ゾロゾロと沢山の生徒が移動する中、好美は少し前に真希の姿を見つけた。
「真希ちゃん」
「ヨッシー」
「改めて好成績おめでとう」
「ありがとう!今日もさ、部活は中止になったから一緒に帰ろう」
「あー・・・・・・ごめん、今日うちのクラス、ちょっと残らないとならなくて」
「そうなの?」
「うん、甲本が全員残ってくれって、何か凄く思い詰めた顔していて、ちょっと無視できないかなって」
「そうなんだ?」
「うん、だから、ごめん・・・・・・・・」
他のクラスの生徒達が続々と帰る中、好美たちは岸本も居なくなった教室で悠太と対峙した。
悠太は冴えない顔色で、けれど覚悟を決めたような眼差しで告げた。
「皆に話って言うのは、鏑木の事なんだ」
好美は自責の念に駆られながら歩の席に視線を走らせた。
そんな中、その場を凍りつかせる冷たい声音が響いた。
「まさか、裏切るなんて言わないよな」
一斉に教室の中央で両足を机の上に投げ出してる武川哲也を振り返った。
武川が憎悪の眼差しで悠太を一瞥していた。
「裏切って誰かの所為にする気なんて無いから安心しろ、ただ、俺は今まで鏑木の席が空いていても何も思わなかった、でもその場所を空席にしたのは俺なんだと思い知らされた、皆を煽り立て鏑木を追い詰めた結果なんだと判った、だから皆にも鏑木にも謝りたいと思っただけだ」
武川に加勢するように、同調するように教室の窓際の一番後ろの席から悠太を睨みながら乾彰も不満と不快感を露にした。
「あ?その良い子ぶりが、もう充分裏切りだから」
一層空気が張り詰めていく中、悠太は胃の辺りに手をあて、けれど自分の意志を口にして伝えた。
「今回の事、俺は鏑木が許してくれるまで謝り続けるつもりでいる」
悠太の覚悟を受け、好美も覚悟を決めて静かに立ち上がった。
好美は一斉に注目された。




