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標~進むべき道~  作者: 渋谷幸芽
16/33

両親の秘密

「ああ・・・・・・・・・その子が例の・・・・・・ね」

岸本が意味あり気に納得して見せた。

対照的に2人は全く想定外の告白に固まっていた。

呆然として固まっている2人を置いて、微塵の罪悪感も見せず、守は岸本と共にフードコートを後にした。

先に我に返ったのは隼人だった。

2人の姿を見失う直前で身体が動いた。

まだ放心している美音子の腕を掴んで一緒に後を追った。

「行こう!美音子」

「・・・・・うん」

腕を引かれながら色んな感情が複雑に絡み合って思考が完全に停止していた。

そんな美音子の代わりに隼人が動いた。

「待ってよ、おじさん」

迫ってくる2人を振り返り、関りたくないオーラを放ちながら最寄のエレベーターに乗り込んだ。

隼人は至極当然の顔で守と一緒にエレベーターに乗り込もうとしている岸本を突き飛ばし、何とかエレベーターに乗り込み3人だけになる事に成功した。

「邪魔だよ!オバサン!!」

「ちょっと!何なの、あなた達!どんな教育を受けたら、そうなるの!」

岸本が壁に張り付きながら怒鳴り散らした。

周りの利用客が一瞬、振り返ったが、直ぐに興味無さそうに通り過ぎていった。

一方、エレベーター内では。

・・・・・・・3人だけの密室に、かつてない程の険悪な空気が流れていた。

「ねぇ、何なの、今の・・・・・・説明してよパパ!血がつながってないって、どういう事?!」

「止めろよ、こんな所で!防犯カメラ作動してるんだぞ!」

「知らないよ!被害者の私は別に恥ずかしくないし!そんな事より・・・・・・やっと会えたのに酷いよ!どこまで私を傷つけたら気が済むの?!」

冷たく対峙していると、早速、岸本からメールが入った。

『とりあえずフードコートで待ってるから、早く済ませてきて』

短く返信すると、守は直ぐに2人と対峙した。

「・・・・・判った、とにかく場所を変えよう、俺の車の中で話そう」

言いながら立体駐車場の階を押した。

程なく目的の階に着くと、特に逃走を図るような事もなく、素直に車まで案内された。

「本当にさ、ずっと言ってるけど聞きたいことは山ほどあるけど、とにもかくにも、ちゃんと謝ってよ色々・・・・・私とママに」

「そうだな、確かに酷い事をしているのかもしれない・・・・・・ママも呼びなさい、ちゃんと話そう」

守の発言に違和感を覚えたが美音子は直ぐに母親に連絡した。

その横で長期戦になる事を予想して守は再度、岸本にメールを送った。

『元女房も来る事になった、一気に決着をつけたい、車まで来てくれ』

程なく呼び出された岸本が上がってきて助手席に乗り込んできた。

「悪いけど、ここからは隼人君には席を外して欲しい」

「でも・・・・・・」

「隼人、ありがとう・・・・・・大丈夫だから、後で連絡するから」

「判った」

隼人が車を降り、駐車場を後にして、ほどなく美音子の母親、恵もやって来て美音子に促されるまま後部座席に乗り込んだ。

少し強めにドアを閉めてルームミラー越しに守に冷たい視線を送った。

「久し振りね、よくも平然と私達の前に顔を出せたわね」

完全に気持ちが冷めている2人の再会には、逆に気まずさは存在しなかった。

守はミラー越しに注がれる冷たい眼差しに不快感をにじませる事もなく失笑しながら言った。

「現れたのは美音子の方だけどな・・・・・・・・」

幼稚な皮肉を表情1つ変えず受け止めつつ、恵が、あまり感心無さそうに、それでも確認した。

「ところで、隣の方は、どなた?以前お会いした「仕事のパートナー」じゃないみたいだけど」

岸本は目を合わせることもなく、会釈する事もなく、ジッと前を見据えていた。

「感じ悪い・・・・・」

同じ感想を抱いた恵にホッとしつつ美音子は打ち明けた。

「ねぇ、ママ・・・・・・パパが変な事言うんだけど、全部この感じの悪いオバサンの所為なのかな」

恵は岸本がピクリと眉根を動かすのをミラー越しに確認しつつ。

「変な事って?久し振りに会った娘に、どんな変な事を言うの?」

「私がパパの子じゃないって・・・・・・・」

美音子の話を聞いた刹那、恵に一瞬の間が生じた。

それでも恵は失笑して言い切って見せた。

「何を馬鹿なこと言ってるのよ、無責任な事言わないでよ」

微かに動揺が滲んだ声音。

美音子は、その動揺を敏感に察知した。

「散々無責任な事をしてきて俺を裏切り続けていたのは、お前の方だろう」

「・・・・・どういう事?ママ」

「こんな身勝手で、いい加減な男の言う事なんて真に受けちゃ駄目よ!」

語気を強める恵に、美音子は漠然と、恵にもまた、やましい「何か」があるのだと悟った。

美音子が自分に不信感を抱き始めている事に敏感に気付いた恵は焦燥感を押し殺しながら言い切った。

「まったく、こんな所に人を呼び出して何を言い出すかと思えば・・・・・・・馬鹿らしい!時間の無駄じゃない!何がしたかったのか知らないけど、帰るわよ、美音子」

恵が車を降りようとした刹那、守が運転席で全てのドアをロックする操作をした。

「何?もう帰りたいから降ろして欲しいんだけど」

「それは出来ない、俺の話は終ってない」

かつてない程の守の冷たい声音に、美音子も恵も夫婦が再生する可能性は万に一つも無いと悟った。

「じゃあ、早く話して頂戴!」

「・・・・・・離婚届、出してないだろう、お前」

「ああ・・・・・・・・・その話?」

恵が冷たく失笑して見せた。

「出すわけ無いでしょう、冷静に考えなさいよ?出せる筈が無いでしょう、ちゃんと話し合ってもないし、何も決めてないのに」

「それじゃあ、私達が困るのよね」

「どう困るって言うのよ!」

「困るものは困るんだ!」

「何か知らないけど勝手に困っていたら?!不義理な事をしてきたのは、あんたの方なんだから、正式に離婚したいなら筋を通しなさいよ!」

「筋を通すのは、そっちだろう!俺にしっかり筋を通す為にも離婚に応じろよ」

美音子は自分の気持ちなど置き去りでヒートアップしていく2人に絶望感を強めた。

散々罵りあった後、呆然とする美音子に気付いた恵がバツが悪そうにしながらも低レベルな言い争いに終止符を打った。

「とにかく美音子に変な事を吹き込むのは止めてよ!」

「変なことじゃない、真実を話しただけだ」

「ねぇ、どういう事なの?本当に私はパパと血がつながってないの?」

「ああ、お前は俺の子じゃない!DNA鑑定だってしてもらってるんだから間違いない」

「何で血がつながってないって思ったの?思ったからわざわざDNA鑑定したんだよね?」

実は美音子が生れて暫く、瞬く間に夫婦仲は冷めていき、恵と離婚する覚悟で岸本と不倫関係に陥る中、自分が無精子症と発覚したのだ。

美音子が自分の子ではない可能性がある事を知って密かにDNA鑑定を依頼し、結果、自分と美音子の間に親子関係が認められない事が判明したのだ。

しかし、流石に、そんな事は馬鹿正直に打ち明けられなかった。

「・・・・・だって、全然、似てないだろう、俺達」

「確かにパパとは似てないって思ったけど、それだけの理由で、わざわざ、そこまでするの?って言うか、だったら私の本当の父親って誰なの?」

美音子が混乱しながらも縋るように恵と守を見た。

「さぁ・・・・・・恵に聞けよ、俺じゃない事は確かだ」

「ちょっと!いい加減にしなさいよ、子供になんて事を聞かせるのよ!!本当に最低ね!」

先手を打つように怒ってみせる恵と、自分が受けるショックの事など微塵も配慮しない守に美音子は失望した。

その横で恵がロックされたままのドアの取っ手を手前に引いた。

「くだらない妄想話は済んだでしょう!だったら、さっさと開けなさいよ!!」

怒鳴る恵を守はミラー越しに冷たく一瞥してエンジンを掛けた。

「・・・・・・どうするの?」

岸本が訝しげに守に視線を流した。

「このまま家に行く・・・・・・・・離婚届を的確に処理する、またと無いチャンスだからな」

「まだ言ってるの?!出すわけ無いでしょう!家に来ても出さないわよ!養育費、一括で今すぐに払うって言うなら話は別だけど」

「養育費?払うわけ無いだろう、俺の子供じゃないのに」

「・・・・・・払う気ないの?でも前に電話してきて偉そうに言ってたよね、お金を出してやるって、だから会おうって、あれはウソだったの?」

「ちょっと、何それ?そんな事があったの?何で言わなかったのよ!」

恵に確認され、今更ながら気まずい思いが込み上げた。

「何となく・・・・・・本当に会えるのか確証もなかったし、実際に会って生活費受け取ってから事後報告でも良いかなって・・・・・・今更お互い会いたくなんて無いだろうしって思ったから、結局パパは約束の場所に現れなくて一円も受け取れてないし」

「呆れた!生活費払うって口実で美音子を釣って、どうする気だったの?1円たりとも払う気なんて無いくせに」

美音子が、その件を恵に報告していなかった事に関しては守の誤算だった。

約束の日、そこに恵も同席してる算段でいたのだが、そして多少、強引でも離婚届の処理に一気に取り掛かりたいと思っていたのだが、美音子が恵に何も話していなかった事で守の計画は狂ってしまった。

「ねぇ、ウソだったの?」

守は応えずハンドルを握っていた。

「・・・・・・・じゃあ質問を変えるよ、あの日のパパの本当の目的は私に生活費を渡す事じゃなくてママに会う事だったの?」

「だったら何だ」

完全に開き直った声音に美音子は惨めな気持ちに心を支配されかけた。

「・・・・・良いよママ、もう離婚に応じなよ!!こんな人の助けなんて要らないでしょう!」

「簡単に言わないで!判らないの?!この人と書類上、夫婦じゃなくなる事が、どういう事か、どんなデメリットがあるか」

ヒステリックに叫ぶ恵に守が冷たく言い放った。

「喚くな!運転の邪魔だ!」

鋭く一喝され、恵はバツが悪そうに思わず押し黙って不機嫌そうに車窓を眺めた。

そうしながら家に近づいている事を悟った。

「家に押しかけてきたって何も解決しないわよ!確かな保証もないのに応じるわけ無いでしょう」


 「へぇ、悪くない家ね」

「ちょっと!何なの、その上から目線の言い草!ここは貴女の家じゃないでしょう!」

恵にキレられたが、岸本は動じる様子も見せなかった。

美音子は、そんな大人達をの当たりにして、事の結末を見届ける自信が、どんどん無くなっていた。

思わず盛大に溜息をついていると、隼人からメールが入った。

『その後どうなった?』

「・・・・・・ねぇ、私は2階の部屋に行ってるから、色々と決まったら教えて」

話し合いを大人達に託すと美音子は逃げるように自室に入った。

そしてメールを返した。

『心配してくれてありがとう、でも、まだ決めないとならない事は何一つ決まってない状況なんだよね』

階下から微かに聞こえる口論に、ウンザリしながら、隼人に状況を報告した。

『大人達は絶賛、壮絶?低レベルなバトル中、私の意見なんて、とても聞き入れてもらえそうにない感じ』

『それはウンザリするよな、良かったらフードコートに降りて来いよ、クレープでも奢るぞ』

『ありがとう、でも、ごめんね、実は今、家に帰ってきてるんだよね』

『そうなのか?』

美音子は掻い摘んで予期せず帰宅した経緯を説明した。

『でも、ここに居ると気が滅入る、今から、そっちに行くから待ってて』

『了解』

美音子は大人達が集まってバトルしてる客間の襖を遠慮なく開けて外出する旨を伝えた。


 「お待たせ」

「ああ、じゃあ買いに行こう」

2人でクレープを堪能していると、フードコートの一角にあるアイス専門店に歩と真希が入ってきて、美音子たちの1つ隣の席に座った。

「おい、あれって・・・・・・冬に公園でパワハラと一緒に居た・・・・・・」

「やっぱ、そうだよね!触らぬ神に祟りなし、関らないようにしよう」

頷きあって万が一にも気付かれないように、2人の方を見る事無く、けれど耳は傾けていた。

「良い汗掻いたね」

「ねー」

2人で幸せそうにジェラートで涼を堪能した。

「凄いね歩、今度の大会、折角出るんだから絶対に優勝しなよ!」

真希の言葉に歩の手が一瞬止まった。

「夏には絶対に出れるように私も頑張ろう!!」

前向きに決意を語る真希に歩が申し訳無さそうに口を開いた。

「・・・・・その事なんだけど、私、今回」

歩が心に決めた事を打ち明けようとした刹那。

突然、緊急地震速報が鳴り響いた。

瞬く間に、ざわつく店内。

幸い規模は、それほど大きくなかったが地震が起きた。

フードコートに居た利用客は一様に個々に不安げにテーブルにしがみついて、店内を見回していた。

「ビックリした・・・・・・・大丈夫?歩」

「うん・・・・・・・」

「平気か?美音子」

「うん、ありがとう」

完全に揺れが収まったところで、気を取り直し、個々に残りを完食した。

「美味しかった!ありがとう、隼人」

「どういたしまして」

水を飲み干し、ゴミを捨て、テーブルを振り返ると既に歩と真希は立去っていた。

とりあえず関りたくない人物と関らずに済んで安堵しつつ、フードコートを後にすると、恵からメールが入った。

『地震大丈夫だった?とりあえず、そっち向かってるから待ってて』

『はい』

「ママがこっちに向かってるみたい」

「そうか、じゃあオレは帰るけど」

「うん、色々ありがとう隼人・・・・・・・」


 美音子は程なく戻ってきた恵と合流して話し合いの結果の報告を車の中で受けた。

「とりあえず離婚に応じる事にしたから」

「そっか、まぁ仕方ないよね、遅かれ早かれ、こうなると思ってたし、っていうか、私達やっぱり引越す事になるの?」

「そうね、でも学区内での転居だから転校する必要は無いわ」

「でも、離婚するって事は苗字が変るんだよね・・・・・・・・高倉美音子じゃなくて財前美音子になるんだよね」

美音子が見せる露骨な抵抗に、多感な年頃の娘に背負わせる物を思い、何とも言えない申し訳ない気持ちになった。

「・・・・・・・大人達の意志を尊重した上で、私のお願いも聞いてくれる?」

「何?可能な限り聞く気で居るけど・・・・・・・」

「今の学校じゃなくてフリースクールに行きたい」

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