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標~進むべき道~  作者: 渋谷幸芽
14/33

渦まく想い

無事に学年末試験が終わって迎えた最初の週末。

好美は由美と久しぶりに外で会っていた。

利用客が一人も居ない小さな公園のブランコに腰掛け、由美が経緯を打ち明けた。

「この間は、とんでもないライン送りつけて困らせてゴメンね」

「ううん、何か4月からフリースクールに行けなくなった!って、だいぶ混乱してたけど、何が有ったの?お父さんや、お母さんに何か言われたの?」

由美が申し訳無さそうに謝りつつ打ち明けた。

「実はさ、どういうつもりなのか判らないんだけど、私が通ってるフリースクールに急に宮原が来て」

衝撃的な告白で好美も思わず動揺した。

「え?宮原が来たって、どういう事?!後をつけられたって事?」

「後はつけられてない・・・・・・多分、どういうつもりか判らないけど、宮原もフリースクールに通うって言い出して・・・・・」

「え、ちょっと待ってよ、フリースクールって宮原みたいな奴でも入れるの?」

「よく判らない、でも入ってきたって事は可能なんでしょう、あいつに限って誰かにイジメられたなんて信じられないけど、それより私、4月から、何処で学べば良いの?中学には美音子が居て、フリースクールには宮原が居る、あいつ等が居ないから、ずっと安心して通えていたのに、学べていたのに・・・・・・・」

「でも宮原って由美ちゃんに対しても攻撃的なんだっけ?」

「好美ちゃんの時ほどじゃないけど、美音子に便乗して結構、嫌がらせされたよ、英語の辞書、隠されて、あちこち探したらゴミ箱に捨てられていたりとか」

「そうなんだ?本当にさ、そういう事する人って何が楽しいんだか判らないよね」

追い詰められ涙を浮かべる由美の横で好美も思わず憤りつつ、気の利いたアドバイスなど浮かばず、一緒に肩を落とした。

「・・・・・お父さんや、お母さんは何て言ってるの?」

「義務教育なんだから、どっちかには必ず行けって」

「究極な選択だね、どっちなら耐えられる?美音子と宮原・・・・・・」

「どっちも厳しいけど・・・・・義務教育だもんね、好美ちゃんが、こんなに頑張っているんだから私だって逃げてばかりいられない・・・・そう思うんだけど」

冴えない顔色で思わず胃の付近を撫でた。

長い時間、そうしながら、やがて覚悟を打ち明けた。

「でも、せめて美音子と違うクラスになってたら、また学校に頑張って行こうかな」

「そっか・・・・・」

「好美ちゃんの方は、その後、どうなの?」

「何一つ好転させられてないよ」

溜息をつきながら現状を打ち明けた。

「でも頑張ってるんだね・・・・・私も頑張らないとね」

不安げに、それでも必死に自分を鼓舞した。

「とにかく、4月から、お互い頑張ろう、私は気は重いけど今度の始業式、学校行ってクラス発表を確認してくる」

「そっか・・・・頑張って」

好美の励ましに由美は力強く頷いた。


 短い春休みを経て、微かな希望を胸に登校した。

「おはよう、ヨッシー」

「真希ちゃん、おはよう、クラス発表、もう見た?」

「ううん、今から、ドキドキだね、また同じクラスだと良いね」

「うん」

掲示板の前、2人とも自分の名前は直ぐに見つける事が出来た。

「・・・・私はA組」

「私はB組」

2人、肩を落としながら報告しあった。

「クラス、違っちゃったね、でも体育の授業は一緒に受けれるのが、せめてもの救いだね、それにしても、良いな真希ちゃん、あいつと別れられて」

「え、ヨッシー、また、あいつと一緒?」

「うん・・・・ほら」

言って隣の男子の一覧の中から「甲本雄太」の名を指さした。

「本当だ」

「っていうか歩ちゃんも私と同じクラスなんだよね」

「・・・・・本当だ」

どんよりとした気持ちのまま、とりあえず教室へと移動した。

「じゃ、今日は陸上部のミーティングがあって一緒に帰れないけど、また後でラインするね、頑張れヨッシー」

好美を励ましながら真希は隣の教室に入って自分の席に着いて、とりあえず荷物を置いた。

そして程なくして入った校内放送に従い生徒たちは、始業式に参加する為に体育館へと集合した。

校長、教頭、生活指導主任、学年主任の話を聞かされた後、各クラスの担任が発表になった。

「2年A組の担任は岸本康子先生です」

紹介を受け、好美の気持ちは大きく沈んだ。

次々発表される自分の担任に好美同様、生徒達は一喜一憂した。

好美は、あまりの、くじ運の悪さに憂鬱になりながら教室に戻って、岸本に割り振られた掃除場所、更衣室に向かった。

まだ名前もよく知らないメンバーと黙々とモップをかけながら、同じく、今日、始業式を迎え登校した由美の事を気に掛けた。

「あー、ついてないな、岸本先生のクラスなんて」

シンと静まり返った更衣室でロッカーを新しい雑巾で拭きながら、沈黙に耐え兼ねた田辺若葉が口を開いた。

思わず飛び出した本音に好美は振り返って意気投合した。

「ホント、最悪だよね」

2人で意気投合していると、すかさず田中渚が会話に入ってきた。

「でもさ、担任が岸本ってのも最悪だけどさ、男子のメンツも良くないよね」

声を潜め、外の気配を窺いながら2人を自分の近くに手招きした。

「私さ、乾彰と武川哲也と同じクラスだったんだけど、要注意だよ」

「そうなの?」

2人で不安げに確認した。

渚が大きく頷いて見せた。

「幅を利かせてるし・・・・・目立たないように裏でイジメしている、勉強は2人とも凄く出来るんだけどね」

「田中さんのクラスにも居たんだ?そんな問題児」

「ん?為末さんのクラスにも居たの?」

「・・・・うん」

「うそ、誰?」

2人が身を乗り出してきた。

「甲本悠太、違うクラスに別れたかったのに同じクラスになっちゃって、しかも担任が岸本って、本当にクラス替え、やり直してほしい」

「甲本か、よく分からないけどテストでいつも上位にいる子だよね?あとさ、鏑木って子も上位に居るよね」

「うん、2人とも1年の時、同じクラスだったんだけど本当に頭良いんだよ」

「そうなんだ、じゃあ一回、情報をまとめよう」

若葉が情報を整理した。

「私達のクラスで要注意人物は今のところ乾彰と武川哲也と甲本悠太の3人って事だね」

情報を整理した所で3人大きく頷いて注意を払った。


 その後、滞りなくホームルームを終え帰宅した好美は即行で由美にラインを送った。

『クラス発表、どうだった?』

『確認してきた、美音子と違うクラスだった、そして宮原とも違うクラスになってた、なので、先日も話したように頑張って学校に戻るよ』

『良かったね!!お互い頑張ろうね』

暫し励ましのラインを送り合っていると真希からラインが入った。

『おっつー、岸本先生の新しいクラス、初日は、どうだった?色々と、お察しします』

色んなスタンプと一緒に送られてきたメッセージに、同じく多めのスタンプと共に返信した。

『憂鬱!の一言に尽きるね、歩ちゃんと甲本を同じクラスにするって、先生達、本当に何も見てないし考えてない証拠だよね』

『本当だよね、歩、大丈夫かな、私は甲本と違うクラスになれたから、今日から、もう、学校で堂々と歩と話したけどね』

『本当に、違うクラスになりたかったな』

『そうだね、とにかく私に出来る事があったら言って?一人で立ち向かうべき問題じゃないからね、クラスが違っても私達は友達だからね』

ありがとうのメッセージとスタンプを多めに送信しつつ、違うクラスになり、晴れて傍観者となることに成功した真希が羨ましかった。

羨ましすぎて何だか苦しくなって少しずつ学校の話題から遠ざけながらラインを終わりにしたいと考えていると真希の方から打ち切る趣旨のラインが送られてきた。

『では、今日は、これから約束があるからまた明日、学校でね、廊下とかで見かけたら構ってあげてー♪』

『勿論!真希ちゃんも私を見かけたら構ってね』

好美は真希とラインを打ち切れた事に安堵した。


 その頃、美音子と宮原はフリースクール近くのドーナツ屋に居た。

紅茶を啜りながら道路を挟んだ反対側の公園をずっと、注意深く確認していた。

実は宮原は、少し前、怪我で入院した祖母の見舞いに行った帰り、公園で美音子の父親、守と親しげに話す少女の姿を複数回、目撃していた。

程なく少女がフリースクールの利用者と判明し、守に関する情報を引き出すために潜入し近づいたのだ。

ずっと父親と会いたがっていた美音子と引き合わせるために・・・・・・・。

部活動で先輩に過剰な指導を受けていた事実が好都合だった。

宮原は多少、脚色して、まんまと両親からフリースクールへの通学の許しを勝ち取った。

「来ないな、2人とも」

「うん・・・・・・・」

「来た!!久保田だ」

「え?」

ドーナツを一気に頬張って紅茶で流し込み、店の外に駆けて行った。

美音子も慌てて後を追った。

「あの子がそう?」

「ああ・・・・・・久保田!」

「宮原君?」

宮原は歩きスマホで公園に入っていこうとする少女、久保田響を呼び止めた。

「どうしたの?こんな所で」

「そこで、幼馴染とドーナツ食べてた」

言いながら、さりげなく美音子を紹介した。

「幼馴染の高倉美音子」

「・・・・・こんにちは」

「こっちは同じスクールの久保田響、俺達と同じ中2」

「こんにちは」

お互いに軽く会釈した。

「久保田は何してるの?」

「私は小学校の時の友達と待ち合わせ」

そんな話をしていると、一台の自転車が近づいてきた。

「あ、ごめん、友達来たから、また明日ね」

「ああ」

「真希!久し振り!」

近づいてくる一台の自転車に手を振りながら駆けていった。

「響!お待たせ、久しぶりだね」

取り残され、思わず顔を見合わせ、その場を後にした。

「今日はお父さんと会わないのかな・・・・・・・」

「判らない・・・・・・けど今日は、もう帰ろう、明日さり気なく俺が探りを入れておくから」

「うん」

促され、2人で別れ道まで来た。

美音子は宮原と別れた後、一度は帰路についたが、諦める事が出来ず、足早に公園に引き返した。

一縷の望みを抱き公園まで戻ってきたが利用者は既に無かった。

利用者が一人も居なくなった公園の中に入って盛大に溜息をついて立ち尽くしていた。

「・・・・・馬鹿馬鹿しい」

抑えきれない会いたい欲求と叶わない願いに翻弄されてる自分を滑稽に感じた美音子はブランコに座って前後に微かに揺れてみた。

その時、見覚えのあるストラップが落ちている事に気付いた。

「やっぱ来てるんだ・・・・・・」

それは、紛れもなく美音子が以前、守にプレゼントした物だった。

足しげく、この公園に通えば再会できる確信を得てブランコから立ち上がってストラップを拾いあげた。

美音子が公園を出ようとした時、自転車を押しながら響が公園に入ってきた。

「あ・・・・さっきの、久保田さんだっけ?」

「うん、高倉さんだっけ?」

「うん、どうしたの?」

「携帯のストラップ、気づいたら紐だけになってて」

言いながら、迷わずブランコの方に進んだ事に気付いた美音子思わず響を追っていた。

「無くしたのって、どんなやつ?」

「黄色と白のスニーカーのストラップ」

「どこを歩いたの?」

「そこのブランコと、そこのベンチの所」

言われて美音子も念入りに一緒に探したが響の落し物は見つからなかった。

「ベンチの周りには無いよ、ねぇ、公園に絶対にあるとは限らないんじゃない?」

「んー・・・・・・こんなに探しても無いって事は、そういう事なのかな、本当にどこで落としちゃったのかな」

肩を落としながら、立ち上がって美音子に近づいた。

「ありがとう、探し物に付き合ってくれて」

「ううん、そろそろ帰ろう」


 「どう?隼人の方は何か進展有った?」

「何も・・・・・久保田も毎日会ってるわけじゃないみたいだし」

「そっか」

進級し半月程が過ぎた、ある週末。

2人は一縷の望みを抱き公園で守を待っていた。

美音子はガッカリして見せながらブランコを漕いだ。

「こんなに足しげく通っているのに未だに会えないよね、っていうか付き合わせてゴメンね」

言いながらポケットから守が落としたストラップを取り出した。

「それは?」

「前に私がパパにプレゼントしたの、この間ブランコのところに落ちてて」

「じゃあ、落としたことに気付いて、そのうち姿を現すかもな」

「・・・・だと良いんだけど」

「何だよ、元気出せよ」

宮原は力強くブランコを漕ぎながら美音子を励ました。

美音子は自分の脇を行ったり来たりしている宮原を見つめ意を決した。

「隼人」

呼びかけられ宮原がブランコを止めた。

「いつもありがとう」

「ああ・・・・・でもまあ、いつも、そんな大した力になってないけどな」

照れて見せながら再び弱い力でブランコを漕ぎ始めた。

「そんな事ない!」

力強い声音で言われ宮原は思わずブランコを降りて美音子と向き合った。

「こんな事言ったら迷惑かもしれない、だから言わないでおこうと、ずっと思っていたけど」

緊張の面持ちで美音子もブランコから腰を上げた。

散々見つめ合った後、美音子は秘めていた思いを覚悟を決めて口にした。

「私、気が付いたら・・・・・隼人の事、好きになってた」

思い切って気持ちを伝えた後、溢れた涙を拭いながら直ぐに視線を自分の足元へと落とし沈黙に耐えた。

「とりあえず顔上げろよ」

言われて、恐々と泣き顔を上げた。

美音子は伝い落ちた涙をそのままに宮原と見つめ合った。

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