闘う世間の日常~名もなき戦争~
「あなた達どうやって此処を調べたの?!」
「教えてやらない!」
「ふざけないで!ちゃんと答えなさいよ!子供だから何でも赦されると思ってるなら大間違いよ」
「近所迷惑になるから騒がないほうが良いんじゃない?オバサン、大人気ないね、そんな事よりパパが帰ってくるまで待たせてもらうよ」
「何言ってるの、此処でいくら待っていても会えないわよ!前にも言ったでしょう!あなたのお父さんとは、ただのビジネスパートナーだって」
由美は空のケーキの箱を持ったまま立ち尽くし、修羅場を傍観していたが。
「わけ分らない事を言っていた、その子もグルなの?!」
興奮気味に時子に捲し立てられ由美は飛んできた火の粉を払う術が判らず青ざめた。
口論する声に隣の住人がドアを開けて通路に出て来た。
「あなたたち、いつかの中学生じゃない・・・・・・近所迷惑よ!前にも言ったけど乳幼児も居るんだから静かにしなさい!」
隣の住人の登場に一瞬押し黙った後、時子が申し訳無さそうに謝罪した。
「申し訳ありません、ご迷惑おかけしました・・・・・・」
隣の住人に丁重に頭を下げ、時子は3人に改めて告げた。
「とにかく、近所迷惑に成るから、冷静に私の話を聞いて頂戴、私と、あなたのお父さんとは、もう関わりが無いの、仕事上の付き合いも、あの一件以来スッキリ解消して、一度も会っていないしメールも電話もお互いにしてないのよ、もちろんお互いが、どこに住んでいるかなんて知らないわ」
時子が本当に守について何も知らないのだと察した美音子は悔しげに涙を浮かべた。
「今も、あの時も本当に、パパと何も無かったって言うなら、何でパパは帰ってこないの?!私たちの話なんて聞こうともしないで「自由になりたい」って、たった一行の手紙と離婚届送りつけてきて携帯も勝手に解約して、こっちが色々諦めた頃、急に電話してきて、偉そうに生活費やるとか言いながら約束すっぽかしたり」
「・・・・・・電話って、携帯に来たの?」
「そうだけど何?!」
時子に確認され美音子が切れ気味に答えた。
「だったら、あなた、お父さんの連絡先を知ってるんじゃない、履歴から掛けなおして約束果たして貰ったら?」
「出来ないから、俺たちは苦労しておばさんを探したんだ!!」
「どういう事?非通知だったの?」
「文句言ってやりたくて、そのままパパの着信に掛けなおしたら既に使われてない番号になってたの!」
「・・・・・・携帯の番号って、そんな都合よく頻繁に変えられるの?」
由美が不思議そうに確認した。
「知らないよ!嘘だと思うなら掛けてみなよ!!」
言って、スマホを由美に突きつけた。
「別に疑ってないし・・・・・・美音子ちゃんのお父さんと話す事なんて何もないから」
由美が丁重に断って見せた。
「とにかく、此処に来ても何も解消されないわ、お願いだから、もう帰って頂戴、そして私には私の生活があるの、だから二度と来ないで頂戴、私に関らないで!」
「・・・・・・・それは当事者の美音子が決める事だ!どうする?」
宮原に確認され美音子は項垂れたまま不機嫌さを滲ませながらも宣言した。
「パパに会えないなら、こんな所に居ても時間の無駄!頼まれても二度と来ないよ!!」
捨て台詞を残し美音子は宮原と共に階段を下りていった。
階段を下りながら、まだ動こうとしない由美を宮原が促した。
「お前も早く来い!」
「あの・・・・・・とんでもない迷惑掛けてしまって、ごめんなさい」
申し訳無さそうに告げて由美も駆けていった。
3人が完全にアパートの敷地から出て行くのを確認して、隣人宅を訪ね、改めて謝罪した。
そして、問題は解決した事を告げた。
時子同様、散々なクリスマスになってしまった由美は美音子たちと駅で別れた。
改札口を出て、丁度入ってきたバスに乗って帰っていった。
「俺たちも帰ろう、美音子」
「うん・・・・・・・」
美音子たちも目的のバス乗り場まで移動し、ベンチに腰かけてバスの到着を待った。
「色々ありがとう、こんなに沢山協力してもらったけど、もう諦めようかな、パパの事」
宮原は賛成も反対もせず美音子の本音に耳を傾けた。
寒空の下、美音子は父親に会えない寂しさを素直に吐露していた。
「俺は、諦める必要は無いと思うけどな、結局、あのオバサンは何も知らない、関係ないって判っただけでも前進できたじゃないか、今度は別の切り口で探してみようぜ」
「・・・・・・うん!!諦める必要ないよね、寒い中付き合わせてゴメンね」
「気にするな」
時子たちが最悪なクリスマスの只中に居た頃、好美たちは愉しいクリスマスの一時を過ごしていた。
束の間の休息を堪能し、日付が変る頃に解散した。
「じゃ、次は大晦日だな、今度はこっちから行く」
「うん」
平和に愉しく過ごせたクリスマスと大晦日の約束を心の活力に平和な冬休みを送った。
活力を充分に補った勢いで精力的に冬休みの課題をこなしていると真希からラインが入った。
『やっほー、元気に冬休みを満喫してる?』
『おかげさまで!早いね、もう今日は大晦日だね』
『うん、ところでさ、休み前に話してた歩の件なんだけど、あれからずっと考えてたんだけど、私たちの下駄箱に隠すって、どう?あいつは、きっと歩の下駄箱から靴がなくなってれば、それで満足する筈だから、甲本にとって、どこに隠させるかは重要じゃない筈』
肯定の文章を作成しようとして、真希が次なるメッセージを作成している事に気付いた。
『問題は、どうやって隠し場所を歩に教えてあげるかって事だよね』
2件のメッセージを確認して手早くメッセージを作成した。
『私たちの下駄箱か、悪くないね!でも、そうだよね、そこが問題なんだよね、堂々と歩ちゃんと話したら危険だよね』
『とりあえず3学期までもう少し時間が有るし、良い方法を考えよう』
ラインでそんな話をしていると、外から耀子に呼ばれた。
「好美、買出し、行くわよ」
「はい」
『そうだね、3学期までに良い方法を考えよう、とりあえず今から買出しに行ってくるよ、良いお年を』
『了解、良いお年を』
手早くラインを完了させ防寒をしっかり整えて耀子と共に買い物に出た。
利用客で混雑した店内で目当ての商品を軽快に篭に入れていきながら店内を練り歩いていると歩に遭遇した。
歩は買う物リストを確認しながら天ぷらセットを篭に入れ、カートを押して母親と愉しげに惣菜コーナーの前を通り過ぎた。
直ぐに気付き合ったが、敢えてお互いに気付かないフリですれ違った。
何とも言えない苦い思いを噛み締めつつ、好美も惣菜コーナーの前で足を止め天ぷらセットを手に取った。
気を取り直して目的の物を全て篭に入れて、長蛇の列を成しているレジに並んでいると、不意に後ろから肩を叩かれた。
振り返ると由美と由美の母親が立っていた。
「由美ちゃん!久し振り!!」
「元気そうだね、好美ちゃん」
「乙黒さん、こんにちは、今年も大変お世話になりました、来年もよろしくお願いします」
「こちらこそ大変お世話になりました、来年もよろしくお願いします」
由美と好美はレジの行列から抜けてイートインコーナーでミルクティーを飲みながら会計が終るのを待った。
一息つきながら、好美は思い切って由美に打ち明けていた。
「実は由美ちゃんに折入って相談があるんだけど」
「ん?何?」
周辺を見回し、誰も自分たちに注目してない事を確認した上で、固く口止めした上でクラス内でのイジメについて相談した。
「・・・・・・そっか、やっぱ、どこに行っても有るんだね、イジメって」
「うん、そこで由美ちゃんだったら、どういう方法を取るかなって、参考までに聞きたいなって」
「んー、流石に直ぐに良い方法は見つからないね、3学期が始まっちゃう前までには私も元被害者の経験を活かして良い方法を考えてみるよ、そして、またラインするね」
「うん」
「お待たせ、好美、帰るわよ」
「うん」
「由美も、帰るよ」
「はい」
そうして無事に年を越して迎えた新年、好美が冬休みの課題を片付けていると、由美から約束のラインが届いた。




