ある日のこと
「にしても。やっぱりめんどくせぇ」
庭でのこぎりを動かしながら文句が出る。いや、自分で請け負ったことだから、仕方ないのだが……。
のこぎりを握るのなんて久しぶりの事だ。高校の時は授業でいろいろな物を作ったが、専門学校に入ってからはなにもやっていない。だから、若干不安があるんだけど……。
とはいえ、中々うまく切れている。まだ体が覚えているらしい。あと一枚切ってしまえば、とりあえずのこぎりの出番は終わる。
「お兄ちゃん大丈夫?」
「あー、大丈夫大丈夫」
縁側に座り、申し訳なさそうな心配そうな目でこっちを見ている妹に、おざなりに手を振る。その足元には子犬が寝むっている。今日から家族の一員になったこいつの為に犬小屋を作っているのだが、そんなもの買えばいいだろとオヤジたちに言ってやりたい。いや、確かに餌代とか予防接種やらでお金はかかってしまうわけで。
少しでも出費を抑えるために俺に作らせるなよ。なんて事を、妹に言うわけにもいかず、板を切っていたのだが。ていうか、手伝いくらいしろよオヤジ。
「ごめんね?」
妹にそんな風に言われたら、いつまでも仏頂面をしてるわけにはいかないし、そんな妹をほっておいてこのまま作業を続けることなんて出来ない。 そう思ってしまうのはなんだかんだ妹に甘い証拠だろう。
のこぎりを地面に置き、縁側に座った。
「良いよ。どうせ暇だったし」
妹の頭をなでる。妹は持っていたコップを差し出してきた。
「いいのか?」
「うん」
コップを受け取る。口に含むと微妙な冷たさが広がった。少しぬるくなったお茶だ。わざわざ用意していて、タイミングをはかっていたのだろう。
出来れば、もう少し冷たいのが欲しかったと思うが……。にこにこと笑っている妹をみると、どうでもよくなってしまう。
歳が離れているからか、どうも妹には弱いらしい。
普段頼み事やわがままを言ってこないから、たまに言ってくる事くらいは叶えてやりたくなる。 妹に作ってと頼まれなけば作っていない。うまいことオヤジたちにハメられた気もする。
「なにか手伝えることある?」
「んー、と言っても、刃物使わせるわけにいかないしなー」
とたん、妹が悲しげに顔を伏せる。
「あー、じゃあ、切った板をヤスリかけてもらおうかな」
「やすり?」
「そうヤスリ。角を丸くしたり、表面を綺麗にするんだよ。その方が触った時の感触が良いし、危なくないんだ」
「やる!」
ぱっと笑顔になる妹。大きな声出すと犬が起きるぞと思いながら、やはり俺は妹に弱い。
「気をつけてやるんだぞ。慌てなくていいから」
紙ヤスリを手渡すと、妹はヤスリをかけ始めた。
「んしょ……んしょ……」
そんな妹を横目に見ながら、少し真面目に作ろうかと思う。
釘を使うと危ないし、ほぞ組みにでもしてみるか……。いやそれはやはりめんどくさいな……。いやしかし……。
文句ばかり言わずに、少しは頑張るか。
了