後編
後編となります。
いよいよここから異能力バトルっぽくなります。
あくまで『ぽく』です。
どうぞくれぐれも軽い気持ちでご覧ください。
放課後。
ランドセルをおいて、私は待ち合わせの公園に走った。
「早いな」
「お、お待たせ」
遠真君は先に来ていた。ランドセルは持ってない。そう言えば遠真君はどこに住んでるんだろう?
「じゃあ行くか」
「うん」
『遠真様。紗弥さんをホントに連れてくんで? あっしは反対ですけど……』
「紗弥は今回の件、役に立つと思うぜ?」
『危ねぇって言ってんですよ』
「ジョーは心配症だな」
ジョーさんの言葉に、遠真君がニヤリと笑う。
「俺がそんなヘマするかよ」
その横顔はとってもたのもしかった。
「ここ……」
「夜な夜な子どもの声が聞こえるっていう空き家だ」
知ってる……。六年生の男の子がきもだめしをして、大けがしたって……。
『紗弥さん、大丈夫でやすか? ふるえてやすよ……』
「だ、大丈夫! 遠真君! 私は何をすればいいの?」
怖い気持ちをぎゅっとにぎりしめて、遠真君にたずねる。
「ここに残る魂を説得してくれ」
「説得?」
「そうだ。ちゃんとあの世に行くように。同じ子どもの紗弥の話なら聞く可能性は高い」
説得……。私にできるかな……。
「自分からあの世に行けば、罪も軽くなるし、俺もあのクソまずい汁飲まなくてすむからな」
「……わかった!」
この世に残ってしまった魂にも、遠真君にも役に立てるなら、怖がってなんかいられない。
「よし、ジョー」
『わかりやした』
ジョーさんが浮かび上がって光り始めた。すると、
『おかあさん、どこ……?』
『こわいのやだよぉ、おかあさん……』
『たすけて……』
何人もの青白い子どもが浮かび上がる!
「これ、が……」
「そうだ」
涙がかってにこぼれる。
怖くてじゃない。
子ども達がみんな泣いてるのが、辛くて悲しい。
『さ、紗弥さん!?』
ヒザをかかえて泣いてる子の頭をなでる。ミーコの時と同じ、軽いけどさわれる。
『……だれ?』
「こんにちは。私、小石紗弥。八代小学校四年生」
『……さや、おねぇちゃん?』
「お名前、教えてくれる?」
『……しろう』
「しろう君ね」
頭をなでていくと、しろう君の涙が止まっていく。
『おねぇちゃん、あったかい……』
「ここは寒いの?」
『うん。さむくて、ときどきこわい……』
「そうなんだ……」
『おねぇちゃんのところはあったかい……?』
「うん」
『ぼく、おねぇちゃんのところにいきたい』
いいよ、と言いたくなるのをがまんする。しろう君たちをミーコみたいにしちゃいけない。
「遠真君、この子たち、あの世に行ったらどうなるの?」
「親より先に死んだ子は、賽の河原で石つみをする決まりだ」
「!」
昔絵本で読んだことがある。子どもが泣きながら石をつみ上げては、鬼にくずされる、かわいそうな話。
「そんな……。ひどい……!」
「ひどいってことはねぇよ。石つみは塔を立てておシャカさんを供養する修行だ。きちんとやりとげたら、天国でも生まれ変わりでも選べる」
そうなんだ……。
「ここでなにもしないで泣いてるよりはマシだろうぜ」
「……あの世に行くと、がんばることはあるけど、それが終わったら天国に行けるって。……どうする?」
『ぼく、こわいよ……』
そうだよね。怖いよね。私はお母さんがそうしてくれるように、しろう君をぎゅっと抱きしめた。
『おねぇちゃん、ママみたい……』
にこっと笑ったしろう君の身体が、青白い色から温かいオレンジ色に変わっていく。
「しろう君?」
『おねぇちゃん、ぼく、がんばれそう』
良かった。元気になってくれたみたい。
『しろうくん、いいなぁ……』
『おねぇちゃん、ぼくも……』
『わたしも……』
他の子たちも顔を上げて私に近づいてくる。一人一人ぎゅってしてあげると、みんなうれしそうに笑った。
『紗弥さん、すごいでやすな……。悪霊にねらわれていたから、霊力があるのはわかってやしたけど、まさか霊に力を与えるなんて……』
「あの婆さんネコも力をもらってたからな。あのお人好しな性格のせいだろう」
私にそんな力があるんだ……。よくわからないけど、この子たちを元気づけてあげられたならよかった。
「あ……」
子どもたちがふわりと浮かんだ。
『ありがとう、おねぇちゃん』
『ありがとう……』
「……いってらっしゃい……」
『いってきます……!』
『またね……』
『おかあさん、こわいから、きをつけてね』
「え?」
子どもたちは空へと消えていった。
「行っちゃった……」
『お見事でやんした紗弥さん! いや〜、お見それしやした!』
「よくやったぜ紗弥。こっからは俺たちの仕事だ」
「えっ?」
振り返ると、遠真君がシャクを構えている。
『子どもたちの霊がいなくなったら、急に圧力が強くなってきやしたね……』
「病院や墓場でもないってのに、何人もの霊が集まってるってことは、だ」
かえ……して……。
身震いするような恐い声! 振り返ると、
「それを集めたヤツがいるって事だ!」
『私の子どもを返してえええぇぇぇ!』
かみを振り乱した女の人が! 黒いかみの毛がのびてくる!
「切り裂け! 刀葉林!」
地面から生えた木が、私に向かってのびていたかみを切った。
『刃の葉を持つ地獄の木、流石の切れ味でやすな!』
「紗弥、俺の後ろに来な」
「う、うん!」
あわてて遠真君の後ろに回る。
「あ、あれは……?」
「多分だが、子どもを亡くした母親の霊だな。子どもをもとめるあまり、近くにいる子どもの霊をつかまえていたんだろう」
あの子たちはそれで……!
「とらえろ! 黒縄!」
黒い太い縄が、女の人のかみを、手足をつかまえる!
『ぎぃやあああぁぁぁ!』
「地獄の炎でできた縄だ。あばれるほど熱くなるぜ? さ、大人しく観念しな」
『うぅ、子ども……、私の、子ども……』
「さぁ、裁きの時間だ。覚悟はいいか?」
「待って!」
私は女の人のところに走った。
「紗弥!?」
『紗弥さん、何を!?』
私はしゃがんで、たおれた女の人に話しかける。
「あなたが、みんなの言ってた『おかあさん』なんだね……」
『あ……、あぅあ……』
『やめてくだせぇ紗弥さん! そいつは子どもの霊をつかまえていた悪霊で……!』
「ちがうよジョーさん。この人は子どもたちを守ってたやさしい人だよ」
あの子たちは『こわい』とか『さむい』と言ってたけど、『おかあさん』って呼んでたんだ。やさしい人じゃないときっとそうは呼ばれない。
「しろう君たちはがんばってあの世に行ったよ。でもまだ少し怖がってたの。だからあなたもいっしょに行って守ってあげて」
『ま、もる……』
女の人の顔がやさしくなっていく。
『いや、紗弥さん。そいつは賽の河原には……』
「判決。この女を賽の河原の地蔵菩薩補佐とする」
『遠真様!?』
女の人が、光に包まれて空に浮かんでいく。
「ありがとう。遠真君はやっぱりやさしいね」
「何言ってんだ。賽の河原じゃあいつの罪は減らない。地獄にいる時間が伸びるだけなんだから、むしろきびしい判決だろ。な、ジョー?」
『遠真様、それでごまかせると思ってるんでやすか?』
しろう君たちと女の人が消えた空が、みんなと同じオレンジ色にそまっていた。
翌日。
「あ、おはよう、遠真、君……」
「……うーす……」
また元気ない! やっぱり苦い汁を!?
「大丈夫? 昨日やっぱり怒られたの?」
「……あー、紗弥のせいじゃねぇよ。……ジョー、説明」
遠真君はポケットからジョーさんを出して渡してきた。
『あっしからご説明しやす』
わ! 頭の中に、ジョーさんの声がする!
『返事はなしでお願いしやすよ? 紗弥さんが変な風に見られやすから』
私は小さくうなずく。テレパシーみたいなのかな。
『昨日はありがとうございやした。裁きを行うことなく、霊をあの世にみちびいたってことは、閻魔大王様も大変評価されたんです。ですが……』
なんだろう、何か悪いことがあったのかな。
『あの女の霊が、賽の河原の子どもを守ろうとするあまり、石つみをくずす鬼をぶっ飛ばしちまいまして……』
え!?
『母は強しってやつですかね。手がつけられないってんで、遠真様が一晩かけて地獄について説明して、話をつけたはいいんですが、徹夜してこのありさまってわけでして……』
おかあさん、がんばっちゃったんだ……。
『おかげで賽の河原ももう少し子どもにやさしくしようって話にもなったんで、結果オーライではあるんですけどね』
そうだったんだ……。
「……だめだ。ねみぃ。寝る……」
「あ、遠真君、ぐあい悪いなら保健室に行こう?」
机で寝てると怒られちゃうから。よろよろする遠真君を保健室につれていく。
「先生。……いないのかな?」
とりあえず遠真君をベッドに寝かせる。
「……助かったぜ。たっぷり寝かせてもらうとするよ……」
「うん、お大事に……」
『授業はあっしがちゃんと聞いておきやすからね!』
「……あぁ……」
よっぽどねむかったのか、遠真君はすぐに寝てしまった。
いつものぎょろぎょろ目も、つぶっていると気にならない。
こうして見ると、ふつうのクラスメイトと変わらないなぁ。
『人間の、しかも子どもの身体ってのは不便なもんでやすね。地獄じゃ一日二日寝なくたって大丈夫なんでやすが』
「そうなんだ」
地獄ってどんなところなんだろう。地獄での遠真君ってどんな感じなんだろう。
『あ、チャイムでやす。さ、戻りやしょう、紗弥さん』
「うん」
私はジョーさんと教室へと戻った。
まだ遠真君のこと、知らないことばっかりだ。
これからもっと遠真君のことを知って、もっと仲良くなりたいな。
読了ありがとうございます。
賽の河原のある鬼は、後にこう述べました。
「私はいつものように、子どもの石積みを崩すしていました。楽しい仕事とは言えませんが、子どもの修行のため。まさに心を鬼にしてやっていたのです。
その時でした。髪を振り乱した女が猛然と走って来たのです。鬼気迫る、と言うのはまさにあの事でしょう。野球の乱闘シーンでかかるあの曲が、脳裏に流れました。
後はもう地獄絵図でしたね。私は真っ先にショルダータックルを食らって吹っ飛びましたが、むしろ幸いでしたね。同僚の鬼達が止めようとしては、ウェスタンラリアットからのエルボードロップやストンピングで沈められていたのですから。
折り重なった鬼の山の上で、あの女が天を指さした時、私は伝説の再来を確信しましたよ」
ふざけ過ぎてやった。今はハンセンもとい反省している。
もう一話、ちゃんとした異能力バトルものっぽい展開を考えていますので、そちらが完成した折にはよろしくお願いいたします。