前編
前作から待っていてくださった方にはお待たせしました!
初めての方には初めまして!
『転校生は地獄の使い!?』の続きとなります。
ジャンプの読み切りっぽいと言って頂き、調子に乗ってもう一作描いてしまいました!
思いの外長くなってしまったので、前後編としてますが、読み切り感覚で気軽にお楽しみください!
私は一週間ぶりにぐっすり眠り、元気いっぱいで学校に到着した。
「梓奈ちゃん、おはよう」
「あ、紗弥ちゃん、おはよー」
教室に入って、一番の友達、鹿島梓奈ちゃんとあいさつする。
「元気になったね。よかった」
「ごめんね、心配かけて」
「ううん。あんなに大好きだったネコちゃんとお別れしたら、だれだってそうなるよ」
「ありがとう。もう大丈夫だから」
私の元気を取り戻してくれた遠真君にもあいさつしようとして、姿が見えないことに気がついた。
「あれ? 遠真君、まだ来てないんだ」
「とおま、くん?」
え、あれ? 梓奈ちゃん、なんでそんなびっくりした顔してるの? まるで初めて聞いたみたいに……。
も、もしかして、遠真君、マンガみたいに皆の記憶を消して、地獄に帰っちゃったの!?
「……うーす……」
と思ったら来た! 良かった! まだ帰ってなかった!
昨日ミーコの魂と私を守ってくれたお礼、ちゃんとできてなかったから。
「と、遠真君! お、おはよう!」
「……おーう……」
あれ? 元気、ないなぁ。疲れてるのかな?
「ねぇねぇ紗弥ちゃん! 蔵地君のこと、名前で呼んでるの!? 昨日なにかあった!?」
わ、梓奈ちゃん、どうしたのそんなうれしそうに!
「な、なにもないよ」
死んだミーコの魂が私を悪霊っていうのから守ってくれてて、遠真君が地獄の人で、悪霊をやっつけてミーコを天国に送ってくれた、なんて話せないよね。
「ホントかなぁ? 実は気になっちゃったりしてるんじゃないの?」
「う、うん、気にはなるけど……」
「きゃー!」
そう答えたら、梓奈ちゃんはさらにうれしそうな顔になった。なんで!?
「じゃあさじゃあさ、遠真君のどんなところが気になっ」
「席につけー。授業を始めるぞー」
「……んもう!」
梓奈ちゃんも私も席に戻る。先生が来てくれてよかった。元気のない遠真君の事は、休み時間にでも聞こうっと。
休み時間になった。みんなは校庭に遊びに行った。
教室には私と、机にうつ伏せになる遠真君の二人だけだ。
「遠真君」
「……あー?」
「昨日は、ありがとう」
「……礼なら昨日聞いた……」
な、何か、きげん、悪い?
『紗弥さん、お気になさらねぇでくだせぇ』
あ、浄玻璃の鏡のジョーさんが、遠真君のポケットから出てきた。
不思議な鏡さん。しゃべるし、動くし、凄い力を持った薄い棒、シャクって言うんだっけ? あれを出したりするんだよね。
『遠真様、昨日閻魔大王に罰を受けやしてね』
「えっ!?」
『魂の罪を決め、裁く行い、それ自体が傲慢で罪深い行いとする地獄の法で、閻魔大王は毎日煮えた銅を飲まれます。己への罰として』
「じゃ、じゃあ遠真君も……?」
『あ、遠真様は今人間なので、健康飲料『苦々緑液』を一気飲みされました』
「あらら……」
力が抜けて、思わず転びそうになる。
「よかった……」
「……よくねぇよ。すげぇマズいんだぞあの汁……。うぇ、まだ口の中に残ってる気がする……」
「それで元気なかったんだ……」
遠真君がひどい目にあったのって、やっぱり私のせいだよね。なんかしないと!
「ねぇ、私にお手伝いできることってない?」
『へっ!?』
「……何だよ急に……」
「ミーコと私を助けてくれたお礼がしたいの!」
私がそう言うと、遠真君は立ち上がった。
「……いいんだよ、そんなのは……」
「え、あの……」
「……水、飲んでくる」
怒ってる、のかな。……そうだよね。私のせいでマズいの飲まされたんだもんね……。
『あの、紗弥さん。気にしないでくだせぇ。ミーコさんの件も悪霊の件も、地獄の判断の遅れが招いた事態ですんで』
「え、どういう事?」
『地獄ってのは本来、死んだ人間を裁き、罪に応じた罰を与える所です。だから今までは魂が来るのを待つばかりでした』
「今までは? 何か変わったの?」
『はい。昔は死んだ魂が現世に留まっていても、祓い屋や拝み屋、陰陽師っといった人たちが、そいつらをあの世に送っていました」
腹、イヤ? 尾が、宮? おんみょーじは聞いたことあるような……。
『しかし今では霊も霊能力もインチキだと言われる世の中。霊が見えたり、祓えたりする力を地獄から与えても、使われないことが多くなりやして、悪霊は野放し状態……』
「そうだったんだ……。それで遠真君は地獄から?」
『はい。現世の状態を閻魔大王に訴えましてね。重い腰を上げさせたんですよ』
大変な思いをして、それでも私たちのために……。
『でももっと早くに来れてれば、紗弥さんにあんなに怖い思いをさせることもなかったんです。あっしが謝るのもスジが違いますけど、この通り、許してくだせぇ』
「謝らないで、ジョーさん」
『しかし……』
「遠真君とジョーさんは、ミーコと私を助けてくれた。それは変わらないもの」
悲しそうにするジョーさんを、私はぎゅっと抱きしめる。
「ありがとう、ジョーさん」
『紗弥さん……』
「おいジョー。なーに鼻の下伸ばしてんだぁ?」
いつの間にか遠真君が戻ってきていた。
『い、いや違いますって、あっしは……』
「へへっ、お前がロリコンとは知らなかったぜ」
『あっしは子どもなんかに……! あ、いえ、紗弥さんはステキなレディでやすよ! でもあっしはそんなんじゃ……!』
遠真君のからかうような言葉に、ジョーさんがあわてて私からはなれる。なんでだろう? それとジョーさんの鼻ってどこなんだろ?
『と、とにかく、紗弥さんは、あっしらに気をつかうことなんてないんでやすよ。ね、遠真様」
「あぁ」
「それでも、私はお手伝いしたいよ」
遠真君がぎょろっとした目で私を見つめてくる。
「紗弥、ホントに俺のこと手伝う気か?」
「うん」
「怖くないのか? 悪霊を相手にすることもあるぜ?」
昨日の黒いモヤモヤに、ミーコがつかまって苦しがっていたのを思い出す。ぶるっと身体がふるえる。でも!
「……怖いけど、がんばる!」
「なら学校終わったら一緒に行くぞ」
『ちょっと遠真様!?』
「他の奴らが戻って来る。引っ込んでな」
『むぎゅ』
遠真君がジョーさんをポケットに押し込むと、クラスのみんなの声が近づいてきた。
「あ! 紗弥ちゃん! 蔵地君と教室にいたの!?」
「う、うん」
梓奈ちゃんが走ってくる! 朝みたいにうれしそう!
「なになに〜? なに話してたの〜?」
「学校終わったら、一緒にお出かけする約束して……」
「デート!?」
「そ、そんなんじゃないよ……」
「じゃあなに!?」
「えっと……」
「どこ行くの!? 公園!? だがしやさん!? あ! 山頭川の河原とかもロマンチックよねぇ!」
「うーんと……」
先生が来るまで、梓奈ちゃんの質問は続いた……。
読了ありがとうございます!
地獄の閻魔様の設定を活かして、能力使用の制限を付けてみました。当初は裁きは悪霊には必ず効くけど、間違えると自分に返って来るので、無闇に使えない設定でした。
しかし自動で罪の成否が分かるなら、裁きを遠真が行う意味がなくなるので、こちらのようになりました。
ちなみに閻魔様の顔が赤いのは熱した銅を飲んでいるからだって設定は、罪を裁く責任としては格好いいんですが、エグすぎませんかね……。
冷徹な補佐官「ウチの大王にもやらせましょう」
ヒゲ大王「やめてよ! 死んじゃうよ! もう死んでるけど!」
引き続き後編もお楽しみください。
「さぁ、裁きの時間だ。覚悟はいいか?」