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唐突な自爆にご注意ください

「百合、この本も部室に持っていくんだっ、……げ」


 絶望的に間の悪いタイミングで紫蘭と出会ってしまった。向こうも同じような事を思っているようで、まるで潰れた虫でも見たかのような、普段の紫蘭なら絶対に出さない声を出していた。


「あれ? 恋ケ丘さん?」

「……あらあら、これは……。ふふっ……」


 立花さんの驚いた声に被ったせいで微妙に聞き取りにくかったけど、東雲さんや、あなた明らかにこの状況を面白がってませんか?まさかとは思うけど、あえてこの現場を作ったんじゃ……いや、さすがにそんな事するわけないか、紫蘭じゃあるまいし。


 しかし考えようによっては好都合だ。東雲さんや立花さんが見ているこの状況で昨日の放課後のような醜態をさらせば、間違いなくただでは済まないだろう。まあ別にそこまではしなくとも、とりあえず今後俺と関わろうと思えなくさせるくらいはしておきたい。


「……そう。そういう事なのね……ふん」


 俺がどう仕掛けたものか考えていると、紫蘭からそんな呟きが聞こえてきた。何がそういう事なんだろう。


「ん?なんか言ったか?」


 と言うわけで聞いてみる。


「はぁっ!? えっいや、べっ別になな何でもないですけど?」


 少し狙ったとはいえ、まさかここまで動揺するとは。ところが、紫蘭の動揺はそんなものではなかったようで。


「そうよ、ベっつになんでもないわよっ!!てかどうでもいいでしょっ!?あんたは私を捨てたんだからっ!!」


 おい人聞きが悪い事言うなよ。というか、いつもの外面が完全に剥がれている。普段の清楚なイメージからは想像だにできない台詞の数々に、立花さんは言葉を失っている。それに、今はまだ廊下にチラチラと生徒が残っているくらいの時間帯。ただでさえ紫蘭、東雲さん、立花さんという学年でもトップクラスの美少女が一堂に会しているという事でそこそこの注目を集めていた。そんな所でこんな醜態をさらせば、どうなるかは明白で。


 え……今の、恋ケ丘さんが言ったんだよな……

 嘘、あんな事言うなんて……

 なにこれ修羅場……?


 とかそんな呟きが回りから聞こえてくる。……これ、紫蘭だけじゃなくて、俺や東雲さん、立花さんもまずくないか?


「あ………わわわわ私、さっさと手伝い終わらせたいから行くわ!!!それじゃっ!!!」


 しかも当の本人である紫蘭はさっさとこの場から逃亡してしまった。となると当然、皆の視線の矛先は俺に向くわけで。うん、これはちょっと、面倒かもしれない。


「藤川様、藤川様」

「東雲さん?」


 とか思っていると、東雲さんが小声で俺に話しかけてきた。


「とりあえずこの場は私が収めておきますので、藤川様は立花様をお連れしてお帰りください。大丈夫です、悪いようにはしませんから」

「えっと、いいの?」

「ええ。そもそも私がいなければ恋ケ丘様と鉢合わせることもなかったでしょうし。つまり私に責任がありますから。ですから、お任せください」


 いや、どう考えても勝手に盛大な自爆をかました紫蘭が悪いとは思うけど……。まあ、せっかくの東雲さんの厚意を無駄にするのももったいない。ここはありがたくお世話になっておこう。


「分かった。――立花さん、帰ろう」

「えっと、いいの?」

「まあ、大丈夫、だと思う。……説明は後でする。その……ごめん」


 割と大ごとに巻き込んでる自覚はあるので素直に謝っておく。


「んー、まあよく分からないけど許す!じゃあ帰ろっか、説明とやらもお願いね」


 天然なのか大物なのか分からないけどとにかくいつも通りにしか見えない立花さんを連れ、俺はガヤガヤとうるさい野次馬の隙間を縫って学校を後にした。ついてくる奴がいなかったのは東雲さんのおかげだろう。後でお礼を言っておかないと。


 *


「とまあ、そんな感じ」

「えっと、つまり、恋ケ丘さんの本当の顔はああいう感じ、って事でいいのかな?」

「まあそういう事。……まさかあんなに人がいる中で大爆発するとは思ってなかったけど」


 帰り道。昨日と同じように商店街の歩道を二人ならんで歩きながら、紫蘭の事について説明した。紫蘭の本当の顔や、今まで俺にしてきた事、そしてこの前俺から絶交を言い渡した事なんかを、包み隠さず。始めはかなり驚いていたけど、最後の方には今みたいにいつも通りの反応になっていた。もっと動揺するかと思ったから意外だ。


「なんか反応薄いね?」

「いや、まあ目の当たりにしちゃったからには、納得するしかないしね。しかし、恋ケ丘さんが、ねぇ……いやぁ、苦労してるなぁ」

「……うん。全くだよ」

「いや、その……ま、いっか。じゃあやっぱ、二人は別に恋人とかじゃなかったんだね」


 妙な間があった気がするが気のせいという事にしておこう。


「昨日も言ったけどそれは絶対にない。実際あいつの本性を見たらそんな気起きないって」

「あはは、そっか。まあ、恋ケ丘さんは大丈夫でしょ。そう簡単にはあの人気は落ちないと思うし。そんなに今日の事も広まらないと思うよ」

「俺はまあそこはどっちでもいいんだけど。とりあえずこれ以上とばっちりを受けなきゃそれで」


 そう、それだけでいい。別に紫蘭が皆に嫌われて欲しいわけでもなければひどい目にあって欲しいわけでもない。ただ俺が平穏に、今までやれなかった事をできるようになれればそれでいい。


「さて、まあ恋ケ丘さんの事は取り合えず置いといてさ。明日からはようやく準備スタートだねっ! 頑張ろう、藤川くん!」

「うん。頑張ろう、立花さん」


 少なくとも今の所、おおむねその目的は達成できている。だから、せめて文化祭が終わるくらいまでは、このまま何事もなく過ぎて欲しい。


 ――まあ、そう簡単にいかないってことくらい、分かってるんだけどさ。


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