そう簡単には忘れさせてくれないようです
「じゃあ、クラスの企画は喫茶店に決定でーす。みんな、頑張ろうね!」
翌日、さっそく企画内容の話し合いが始まった……が、今の通り非常にあっさりと決まってしまった。元々女子の中で喫茶店をやりたいと言っているグループがあり、他の皆も“考えるのが面倒”という大変よくある理由で同調し始め、あっという間に過半数の支持を得てしまったのだ。まあ、この段階でうだうだやっててもしょうがないので、決まってくれたのはありがたいけど。
「じゃあ、次はとりあえず、メニューの内容を決めていこうかなー」
ちなみに俺は今立花さんと一緒に教壇の上に立って話し合いの司会進行をやっている、ことになっているのだが、現状ほぼ立花さんが話を進めている。企画の発端が女子サイドのもので、意見が出るのも女子からが多い、というのももちろん理由ではあるんだけど、そもそも立花さんのコミュ力が高すぎることの方が大きい。俺が口を突っ込む前に話が進んでいくのだ。もちろん決定する前に俺に確認は取ってくれるけど、逆に言えばそれとその内容を黒板に書き留める程度の働きしかできていない。こういうのが得意そうなのは分かっていたけれど、まさかここまでとは思っていなかった。これでは完全にお荷物状態だ。
その後も話し合いはほぼ俺抜きで問題なく進行し、結局俺がクラスメイトと意見を交わすことは最後まで一切なかった。
*
「お疲れさま!じゃあ取り合えず、でた意見を二人でまとめていこっか」
放課後。まだ具体的なプランが固まったわけではないのでとりあえずクラスメイトたちには普通に下校してもらい、俺と立花さんの実行委員二人で今日出た内容の精査をすることになった。
「……あー、うん。分かった」
が、どうにもテンションが上がらない。話し合いでの立花さんのコミュ力の高さを見せつけられ、少し落ち込んでしまった。
……これ、自分に振り向いてくれる可能性、ないのでは? と。
あんな風に誰にでも打ち解けることができる可愛い女子なら、もっと釣り合いの取れるいい男と付き合えるだろうし。というかそもそも、実はもう彼氏がいたりして……
「藤川くん?どうしたの、ボーっとして。ひょっとして、体調悪かったりする?」
「えっ……あー、いや、大丈夫。ちょっと眠いかもしんないけど」
「そう?無理しないでね」
変な事考えていたせいで立花さんに心配されてしまった。昔なら少しでもボーっとしようものなら、「よそ見してんじゃないわよ!」から始まる理不尽な暴言の雨あられが紫蘭から飛んできていたものだ。ひどいときはペンを投げられたりもしたっけか。こうしてあいつ以外の女子と会話していると、いかにあれが恐ろしく、そしておかしいものだという事につくづく気づかされる。
「藤川くん、今日出た意見って、この黒板に書いてあるだけで全部?」
「ああ。全部書いておいたはずだよ」
「おー、さすが。結構色んな話してたのに、ちゃんと整理して書いてあるじゃん。ありがとね」
「いやまあ、その代わりほとんど話し合いに参加できなかったし……。ごめん、話し合いの方、完全に任せちゃって」
「いいのいいの!むしろこっちを任せちゃって申し訳ないのはアタシの方だし。藤川くんがしっかりまとめてくれてるのが分かったから、私も会話に集中できたんだし」
とこんな感じで結局二人での話し合いでも終始立花さんのペースだった。なんというか、情けない……もっと頑張らないと。
*
「じゃ、明日また皆に報告して、話し合いだね。それで大丈夫かな?」
「うん。大丈夫なはず」
「オッケー! よしっ、帰ろっか!」
話し合いは立花さんのおかげでかなりスムーズに進み、今日は割とすぐに解散する事なった。
「すぐ決まって良かったよね、企画」
「そうだね。まあ喫茶店って、決まってからが大変そうだけど」
「あはは、まあね。でもまあ皆やる気だし、多分大丈夫でしょ!」
特に誘ったり誘われたりもなく、自然な流れで二人で帰る。これは、ちょっとは仲良くなれた……と思っていいのかな。とかなんとか思いながら二人して校舎の廊下を歩いていると、正面から見知った人影が歩いてきた。東雲さんだ。
「おや、藤川様。お帰りですか?」
「うん、東雲さん。ちょうど文化祭の話し合いが終わったからね」
「なるほど。仰っていた通りクラスの企画に尽力なさるのですね。……そちらの方は?」
東雲さんは自分のクラスからちょうど出てきたところらしく、何やら手にいっぱい本を持っている。おそらく部室に持ち込むつもりなんだろう。相変わらず流石の読書量だ。
「ああ、紹介するよ。同じクラスの立花さん。いま一緒に文化祭のクラスの実行委員をやってるんだよ」
「あら、そういう事情でしたか。こんにちは、立花さん。私、東雲百合と申します。よろしくお願い致しますね」
「藤川くんと一緒のクラスの立花あやめです。え、えっと……東雲さんの事は、前から色んなウワサを聞いてて、あの、ちょっと憧れだったんです。お話しできてうれしいです!」
「まあまあ。それは……なんとも、こそばゆい、ですね……同じ学年なのですから、気楽にお話いたしましょう。それに、藤川様のご友人、なのですよね?共通の知人もいるのですし、お友達みたいなものではありませんか」
「そ、そうですか?ありがとうございます!」
なんか、俺そっちのけでガールズトークが始まった…… と微妙な阻害感を感じていたその時。さっき東雲さんが出てきたクラスの入り口から、もう一人の女子生徒が出てきた。東雲さん同様、両手にそれなりの量の本を持っている。お手伝いか何かかな……と思ってみてみると、その人物はまさかまさかの人だった。
「百合、この本も部室に持っていくんだっ、……げ」
紫蘭だ。なんだってこんなタイミングで会うんだよ……
実は紫蘭と東雲さんは同じクラスだ。ただ東雲さんは紫蘭の本性を知っていることもあるし、特別仲がいいとは聞いてなかったけど……、 というかそんな事考えている場合じゃない。普段の紫蘭なら俺といても周りにほかの人がいれば、普段通りの愛想のいい外面のままで攻撃的にはならなかった。けれど、俺と目を合わせた時の反応といい、昨日のあの狂乱っぷりといい、どうにも今は事情が違う。
……でもまあこれ、考えてようによっては紫蘭と絶対的に距離を置くことができるいいチャンス、か……?




