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そして、青春はいつまでも

「えへへ、じゃあ行ってくるね、紫蘭」

「はいはい、行ってらっしゃいな。……流石ににやけすぎよ、二人とも。すれ違った人がびっくりしちゃうわ」


 紫蘭と会って話をしてからおよそ3時間後。俺は約束通り紫蘭の家に泊まっているあやめを迎えに来ていた。


「うーん、そんなににやけてるかな、アタシたち」

「紫蘭が言う程じゃないと思うけどな……」


 多分紫蘭はからかうつもりで若干誇張して言ってるんだろう。実際、あやめもいつもよりニコニコしてはいるけれど、別に不自然な程じゃないし。……ひょっとしたら、俺とあやめの感覚が鈍ってるだけかもしれないけど。


「まあいいや。ねえねえっ、今日はどこ行こっか? この辺は昨日いっぱい回ったし」

「あー、それなんだけど。一応行きたいとこは考えてるんだ。あやめがいいならそこに行きたいんだけど……。どうかな?」


 デートの行先は、紫蘭から連絡が来るまでの間にあらかじめ考えておいた。普段こういうのはあやめに頼りきりだったので、偶には自分から提案してみようと思ったんだけど……、はたして喜んでくれるだろうか。


「おっ、珍しいね? どこどこ?」

「えっとね――」


 *


「あはは、なんか懐かしいね、ここ」

「……だね。せいぜい3ヶ月くらいなはずだけど。でも、確かに懐かしいな」


 二人で電車に揺られること30分。俺とあやめが来たのは、郊外にある大きなアウトレットモールだ。……3ヶ月前、俺達が初デートで来た場所だ。


「なんでまたここにしようと思ったの?」

「あやめにちゃんとクリスマスプレゼントをあげたいな、って思ってさ。ここなら良い物がいっぱいあるだろうし。……あと、こうやって懐かしさを感じたかった」

「もうっ、昨日のデートがクリスマスプレゼントって話だったじゃん。わざわざ買わなくて

 もいいのに」


 確かに、最初はそういう話だったけど。クリスマスに二人でデートする。それがお互いへのクリスマスプレゼントだという約束だった。


「まあ確かにそうだけどさ。……でもさ、デートするって別に普通のことじゃん。わざわざプレゼントにするようなものでもないと思ってさ」

「ははっ、うわー、すっごい竣介くんっぽくないこと言ってる。……なんてね。まあ確かにそれはそうだよね。実際学校があった頃は週末はほぼ毎回デートしてたし。じゃあ、アタシもなんかプレゼント探そうかな? 竣介くんはなにか欲しいのある?」

「そうだな……、正直あやめからもらえるんならなんでも嬉しいけどな……」

「えー、そう言われると逆に困っちゃうなー。……でも、アタシも竣介くんからもらえるんならなんでも嬉しいかも」


 お互いに変な所で意見が一致してしまい、顔を見合わせて苦笑し合う。最近、こういうやり取りが増えてきた気がする。……今まで以上に気が合ってきた、ってことかな? もしそうだったら嬉しいな。


「さて、いつまでも入り口近くでぼーっとしててもしょうがないし、そろそろ行こっ! 今日は人も多そうだし、早く回らないと日が暮れちゃうよっ」

「いや、まだ午前中だし……。まあでも、人は確かに凄いね。はぐれないようにしないと」


 クリスマスの直後ということもあってか、前に来た時よりも遥かに多い人達で賑わっていた。気を抜いたらあっという間にあやめのことを見失ってしまいそうな程だ。


「なら、手を繋がないとね。……ていうか、せっかくデートなんだし、最初っから繋いで欲しかったなぁ……、なーんて」

「いやその、まだ結構緊張するんだよね……」


 そう言いながら、ゆっくりとあやめと手を繋ぐ。……やっぱりまだ緊張する。顔が熱くなるのが自分でもはっきり分かるくらいだ。


「ほーんと、竣介くんってばすぐ顔が赤くなるよね。特にこうやって触れ合ってる時とか」

「いや、その……。やっぱりドキドキするっていうか……」

「あははっ、顔真っ赤だよ。まあ、そういう所も竣介くんの魅力だとは思うけどね。いつまでも初心を忘れない、って感じでさ。慣れきってテキトーな対応しちゃう人よりは百倍いいと思うよ、うん」

「いやいや、そんな奴そうそういないと思うけどな……」


 どこの世界に彼女をテキトーに扱う男がいるというのか。普通はそんなことするやついない、よね?


「……そうでもなかったりするんだよ、意外とね。ま、竣介くんはそのままでいいんだけどね、もちろん。――さあ、行こっ」


 あやめにしては珍しく、ちょっとだけ強引に話を切った。そして、繋いだ手を勢いよく引っ張って歩き出す。……ひょっとしたら、昔なにかあったのかもしれない。もちろんわざわざ聞いたりする気はないけど。俺に今できるのは、あやめと一緒に精一杯デートを楽しむことだ。


 *


「あの二人、上手くやってるでしょうね……」

「うふふ、紫蘭様は相変わらず心配症ですねぇ。藤川様もあやめ様ももう3ヶ月の仲なんですし、今さら心配するようなことでもないと思うのですけれど」

「まあ、百合の言う通りなのは私も分かってるんだけど。でも心配なものは心配なのよ。……ってか、アンタいつまでウチに入り浸ってる気? もうお昼なんだけど」


 時計の針はそろそろ12時を指そうかという辺り。そしてこの時間になってもなお、百合は私の部屋に入り浸っていた。別に邪魔って訳じゃないけど、いつまでいる気なんだろうか。


「どうせならお昼ご飯も一緒に食べようかと思いまして。独り身同士、傷を舐めあいませんか?」

「別に私には傷なんてないわよ。……でもまあ、お昼を一緒にってのはいいわよ。どこにする?」

「そうですねぇ……。あまり遠くに行ってばったり藤川様と鉢合わせたりしてもアレですし、近くの商店街で済ませましょうか」

「そうね、私もそれでいいわよ。……ほら、さっさと行きましょ。どうせ店に入ったら愚痴ったり駄弁ったりで長居するんだから」


 百合と連れ立って部屋を出る。


 ――まあ、アイツらなら上手くやってるか。


 私は頭の中の心配事をそう結論付け、これからの昼食をどこで食べるかに思考をシフトするのだった。


「……はぁ。私もそろそろ新しい出会いを見つけたいわ……」

「あら、紫蘭様らしくない発言ですわね」

「ま、いい加減あいつらのことばっかり考えてるのもどうかと思ってね」


 本当、その辺にいい出会いが転がってたりしないかしらね?


 *


「いやー、いっぱい買ったね!」

「買いすぎて腕がパンパンだよ……」


 夕方。お互いに自分の欲しいものまで色々買っていたら、気づいたらとんでもない量になってしまっていた。


「さて、じゃあそんな竣介くんにはこれを上げようっ」


 そう言って、あやめは俺に向かって小さな箱を一つ俺に差し出してきた。さっきわざわざ俺を置いて一人で買いに行っていた、俺へのクリスマスプレゼントだろう。……いったいどんなプレゼントなんだろう?


「はい、どーぞっ。似合うと思うけど、どうかな?」


 箱の中には、シックな銀色のネックレスが入っていた。……なんとなく、自分があやめの誕生日に贈ったネックレスを思い出すデザインだ。


「……似合う、のかな……。俺、アクセサリーとか付けたことないし……」

「うんっ、少なくともアタシは似合うと思うよっ。ほら、せっかくだし今着けてみようよっ」


 言うが早いか、あやめは手に取ったネックレスを手早く俺の首元に回し、あっという間に着けてしまった。自分では見えないからよく分からないけど、どうなんだろうか……。


「うん、似合ってる似合ってる。ほらっ」

「うーん、俺はなんか違和感がある気がするけど……。まあ、あやめがそう言うならいっか。ありがとう、あやめ」

「えへへ、どういたしましてっ」


 スマホで俺の写真を撮って見せてくれたけど、やっぱり俺としてはなんか変な気がする。なんというか、アクセサリーに俺が完全に負けてるというか……。まあ、あやめが似合ってると言ってくれてるならそれでいいんだけど。プレゼントしてもらったことは純粋に嬉しいし。


「じゃあ、今度は俺から。……その、どうぞ」

「ふふっ、また緊張してるし。さあ、なにかななにかなーっと」


 俺もさっきのあやめからのプレゼントとほぼ同じサイズの箱を差し出す。あやめが一人で買い物をしてる時にこっそり選んだけど、大丈夫かな……。前は紫蘭が一緒に選んでくれたからこそ良いものをプレゼントできた訳だし。


「……指輪?」

「うん。……似合いそうかな、って思ってさ」


 前にプレゼントしたネックレスと同じく、小さなシルバーのハートがあしらわれた、可愛らしいデザインの指輪だ。


「あ、ありがとっ。……どうかな、似合う?」


 さっきまでの俺のことを言えないくらいに顔を真っ赤にしながら、左手の中指に着けたそれを恥ずかしそうに見せてきた。


「うん、似合うよ。ごめんね、指のサイズとか適当に選んじゃって」

「いやいや、割とピッタリだしそれは全然大丈夫だよっ。……まあ、ちょっとびっくりしたけど」

「……びっくり?」

「うん。だってその……、指輪っていったらやっぱりアレを思い浮かべちゃうからさ」


 ……アレ? 指輪から思い浮かべるようなもので、びっくりするようなものなんかあったっけ?


「アレ……って?」

「え、えっとその……、け、結婚指輪」

「……あー、それは、その……。ごめん、そこまで考えが回らなかった」


 ……流石に結婚は気が早すぎる。もちろんいずれそうなるのが一番いいんだろうけど。


「まあ、そんなことだろうとは思ったけどね、ふふっ。ともかくありがとっ、竣介くん。これもネックレスと一緒に、大事に使わせてもらうね」

「う、うん。……どういたしまして」


 ちょっとだけ微妙な空気になってしまったけど、それもほんの一瞬のこと。すぐにいつも通りの笑顔を浮かべてくれた。


「えへへ、じゃあ帰ろっか! もうすぐ日も落ちちゃうしね」

「だね。今日も送っていくよ」


 あやめの家は俺や紫蘭の家からはかなり遠くにある。このアウトレットモールからでも1時間近くはかかるだろう。そういう事情もあって、デートの後はあやめを家の前まで送っていくというのがいつの間にか俺達の当たり前になっていた。


「次のデートは初詣かな?」

「そうなるかな。 どこに行こっか?」

「アタシの家の近くに、毎年行ってるとこがあるんだ。そこにしない?」

「いいね。毎回俺の家の近くってのもあれだしね」


 そう、もう次の年はすぐ近くまで迫ってきている。まだあんまり実感はないけど、来年はもう受験生なんだよな……。


「ふふっ、来年になってもよろしくねっ」

「こちらこそ。これからもよろしく」


 そう言った後、お互いに吸い寄せられるように顔を近づけ合う。そして、一瞬だけ唇を合わせる。……正直言って、ほとんど無意識の内の行動だった。


「えへへ、じゃあ駅の方に行こっか。早く早くっ」

「お、おうっ。相変わらず早いな、あやめ……」

「ほらほら、元気ないぞー? 男の子なんだからもっと頑張って、ほらっ」


 笑顔のあやめに手を引かれながら歩き出す。付き合い始めた頃と変わらないやり取りだけど、あの頃よりは仲良くなれたと思う。まだあれから3ヶ月だけど、きっと来年も、再来年も、その後もずっとこうしていられると思えるくらいには。


「本当、これからもよろしくね」

「うんっ。これからも末永く、ねっ」


 ――いつか、本当の結婚指輪を渡せる日が来ますように。


 そんな先の長い妄想をしつつ、あやめと何気ない会話に華を咲かせるのだった。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。


本編の完結から約半年。このアフター編はお楽しみいただけたでしょうか。

あの頃は、”もう書けるものは全部書き切った”と思っていましたが、気づいたら色々と書きたいもの溜まっていました。あの頃よりも多くの文章を書いてきたので、少しは力量が上がっていればいいのですが。


なにはともあれ、楽しんでいただけたら幸いです。ここまで本当にありがとうございました!

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[一言] お疲れ様でした(*^^*) リア充爆ぜろ!って感想です(笑) 実際に起きたら、 自分もこうなるのかな〜(笑)
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