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聖夜が明けて①

 12月26日。つまりはクリスマスの翌日の、その早朝。


「……ん?」


 スマホが鳴っている。もちろん、こんな時間にアラームを設定した覚えはない。となると考えられるのは――


「……はい、もしもし?」

「おはよう。悪いわね、こんな早くに」

「やっぱり紫蘭か……」


 こんな時間にわざわざ電話をかけてくるような知人は紫蘭しかいない。でも、最近はこういうことも減っていたと思うけれど、どうしたんだろう。


「やっぱり、ってどういうことよ。……まあいいわ。ちょっと話したいことがあるの。いつもの公園に来てくれる?」

「いきなりだな、まったく……。ていうか、あやめと東雲さんはどうしたんだよ? 泊ってるんじゃなかったっけ?」


 紫蘭、あやめ、東雲さんの女子三人組はあの後紫蘭の家でお泊り会を開催していたはずだ。まだ早朝だし、二人も紫蘭の家にいるはずだけど……。


「二人ともまだ寝てるわよ。二人が起きだすまでに話し終わりたいの。だから急いで来なさいよね。10分以内に来なかったら絞めるから」

「……分かったよ。先に行って待っててくれ。準備したらすぐ行く」


 わざわざこんな時間に呼び出してるのだ、いくら紫蘭だとしても相当の理由があるに違いない。それに、なんだかんだ10年来の幼馴染なのだ、今のやりとり中の紫蘭の声が本気のトーンだったことくらいは分かる。……つまり、それなりに真面目な話なんだろう。それなら、俺に断るなんて選択肢はない。


 *


「……おはよう。あら、おおむね時間通りね」

「おはよ。――まあ、誰かさんの無茶な呼び出しで鍛えられましたから」


 紫蘭の軽口に皮肉で返す。昔、まだ紫蘭が素直になれてなかった頃には到底できなかったやり取りだ。こういう些細な変化は、俺としては結構嬉しかったりする。……なんというか、やっと本当の幼馴染になれた、と強く実感できるから。まあ、これを紫蘭に直接言おうものなら、顔を真っ赤にしながら”バッカじゃないのっ!?”とか言われるだろうけど。


「で、話って? わざわざこんな時間に呼び出したわけだし、結構大切な話だとは思うけど」

「そうね、少なくともアンタにとっては大事な話のはずよ」

「……あやめとのこと、か?」


 なんとなく直観で言ってみる。特に根拠がある訳じゃないけれど、なんとなくそんな気がしたから。


「正解よ。アンタにしては珍しく冴えてるじゃない」

「俺にしては、は余計だ。……で、どんな話なんだ?」

「今から話すわよ、あんまり焦らないの。……ふふっ、それにアンタが思ってるような悪い話じゃないから安心なさい」


 内心を見透かしたかのような紫蘭の一言。わざわざこんな時間に呼び出したんだから、何かあやめ自身、あるいはその身の回りでなにか悪いことがあったんゃないか……、とか思ってしまっていたけれど、どうやらそういう訳じゃないみたいだ。


「昨日、ちょっとあやめからアンタたちの話を聞いたのよ」

「……その、あやめはなんて言ってたんだ?」


 女子だけで恋バナをするなんてごく当たり前のことだろうから、そこは今更驚くことではない。問題はあやめがそこでどんな話をしたか、だ。どうやらそこで話した内容が理由でここに俺を呼び出したみたいだし。


「まあ、色々よ。いまだに手を繋いだらアンタが顔真っ赤にすることとか、昨日アンタの親に挨拶したときに噛みまくったこととか、アンタらがやっっとキスしたこととか……」

「ス、ストップストップっ。おい、今のってどう考えてもただの……」

「まあ、ただの惚気よね。大丈夫、本題はこの後だから」


 紫蘭のやつ、今の部分は言わなくていいのにわざと言いやがったな……。なにせ、びっくりするくらいニヤニヤしてたし。


「でも、こんだけ惚気てても、あやめ的には気にしてることがあるみたいなのよね」

「えっ、マジか……」


 そりゃ完璧な彼氏には程遠いのは分かってるけど、やっぱり気にしてることがあるとはっきり言われるとちょっと落ち込む。……つまり、紫蘭はそれを忠告しに来てくれたわけか。


「大丈夫、そんなに大きな問題じゃないから。ちょっと意識すればすぐに変えられることよ」

「それなら、いいけど……」

「ははっ、すごい落ち込みっぷりね。……アンタ、本当にあやめのことが好きなのね。関心したわ」


 確かに、最初にあやめのことを気にするようになった動機は”可愛いくて優しいから”という男子高校生にありきたりなものだった。


 でもいつからか、その”気になる可愛い女の子”は、”本当に大好きな恋の相手”に変わり、今では”誰よりも大事な最愛の人”となった。……本当、俺みたいな奴がよくこまで変われたものだ。


「あやめもね、やっぱり少し気にしてるみたいなの。……アンタが、あやめ以外の女子とよく一緒にいることをね」

「……あ」


 確かに、昨日のクリスマスパーティーでも話題に上がった位には俺は女子と一緒にいることが多い。しかもあやめ以外の女子、それも今目の前にいる紫蘭だったり、部活が一緒な東雲さんだったりと、学校中の男子が近づきたくても近づけないようなハイスペックな子達ばかりと、だ。あやめはそれを気にしてる様子を俺に見せたことはなかったけど、どうやら気にしてないわけはなかったみたいだ。


「ひょっとして、浮気を疑われてるとか……」

「浮気とは思ってないみたいだけど。あやめも、アンタから本当の意味で大切にされてるっていう自覚はあるみたいだしね。その……、端的に言えば、”もっと一緒にいたい”のよ、あやめは」

「もっと、一緒に……?」

「そうよ。浮気を疑うまではいかなくても、それなりに嫉妬だったりヤキモチ焼いたりだったりはあるってことよ。だから、私や百合と一緒にいる時間を減らして、あやめとの時間を増やしてあげなさいな。まあ、部活の時間を減らすのは問題あるだろうけど」


 今の紫蘭の言葉を聞いて思う。……俺は、少しあやめに甘えすぎていたのかもしれない、と。あやめがどんな時も怒ったり嫉妬だったりを露わにしたりしないからと言って、あやめがどう思うかを気にしてなかったのかもしれない。


「……はぁ。なんだかんだ言いながら、結局はあやめのことを一番に考えられてなかったのかな、俺」

「そこまでは私は思わないけど。アンタからの話題、いつでもどこでもあやめとのことばかりじゃない。それこそこっちがうんざりするくらいに。それに言ったでしょ、あやめは別にアンタからの扱いに不満は覚えてない、って。ただ、”会えない時間は寂しい”とは言ってたから、ちょっと忠告しに来てあげただけよ」


 ”会えない時間は寂しい”か。……正直、それは俺も同じ気持ちだった。紫蘭や東雲さんと一緒にいる時間ももちろん楽しいけど、それはやっぱりあやめと二人でいる時間とは種類の違う楽しさだ。だから、俺だってもっとあやめと一緒にいたい。それこそ、時間が許す限り。


「どうやらちゃんと分かったみたいね。ま、今度から気を付けなさい。……例えば、今連絡したら迷惑になるんじゃないかとか思って連絡できない、とかはナシにすることね。あいつがアンタからの連絡を迷惑と思う訳ないんだから」

「どうして俺の心理をそこまで適格に見抜けるんだ……」


 びっくりするくらいにいつもの俺そのまんまの心理状態だった。


「ふっ、伊達にアンタに惚れてた訳じゃないのよ。アンタの考えそうなことくらいお見通しよ」

「……御見それしました」


 ……ったく。さらっと”アンタに惚れてた”なんて言いやがって。そんな爽やかな笑顔で言われたら、突っ込みたくても突っ込めないじゃないか。


「――じゃ、私からの話はこれで終わり。悪かったわね、こんな朝早くに」

「いいよ。聞けて良かったし。ありがとな、紫蘭」


 もしここで聞けてなかったら、きっといつまでもあやめに寂しい思いをさせてしまってただろうし。それだけでこの早朝に呼び出したことなんて帳消しにできるくらいだ。


「そういえば、今日はなにも予定はないの?」

「ああ、あやめとは昨日デートしたし。今日は会う予定はないかな、今のところ」

「……今私が思ってること、分かるわよね?」

「そりゃあ、もちろん」


 もし分かってなかったらそれこそ絞められても文句を言えない。それくらいに分かりやすくて簡単なことだ。


「そ。じゃあ帰ったらあやめに言っとくわ。解散したら竣介の家に行きなさい、ってね」

「いや、それはいいよ。……俺が紫蘭の家の前まで迎えに行くから」

「あら、そう? ふふっ、少しは彼氏っぽくなってきたじゃない、竣介も」

「それならよかったよ」


 まあ、実際はまだまだだと思うけど。でもいつか、周囲の誰からもあやめの隣に相応しいと思われるようになれるように、今はちょっとずつでもいいから頑張ろう。


「じゃ、また後でね。あやめが起きたら連絡してあげるわ」

「おう。それまでに準備しとくよ。じゃあ、また後で」


 ――さて、今日はあやめとどこへ行こうかな。

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