聖夜の女子会①
「ふぅ、お風呂上がったわよ。さ、次はどっちが入る?」
クリスマスパーティーの後、私とあやめ、百合の女子三人でそのまま私の家でお泊り会をしていた。正直、私は別にやってもやらなくてもどっちでもよかったんだけど……、あやめも百合もやりたいと言ってうるさかったのでこの機会にやることになったのだ。ちょっと騒がしいとは思うけれど……まあ楽しいのは確かだ。
「じゃあ、アタシが先にお風呂貰おうかな。百合、いいかな?」
「ええ、構いませんよ。ゆっくりしてきてください」
「いや、親も入るからあんまり長湯されても困るんだけど……。まあ、ちょっとくらいならいいけど」
はーい、と分かったんだか分かってないんだかよく分からない返事をしながら風呂場へと向かうあやめ。ま、あいつもそんな非常識な奴じゃないし、心配しなくても大丈夫だろう。
「ふふっ、お風呂上りの紫蘭様はそういう格好をなさるのですねぇ……。なるほど……」
風呂上りの私をまじまじと眺めながらそんなことを言う百合。普通のパジャマのつもりだけど、そんなに意外なんだろうか……?
「ちょっと、その目つき変態っぽいわよ。……いや、変態か」
「それは流石にひどくありませんか……? 普通の、乙女同士の何気ないやり取りではないですか」
「自分のことを“乙女”だなんていうやつは総じて変態よ。ったく、竣介の前ではあんなにおしとやかにできるのに、なんで私の前だと途端にそうなるのよ」
「それほどに、紫蘭様とは気の置けない仲だということじゃないですか」
「……ったく。本当にアンタと二人きりだと調子狂うわね」
百合の秘密――竣介に対する恋心から、周りの女子を追いやる為に脅迫じみたことをしていたこと――を知っていることが理由なのか、その秘密を知ってからの百合は私に対して極端に気を許すようになった。最近の百合はもう昔みたいな危険行動もしてないし、私も友人の一人だとは思ってるけど、それにしたってちょっと距離間が近すぎる気はする。……別に、嫌って訳じゃないけど。
「今日は楽しかったですねぇ。久々に藤川様にも会えましたし」
「そうね。ああいうのは久々だったけど、偶になら悪くないわね」
いつもいつもだと流石に騒がしくて遠慮したいけど。まあ、偶にならありだろう。
「私は別に毎日でも構いませんよ? 藤川様もいらっしゃるなら、ですが」
「アンタ、やっぱりまだ……」
薄々思ってはいたけれど、今の一言で確信する。……やはり、百合はまだ竣介とのことを諦めてない、と。
それこそ文化祭の直後、まだ竣介とあやめが付き合い始めたばかりの頃は、百合もよく竣介相手に誘惑……のようなナニかを仕掛けたり、竣介と二人きりになれるように色々と仕組んだりと、竣介をあやめから奪い取る気満々だった。ただ、二ヶ月も経たない内に、そういうことはほとんどしなくなり、以前までの部活仲間の関係に戻っていたので、てっきり諦めたものだと思っていた。……でも、どうやらそんなことはなかったようだ。
「前にも言ったではないですか。藤川様は今まで出会った中でも最も素晴らしい殿方だ、と。今もその想いは変わっていませんし、むしろ一層強まっているくらいですわ」
キラキラと、まるで小さな子供が夢を語るような笑顔でそんなことを言う百合。……やっぱり、こいつも本気の本気でアイツのことが好きなんだ。そうじゃなきゃ、あんな綺麗な表情には絶対になれないだろうから。
「にしては、最近はアイツに対するアプローチもなりを潜めてるみたいだけど?」
「まあ、それはその……。私、気づいてしまったのです。今の状態で藤川様に言い寄っても、決して藤川様は幸せにはならない、と。藤川様もあやめ様もお互いに心の底から愛し合っておられますから。下手に言い寄っても、皆が傷ついてしまうだけだと、そう思ったのです」
「……まあ、否定はしないわ」
確かに、竣介とあやめの幸せを考えたら、百合からのアプローチは邪魔にしかならないだろう。それは、否定できない。でも……
「アンタは、それでいいの?」
「……どうでしょうね。私自身も、まだよく分かりません。……ただ、今のこの状態も、これはこれで幸せなんです。藤川様とは友人として一緒にいられますし、あやめ様も私のことを友人だと仰ってくれます。そして紫蘭様は、私の秘密を知ってもなお、こうして愚痴に付き合ってくれます。だから今でも、十分すぎるくらいに、幸せなんです」
そうゆっくり、ゆっくりと言葉を紡ぐ百合は、確かに幸せそうな顔をしていた。
「ったく。本当にめんどくさい性格してるわね、アンタ。……ま、気持ちは分かるけど。私だって竣介のこと、まだ……好きだし」
「……やはり、そうでしたか」
「そりゃあ、ね。簡単に忘れられるような気持ちじゃないつもりよ」
でも、私は百合とは違って、もう竣介と付き合いたいとかの気持ちはない。なにせ、一回キチンと告白して、そして振られたから。だからもう、未練はないのだ。後はもう、さっさと忘れるか、新しい恋でも見つければいい。……もちろん、そう簡単に行くとは思ってないけど。
「……ふふっ、この話はここまでにしておきましょうか。そろそろあやめ様も戻られるでしょうし。――大丈夫ですよ。さっきも言いましたが、今も十分楽しいですから。いつか向き合う時がくるかもしれませんが、その時まではこのままでいいんです」
「まあ、他ならぬあんた自身がそう言うんならいいけど。……でもホント気になるわねぇ。アンタがそこまで竣介に惚れた理由」
「前にも言ったじゃないですか。――ヒ・ミ・ツです♡、と」
にっこりと、本当に心の底から楽しいと言った表情をする百合。……本当、なにがあったらここまでどっぷり好きになるのやら。




