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メリー・クリスマス! ①

 12月24日、クリスマスイブ――


「おーい、竣介くーんっ!」


 早朝の駅前で、コートを着た一人の女の子が、俺を見つけてぴょんぴょん跳ねながら手を振っている。彼女の名前は立花あやめ。見ての通りのいつも元気で活発な性格で、仲良くなった頃より少し伸ばしたポニーテールの髪型が良く似合う美少女だ。


「おはよっ。えへへ、びっくりした?」

「おはよう。……早いね」

「だって、久しぶりに竣介くんに会えるって思ったら居ても立っても居られなかったんだもん。つい早く来ちゃった」


 近寄るとすぐに満面の笑みを浮かべながら、ごく自然な動きで手を絡めてきた。そして俺の顔を見上げながら笑いかけてくる。……可愛い。冬休みにはいってから約一週間。あやめの家が遠くにあることもあって、電話やメッセージのやり取りしかしてなかったことも相まってか、いつも以上に可愛く見える。おかげで心臓は早くもバクバクだ。


「さっ、早く行こっ」

「おう。……その、一応言っておくけど、母さんとかいるからな」

「大丈夫大丈夫! 挨拶しときたかったしね。“竣介くんとお付き合いさせてもらってます”って」

「それ聞いたら母さん、なんて反応するかな……」


 なんだかんだ付き合い始めて3か月以上経つけれど、まだ親には彼女ができたことは話してない。本当はこの家でのデートが決まった段階で言うつもりだったけど……、なんとなく言い出しづらくて、気づいたら当日になってしまっていた。なのでまだ母さんは友達が遊びに来るとしか思っていない。まあ、前にも友達といって同じ部活の東雲さんが家に来たこともあったし、女子の友達が来ること自体に疑いは持たないとは思うが。でも、当のあやめが付き合ってることを報告する気満々なので、これはもう腹をくくるしかないだろう。


「そういえば、紫蘭は元気してる?」

「うるさいくらいに元気だよ。昨日もパーティの準備だって言われて買い物に付き合わされたし」

「ははっ、紫蘭らしいね」

「ちょっとは自重して欲しいんだけどな……」


 もちろん昔とは比べものにならないくらい優しくはなってるんだけど。


「それだけ信頼されてるってことだよ。ていうか、竣介くんだって紫蘭のことは信頼してるでしょ?」

「……まあ、それなりにな」

「あらら、照れちゃった」


 いや、別に照れてはないけれど。まあ、あやめに告白しようとしたときなんかは色々助けてもらったりもしたので、なんだかんだ信頼はしてるのは確かだ。


「本当、仲直りできて良かったね」

「まあ、そうだな。――ありがとな、あやめ」

「いやいや。別にアタシは大したことしてないって」


 この話題になると毎回あやめは謙遜してこう言うけど、でもやっぱりあやめがいなければ俺と紫蘭は仲直りなんてできてなかったはずだ。なにせあの頃は俺の方から絶縁宣言までしていたし、そのせいで紫蘭も俺から距離を置こうとしていた。あのままじゃ、間違いなく俺と紫蘭は絶縁してすぐに口も利かない関係になっていただろう。


「――さ、着いたぞ」

「う、うん。……うわぁ、ちょっと緊張してきたなぁ」


 いろいろ喋りながら歩いていたらあっという間に自宅まで帰りついてしまった。あやめも今更ながら緊張し始めてるけれど、俺だってずっと緊張してるよ。なにせあやめを家に上げるのはこれが初めてなのだから。紫蘭はしょっちゅう来てるし、女性に見られても大丈夫なようにはしてるけれど……、でもやっぱり心配なのは心配だ。……親もいるし。


 *


「……」

「あやめ? ……大丈夫か……?」


 俺の部屋に着くなり、床に座ってピクリとも動かなくなってしまったあやめ。


 ――理由は明白。先程の親への挨拶だ。


「ああ、絶対変な子だと思われたよ……。失敗したぁ……」

「いや、ウチの母さんは多分あれくらいじゃそんな風には思わないと思うけど……」


 一体どんな挨拶だったかと言うと、内容自体は普通の挨拶だった。


『いつもお世話になっています。竣介くんとお付き合いさせていただいている、立花あやめです。これからもどうぞよろしくお願いします』


 というあやめらしい礼儀正しい挨拶だった、んだけど……。問題は、噛みっ噛みだったのだ。それはもう、聞き取れなくて何回か同じセリフを繰り返したくらいには。最終的には俺が間に入って説明したのもあってちゃんと伝わったけれど、あやめには深刻なダメージが入ってしまったようだ。


「そうかなぁ……?」

「うん、大丈夫。なんならあとでフォローしとくし。――ちょっと早いけど、ケーキ食べる?」


 ラストでちょっと強引に話題を逸らしてみる。そんなに簡単に釣られるかちょっと心配だけど……。


「うん。食べるっ。どんなケーキ?」


 ……やはり、甘いものは正義だ。


 *


「うーん、美味しかったー。ごちそうさまっ!」

「そんだけ喜んでくれると、買っておいた甲斐があったよ。……えっと、その……。どうしよっか」

「……普通にゆったりしてればいいんじゃない、かな? お昼になったらお出かけするしね」


 今日のスケジュールは、昼からは町に出てお昼ご飯を食べて、それからはいつも通り買い物デート。そして夕方からは紫蘭の家でのクリスマスパーティーにお呼ばれしている。……いやまあ、クリスマスパーティーの方は俺も準備をがっつり手伝ってるんだけど。


 だから、あと二時間くらいは部屋でゆっくりしてられるんだけど……。いったい何をすればいいんだ……? いやまあ、そろそろ付き合って3か月も経つんだし、やることやってしまっても……いやそれは流石に無理だ! なにせキスすらまだなのだ。一応、それっぽい雰囲気になったことは何回かあったけど、その度に俺がなさけなくヘタレてしまい、キスには至っていない。それについてあやめがどう思ってるかは分からないけど……、そろそろバシッと決めないとダメだよなぁ……。


「……どしたの、竣介くん?」

「い、いや、なんでもないよ、うん」

「ふふ、変なの。やっぱり緊張してる?」

「まあ、多少はね……」


 まさか“キスしたい“なんて下世話な願望を言う訳にもいかず適当にお茶を濁す。


「その、さ。……したいことあるなら、遠慮しないで言っていいよ?」

「え? えっと、どうして……?」


 ひょっとして、バレてる……?


「あはは、紫蘭から聞いたの。“竣介のヤツがどうやったらアンタを傷つけずにキスできるか頭を悩ませてる”、って。あと、見てて馬鹿らしいから、適当に助け船出してやって、とも言われたよ」

「紫蘭め……」


 また紫蘭の仕業だったのか……。軽率に愚痴ったりしなきゃよかった。


「まあ、今回に関しては紫蘭も悪気はなかったと思うよ」

「それは分かってるけどな……。はぁ……」


 ため息を漏らさずにはいられない。キスしたいなんて願望が筒抜けになってしまってたなんて、いくらなんでも恥ずかしすぎる……。


「ふふっ。――えいっ」


 そんな掛け声とともに、正面に座っていたあやめが身を乗り出してきた。なんだろうと思っていると――


 一瞬だけ頬に、柔らかな感触が触れた。


「……えっと」

「まあ、その……アタシも恥ずかしいから、ほっぺたで、ね。……ていうかさ、別に遠慮しなくていいんだからね。アタシだって、その……キスとか、したいし」

「えっ……?!」

「いやさ、付き合ってるんだから、アタシだってそういうことしたいって思うよ? そりゃアタシも、恥ずかしいとか、言ってドン引きされたりしないかな、とか思ってなかなか言い出せなかったけど。だから、その……別に遠慮しなくて、いいの。……アタシだって、おんなじ気持ちなんだから」


 ……そっか。あやめも、同じ気持ちだったのか。ずっと俺だけが考えてると思ってたけど、そんなことはなかったみたいだ。


「その……ごめん」

「いやいや、別に謝らなくていいけど。アタシも、気持ちはよく分かるからさ」


 あはは、と笑い合う俺ら。……今なら、いけるかもしれない。というか、今言わないと流石に男が廃るってものだろう。


「えっと、あ、あやめ。……もし、良かったら、その……キス、し、したい、です」

「ははっ、なんで敬語なのさ。……でも、うん。……いいよ。……うわあ、これすっごい恥ずかしいね……」


 苦笑しながらも、ゆっくりとお互いの顔が近づいていく。そして――


 ほんの一瞬だけ、互いの唇が触れ合った。……本当ならもう少し長い間触れ合わせておくつもりだったけど、あまりの恥ずかしさに3秒と保たなかった。


「……あはは、顔真っ赤だよ、竣介くん」

「あやめだって、真っ赤だし……」

「あはは……。まあ、お互いさまってことだね」


 以降約30分くらい、お互いに顔を真っ赤にしたまま、ろくな会話をすることもなくただただ見つめ合っていた。何をする訳でもない、端から見れば不毛な時間にしかみえないだろうけど……でも、とても幸せな時間だった。


皆さん、お久しぶりです。感想返信を見て頂ければ分かると思いますが、実はちょっと前からアフターストーリーを書きたいと思って色々考えていました。そして時間にも少し余裕ができたので、今回から何回かに分けて投稿していきたいと思います。お楽しみいただければ幸いです。

それではこれからまたしばらくの間、どうぞよろしくお願いします!

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