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そして、青春は続く

「おはよっ! ……にしても早いねー、おたがいに」

「あはは……だね。まあ、遅れるよりはいいってことで」


 今日は文化祭後初めての土曜日。今日は立花さんとの初デートだ。時刻は八時半。集合時間よりやや早いけど、まあこんなもんか。正直もっと早く来るつもりだったくらいだし。


「あれ、立花さんそれ……」

「あ、気づいた? えへへっ、どう? 似合う?」

「うん。正直想像以上だよ」

「よかった。アタシもこれ気に入っちゃった。綺麗だし、可愛いし、それになにより彼氏からの誕生日プレゼントだしねっ!」


 立花さんの胸元には小さなシルバーのハートが輝いている。俺が誕生日プレゼントに買ったネックレスだ。……よかった、気に入ってくれて。


「なんで泣きそうなの?」

「いや、気に入ってくれたのが嬉しくって」

「あははっ! もう、大げさだなぁ」


 そう言いながらごく自然に俺の腕に自分の腕を絡めてくる立花さん。……しかし自然なのは動作だけで、顔は真っ赤だ。まあ、多分それは俺もだろう。


「えっと……だ、大胆だね……」

「せっかくの初デートだし……ね? 恥ずかしいけど、なんか……いいね、これ」

「だね。……滅茶苦茶恥ずかしいけど」


 まあ、だからって解くつもりはまったくないけどな!


 *


「まあっ……あんなに近づいて、腕まで絡め合って……。は、破廉恥ですっ……」

「いや、こんなとこでがっつり覗き見してるアンタの方が百倍破廉恥だから」


 ペシッと頭を軽くはたきながら百合にそうツッコミを入れる。ここは駅前の広場……からちょうど建物で影になっている脇道。そこでまるで刑事の張り込みの如くコソコソしながら竣介とあやめの様子を見る百合と私。……まったく、なにやってんでしょうね私たち。


「覗き見なんて人聞きの悪い。……たまたま駅に来たら、たまたま藤川様と立花様の逢瀬を目撃してしまっただけです。今ここにいるのだって、もし鉢合わせてはお互い気まずいでしょうから遠くから状況を見ているだけのことですし。ほら、なにも破廉恥な要素はありませんでしょう?」


 実際その通りで、ここに来たのは別にあの二人とは一切関係なく、百合と二人で買い物に行くためだ。だから百合の発言は間違ってはない、間違ってないけど、なにも別にここで状況を見てる理由はないんじゃない?


「だいたい、鉢合わせたくないなら反対側の入り口に行けばいいだけじゃ……」

「それもそうですが、やはりもう少し見ていたいので」

「こいつ、野次馬根性を隠そうともしないわね……」


 ホント色々とたくましい性格になったわねこいつ。まあ、以前よりは確実にマシな性格だしいいんだけど、まるで別人だ。


「そういえばこの前、竣介にアンタの事聞かれたんだけど。“なんか最近やけにテンション高いけどなんかあった?”って」

「して、なんと回答されたのです?」

「知らない方がいいこともあるわよ、って言っといたわ」


 流石に“アンタに猛アプローチしかけてるのよ”とは言えない。……というか、あれで好意に気付かない竣介はちょっと鈍感すぎる。聞かれた時真面目に心配になってしまった。


「ほらっ、行くわよっ! このままじゃ店の開店に間に合わなくなるでしょ」

「ああっ! ちょっと、置いていかないで下さい紫蘭さま~!」


 百合を置いて反対側の入り口に向けて歩き始める。そのあとを百合が情けない声を上げながらついてくる。まったく、こっちもこっちで騒がしい一日になりそうだ。


 *


「……ん?」

「どうかした?」

「いや、なんか今聞き覚えのある声が聞こえた気がして……。気のせいかな?」


 周りを見渡しても見知った顔はない。ただの思い過ごしかな。


「さっ、そろそろ行こっ! 早くしないとお店の開店に間に合わないよ」

「うん。行こうか、立花さん」


 俺が名前を呼んだ瞬間、なぜか立花さんがこちらに抗議の目線を送ってきた。……なにかまずいこと言ったかな……?


「この前から思ってたんだけどさ。せっかく付き合ってるんだし、下の名前で呼んで欲しい、かな?」

「……でも、立花さんも俺のこと名字で……」

「うん。だからアタシも、しっ、竣介くんって呼ぶから。……ダメ?」


 えっと……その上目遣いはちょっと卑怯です……。そうやって見つめられてノーを返せる男子は多分この世にいない。そのくらいの衝撃があった。多分一生忘れらない。


「わ、わかった。じゃあ、あやめ……でいいのかな?」


 想像以上に恥ずかしい。おかしいな、紫蘭のことを下の名前で呼ぶのはなんの抵抗もなかったのに。


「そうそう。これからはそう呼んでね? じゃあ今度こそ行こっ、竣介くん!」

「えっと……分かった、分かったから引っ張んないで、腕がちぎれる……」

「こらこら、根性ないぞー?」

「根性の問題じゃないと思うんですがあやめさん……」


 ズルズルと引っ張られるのも正直言えば中々いいものだったけど、流石に悪いのでさっさと足を早めてあやめに並ぶ。横から見えるあやめの表情は、いつも以上に輝いて見える笑顔。うん、やっぱり後ろからついていくよりも、並んで歩く方がいいな。



「あれ? 紫蘭? それに百合まで、あははっ、偶然だねー」


 改札の手前に見知った顔が二つ。紫蘭と東雲さんだ。


「あら、偶然ですね、お二人とも。おはようございます」

「えっと、おはよう。東雲さん。紫蘭も」

「おはよっ! 二人もどっかに遊びに行くの?」

「ええ、最近できたアウトレットモールへ行こうかと」

「うそっ、アタシたちもだよ。……じゃあ、一緒に行っちゃう?」

「ええ、それも良いですね。ふふっ」

「ふふっ。……じゃないわよ少しは自重しろっ!」


 いつも通りの姦しいやりとり。……ちょっと前までは、この四人でこんなに仲良く会話できるなんて思ってなかった。


「……ははっ」

「ったく、なに笑ってんのよ」

「いやだって、楽しいし」

「ま、それはそうね。……ありがと、竣介」

「……へ?」


 なんでいま紫蘭に感謝されたんだ?


「だって、いま楽しいのは間違いなくあんたのおかげだもの。違う?」

「……そう、かなぁ?」


 そんなつもりはないけど。でもまあ確かに、紫蘭に絶縁宣言したことが全ての始まりだった気はする。まさかこんな結末になるなんて想像してなかったけど。


「そうよ。……ほら、楽しんできなさい二人とも。お土産忘れないでね」

「りょーかい。じゃ、行ってくる」

「行ってくるねー!」


 楽しい日々は、まだ始まったばかり。


 ――どうかこれが、ずっと続きますように。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

皆さんが読んでくださったからこそこうして最後まで書くことができたと思っています。

楽しんでいただけたなら幸いです。これからも作品は投稿していきますので、もし見かけたらその際はよろしくお願いいたします。


最後にもう一度。本当にここまでありがとうございました!

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