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22/30

祭りの後の夜に

「つ、……疲れ、た……」

「あはは……お疲れさま。すごかったね、ほんと」


 二日間に渡る文化祭も無事終了し、時刻は既に21時を回っている。俺と立花さんはクラスの打ち上げに参加し、ついさっきまで散々質問攻め……というかいじられていた。


「まさかもう男子にまで話が回ってたなんて……」


 そう、昼間の時点では立花さんと一緒に接客をしていた女子しか知らなかったはずの俺と立花さんが付き合っている事実を、打ち上げが始まるころにはクラスの全員が知っていたのだ。……理由はとても簡単で、俺と立花さんが来る前に女子が既に集まっていたクラスメイトたちに言いふらしていたからだ。


「はぁ……実行委員の仕事で仕方なかったとはいえ、二人して集合時間に遅れたりしなければあんなことにはならなかったのに……」

「まあ、過ぎたこと言ってもしょうがないよ。……疲れたけど、みんな祝福してくれてるのは本当だろうし」

「まあ、そりゃ分かってるんだけどさ」


 みんな色々好き勝手言ってたけど、祝福してくれてるのは間違いなかった、と思う。……まあ、一部の男子の目つきに若干の恐怖を覚えはしたが……まあかなりの人気を誇る立花さんが相手なのだ、多少は仕方ないと思っておこう。俺だってもしほかの男子が立花さんと付き合い始めた、となればそのお相手の男子に鋭い目線を送っていたのは間違いないし。


「にしてもさ、何も家まで送ってくれなくてもよかったのに」

「いや、もうかなり遅い時間だし。やっぱり心配だからさ」

「でもこれじゃ、藤川くんが家に帰りつくころには日付変わっちゃうかもよ?」

「ま、俺は大丈夫だよ。……なんか言われるとは思うけど、テキトーに言っとけば何とかなる、と思う。最悪友達のトコに泊まるって言って駅前のネカフェで一泊するし」


 流石にこの時間に立花さんを一人で帰すのも気が引けて、家の前まで送っていくことにした。今は立花さんと二人で電車に乗っているところだ。立花さん曰く最寄り駅まではまだ30分程はかかるらしい。時間の割にあまり人は乗っていなかったので、四人がけのボックスシートを二人で占有してゆったり並んで座っている。……ちなみに、手はつないだままだ。視線はないはずなのに、妙に気恥ずかしい。そのうち慣れる、のかな?


「なんか不思議な感じだなぁ」

「なにが?」

「こうやって藤川くんと一緒に、二人で家に帰るってのが、かな。……うちの高校、アタシの家の近くから来てる人っていなくってさ。誰かと同じ電車に乗って帰るって初めてなんだ。それが、その……藤川くんっていう、かっ、彼氏と、ってのが、なんか、その……ね。不思議だし、嬉しいの」

「……まあ、嬉しいんなら、良かった」


 ――心なしか、お互いに握りあう掌の力が、強くなった気がした。


 *


 ほぼ同時刻、学校前のファストフード店内にて――


「……で? なんで私はあんたと一緒にこんな時間まで駄弁ってんの?」

「いいじゃないですかぁ~。もうちょっと付き合ってくださいよぉ~。し・ら・ん・さ・まぁ~?」

「まるで酔っ払いね……。気持ちはわかるけど」


 百合はいつもの清楚なお嬢様の面影はどこへやら、まるで飲み屋街を渡り歩くサラリーマンのおっさんのような態度と口調になっていた。理由はとても簡単。竣介と立花のイチャイチャっぷりを目撃してしまったからだ。


 ――昼間のあの唐突な拉致宣言の後、百合はさっそく竣介のもとに向かった。しかしそこで目の当たりにしてしまったのだ。教室から休憩のために出てきていたメイド服姿の立花が、竣介とそれはそれは仲良さそうに、手までつなぎながら会話している様子を。


「まさか、藤川様と立花様があれほど親密になられているとは……」

「昼間はあんなに息巻いてたのに。あの威勢はどこに行ったのかしら?」

「もちろん、まだあきらめたわけではありませんよ。ですがしかし、落ち込まない訳ではなくてですね……」

「あら、まだ諦めはしないのね」

「ええ。藤川様は私が今まで出会った中でも最も素晴らしい殿方ですもの。簡単に諦めたりしませんよ」


 百合の目つきが得物を狙う狩人の如く鋭く光る。……いったい竣介のどこにここまで惹かれてるのやら。


「あんた、アイツのどこに惚れたのよ。……まあ、いい奴なのは同意するけど、そこまで入れ込むって相当だと思うんだけど」

「ヒ・ミ・ツ、です♡ ……だいたい、あなただってあんなに拗らせるくらいに藤川様にどっぷりだったではないですか。人の事言えないと思いますよ?」

「わっ、私は……そうっ、幼馴染だからよ。一緒にいる時間が長いから、自然と……分かるでしょ?」

「ふつう、それだけであんなひどい醜態晒さないと思うのですけど……」


 容赦ないジト目が突き刺さる。……というか、あんまりあの黒歴史を掘り返さないで欲しい。羞恥心と自己嫌悪で死にたくなる。


「いーじゃない、別になんででもっ! それなら私だって秘密よ秘密。それでいいでしょ、別に」

「まあ、いいですけどね? しかしそんな反応をなさるという事は……ふふっ、相当恥ずかしい理由なんでしょうかねぇ……?」

「はぁ……ほんっと、アンタと一緒だと調子狂うわ、百合」

「それはこちらの台詞ですよ、恋ケ丘様」


 お互いに不敵な笑みを交わし合う。ほんといけ好かないわねこいつ。


「……まあ、私は別に嫌ではありませんけどね。恋ケ丘様と二人というのも」

「そ。……私も、嫌ではないわ」

「あら、珍しく素直ですね」

「悪かったわね」


 ……ほんっと、いけ好かないやつ。


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