告白
「ふーっ、無事に準備も終わったねー。お疲れ様、藤川くん」
「うん。お疲れ様」
木曜日。文化祭の本番を明日からに控え、俺と立花さんは二人教室に残り最終確認をしていた。まあほとんど問題ないことは分かっていたけど、俺が少々強引に誘ったのだ。目的は立花さんに誕生日プレゼントを渡すこと、そして――告白することだ。
*
話は一日程遡り、繁華街のとあるデパートにて。
「ねぇ、これとかどうかな」
なんとなく気になったものを指さし、紫蘭に聞いてみる。
「あら、なかなかいいんじゃない? 少なくてもさっきまで私に見せてきてたセンスの欠片もないものに比べたらね」
「悪かったな、センスなくて。……でも良かった、ちょっと高いけどこれにしようかな」
お値段大体5000円程。高校生の男子が女子に物をプレゼントするときの値段の相場なんて知らないが、多分それなりに高い部類に入るだろう。
「大したことないじゃないこんくらい。……まあ、ただの友人が渡すにはちょっと重いかもしれないけど」
「え、それじゃダメじゃん」
「なに言ってんの。渡しながら告白すればいいのよ」
「……え?」
……今、なんとおっしゃいました紫蘭さん?
「え、じゃないわよこのスカポンタン。絶好のチャンスでしょ?」
「まあそうかもしれないけど、でもちょっと急すぎるというか……」
「相手からしたらいつ告白されるのも急なんだから、そんなの関係ないわよ。アンタだって私に告白された時急だって思ったでしょ?」
「それはそうだけど……」
「つべこべ言わないの。アンタほっといたらいつになっても告白できなさそうだもの。そろそろ思い切った方がいいわよ」
紫蘭のいう事も間違ってないとは思う。けれどやっぱりまだ心の準備が……。
「いやでもほら、まだ立花さんの好きな男子のタイプとか聞き出せてないし」
「ああ、そう言えばそんな話もしたっけ。……でもそれ、別にどうでもいいわよ」
「はぁっ?!」
いやどうでも良くないだろ。だって、好きな男のタイプだぞ? 知らないと知ってるとじゃ全然違うと思うんだけど……
「だって、もし好きな男のタイプがアンタと全然違ってたら、アンタは諦めるの?」
「……それは、そんな訳ないけど……」
「でしょ。ならいいじゃない、聞かなくても。というか、それの答えでコロコロ性格変えるような男はモテないわよ、きっとね」
ぐうの音もでないとはこのことだろうか。少なくとも俺には反論する術がなかった。
「まあでも、決めるのはアンタよ。……どうする? 私的にはここで告白しちゃうのがアンタの精神衛生上一番いいと思うけど」
……確かに、これ以上引っ張ってても極端に状況が好転することはないだろう。緩やかに良い方向になっていく可能性は十分あるが、それを待っていたらキリがない。これは、覚悟を決める時かもしれない。
「……うん。告白するよ、立花さんに」
「そ。ま、頑張りなさい。骨は拾ってあげるわ」
「いや、なんで失敗する前提なのさ……」
「そりゃあ、その方が面白いから?」
冗談なのは分かってるけど、色々台無しだよ……
*
「さってと! 明日も早いし帰りますか!」
立花さんはさっさと帰りの支度を始めてしまっていた。ほらグズグズするな藤川竣介! ここを逃したら次にいつチャンスが巡ってくるか分からないんだぞ!
「たっ、立花さん!」
「うわっ。おっとと、ビックリした。どしたの?」
緊張のあまり声は裏返るわ声量が大きすぎて立花さんを驚かせてしまうわで最悪な滑りだしだ。でも、もう後戻りはできない。
「えっと。今日が誕生日だって聞いたから、……その、これを」
とりあえず先週末に買っておいた紅茶の茶葉のセットを渡す。
「うわっ、いいの!? 嬉しい! でも、よく知ってたね、アタシの誕生日。教えたっけ?」
「いや、その……紫蘭に聞いて」
「あー、そっか、紫蘭には電話で前話したっけ。なんにせよありがとねっ! 大事に飲ませて貰うね」
ニコッととてもいい笑顔で笑ってくれた。……この笑顔が、これから話す内容を聞いた後も続いてくれればいいけど。
「え、と。実はもう一個あって」
「え、そうなの?」
「うん」
喉がカラカラになってきた。喋るのもキツイくらいだけど、それでも必死で言葉を続ける。
「立花さんに、似合うと思って」
渡したのは綺麗にラッピングされた小さな箱。中には小さなハートがあしらわれた可愛らしいネックレスが入っている。察しの良い立花さんは渡されたソレの中身がどういうものかすぐに気づいたようで、途端にアワアワしだした。
「いっ、いやいやっ、こんな高そうなものもらえないって!」
「でも、貰って欲しいんだ。その……」
立花さんの目をしっかりと見る。決して逸らさない。立花さんは変わらず慌てているようだけど、構わず言葉を続ける。ここで止まったら、俺は一生言えない気がするから。
「好きな人にものを贈るなんて始めてだったから、いいものが贈れてるか分からないけど。でも、立花さんの事を考えたら、これがいいかな、って思ってさ」
「え……」
ポカンと口を開けて驚きを隠せない様子の立花さん。でも、ここまで言ったからには、最後まで言わないと。
「――好きです。立花さん。……もし、もしよければ……」
「うわああああ! ちょ、ちょっとタンマタンマ!」
立花さんが急に叫び声をあげた。そして、荷物も持たないままに扉の方にダッシュし始める。
「いやっ、そのっ、えっとっ、えっと……ごめんっ、また明日っ!!!」
「え、いやちょっと、立花さん?!」
叫び声すら置いていくようなものすごい勢いで扉を開け、そのままこれまたものすごい勢いでどこかに走り去って行ってしまった。教室に一人ポツンと取り残される。手にはまだ、渡すはずだったネックレスの箱を持ったまま。
「は、ははは……終わった……」
ガクッ、と膝から崩れ落ちる。初恋は実らないとはよく言ったものだ。俺は今、それを心の底から実感していた。
*
訳も分からないまま全力疾走するアタシ。ふと我に返ると、そこは学校の中庭だった。
……とりあえず、紫蘭に電話してみよう。
なんでそんな結論に至ったのかは全然分かんないけど、今のアタシにはそうする以外の選択肢が浮かばなかったからしょうがない。
「はいもしもし?」
「紫蘭!? えっと、アタシアタシっ! その、あっと……どうしようどうしよう!?」
「……詐欺なら間に合ってますけど? はぁ……なにごとかしら? ちょっと落ち着きなさい」
「落ち着けないよっ!! だって、だってその……」
「告白されたんでしょ、竣介に」
あくまで冷静な紫蘭。まさかとは思うけど……
「……なぜそれを!?」
「だって、煽ったの私だもの」
そのまさかだった!!
「な、なんでそんなことしたの?!」
「そりゃ、いつまでも片思い拗らせてるの見てても楽しくないもの。だいたいアンタもとっくに気付いてるでしょうに。私のあのメッセージにちゃんと“うん”って返したんだから」
「うぐっ、そりゃあ、そうだけど……でも急すぎるって……」
「アンタに告白してきた大抵の男子だって十分に急だったんじゃない? それに比べれば竣介はまだタイミング考えた方だと思うけど?」
「それを言われると、確かに……」
「でしょ? で、なんて返したの?」
「えっと、その……何も言わないで逃げてきちゃった」
はぁー、っと紫蘭のため息が電話口にはっきり聞こえてきた。いや、アタシもやってしまったとは思ってるんだけど、ね……
「なにやってんのアンタ。今頃きっと竣介は教室で泣いてるわよ?」
「いや、泣きはしないと思うけど……」
「ほんとにそう思う? 初恋の相手に必死の思いで告白したのになんにも返答を貰えず、それどころか逃げられて。それでもアンタは泣いたりしないの?」
紫蘭の声は明らかに怒気を孕んでいた。……すごいな、紫蘭は。振られた相手の幸せをここまで考えてあげられるなんて。アタシには、できない。
「……ごめん」
「それは竣介に言ってあげて。……言っとくけど、本当に嫌ならちゃんと断りなさいよ、竣介のこと。無理にOK出したりしたら今度こそ本気で怒るから」
「うん。ちゃんと答えを出して、藤川くんに言うよ」
紫蘭はアタシのその答えに満足したのか、いつも通りの口調に戻った。
「ま、アンタがそんな反応する時点で答えは見えてるようなものだけどね。報告を楽しみに待ってるわ」
「え、それってどゆこと?」
「アンタはいままで色んな男子に告白されて、一度でも答えを出さずに逃げたことある?」
「ない、かな」
今まではキチンとその場でお断りしていた。でも今回に限っては、なんかすっごいモヤモヤして、ドキドキして……どうすればいいか分からなくなってしまった。
「なら、そういうことでしょ? 気付いてるかは分からないけど」
「どう、なんだろ……」
「ま、せいぜい悩むことね。私から竣介を取った罰よ」
そこで紫蘭から通話を切られた。最後の一言は内容とは裏腹に、とても楽しそうな声色だった。
――戻ろう。もう一度ちゃんと藤川くんと面と向かって話をしよう。
来た道を小走りで戻り、教室を目指す。紫蘭に言われたように、目一杯に悩み、考えながら。




