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16/30

その女、黒百合につき

「はい、紫蘭。誕生日おめでとう」

「……ありがと。開けていいかしら?」


 水曜日。放課後に久々に俺の部屋に遊びに来た紫蘭にプレゼントを渡した。


「……ぬいぐるみ?」

「うん。どうかな?」


 紫蘭は俺からのサメのぬいぐるみをしばし眺めた後、おもむろにそれに抱きついた。


「……」

「なによ」

「いや、そういうことするんだなー、って思って。ちょっと意外だったから」

「別にいいじゃない。気に入ったわ、これ。ありがと。」

「良かった。あ、あとこれも」

「紅茶? あんたにしてはセンスいいじゃない」


 立花さんに贈るものを買うついでに買ったものだ。そこそこ良い値段したけど、店員さんおすすめの品だったし良いものなんだろう、多分。


「これと同じものを立花さんにも贈ろうと思ってるんだけど、どうかな」

「ふーん。悪くないとは思うけど……これだけのつもりなの?」

「そのつもりだったけど……ダメかな」

「ダメってわけじゃないけど……これじゃ立花の手元には何も残らないじゃない」

「それはそうだけど、立花さんは消耗品系の方が嬉しい、って言ってたからさ」


 紫蘭はそれを聞くとはぁっ、とため息をついてジト目で俺を見てきた。……えっと、俺なんかマズいことした?


「あのねぇ。せっかく合法的に物を贈れるチャンスなのよ。あげたいものあげないと後悔するわよ? 欲しいって言われたものを贈るのも大事だけど、好きな人に贈るんだから思い切ったものプレゼントしてみたらどう?」

「あげたいもの、か……。どういうのがいいか分かんないんだよね……」

「それを考えるのが大事なんじゃない。割と楽しいと思うわよ? 好きな人に贈るものを考えるのも」

「って言っても、もう明日だしなぁ」


 もうちょっと時間があればそうしたんだけど。そもそも何がいいんだろうか。そう思ってスマホで調べようとしていると、紫蘭に背中を思いっきり叩かれた。


「いったた……。どうしたの紫蘭?」

「何ぼさっとしてんのよ? 今から買いに行くわよ。私も付き合ってあげるから」

「え、いいの?」

「いいから言ってるんじゃない。――ホラさっさと準備する!」


 やけに燃えてる紫蘭にせっつかれ、俺と紫蘭は夕方の繁華街へと繰り出したのだった。


 *


 翌日。文芸部部室――


「あら。ごきげんよう、恋ケ丘様。珍しいですね、あなたからこちらに来られるのは」

「別にいいでしょ、百合。お邪魔するわよ」


 私はそう言って百合の向かいの椅子に座る。さて、腹の中見せてもらうわよ、百合。


「藤川様がいらっしゃるかもしれませんよ?」

「別に来たら来たでいいわよ。私が帰るだけ」

「そうですか。――で、ご用件は何です? 何の用もなしにここに来る方ではないでしょう、あなたは」


 こっちを見てくる百合の目付きが怖い。いくら私に本性がばれてるとはいえ、ちょっとは遠慮してくれてもいいんじゃない?


「ちょっと聞きたいことがあるの。――アンタ、竣介の周りの奴に変なことしてないでしょうね?」

「……ふふ、なんのことです?」


 貼り付けたような笑顔をこっちに向けてくる。その目は当然笑ってない。うわ、しらばっくれるつもりかよ、こいつ。


「罪状はあんのよ。竣介の友人に変な手紙を渡したでしょ、アンタ。あいつは私の仕業だと思ってるみたいだけど」

「なるほど。ですが仮にそうだとしてですね……」

「なによ」


 表情を一切変えずにこちらに顔を近づけてくる。いや怖いわ。美人がすごんでいると迫力ヤバいわね……


「それが恋ケ丘様の仕業でない、と藤川様が信じてくださると思いますか?」


 二時間ドラマの犯人みたいなこと言い出しやがったこの腹黒女。こいつをおしとやかな大和撫子だと思ってるこの学校の人間は騙されてる。まあ、私も印象については騙してる側だけどここまでではない、多分、きっと、メイビー。


 そもそももう竣介とは仲直りしてるし、手紙の件も私の仕業じゃないという事は説明済みだ。なのでこいつが言ってることは完全に的外れなんだけど……まあ、それを言うのはまだ早いだろう。言ったらさらに過激な手段にでられかねない。


「まあ、それもそうね。……でも、いつまでもその化けの皮被っておけるとは思わないことね」

「化けの皮だなんて人聞きの悪い。……私はただ、藤川様を手に入れる為ならば手段は厭わないだけですよ」

「おっかないわね、まったく。その本性を知ってもなお、竣介がアンタに気を許すと思う?」

「まさか。思っていないからこそ見えないように水面下で色々しているのですし」

「アンタ、それ自白みたいなもんじゃないかしら?」

「あら私ったら、つい。……まあ、既にあなたは倒しましたし、あとは……ふふ」


 こいつ、やっぱり立花にもなんかするつもり? 冗談じゃない、それだけは阻止しないと。せっかく色々うまくいきそうだってのに。


「アンタ、なにしでかすつもり?」

「ノーコメント、です♡」


 語尾にハートマークがついてしまうレベルでニコッと笑いながらそう宣った。はぁ……この恋愛感情拗らせた暴走機関車のブレーキ踏むの、私なの? 果てしなくやりたくないけどしょうがない。竣介に何とかすると言った手前成果を上げずに終わるなんてできないし。


「まあいいわ。今日の所は帰るけど、近いうちにアンタのその本性さらけ出させてやるから」

「それは怖いですねぇ、ふふっ。……まあ、あなたにできるとは思いませんけれど。自分の本性も明かせず、みじめに自爆した臆病なあなたには」

「それ、ブーメランになってる自覚ある?」

「ええ。ですが最後に残るのは私ですから。勝者ならば、なにを言っても問題ないでしょう?」

「はぁ。ま、今の内に言えることは言っときなさい。後でぎゃふんと言わせてあげるわ」


 あくまで笑顔な百合に見送られ、私は文芸部の部室を後にした。


「私はもう全部さらけ出したもの。臆病者はアンタだけよ、百合」


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