とりあえずデートにでも誘ってみれば?
「うわー大胆。堂々と机の上に置いておくなんて」
「だよねー、ねぇねぇ、中身どんなんだった、あやめ?」
翌朝、教室に入ると立花さんの席の周りに何やら女子が群がっていた。もちろんその中心には立花さんがいて、何やら手紙のような物を見ているようだった。内容を聞くつもりはなくとも、話し声の音量が大きくてつい聞こえてきてしまう。
「ダメだって、いくら何でも見せられないよ。……まあ、大体予想通りの物だろうけど」
途端に黄色い叫び声が上がる。……これは今の会話の内容から察するに、おそらく立花さんがラブレターでも貰ったのだろう。それも机の上に堂々と置いてあった、と。
――え、ラブレター?
昨日の今日でまたその単語に出くわすとは。しかし、もとから結構人気のある立花さんだ。今までにも勇気ある男子が立花さん相手に告白したとか手紙を渡したとかデートに誘ってみただとか、そういう噂は何度も聞いたことがある。まあそれらは今の所全て失敗に終わっているらしいけどさ。……それでもなおアタックを仕掛ける勇者は後を絶たない。そもそも他人事みたいなフリしてる俺だって、立花さんに思いを寄せている時点でその男子たちと完全に同類なのだ。
つまりはどうせ今回だってあの手紙の差出人にはお断りの言葉を返すんだろう。……頭ではそう分かっていても、どうにもモヤモヤしてしまう。もし、手紙の差出人がとんでもないイケメンで、性格も滅茶苦茶良くて、頭脳も天才でスポーツ万能だったら……うん、一旦考えるのは止めよう。いくら何でも不毛すぎる。それよりも俺が考えるべきことは、立花さんが今まで全ての告白を断っている、という事実についてだろう。
「はぁ……」
無意識にため息が漏れる。一応、他の男子に比べれば立花さんとそこそこいい関係を築けている方だとは思う。ただそれでも、立花さんが俺を恋愛的な目で見ているか? と言われればそれはほぼ間違いなくノーなわけで。
*
「……なあ、どうすればいいと思う?」
「し・る・か!!」
放課後、自室に帰りついた俺は紫蘭に電話で朝考えていたことについて相談に乗ってもらおうとしていた。ちなみにあの手紙の差出人には立花さんからきっちりとお断りの言葉が告げられたらしい。予想通りとはいえ、その噂を聞いた瞬間内心でほっと胸をなでおろしたのは言うまでもない。
「なんでだよ!? 相談乗ってくれるって言ってたじゃん!?」
「そんな答えがわかり切った質問に答えてやるほど暇じゃないわよっ! 少しは自分で考えなさいよねっ!」
「分かんねーから聞いてるんだよ……」
「じゃあアンタに恋愛は無理ね、諦めなさい。……はぁ、だいたい少し考えれば分かると思うけど? 要は立花と両想いになりたいんでしょ?」
辛辣なことを言いながらも結局は相談に乗ってくれた。
「まあ、そうなるかな」
「じゃあ聞くけど、そのためにはどうすればいいと思う?」
両想いになるために必要なもの…… そういえば、前に東雲さんに相談した時、何か言ってたような。確か……
「一緒にいてドキドキするようなことをする、とか?」
「あんた割と乙女な回答するわね……。まあ大体そんなとこだけど。どんな方法でもいいけど、まずは立花の竣介に対する認識を“友人”から“男”にしないと。じゃないと一生お友達のままよ」
“男”って。また随分生々しい表現するな……。まあ言う通りだとは思うけど。
「その認識って、どうすれば変えれるのかな……」
「さあ? 人によってそこの感じ方は差があると思うから私には分からないわ。……ま、あんたは既に結構近い位置にいるんだし、頑張れば直接聞き出せると思うわよ?」
「それは……なかなか大胆な方法だな……」
「でも、告白よりはよっぽど簡単じゃないかしら?」
それは、そうかもしれない。確かに告白に比べればまだ好きな男子のタイプを聞き出す方が俺の立ち位置なら簡単だろう。
「とりあえずデートにでも誘ってみたら? ほかの男子からならともかく、あんたならいい回答を貰えると思うわよ」
「いや、それは……どうかな?」
「直球で誘うのが無理なら、なんか理由付ければ?」
「理由ねぇ……」
文化祭の買い出し、はもう何もないし…… 何かいい口実はないだろうか。
「まあ、これは一例だけど」
「なに?」
「私の誕生日は、来週の水曜日よ」
「……なるほどね」
紫蘭への誕生日プレゼントを見繕うのを手伝ってもらう、という寸法か。なかなかいい案じゃないか?
「ちなみに、立花の誕生日はその翌日よ」
「え、マジ?」
「むしろ知らなかったのね……。仮にも好きな女子の誕生日なのに」
「聞くタイミングなんてなかったし……。でも、それなら何かプレゼントしないとな」
なんとなくではあるがプランは思いついた。成功するかは分からないけど、何もしないよりはずっとましだろう。
「方針は決まった?」
「うん。……ありがとな、紫蘭」
「この程度自分で思いつきなさいよね、まったく。……ま、頑張りなさい」
通話を終える。さて、善は急げだ。明日の放課後を待たず、俺は立花さんにメッセージを送ってみることにした。本当は電話の方がいいんだろうけど、そこまでの勇気は出なかった。
『今週の土日、なんか用事ある? ……もしなければ、紫蘭の誕生日プレゼントを選ぶのを手伝って欲しいんだけど、いいかな?』
「……こんな感じ、か……?」
いざ送信しようとするも、こういう言い回しの方が、いやもうちょっとオブラートに包んだ方が、いやもっと大胆に、いや誤字脱字があるぞ、とまあこんな調子で消しては書き、また消しては書き直してを繰り返し、気づけばあっという間に一時間が経過がしてしまっていた。しかも結局最終的には最初の文章を送る事にしたという。ああ、無駄な時間を過ごしてしまった……。
「頼む。せめて笑って誤魔化せる雰囲気にはなってくれ……!」
滅茶苦茶消極的な念を込めながら送信ボタンを押す。緊張で心臓が止まりそうだ。
……幸いなことに既読はすぐについた。しかし――
5分経過――
「まあ、そうすぐには返ってこないよな」
10分経過――
「ま、まだまだ」
20分経過――
「……大丈夫かな」
30分経過――
「……ごめんなさい」
穴があったら入りたいとはまさにこのことだろう。世界のすべてに土下座したい気分だった。ああ、俺みたいな奴があのような高嶺の花に恋してごめんなさい……
ピロンッ
音につられ画面を見てみると、そこには……
『うん、いいよー! 』
そんな一言が、立花さんからのメッセージとして表示されていた。
「……い、いよっしゃあぁぁっ!!」




