残る疑問
「二人で帰るのも久しぶりね」
「せいぜい二週間くらいのもんだろ」
「それって半月ってことじゃない。十分に久しぶりの内に入ると思うわよ」
二人で商店街を歩く。最初は会話できなくなってしまうのではないかと思っていたけれど、今のところどうにか普通に話ができている。横に並ぶ紫蘭の顔を見て、ふとあることを思い出す。こいつ、ちゃんと覚えているだろうか。
「そういえば、さ」
「なに?」
「あの手紙の事は、ちゃんと謝っておけよ。あいつ、大分凹んでたぞ」
「手紙……? それって、さっき話したラブレターのことじゃなくて?」
「……あれ? まさか覚えてないのか? 俺のダチに渡してただろ、この前。俺に近寄るな、って滅茶苦茶な内容の奴」
「……知らないわよ。そんな手紙」
その目はとても嘘をついているようには見えない。あ、あれ? てっきりあれは紫蘭が出したものだとばっかり思っていたけど……まさか違うのか?
「それ、差し出し人の名前は書いてたの?」
「いや、ない」
「……ふーん、そういうことか」
「?」
「ちょっと思い当たる節があるから、私の方で調べとくわ。その手紙の差し出し人のこと」
「それは助かるけど……本当に紫蘭からじゃないんだな」
「んなわけないでしょっ! 私、別にあんたの事いじめたかった訳じゃないのよっ!?」
そうだった。紫蘭は単に俺に対して素直になれなかっただけで、別に俺をいじめていた訳じゃない。……そう考えると、確かにあの手紙は紫蘭が出したとは考えにくい、か。でもそうなると、一体だれが……?
「ごめん。疑って悪かった」
「いいわよ、別に。疑われるようなことしてたのは事実だし。……そうだ、一つお願いがあるんだけど。またしばらく私の事は無視してくれる? 昨日までと同じように、ね」
「はい?」
いきなり何を言い出すのか。せっかく仲直りしたというのに。
「その方が探るのに好都合なの。だから学校の中では和解したことはしばらく隠して、今まで通り私となるべく関わらないようにして。何かあったらスマホで連絡するから」
「わ、分かった」
ここは紫蘭に任せてみよう。おそらくその方が解決まで早い。
「ありがと。……そうそう、ちゃんと立花と仲良くしなさいよ。告白、まだなんでしょ?」
「え? ……まあ、そうだけど」
急な話題転換に少々驚く。この話題は終わり、という事だろうか。
「そんな事だろうと思った。……私みたいな後悔はしないようにしなさいよ。さっきも言ったけど、応援してるから。何かあったら言って、相談くらいは乗ってあげるわ」
「……ありがとな。助かる」
つい先ほど振ったばかりなのに、そこまで俺のことを考えてくれるなんて。一度しっかり腹を割って話したことで、これ以上ない強力な味方になってくれた。ただやっぱり、振ってしまったことに対する申し訳なさも、多少はあるわけで……
「どうしたのよ。……ひょっとして、変な罪悪感とか感じてないでしょうね?」
「えっ、いや、その……」
「はぁ……。あのね、私のことをそういう目で見てないのに、あの告白にOKを返す方がよっぽどひどいことだから。だから、あれはあれでいいの。言ったでしょ、一区切りつけたかっただけ、って」
「……そう、だね。ごめん、変なこと考えて」
俺の申し訳なさそうな顔を見てか、紫蘭の表情が少し綻ぶ。俺、そんな面白い顔してる……?
「まあ、そこであれこれ考えてしまうのが、竣介のいいところだとは思うけど。でもその気遣いは、立花にしてやりなさい。多分だけどあいつ、色々抱え込みすぎるタイプだから」
「それは分かるかも。……いつの間にそんなに仲良くなったの?」
「どっ、どうでもいいでしょそんなことっ! そもそも、別に仲良くなんてないから。あいつがいらないおせっかいばっかりしてくるから、少しだけ振り回されてあげてるだけよ」
「ははっ、そういうことにしとくよ」
「ちょっと、それどういう意味よ」
どう聞いても照れ隠し100パーセントな発言に思わず生暖かい目になってしまった。紫蘭ってば、意外に分かりやすい奴だったんだな……。これじゃいままでそれに気づかなった俺がただの鈍感野郎みたいじゃないか。
「じゃあ、また明日」
「なに言ってんのよ。明日からはまた関わらないように、って言ったでしょ」
「あ、そうだった。……っそうなるとまたね、かな?」
「それでいいんじゃない? 一応言っとくけど、スマホのメッセージはちゃんと見なさいよ。じゃないとあんたの部屋に殴り込みに行くから」
「大丈夫、ちゃんと見とくから」
「そう。ならいいわ。……じゃあ、またね」
「うん、また」
*
「そっか、無事告白できたかー。それでそれで、返事はどうだった?」
「断られたわよ。……というかあんた、分かってたでしょ、こうなるの」
「いや、まさか。まあ藤川くんにも誰か好きな人がいるのかな……とは思ってたけど、告白の結果がどうなるかまでは分かるわけないよ。振り向いてくれる可能性だってない訳じゃなかったと思うし」
「……どうだか」
既に時刻は日付が変わろうかという辺り。私はそんな時間にいきなり電話をかけてきた立花に、今日の告白の顛末を話していた。というか、聞かせろと言って寝かせなかったので渋々話した。
「まあそれでも、ちゃんと一区切りつけれたみたいで良かった」
「まあ、それについては感謝しとくわ。……でも、学校ではまだしばらくあいつとは関わらないから」
「ええっ、なんで!? ひょっとして、結局喧嘩になっちゃった……?」
「いや、ちゃんとお互いの合意のうえだから。ちょっとやる事があって、その間は関わらない方が都合がいいの。それが片付くまでだけよ」
「……よく分かんないけど、なんか事情があるってことか。まあ、なら大丈夫か!」
ほんとこいつ、なんでもまるで自分の事かのように反応するわね……。ちょっと調子狂う。しかし、次にあいつの毒牙にかかるのはこいつかもしれない。一応借りもあることだし、そうなる前には蹴りを付けてやらないと。




