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そろそろ素直になりましょう

「いやー、ごめんね、恋ケ丘さん。いきなり呼び出したりしちゃって」

「いえ、別に大丈夫、だけど……えっと、話って何かしら、立花さん」


 ほとんどの生徒たちが文化祭の準備も終えて下校してしまった、下校時間間際の放課後。私は何故か目の前の彼女――立花あやめに呼び出されていた。


 こいつ、確か先週竣介と一緒に帰ってた奴……いったい何なのだろう。


「話ってのは、藤川くんの事なんだけどね。――聞いたよ、色々と。まあそんな訳だからさ、お互い隠しごとはナシ。遠慮しなくていいよ」


 あいつ、誰彼構わず言いふらして……。まあ、ばれてるんなら隠す意味もないか。


「はぁ…… 竣介のこと、ってなに? あいつに謝れ、っていう話?」

「ははっ、そういう喋り方も似合ってるね、割と。……まあ、おおまかに言っちゃうとそういう話なんだけどさ」

「お断りよ」


 そう、ぜったいに謝ってなんかやるものですか。悪いのは、悪いのは全部あいつなのに。


「ま、そうだよね。……でも、そうしないと戻れないよ。昔の関係にはさ」

「っ……あんたに何が分かるのよ」

「うん。分かんないよ、なんにもさ」


 そうよ、分かる訳……え……?


「分かる訳ないじゃん。まだ藤川くんと仲良くなって一週間かそこらなのに。だから恋ケ丘さんに直接聞きに来たんだしね。だから教えてよ、藤川くんと昔、何があったのか」


 笑顔で私に問いかけてくる。まるで昔から友人だったかのような優しい笑顔で。なんで私の所業を知っといて、こんな笑顔ができるんだろう。


「何なのよ、あんた」

「ただのおせっかいだよ。でも、誰かがおせっかいを焼かないと戻れないでしょ? 多分だけど」

「馬鹿じゃないの?」

「あははっ、よく言われる」


 馬鹿だ、間違いなく。なんの得もない、どうでもいい筈の事にここまで首突っ込むなんて。そう思った瞬間、この立花とかいう馬鹿な女子に、少しばかり心を許してしまっていた。


「そうね。……小学三年生になったくらいだった、と思うけど、――」


 だからだろう、気づけば私は今まで誰にも話した事のない、あいつとの過去を話し始めていた。


 *


 私があいつとの昔話を終えると、目の前の彼女は得心がいったようにうんうんと頷いていた。


「ははっ、なるほど、そりゃ藤川くんが悪いね、間違いなく」

「そうでしょ? なのにあいつは忘れてるのよ。……ひどい奴よ、本当。よくもぬけぬけと“俺と今後関わるな”なんて言えたものだわ」

「んー、どうだろ。忘れてるってよりは、気づいてないんだと思うよ」

「気づいてない……?」


 気づいてない? 私があそこまで込めた想いに? ……冗談じゃない。


「そう。悪い事したっていう自覚がないんだと思う。ほら、男子より女子の方がこういう話題って先にするようになるしさ。小学校低学年の男子にはちょっと大人な内容だったんじゃないかな、これは」

「じゃあ、あの時のあいつは私のした事の意味を、本当の意味では分かってなかったって事……?」

「じゃないかな、多分。もし気づいてたら、ちゃんと答えてくれるだろうし。藤川くんはそういうとこはしっかりしてると思うよ」

「……そう、かしら?」

「うん。アタシとちょっとすれ違っちゃったときも、すぐ謝ってくれたからね。割と私も悪いのにさ。だから、そこは大丈夫だよ、きっと」


 何よ、私より百倍分かってるじゃない、竣介の事。


「それにさ。いくら藤川くんが悪くても、今の今まで引きずるのは、ちょっと大人げないんじゃない?」

「うっ……そ、それは……分かってるけど……」

「素直になっちゃった方が楽だと思うよ。まあ、口癖は簡単には直らないかもしれないけどさ。それでも、本当の気持ちを伝えるだけでも、きっと藤川くんは分かってくれるって」


 そう、そんな事、とっくの昔に分かってる。今となっては私に非があるってことも、先に謝るべきなのは私だってことも、全部。でも、言い出せない。


「分かってるわよっ!! あいつなら許してくれるってことも、受け止めてくれるってことも、ぜんぶっ!! でも、でも怖いのっ! もし、もしっ……」

「許してくれなかったら、か。……でも、それを怖がってるせいで、こうなっちゃったわけだし。もう後はないよ、きっと」

「分かってるわよ……だから、もういいの。こうなったのは、私のせいなんだから」


 これは報いなんだろう。今まで散々な態度をとってきた私への報い。それでも一度は謝ろうと思って、校門で待ち伏せしたりもした。でも結局素直になれず、口から出たのはいつもと同じ罵詈雑言だけ。これで許してくれる訳がない。


 だから、もう受けいれるしかない。それが唯一、私が竣介にしてあげられる事だろう。


「ほんとにそれでいいの?」


 短い問いかけ。私がそれに首を縦に振れば、きっとこの会話は終わる。だから、そうすればいい。そのはずなのに、私は気づいたら首を横に振っていた。


「いいわけ、ないじゃない。……でも、怖いの。怖いのよ。あいつとこれ以上顔を合わせるのが。また素直になれないんじゃないかって思うと、とてもじゃないけどできないわよ」

「そっか。……なら、アタシが隣にいてあげるよ。それなら怖くないでしょ?」

「は……?」


 あっけらかんと笑っている。いったいなんで、ここまでするのだろう。この立花とかいう奴は。


「恋ケ丘さんが素直になれるまで、隣にいてあげる。もし藤川くんが聞く耳持たなかったら無理にでも聞かせるし。ね? これなら大丈夫でしょ?」

「なんで、そこまでするのよ」

「さっきも言ったじゃん。ただのおせっかいだって。アタシ、こういうのほっとけないの。それだけだよ」

「やっぱり馬鹿ね、あんた。……ふふっ」


 自然と笑みがこぼれる。……確かに、彼女の横でなら、素直になれるかもしれない。


「お、やっと笑った。じゃあ、改めて聞くけどさ。――どうする?」

「私は……竣介に謝りたい。許してくれるかどうかなんてどうでもいい。……素直になりたい。だから……手伝ってくれるかしら?」

「もちろん!」


 どうなるかは分からない。それでも今こうして踏み出さないと、きっと後悔するから。だから今度こそ、ちゃんと伝えよう。――謝罪と、告白を。


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