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第三章「let it be Friendly ship」

第三章「let it be Friendly ship」


 “キリリリリリリリッリリリッキリリリリリリッ”

 

 “カチッ”

「う〜・・・、洗濯物が飛んでく・・・」

 ぼやけたままの視界で目覚まし時計を止めた、そのままハッキリとしない意識のまま部屋をグルンと眺める、そして無意識のうちにもう一度目覚まし時計から時刻を確認した。

「やっぱり寒いなぁ・・・」

 ようやく目が覚めてきた頃には寝ぼけていたことなんて忘れて、朝の寒さに打ちひしがれるのみであった。

 

朝の6:00。 昨日はドラマの撮影から帰ってきて凄く疲れ込んでいたため目覚ましだけセットしてすぐに寝てしまったんだった。

 私は未だ眠気と寒気から抜け出せずお弁当の仕込みが出来なかったことを酷く後悔した。

うーんと声を上げて、両手を左右に伸ばしてなんとか意識を起床させる。

 そして手早くすっかり自分の体温に近づいたあまりに恋しい布団を払いのけてリビングへ向かって歩き出した。


 目覚めから一時間経った頃にはすっかり家事の忙しさで眠気など忘れてしまった。

 部屋には洗濯機のガタガタと回る音や鍋がコンロで煮込む音、テレビの朝のニュースなどいろんな音で溢れている。

 起きてみると前日の緊張感や徒労感、その他さまざまな疲れもありがたいぐらい引いて慣れないこの季節特有の寒さ以外はいつもの清々しい朝になっていた。

 お弁当の準備を済ませ、そのまま朝食の準備を始める、お味噌汁を入れてご飯を入れ、お弁当の残りのおかずをテーブルに並べていく、慣れている分もう私にとっては大変な作業ではなかった。

「お父さん大丈夫かな・・・」

 私はおよそかなり遅く帰ってきたであろうお父さんが起きてくれるかが一番の心配事だった。

 和室の襖を開けて確認をする。

「・・・・・・、やっぱりダメか・・・、これは起きそうにない」

一、二分で手早く努力はしてみたが起きる気配はなかった。

私は妙にアルコールの臭いがするのにちょっとイライラを覚えて、それでも強引に起こさないよう自制を掛けて部屋を後にした。

 結局一人の朝食を、半ばくだらない事しか言わないニュースキャスターと過ごして、後片付けと洗濯物を済ませると、部屋に戻って学校の準備を始めた。


結局のところ、家事やらなにやらしていたら自分の時間というのはあまり取れない。

ここのところはお父さんも忙しくて帰ってくるのもいつもより遅い、仕事柄早く帰ってくるのが難しいことはわかっているけれど、朝に挨拶も出来ずに学校に出掛けてしまう時は心配だ。

 あまり時間に余裕のない中で身支度を済ませて家を出る、今日は待ち合わせに遅れずに済みそうだ。


 特に決まりがあるわけではないけれど、週に2,3回は由佳里と待ち合わせをして私は登校している。それなりに向こうも忙しいから揃えないことが多いのが難儀ではあるけど。

 待ち合わせ場所である交差点の手前、帰りの場合は別れ道でもあるここが無意識的に立ち止まる場所で、それがすっかり日常に溶け込んでいる。

 私の方が先につくのは約一週間ぶり、しかしほぼなくして元気の良い声と共に由佳里がやってきた。

「おはよー」「おはよう」

 朝の挨拶と共に足を揃えて歩き始める。

「昨日大変だったでしょ?」

「まぁね、無茶な設定とかするから・・・、いやこれは愚痴だけどね」

「あはははっ・・・、パパラッチとかいないよね?」

 心配性からか由佳里は無茶な冗談を飛ばした、下手に不満を言ったりする私も私だけど。

「私追っかけとかそういう類は受けたことないから。第一私になんかに肖像価値なんてないよ、所詮は人数あわせの子役だから」

「そんな謙遜しちゃって、そう思ってるのは羽佐奈だけよ、きっとみんな期待してるんだから。現実に演技だって出来るとこ全国放送で見せてるんだし、先見的に枠組みに入れられてるかもしれないんだから」

「そんな理想論を並べたって、女優やら俳優なんてプロはいくらでもいるんだから。

私なんて直接芸プロに入ってるわけでもないし育成学校行ってるわけでもないから、ほんと偶然だよ」

 小さな雑誌撮影から始めた私にとって今回は自分でも信じられないぐらいのステップアップで現場のやり方も把握しきれず、時折迷惑を掛けては申し訳なさでいっぱいだし、ベテランの俳優さんとはあまりにも実力も実績も違っているためとにかくどう対応してよいから解らずしどろもどろになってしまう。

「でも話しが話しだから毎話出てるわけじゃないんだよね? 登場人物やけに多いし」

「そうなんだよね・・・、普通のドラマの倍くらいあるんじゃないかな・・・、今回の撮影で初めてきた人とかいるし」

「何それ、あの状況からまだ増えるわけ?」

「ホントにね、そんなだからいつも監督さん怒鳴ってるよ、対応しきれてないが多すぎるって、スタッフの数も限られてるから仕方ないと思うんだけどね、後半に入るにつれて殺伐としてるよ」

 そういう意味で毎話ギリギリの攻防をしているように思う。

 家族関係の話をするにしても、沢山の家族が出たり、それがいくつも関わり合ったり何とも忙しい、時間経過だって異様に早かったりするし。

「大変ならそこまでしなければいいのに・・・」

 由佳里が私をねぎらうように言った。

「そう思うでしょ? 確かに出演者から見てもそうなんだけどね。

じゃあどうしてそんな大変で予算もかかることをすると思う?」

 答えを導く意味で私は由佳里に問題を出すことにした。

「えっ、それってでも・・・。

他作品と差をつけるためとか・・・?」

「それもあるけど、もっと具体的な一つの例としては展開を予測させないってこと。

 登場人物が少なかったり、舞台が限られていたり、時系変化が短かったりするとある程度前後関係だけで次の展開が読めてしまうわけ。

次のシーンで起こることだったり、次回の展開が読めたりしたりすると鑑賞者側は驚きもないし自分の頭の中の推測と照らし合わせるだけで面白みがなくなってしまうわけ。

 だからあえて物語自体を複雑にする、極端にテーマが偏っていなければ大体はこうして変化なりを付けていかないといけない、ヒットさせようと思えば仕方ない処置かな」

 

 由佳里は感心深そうに私の話しを聞いた。

そんなドラマの話しをしながら今日の登校はほぼなくして終わりを告げた。


 予鈴約10分前の下駄箱の前、私はなんともベターな物と出会った。

「あ、まただ・・・」

「ちょっと、羽佐奈それ」

 由佳里は横から私の掴んだそれを見て驚いたように固まった。

「ホント、面倒というか迷惑だよね・・・」

「それ普通の人が聴いたら自慢にしか聞こえないわよ」

 手に掴んでいるのは紛れもなくラブレターと分かるものだった。

私にとってはこんな大胆かつ分かり易い手段を選ぶ人の気持ちが分からないんだけど。

「それじゃあこれあげる」

 そういって私は由佳里に手紙を差し出した。

「そろそろ自分の立場を理解した方が良いんじゃない?」

「はぁ・・・、あたし彼氏いるのに、どうしてわかっちゃくれないんだろう」

 それが率直な本音だった。

 彼とつきあい始めてからは割と減ってきたのに、最近はまた見かけるようになった。

きっとドラマでの分かり易い露出が原因だと思うけど、私は有名になりたいわけでもモテたいわけでもないのに。

「羽佐奈、こうしてラブレター入れられるぐらいモテるようになったのは、ただドラマに出たりして有名になったってだけが原因じゃないのよ」

「え・・・?」

「まぁそれぐらいのことは理解した方が良いと思う」

 私にとってそれはあまりに想定外のことだった。

もちろん特別私が男心がわかるわけじゃないんだけど、はっきり答えが見えないのはどこかしっくり来ないし不穏な気がした。

「私は羽佐奈のこと、ずっと見てきたからハッキリ分かるから。

いろんな人の意見もあるしね、そういうとこ薄々は気付いたほうがいいと思うよ」

「私はそんなの・・・」

 私にはこんな紙に興味はないし、その中にある想いをどうすることもできない。

そう、だから知るべきではないし、知る必要はないと思ってきた。

 例えばもしこの手紙の人が自分がよく知っている人であったらそれだけで意識してしまったり、どこかで傷つけていないか気になって正常な応対が出来なくなる。

 知らない人であったらそれだけで怖い、どこかで見られているというだけで不安で堪らなくなる、どこにもプラスの要素なんてありはしないし、私は今まで通りの毎日を送れればいい。

 もしかして由佳里の言わんとしているところは、そういう部分ではないのか。

 私にはその判断はできなかった。


 私は結局由佳里の視線も怖かったので、とりあえずカバンに手紙を入れて、後で適当に処理することにした。

 いずれこの答えは出るだろう、私自身のことなんだから。


 今日は放課後に由佳里のバイト先の喫茶店に連れて行ってくれる日だった。

「羽佐奈、ほら、もう行くよ」

 放課後になっていそいそと由佳里が私の席にやってきた。

目の前に由佳里の制服のリボンが揺れる、クラスでは真ん中ぐらいの身長を誇る由佳里は私よりも5センチ短く、まだ子供っぽさを残す年相応の女の子だ。

 由佳里はこの時間が来るのを楽しみにしていたという雰囲気で、授業中の気怠さから抜け出した元気良さで、私に笑顔を振りまいた。

 クラスの半数ぐらいが普段持ち歩くシンプルな指定カバンとは違う薄ピンクのトートバックで、どこかやっぱり目立ってしまっていた。

もちろん大体は黒かメイビー色の薄い学生カバンを持ってくるのだが、たまにこうして気分を変える事だってある、それは学生全体にも言えることなのだが、やはり制服にも似合わないから運動部の部活用にスポーツバックで来たりする生徒がいるぐらいで、大抵は女子であろうとそれっぽい学生カバンでやってくる。

 もちろん下手にブランド物のバッグで来るよりは印象は良いので、それぞれが妥協しあっているような環境だと思う。

 私はいつも通りの学生カバンと机のそれとは反対側に掛けてあるお弁当袋を持って立ち上がった。ちなみに私にはどうして由佳里が今日は普段とは違うそんなトートバックで来たのかは分からないが、この学校では余程枠から外れたカバンでない限りは怒られることはないのでここは黙認しておくことにした。


「ちょっと楽しみだよね、私の場合いつもは手伝いに行ってるばっかりでちゃんとお店の雰囲気とか紅茶を楽しむ機会ってないから。

 もちろん、こうして軽い気持ちで羽佐奈と一緒に行けるのが一番嬉しいけどね」

 前上がり、前下がりのマッシュボブベースのショートヘアーで中学特有の決め細やかな髪を歩く毎に揺らしながら、由佳里が私の横を楽しそうに歩く。


 一方、私はというと多少無理をして学生カバンと中身が軽くなったお弁当袋を片手で持って、割と真っ直ぐを向いたままゆったりと歩く。

 最近の髪型は仕事上ロングヘアーが必要なことが多いので普段はサッパリとサイドテールでまとめている。サイドテールにするならもう少し大人っぽかったり身長が合った方が似合うんだけど、ちょっと背伸びしたい気分な(実際そうでもないけど)私はあえて気に入ってこれを選んでいる。

 周りの感想としては中学生にしては理想的に似合っていると言われ、あまり大人っぽくは見えないと思うけど意外に好評でしばらく続けている。

ちなみにドラマの役では髪を後ろで束ねなければならないので、少しイメージが違う印象があって私だと気付かないこともあるみたい。


「まだ二回目だったね、おじさん優しいんだけど凄くおっきいし、お姉さん美人だから緊張しちゃうんだよね、お店の雰囲気もドラマに出てくるようなちょっと古めかしいようなクラシックの流れるオシャレな店内だし、制服姿で行くのは特に場違いに思えるんだよね」

 私はあの店の前のレンガと店にまで掛かる勢いの植木を見ただけで敬遠してしまいそうになる・・・、私あんまり喫茶店ってタイプじゃないし、いや全然わからないけど。

「そうかなぁ、私が働いてる時は結構うちの学生も来たりするんだけどね。

カップルで来たときとか私の方がちょっとバレないか焦ったりしちゃうけど」

「それ普通に校則的にヤバいんじゃ・・・、いや、それぐらいで誰も騒いだりしないだろうけど」

「校則的にヤバイのはむしろ私や羽佐奈の方だしね、気に掛けたら負けだって」

 私は「そうだね」と苦笑しながら言った。

そりゃ私たちの方が余程重罪か、私の場合はちゃんと許可もらってるけどね、報酬を遠慮しないのは掟破りかもしれないけど、学校側に踏み込まれたくないのは本音だし、これからも関わらないでほしい・・・、教師陣の表情を伺うのでいつも必死なんだから。

 由佳里は軽い感じだし、そこまで深くは気に掛けちゃいないみたいだけど。

注意されたって「手伝いをしてるだけです」って思いっきり言い張りそうだしね。

一度はそういう風に話しを通してるみたいだから何とも言えないけど、でもちょっとその現場は見たかったなぁって思う、もちろん娯楽としてだが・・・、だってこれは正論で言い張るには難しい問題であることに変わりはないと思うから。


 学校を出て、段々と通学路から離れて商店街の方へ歩いていく。

極端な都会とは違い、まばらな通行人にしかいない道路をいつもの調子で歩いていく。

遅れて何組かの生徒も同じように歩いてはいるけど、それもさほど気にするような事象ではなく、私たちは普段通り取り留めない会話をしながら喫茶店までの道を歩いていく。


 由佳里の働く喫茶店は商店街の中にある少し開けた様相の十字路の一角に印象的かつ何食わぬ自然体でそびえ立っていた。

 目の前まで来ると由佳里は迷う様子もなく一言私に「入るよ」とだけ言って私の覚悟とかどんな風に振る舞おうかとか考える時間すら与えず「OPEN」と表札の書かれたガラス上のドアを躊躇うことなく開けた。

 

 “カラン”“カラン”


 軽く綺麗な鐘の音が響く、ちょっとドキっとするような、心が落ち着くような音で私も店内の空気に吸い込まれるような気分になった。

「さぁ、早く入って」

 ドアノブを持ったまま、由佳里が私を早く入るよう急かす。

 それで私は何とか覚悟を決めて喫茶店の中に入った。


 明るい外世界から薄暗い木陰に入るように、人工的なインテリアの照明が中心の室内は実際の室内温度と比例するように暖かみを感じた。

 由佳里の右手を掴みながら一歩進むごとにふわっと深い引き立てのコーヒーの香りが鼻をくすぐる。天井には意味があるのかは分からないおしゃれなプロペラが動力が何か分からないがクルリクルリと回り続けていて、各所に貼り付けられた長方形のスピーカーからは普段聞きなれないようなクラシック音楽が流れている。

 由佳里はカウンター手前の腰掛けテーブルを座る席に選び、私を案内した。

 私はまだこの制服姿では場違いな気がしてこの店内の雰囲気に慣れることが出来ず、緊張しながら案内された席に座った。


 由佳里は私から注文を聞くと学校の制服では想像しづらいくらい普段通りの動作でカウンターの中へと入っていく。

置いてけぼりになった私はチラチラと周りを見ることもできず緊張しながらカバンから携帯電話を取り出した。

「(そういえば、由佳里と一緒に携帯を買いに行ったこともあったっけ)」

 あれは今ではすっかり仲良くなってしまったマネージャーがそろそろ買い換えましょうかと言って、じゃあついでにって事で三人で買いに行ったんだっけ。

「(ちょっと、懐かしいな)」

 それほど前のことでもないから懐かしむほどではないのだけど、なぜか今この場においてそんな風に思った。

「(思えばもう由佳里と出会って6年か・・・、本当、いろんな事があったなぁ)」

 この歳で過去の回想録なんてするのは失礼に当たるかもしれないけど、私にとってはただ淡々と過ぎた時間なんてほとんどなかったように思う。


 六年前、最初はそう、私は“ まともに会話もできないような子ども”だった。


 たぶんそんな純正な色のない心で、ただ不思議に動く風景を追いかけていたんだと思う。

そして、そこにはいつの間にか楠原 由佳里のことを見ていて、たぶんそれは無意識で、ちょっと印象的に見えただけなんだろうと思う。


 どうしていいかわからない私に、由佳里はある日話しかけた。

 屋上へと向かう階段、薄暗いその場所でひっそりとお弁当を食べる私に由佳里は話しかけた、それがすべての始まりだった。


 “お母さん お母さん!!”

 いつも元気な由佳里が下校途中にもの凄い大きな声を上げて泣いていた。

その頃には私にとって由佳里は学校で初めて出来た大切な友達で、昼食を一緒したり一緒に下校していたりしていた。

 

 “なんとなくだけど その頃には全然気づきもしなかったけど

    人は必ずどこかに孤独な一面を持っているんだと思う

      それは由佳里にとっても例外ではなくて、

時には口にできない居づらさを感じたりしていて

  だから、他の生徒とは存在もかけ離れた私なんかに

    興味を持って、接してくれたんだと思う

     

そしてそれは私にとっては、由佳里にとってもかけがえのないものになった


 “お母さん お母さん!!”

由佳里は依然として泣き叫んでいて、私は最初どうしたらいいかわからなくて自分も一緒に泣いてしまいそうになった。

でも地面を流れる血溜まりを見たとき、その意味が分かった。

   “ああ、助けを求めてるんだ”

私は居ても立ってもいられなくなって、血だらけの由佳里の胸に抱きついた。

既視感もあったんだと思う、私とって血はもの凄い恐怖感があったし、見るのも苦しく抱きつきながらも必死に目を閉じた。

 でも、その現実から逃げたくなかった、だって、いつも助けて欲しかったのは私自身だったから、だから、その涙を見ているのはとても辛かった。


“逃げないの? 羽佐奈ちゃん・・・

お母さんじゃないのにどうして羽佐奈ちゃんは逃げないの?”


 由佳里は本当に驚いたようだった、それが母親以外では初めての体験だったのだ。


 “みんな逃げるよ 血がとっても怖いから どうして羽佐奈ちゃんは平気なの?”


「わからないよ・・・、でも逃げちゃダメだから、私、由佳里ちゃんともっと一緒にいたいから、怖いけど、でも逃げちゃダメなの」


 子供心に、度胸だけは凄かったんだと思う、私は由佳里から流れるを血を体に付着させられながら、それでも抱きついた腕を放したくなくて、必死に目を閉じて時間を忘れるぐらいの怖い時間を過ごした。

 由佳里が私のことを特別視して見るようになったのはそれからで、私たちは次第に仲良くなって、いつの間にか親友同士になっていた。


「どうしたの? 眠たくなった?」

 由佳里が心配そうに私の顔をのぞき込んだ、すっかり私は回想に浸っていたようで由佳里が戻ってきたことに気付かなかったようだ。

「あぁ・・・ゴメン、ちょっと昔のこと思い出してたら・・・」

「そう・・・、携帯なんか握って何かあったのかと思っちゃった」

「由佳里は私でよかったって思ってる?」

 気付いたらそんな言葉が口から出ていた、昔のことを思い出した自分が言わせたのだろうか、いつになく真剣な私に由佳里は驚いただろうが由佳里は落ち着いた表情のまま一つ瞬きをして口を開いた。

「それ以外のあれこれなんて想像できないって、今こうして日常が流れている、そこにはいつだって時計の針みたいに変わらない一秒一秒が刻まれていて、ただ私だってその同じ流れの中にいるだけ。

 でもそう運命を捉えたとしても、羽佐奈と出会えたことやこうして今も一緒にいられることは大切なことだし、それがお互い分かり合えてるからこそ今があるんじゃない?」

 普段とは打って変わったようなような真剣な目で、ただ現実をあるがまま捉えようとするように、心のままに言葉を私に届けてくれる。それだけで私は救われた気がした。


「最近の羽佐奈ってコーヒー派なんだねっていうか、コーヒー飲めるって凄いよ、こんな苦い飲み物のどこが良いの?」

 私は由佳里から注文したコーヒーを受け取る。一方由佳里は甘い香りの漂うアップルティーを愛おしそうに持っている。

「う〜ん・・・、あえて言うなら濃いからこそゆっくり少しずつ飲めるところかな。

普段からブラックで飲む訳じゃないからそれほど苦さもキツくないし、いや、もちろん苦いのになれてるわけじゃないよっ。

 要は簡単に一口じゃ飲めないからこそ喫茶している感覚を味わえるって感じかな、香りも豆によって全然違うからいろんなのが楽しめるしね」

 いや、ロクでもないことを思い出しかけた・・・、あれはコーヒーなんかと比較にならないから、もはや苦痛でしかない。いや、あまりにも余談過ぎるか。


「ようこそー、羽佐奈さん、本当に来てくれたのね、嬉しいわ」

 さっきまで精力的に動いていたお姉さんが私たちの席までやってきた。

「こんにちは、お邪魔させてもらってます」

 身長170センチを越える羨ましいぐらいの美人の長身で笑顔を振りまいてくれる。

この無尽蔵な美しさはどうも苦手だ、少しぐらい欠点があってもいいと思う。

「やっぱりドラマで見るより、生で見た方がずっと綺麗で可愛いわね」

 この人は何をおっしゃっているんだろう・・・、余裕の表れというやつだろうか、どうも前にあったとき思っていたけれど考えが読めない相手だ。

「お姉さんの方がずっと綺麗ですけど・・・」

「鮮度が違うもの、私はもう歳だから、これ以上綺麗になれることもないし、輝ける経歴があるわけでもないのよ」

 全然そんな謙遜することはないと思うのだけど、私とは見解が違うということなんだろう。


 しばらく経って由佳里の提案で家に上げてもらうことになった。

 店の階段を上って畳の部屋へと案内される。

私は少し緊張がほぐれて、いつもの調子に戻すことが出来た。

「羽佐奈って意外と自分のこと見えてないよね」

 由佳里は何を思ったのか突然そんなことを言い始めた。

「どういうこと?」

「今、メイクしてるでしょ?」

 私にはまるで意図のわからない質問だった。

「うん、少しだけだけど・・・、どうして?」

 由佳里の口調はどこかトゲトゲしくて、それで私の言葉を聞くと呆れたようにため息をついた。

「本当に気付いてないみたいだけどね、羽佐奈ってばキモが座ってるというか妙に冷静なところがあったり、それでいて美人で、メイクだって中学生とは思えないぐらいうまいから、やっぱり大人っぽく見える訳よ」

「う〜ん・・・、メイクっていっても、うちのはあんまりお金ないけど仕事上仕方ないから外見には気をつけてるだけなんだけど・・・、それに仕事場じゃ美人だなんて呼ばれるような立場でも容姿でもないから」

「それでも、多少は自覚を持ちなさい。

男子からだってかなり人気あるんだから、それはドラマで見たからとかそういう単純な見解から来てるわけじゃないんだから、あんまり軽視しすぎないことよ」

 そんなに言われるほどかな・・・、というのが素直な感想だったけど、焼き直しな気がするけど、ただ気がかりなこともあったので、今はこの事実を受け止めておくことにしよう。


 帰りにはお姉さんから手作りのケーキを渡された。

あんまり話も出来なかったし、こんな長時間お世話になってさらにケーキまでいただいてよかったのか、あまりの事で感謝の述べるので必死だった。

「それじゃあ、私はもう少し手伝いしてから帰るから」

 お店に出入り口で別れを告げられる。

「私、こんないろいろしてもらっちゃって、お手伝いとかしなくて大丈夫なのかな?」

「いいんだって、今日の所は帰ってもらって、出来ればまた遊びに来てくれれば嬉しい限りだから」

「あははは・・・、でも、やっぱり緊張しちゃうんだけどね、お店の雰囲気もそうだけど、あの服装で美人なお姉さんだから、あまりに眩しくって」

「確かに美人ってのは理解できるし、仕事も簡単にこなしちゃうからね、私にとっては本当に尊敬できる先輩だよ」

「そうだね・・・、私もいいところは見習っていかないと」

 そんな決意を持ちながら、ふわっとサイドテールを靡かせながら、また帰り道へと向かっていく、由佳里はずっと嬉しそうに手を振っている、私もそれに対抗するように姿が見えなくなるまで手を振り続けた。


「そういえば・・・、お父さん、今日は帰ってるかな、戴いたケーキぐらいは一緒に食べたいよね・・・」

 帰り道、右手に重みを感じながら、足早な人並みの中を注意深く歩きながらふとそんな事を思った。


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