エピローグ 「美しい名前」
いよいよ連載終了となるエピローグ。
クリスマスイブから後の後日談になります。
鬱にならない程度にこのハッピーエンドをお楽しみください。
では残りは後書きで。携帯の方、読みづらくてすみませんでした(>_<)
エピローグ 「美しい名前」
12月25日
翌日・・・。
「あれ・・・・・・、つかさは・・・・・・?」
ベッドの横に手を伸ばすのに気付けば司がいない・・・、私は寝ぼけたまま身体を上げる。
「私はなんちゅう格好で寝てるんだ・・・」
時刻はすっかり起床時間を過ぎていて、上半身にはシトラスイエローのパジャマで下半身は肌寒く下着だけだった。
電気を消していたから何時に寝たのかも分からない、ブランクから来る痛みは思ったよりない、それよりも前日の慌ただしい一日から来る筋肉疲労と雪が止んでも変わらない気温の低さの方が重大な問題だった。
「司はどこにいったのよ・・・、私より先に起きるなんて・・・、勝手に帰ったりしてないよね」
勝手に帰ってたらさすがにショックだ・・・、そんなことに気持ちを半分持って行かれながら、私はパジャマを着直して洗面所に行こうと部屋を出た。
何事もなく洗面所まで行くはずがリビングとキッチンの様子を見て私の動作は一瞬にして固まった。
「あら、おはよう羽佐奈さん」
涼子さんがリビングから私に話しかける。
「おはよう、羽佐奈よく眠れた?」
司がいつもの爽やかな笑顔で挨拶をする。
「主役なのに、遅い起床だったな」
お父さんがいいようのない笑みを浮かべながら言った。
「―――どうしてみんな揃って何事もなかったようにしてんのよっっっ!!!!」
三人ともあまりに予期しないほどに和んでいた。置いてきぼりにされてしまった私はとりあえずいろんな感情を含めて朝っぱらから叫んだ。
「そりゃあ、羽佐奈さんがお寝坊さんだからねぇ・・・」
涼子さんは私の叫びに平然と答えた。
「朝食は残してあるから、もう少しゆっくり寝てればよかったのに・・・」
司はキッチンでお皿を払っていた、なんとも私だけが浮いた状況であった。
「いつ帰ってきたのよ・・・、涼子さんも普通に一緒だし、司は何時の間にか馴染んでるし・・・、朝から血圧上がる・・・」
「まぁまぁ、細かいことは気にせず起きたら朝食食べなよ」
「なんで司が朝食作ってるのよ・・・・・・」
「う~ん・・・、昨日のお礼かな?」
何事もない朝の会話のようで私は無性にむず痒い気分になった。
「おいしかったわよ、いい旦那さんになるわね」
「涼子さん?! ちょっとなんかキャラ変わってないですか?!」
涼子さんの含み笑いがあまりにも策士のものに感じられてならない・・・、なんで朝からこんな恥ずかしい目に合わないとならないのか・・・。おちおち安心して寝てもいられないのか私は・・・。
私は寝起きの姿を見られるのも恥ずかしくなって洗面所に逃げるように入った。
「やっぱり若いっていいわね・・・」
最後に涼子さんは人知れず呟いていた。
それから私は恥ずかしくない程度に身支度をして着替えると、テレビのニュースを観ながら司の作った朝食を食べた。
お父さんと涼子さんは今朝帰ってきたばかりらしい、司に朝食を作らせるとはなんとも恥知らずな・・・、まぁどうせ司から言い出したんだろうけど・・・。二人が昨日から何をしてたかはこの際考えないでおこう・・・、ロクな想像にならない。
「それじゃあ食器洗ったら僕は帰るね、さすがにそろそろ帰らないと心配するし」
「そうよね・・・、ずっと帰ってなかったんだもんね」
何日も家を空けていたのだ・・・、さすがに叔父さんも叔母さんも心配してることだろう・・・、何より私が探すと言ってしまったんだから責任を感じてしまうし。
「そういえば、畑山のやつが嘆いてたぞ。見つかったんなら連絡ぐらいくれって」
「あっ、すっかり忘れてた・・・・・・」
昨日の一日中続いたゴタゴタと司に会えた喜びですっかり忘れてしまっていた。しかしなんだ? お父さんと畑山さんはやっぱり繋がってたのかな・・・、情報が筒抜けすぎる。
「そんなに大ごとになってたんだ・・・・・・」
司が驚き顔で言った。本人の知らないところで大ごとになってるってなんか怖いよね。
「まぁ無事だったんだからいいじゃない・・・、朝食もおいしいし」
「後処理が全部警察任せになってるわけだがな・・・・・・」
お父さんがなんとも気むずかしく現実を想像させてくれる。
「それはもう大変だろうね・・・、畑山さんには悪いことさせちゃったなぁ」
さすがに私の中にも申し訳ない気持ちが残る、コンテナの中をあのまま放置したことや不可思議な現象の数々も、司自身のことも、いろんなところで畑山さんがうまくやりすごしながらまとめていることだろう、今度サービスで何か奢ることにしよう、ちゃんと労ってあげないと不眠症だろうし可哀想だ。
「それじゃあ、また何かあったら知らせるよ」
「うん、一緒に家まで行こうか?」
司が一人で帰るのが何だか気がかりでならない、出来れば一緒にいたい気持ちもあるし私は誘ってみた。
「いいよ、あんまり心配されても困るし、僕は自然に家に戻るよ」
そういって司は断る、やっぱり叔父さんや叔母さんに心配を掛けたくないようだ、司らしいといえばらしいけど。
「わかった、帰り道気を付けてね、まだ道路も濡れてると思うし」
「うん、羽佐奈もしっかり休んでよ」
司はそう言って家を出て行く、私は名残惜しくも玄関まで付き添い手を振って見送った。
「そういえば、二人はいつ帰ってきたの?」
司が帰った後、このまま無視するわけにはいかず私は残った二人に話しかけた。
「早朝だな・・・」
「それ以外に答えようがないわよね」
悪びれもなく二人はそう言ってのけた・・・、逆に私は問い詰める気が失せた。あまり突っ込んでも私の方の立場が危うくなりそうだし。
「それじゃあ私もそろそろ行くわ」
涼子さんがそう言って立ち上がる。茶色く染められた髪が揺れた。
「もういいのか?」
「いつまでもこうしてはいられないでしょう? きっと待っているはずだから」
「そうか、緑くんによろしくな」
「えぇ、あの人も来るでしょうから・・・、気にしなくてもいいわ」
二人が会話している、どうも涼子さんは緑くんを見舞いに病院に行くようだ・・・、お父さんは一緒に行かないようだけど・・・、いいんだろうか? 私の中に疑問が残った。
やがて涼子さんも帰り、いつもの日常と同じくお父さんと二人きりに戻った。
「お父さんは一緒に行かなくてもよかったの?」
そう話しかけるとお父さんは少し難しい顔をした。
「今日が山かもしれないからな・・・、見送るときは家族と一緒の方がいいだろう・・・」
お父さんの言葉の意味・・・、それは私にはまだ少し難しくて私は言葉を控えた。
緑くんのことを考えると辛くなるのは私も同じだった、だからどう緑くんと向き合うかってことも自分なりに考えなければ行かないことなんだと私なりに思った。
たった一日がまだ過ぎただけでまだ何一つ終わってはいないんだと私はまた気持ちを改めた。お父さんにはまだ聞きたいことは沢山あったけど、混乱しそうなので今はその気持ちを押さえた。
それから数時間後・・・。
“12月25日13時16分 高田 緑は15年間の生涯に別れを告げ”
親族である父 高田 隆二 母 飛鳥 涼子に見守られる中
病室で静かに息を引き取りました
*
1月17日 センター試験当日
「もう準備は大丈夫?」
「うん、見送りありがと、大丈夫だよ」
日曜日ということもあって途中まで司が見送り来てくれた、司といれば気持ち的にも落ち着くのでありがたい限りだった。
「心配しなくても受かるよ、沢山勉強したんだしね」
「先生のご鞭撻あってのことですよっ」
最後まで私らしく茶化す、そんなやり取りが安心できて自信にも繋がる、司の教え方はうまい、だから本当に先生のようにお世話になった。冬休みは勉強ばっかりだったから疲れたけど、今日のために頑張ってきたんだから集中しないとね。
「羽佐奈の上達ぶりは僕も驚くほどだったからね、最初は心配したけど今の実力ならきっと受かるよ」
「うん、そういってくれると助かる。由佳里なんかの方が余計に心配してるくらいだもん」
実際冬休みの猛勉強なんかがなかったら不安はもっと大きかったかもしれない、そういう意味でも司には感謝しないと。
「そうだ、試験終わったら由佳里のとこの喫茶店でパフェでも食べに行こう」
「いいよ、それで気分が晴れるならね。喫茶店で会えるかもしれないし・・・、いいんじゃないかな」
「たぶん愚痴っぽくなっちゃうだろうけどね・・・」
それでもいいのかもしれない・・・、試験のストレスのせいでおかしくなっちゃいそうだし、一日くらい愚痴を言うのが許されるのがあってもいいと思う。
「そういえば・・・、司と由佳里っていつの間にか仲良いよね?」
「まぁね、羽佐奈経由ではあるけど、結構よく話すよ」
「う~ん・・・、なんか気になる組み合わせだ・・・、私もウカウカしてられないか・・・」
いつからなのかわからないだけに仲良くしているのを見ると気になってしまう、一体普段どんな会話してるんだろうか・・・、一度考えると気になって仕方ない。
「何を言ってるんだか・・・、早く行かないと遅れるよ」
さすがの司も呆れ顔で話しを折る。
「そうだね、それじゃあ行ってくる。受かったらお祝いしてよね」
「うん、もちろん。それじゃあ、僕は帰るよ」
「うん、バトンはしっかり渡すよ、一緒の高校に行くためだから」
一年後、同じ高校を目指す司のためにも、私は今年一番の頑張りを見せる。
密かに司のお祝いにも期待しながら、私は決意を新たに司と一時お別れして試験上に向かった。
*
本当にいろんなことがありました。毎日が慌ただしいです。
でもそれはとても幸せなことなんだと思います。
今でも私は時々緑くんに夢で会うのです。
それで私は思うのです、緑くんはやっぱり生きているんだと。
私の記憶の中で生き続けているんだと。
生き続けたいと願うのは誰にでもある自由です。
だから私の中に緑くんの記憶があるのは、それは緑くんが願ったことだと思うんです。
―――だから私は、それを大事にもって生きていきたいと思います。
もう、会えないとわかっているから。
生きているということがとても尊いものだと私は知りました。
だから死ぬのはとても辛いことなんです。
これは緑くんが教えてもらったとても大切なことです
ずっと覚えて生きていかなければいけないことです
私は沢山の絆に恵まれています、恵まれているというのも私の自我からくるものです。
私はきっと一人だったら生きていけなかったと思うから、みんながあってこその私だと思うようになりました。
私は何を目指しているのでしょう。不思議と考えるようになりました。
人間は出会いと別れを繰り返しているのに、時折それが凄く怖くなることがあるのです。
私が初めて恋をし、別れたとき、私は彼を憎めませんでした。彼の暴力が私を嫌いにさせるための作為的なものに感じてしまったのです。ただそこに残ったのは罪悪感を背負ったままの自分自身だけでした。だから私は思ったのです、それが彼にとっての別れるための手段だったのだと。私はそれで善意の存在だけを作り上げることが出来ました。
でも、きっと同じ手段はそう何度も成立しないでしょう。
真実は主観によって変わるものとしてあり、私がそれを許したとしても、善悪は私一人の主観では許されないことがあるからです。私はまだそのことから目を伏せている気がします。これまではそれで偶然不自由がありませんでしたので。
でもそれがねじ曲げられてしまったとき、私が正常でいられるかは私自身にもわかりません。私は大切な人を守りたいから、そのための手段を選ぶだろうから。
でも、その生き方も間違いではないと思うのです。
実感も推測の範疇を越えられず、私はまだ何かに怯えながら生きている。
生きてきた時間の短さを否定することは出来ないから。
だから私にもまだ緑くんと似たところがあるのでしょう。
司は私を信じてくれています、それはとてもありがたいことです。
だから自分を維持していられる、私は心が脆いものであるのを何度も知ったから。
迷いがなくなるとは麻薬のようでとても甘美なものです。
そうであることが自我に繋がるのです。
これからも迷うことになることは承知の上です。
だから司がいて、私なりに納得できるように私たちは相互作用していければと思います。
愚かだと言う人がいても、死後を知らない私たちはやっぱり探すしかないと思うのです。
“それが永遠であると思える日まで、その“絆”が確かなものだと言えるその時まで”
長い長編(単行本2冊分・・・)となりました。お疲れさまです。
私もここまで長くなるとは思いませんでした。ただ伝えたいことを書いていこうと思うとどんどん膨らんで今の形になったと申し上げるのが精一杯ですね。一つ一つここでは挙げませんが沢山の問題を取り上げてきたと思います。そしてその大方が現実社会と何らかの関係性を持っていると思って書いて参りました。
一緒に今作の解説的なものもアップします、そちらもよかったらご覧ください。
次回作は短編が一つと、連載の茶番が一つ、そして準備ができ次第長編を上げていきます。
二つ考えていますが先に上げる方が少し複雑なものになりそうです。
現代小説ですが鬱の内容になるし批評作品?と思わせるようなちょっと謎なものになりそうです。
二つ目がファンタジー物です。私の上げるファンタジーものは普通のファンタジーものとは異なりますが・・・、設定作りに時間がかかるので、もうしばらく待っていただけると幸いです。
それでは感想などありましたらお待ちしてます。
最後まで読んでくださった方はありがとうございました。




