最終章後半 「You want to go back」
いよいよ最後です。部屋の寒さでガクガクしてます・・・。
物語の最後にして視点変わりまくりで激しい展開です。
最後だからいいよね・・・、ここまで付いてきた方、どうか最後までお付き合いください・・・、何か一つでも感じるものがあれば幸いです。
シーン3「変わり果てた日々」
一体僕はどうしたんだろう・・・、願いが叶ったというのにセーターの中に入っていた携帯電話を握って10分間も静止していた。なんだろう、デジタル越しに時間が過ぎるのを見ているだけで言いようのない虚無感に包まれる。
まるでずっとそうしていたように・・・、どうすることも出来ないことを嘆いていたように。考えれば辛くなる、僕は羽佐奈が何を感じていたのかわからなかった。
先ほどの興奮状態からはすっかり醒めて着衣の乱れだけが妙に先ほどまでのことの現実感を教えてくれる、僕は股が少し苦しいのを我慢して立ち上がる、どうして苦しいと感じるのかは僕にはわからない、触って確かめるのもどこか嫌悪感があって出来なかった。
ブラがずれているのに気持ち悪さを抱いて少し緊張しながら位置を戻して落ちているトレンチコートの埃を払ってもう一度着込んだ。
「行かないと・・・、後どれだけ時間が残されているか・・・」
女の子の身体に憑依したのは初めてで一歩歩くだけで慣れない違和感を抱いた。
「僕は本当に・・・、羽佐奈に・・・・・・」
憑依するまではあれほど焦がれていたのに・・・、綺麗な身体があまりにも自分に思えなくて傷を付けないように一歩ずつ歩くのが凄く慎重になってあまりにも僕には似合わないと思った。
ブーツに歩くのに少し慣れたと思ったのに倉庫の外に出るとすでに雪道になった道で転びそうになる。
「・・・こんなに積もってるなんて」
僕は右手を倉庫の壁に当ててなんとか身体を支える、シンシンと降る雪の冷たさが頬に当たり冷たさが身に染みた。
「急がないと・・・、こんな所で立ち止まってる場合じゃない・・・」
お母さんは僕の帰るずっと待ち続けているだろう・・・、言葉で伝えられる唯一のチャンスなんだから・・・、僕は倉庫から手を離しなんとか足腰に力を込め一歩ずつ着実に歩いていく。
ガタッッ!! しかし数歩歩いたところで転んでしまった。
「イタタタタッ・・・・・・」
予想以上におしりがヒリヒリして一筋縄ではいかない現実が分かった。
それでも僕は立ち止まっているわけにはいかずもう一度立ち上がりきっとお母さんの待っている病院へと向かって歩く。
何度も転びながら雪道を誰の助けも借りず歩く、携帯電話のデジタル時計が驚くほど経過する時間の早さを伝えてくれる、徐々に日は沈み前を見る視界も悪くなって孤独感がどうしようもなく襲いかかる。きっと慣れ親しんだ道でなければ迷っていただろう、霊魂でなら何の重力の影響も受けず飛んでいけるのに・・・、人間の身体はあまりにも不便にならない。僕は羽佐奈の身体を出来るだけ大事に扱いながら病院までの道を歩いた。
*
涼子に連れられた俺は緑くんのいる病室にやってきた。
とても静かな空間だった、この病室だけがずっと時が止まっているようなそんな錯覚さえ受けるほどだった。
「私しか来ないから何もないところだけど・・・」
そんなことを涼子は言うが病室には画用紙にクレヨンで書かれたいくつもの絵が飾られ、ここ数日以内に変えられたであろう花瓶の花が飾られている。
涼子は薄暗い病室を少し気にするように軽く窓のカーテンを開いた。すっかり雪の積もった街並みが窓の外に広がっているのが遠目にもわかった。
「こんな景色を見るのも随分久しぶりかもしれないわね・・・」
涼子は呟いた。心電図の電子音だけが病室に時間が経過していることを教えてくれる。
白いベッドに緑くんは眠っていた。
「今日は不思議と顔色がいいの・・・、ねぇ? 今にも起き上がりそうじゃない?」
どれぐらい自分の子どもの寝顔を見続けてきたのだろう、そんな事を考えさせられる言葉だった。
「ふふふっ、あなたは正直なのね、いいのよ。私だって自覚してるつもりなのよ」
涼子は俺の表情を伺い言った。一体どのように捉えられたのかピンと来ないが俺の心境としては絶望もしていなければ確信めいた予感もなかった。ただ、漠然と10年という時間経過のリアリティを感じ取っているに過ぎなかった。
「俺は今日まで緑くんが入院をしているのを忘れていた・・・、それは罪深いものなのだろうな」
「いいえ、きっとそうではないのよ。これは産み育てて来た親の責任なのだから・・・」
涼子の言葉には深い重さを感じた。それは彼女自身も悩み考え続けてきたことなのだろう。涼子は病室に備えられたイスに座り緑くんの左手に指を絡めて優しく握った、涼子は一瞬にして母親の目に変わっていた、そして涼子はゆっくりと話し始めた。
「本当は今更話すことじゃないのかもしれないけれど、恨んでるわけじゃないから聞いて欲しいのよ、本当にあったことだから。
およそ10年前、春も過ぎた頃だったわね。緑は友達と誕生日だからって私に話し元気そうに家を飛び出していったわ。それが元気な緑を見るのが最後になるとは気付かずにね。
そして昼過ぎに緑が交通事故に遭ったことを受けて私は家を飛び出したわ。
現場は騒然としていてタンカーで救急車に運ばれる緑は血まみれだった、私は悪夢を見たように目を伏せた、また自分の子どもを失ってしまう、今度は大丈夫だと思ったのに、どうして自分だけがこんな目に遭うのかと自分を呪った。
でも、翌日のニュースや新聞を見て驚いた。同じように交通事故に遭った緑よりももう一人の女の子の方が大々的にニュースに報道されてた。
“運転手不在のトラックによる交通事故”見た瞬間に馬鹿げてると思ったわ、事故が発生したのは緑が交通事故にあってそれほど時間も経っていなかった、事件の奇怪さだけで私の子どもの報道は小さくなり、犯人の捜索にも支障が出た、それは紛れもない事実だった。
そしてもう一人の事故の被害者は緑の友達でその日誕生日だから会いに行くと言っていた、その人だった。羽佐奈さんのことね、私はそれを友人から聞いた、最初は半信半疑だったけど、そんな偶然が起こることには驚いた、因果関係があるとは考えなかったけどね。
今はもう恨みもしないし羽佐奈さんが無事に元気になってよかったと思うけど、当時はどうして自分だけがこんな不遇な立場になるのかと恨んだわ。
私はね、知ってたのよ、羽佐奈さんが目を覚ましここを退院していったのよ。
偶然同じ病院であったこともあってね、でも、私から無事を祝う勇気はなかった、どんな顔をして会えばいいのかわからなかった。だって私の子どもはずっと眠ったままなんだから、これから頑張ろうとしている人に余計な気遣いをさせるべきではないと思った。
でも因果関係かしらね・・・、あなたに出会った。
あなたの事を知れば、あなたと一緒にいれば私が諦めるべきなのかどうか分かる気がした、元気になったあなたを見れば自分も頑張っていけるように思えた。私にはあなたが必要だったのよ、同じような境遇を経験した相手だからこそ。
――――これで全部ね、今更ってことばっかりだから気にしなくていいのよ、あなたはあなたのままでいてくれれば、私はそれでいいわ、これで私も決心が付きそうだから」
涼子の長い自分語りだった。終始涼子は緑くんの手を握りながら長い時を振り返るようにゆっくりと落ち着いた口調で話した。
俺にも、もうどうしようもないことはわかっていた、だから信じるしかないという言葉を使う。どれだけ待っていても帰ってこないことを承知で見守っていかなければいけない、だから俺にとっては涼子の決心を待つほかなかった。
警察の捜査が混乱していたのは事実だった。それを恨まれたとしても致し方ないことだろう。二つの事件は捜査チームも別で完全に情報を共有しているわけでもなかった、いつまでも何の証拠もでないまま俺は羽佐奈を襲ったトラックの運転手のことを探し続けた。しかしすべてを視野に入れて捜査できるほど統制は取れていなかった。以上を踏まえて紛れもなく恥ずべき捜査だっただろう。俺は今更ながら後悔を抱いた。
ガタッ! ガチャン!!
唐突に病室のドアが開いた。涼子は驚き立ち上がって病室に入ってくる人を見た。
「は、羽佐奈っ!!」
俺は驚き声を上げた。疲れた顔をし、雪を被りながら入ってきたのは羽佐奈だった。
ブーツで歩きづらそうに入ってくると羽佐奈は涼子の方をじっと見て瞳を揺らした。
「――――おっ、お母さんっっっ!!!!!!」
羽佐奈は涼子に向かって確かにそう呼んだ、一瞬何が起こったのかわからず俺は言葉を失った。
「―――もういいんだ・・・、ぼくはここにいるから・・・・・・」
悲痛な声で羽佐奈とは思えない口調で話す、鳥肌の立つほどの違和感でただ俺は涼子と羽佐奈とを見比べるばかりで意味の分からない状態だった。
「―――――緑なの?」
やがて大事なことを確かめるように涼子は呟いた、
「うん、ぼくだよ、お母さん」
「そんなっ、そんなことって・・・・・・」
涼子自身も驚きを隠しきれなくて半信半疑に会話している。
身体は羽佐奈なのに話してるのは緑くん? 俺には何が何だかわからなかった。
「――――お母さん、僕は伝えに来たんだ。僕の本当の身体ももう長くないから」
「何を言ってるの? 緑なんでしょ? 本当に・・・」
「お願い、一度だけ聞いて・・・、信じてくれなくてもいい、心に留めて置いてくれるだけでいいから、後は好きなように判断してくれていい、僕を僕と扱わなくたっていいから」
確かに涼子は羽佐奈と会話している、お互いを親子と見なして、それは本当の親子のようにも見えて、しかし俺にとってはとても奇怪な光景に見えた。
「(あれ・・・、なんだろう・・・・・・、どうして・・・)」
一体何が起こったんだろう・・・、唐突に光が溢れて視界が蘇っていく。私はずっと意識を失ってて・・・、でも違う・・・、まだ夢の中にいるような心地、音は聞こえない・・・、ここはどこだろう? 白いベッドがある・・・、病院の病室? 視界が少しずつ上に上がっていく? えっ?! どういうこと? お父さんと涼子さんがいる、それにベッドに誰か眠ってる、表情は幼く見えるけど・・・、男の子? 一体何なんだろう・・・、お父さんが驚いてこっちを見てる、涼子さんは驚き顔で何かを言っている・・・、声はどうしてか聞こえない、身体を支配されているからだろうか・・・、100%かはわからないけれど、きっとこれは私の目線なんだろう、まだ緑くんが操作してる? どういうこと? どうしてお父さんや涼子さんに会いに・・・・・・。
「“お母さん”」口の形から判断したのかもしれないけれど確かにうっすらとそう聞こえた。
「(いやっっ・・・、何で?! そんなことって・・・・・・っ)」
私はついに気付いてしまった・・・、涼子さんは緑くんのお母さんなんだ・・・、だから緑くんはお母さんの涼子さんに会いにここまでやってきたんだ。
「(そんな・・・やだぁっ、声が・・・声が聞こえないよ!! 気付いて、私は羽佐奈だよ!! 気付いて! 緑くんじゃないの! 涼子さんが私を緑くんだと判断したら全部壊れちゃうよ!! もう何もかも戻れなくなっちゃうよ!!)」
しかし何度も叫ぶが私の叫びは緑くんに抑えられて声にはならず頭の中を反響し外を抜け出すことが出来ない。
突然どうしたことだろうか・・・、羽佐奈は表情を歪め頭を両手で押さえながら苦しみ始めた。
「ああああっああああっっつっ!!! 頭が割れるっっ!!! 叫ぶんじゃないよっ!! 僕は僕なんだよ!! 呼び戻ってくれるんじゃないよ!!!」
羽佐奈は半狂乱になって意味の分からない言葉を叫ぶ。涼子も同じく何が起こったのかわからないという表情で羽佐奈を見つめていた。
「――――聞いて、お母さん」
羽佐奈は頭を抑えながらなんとか気を振り絞って声を出す、それはとても苦しそうで何が起こっているのかわからないが、とても重要なことをこれから言おうとしているように見えた。
「(緑くん!! お願いだからやめて!! 全部がうまく行くことなんてないの!! こんなことしても悲しみが増えるだけだから!!! お願いだからお父さんを巻き込まないでっ!!!!!)」
「――――お母さん、僕はここにいるから。だから一緒に強く生きていこう、もう一度やり直そう」
「(だめええええぇえええええええぇええええええぇぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇえぇぇっっっつ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)」
緑くんの声が涼子さんに届いてしまったかはわからない、でもその気持ちごと全部届いてしまったら取り返しの付かないことになってしまうから、心の弱い涼子さんはこんな“まやかしの幸せ”を信じてしまうから、私は必死に抵抗した、一度は司を託したけれどこんなことを許していいはずがなかった。
「ダメだっっ!! 頭が割れそうだ・・・・・・、あっ・・・いたいいたいいたいいたいいたい・・・・・・!!!!」
一瞬体調が戻ったかに見えたが羽佐奈はどんどん苦しみだし、何が起こったのかわからないまま病室を出て走っていった。
そして・・・、何が起こったのかわからず呆然としたまま病室には俺と涼子が残された。
先ほどの言葉が気になっているのか涼子は羽佐奈のことを追いかけることが出来ずじっと立ち止まっている。
一言言えば何か重大なことが壊れてしまいそうな空気だった。俺も涼子のことを置いてはいけず羽佐奈のことを追いかけることはできなかった。
病院内を走る激しい振動が緑くんを通して私まで伝わってくる。
緑くんは頭痛に耐えられず、そのまま息苦しさに耐えられず病院の屋上に上がった。
シンシンと降る雪が身体を沁みるように緑くんは私の身体を休めるように立ち止まった。
私は危惧したのはたった一つ、涼子さんがたとえ私のことを緑くんだと受け入れたとしてもお父さんはそれを許さないだろうし、私のことを緑くんだと受け入れることは考えられないからだ。
私がこの身体に干渉出来ない限りすれ違いは続いていく、そうすればお父さんと涼子さんの関係も壊れてしまう、私にはそれだけはどうしても許せなかった。
私には雪の冷たさは視覚を通してしか感じられない、それは想像することと同じで、私はただ涼子さんが誤解をしないようにと祈るしかなかった。
*
シーン4「アイシテル」
“世界の終わる音が聞こえた”
“僕は僕ではなくなって、静かに高い空へと昇っていく”
“空はあまりにも高くていつまでも終着点がない”
“僕はずっとずっとゆっくりと昇っていく”
“でもなんでだろう・・・・・・意識がある”
“僕はもしかして、まだ生きたいのだろうか?”
「(どこだろうここは・・・・・・、校舎の中?)」
気付けば僕は夢を見ているようだ。制服姿の僕が不自然なくらい挙動不審に職員室の周りを歩いている。
一体いつの記憶だろうか? 自分が何も干渉できないことでなんとなく過去の記憶であることはわかった、少なくとも今の僕はここまで不審な動きはしない、学校に再び通い始めて最初の頃だろうか、それなら納得がいく、あの頃は勇気を出して周りに溶け込もうと無関心さを装っているつもりだったがやっぱり人間を恐れていたから、だから何も人に尋ねられず困ってばかりだった。
僕はなにやら数十枚の束になったプリントを持って職員室の周りをキョドキョドとしている。
「(確か・・・、この記憶って・・・・・・)」
僕はなんとなくこの情景を思い出していた、そうだ僕はこの時に・・・・・・。
突然すっと風が吹くような鳥肌を感じた、一人の女子生徒と一瞬すれ違い僕は自然に惹かれるように横顔だけを伺った。一つ結びにされたサラサラな長い黒髪と僕よりも何センチも身長の高いスラっとした制服姿、見えたのは一瞬のことだったけれど今まで感じたことのない、見惚れるほど綺麗な横顔だった。
女子生徒はすれ違ったと思いきや僕の方を振り返って唐突に僕の前に立った。
「どうしたの? 何か困ってるみたいだけど?」
女子生徒は少し僕の目線に合わせるように前屈みになって優しい声で僕に問いかけた。
突然の親切心に見惚れたままの僕は驚いた。名札を見てそれが上級生だとわかった。
―――そうだ、思い出した。この時が羽佐奈との初めての出会いだった。
三学期のまだ初めの方、この時はまだ学校にも慣れてなくて困ることが多かったのだ。
僕は動揺してすぐに答えられなかったが名札から名前はなんとか認識することは出来た。
返答のない僕を見て困ったように女子生徒の赤津さんは僕を見つめている。
僕は見つめられれば見つめられるほどどうしようもないぐらい恥ずかしくなった、なんでこんなモデルみたいに綺麗な子が普通に学校に来てて僕に話しかけてくれているのか、僕の自意識が生んだ過剰な反応であることはわかっていても、今現在進行形で見つめられている状況では冷静に応対することなんてとてもできなかった。
「あ、そっか、2組のプリント持ってきたんだ。珍しく緊張してるのね。いいよ、貸して? 私が持っていってあげるから、吉沢先生のクラスでしょ?」
そういって赤津さんは優しく手を差し伸べて僕の持ってきていたプリントを預かった。
すぐにそのまま赤津さんは職員室の中へと消えていく。
体感にして一瞬のことで僕は何が起きたのかわからずプリントのなくなった手を見つめていた。
―――僕が羽佐奈と次に出会ったのは図書室だった。その時まではもう数ヶ月過ぎていて羽佐奈は覚えていなくて僕を根っからの本好きの図書委員だと思って話しかけてきたのだった。その頃には僕も人に少しは慣れて緊張はしたけど会話を成立させることはできた。
そう、あまりに長いかもしれないけれど僕は最初の時から羽佐奈に一目惚れしていて、結局半ば強引な形で付き合うことになるんだった。もちろん最初の頃は恋人関係であるということを認識すること自体も大変で、何がなにやらわからなかった。
でも長い時間を経て少しは恋人らしくなった気がする。
それでも、僕はずっと羽佐奈を決して届かないあこがれの存在のように見ていた。その感情が僕にとって正しかったのかどうかはわからない、でも僕は羽佐奈と一つになることを切望しながらもそんな自分に嫌悪感を抱いているのも事実だった。
どちらにしても僕にはあまりある幸せに他ならない、それ自体が罪なのかもしれないし、ずっと付き合い続けることで負担になっているのだからもちろん罪であって間違いないのだと思ってきた。
羽佐奈は僕の事を守ってくれているから、でも僕は少しも羽佐奈の力にはなれないから、羽佐奈の存在だけがずっと大きくなる、それは僕にとって眩しすぎて、僕は確実に彼女の可能性を奪っていっていた。
“でも、そこまでわかっているのに・・・、僕の心は羽佐奈の事を欲しくてたまらなかった”
“僕は今も変わらずに、羽佐奈の優しさに触れていたい”
“そう、だから今になってずっと心の奥に仕舞ってきた最初の思い出を思い出したんだ”
それは紛れない僕の自意識、僕のどうしようもなく切望する“願い”。
上昇を続けていた僕の魂が地上の見えない宇宙の真ん中で停止した。
「ここに、あなたの求めるものはないから、あなたはまだ引き返すことが出来る、時間は止まったままじゃないから。
―――だからあなたも生きて、待っている人がきっといるから」
声が聞こえた、どこかわからない所から少し懐かしい声が聞こえた、その瞬間僕の心はどうしようもないくらい震えた。
「真実が確率や統計だけで計れるものでいいの? それだけじゃあ人間は幸せになれないよ、人間は自分の意志がなきゃ人を変えることも傍にいることもできないよ」
これは羽佐奈の声だ。羽佐奈が喧嘩に遭っているところを助けてくれたんだ。
そう、羽佐奈は羽佐奈自身の意志で僕を変えてくれたんだ。
「―――どうか通じて、私はこんなにも精一杯に頑張ってる、司くんとの時間を大切に思ってる、失いたくないと思ってるんだよ」
うん、見ていたよ、羽佐奈は僕を守るために率先して喧嘩を打って出てくれたんだもんね、そこまで人の恩を受けたことなんてなかったから僕はビックリしたよ。
「―――どうか悲しみの殻の中に籠もらないで、きっと大丈夫だから」
そうだね、羽佐奈の言う通り、僕も戦わなくてはいけないと思った。だって僕だって羽佐奈が傷つくことは耐えられないから、だから勝てないってわかってたって無我夢中でやり合ったんだ。
「行かないで! 好きなんだからそばにいさせてよ!!!!!」
ごめんよ、僕と一緒にいればまた羽佐奈は被害を被る、それは守る力のない僕にとって耐えがたいものだったんだ。
「いいの、これは私が望んでしたことだから。
ねぇわかる? この温かさが本当の人の温かさなんだよ、私はね知って欲しかったんだ司くんに、本当に大切な気持ち。
それはね、本当は掴むのも難しいほど尊いものだから
たとえ小さな幸せであっても大切に思えるの
そしてそれは一人よりも二人の方がもっと大きな幸せに感じられるんだよ
会おうと思えば何時だって会える、そんな関係でいたかった。もっと気軽で安心していられて、だからあなたじゃなきゃダメなの、他の誰でもないの、私はまだこのままじゃあ強くなれないから、だからあなたが必要なの、あなたは私のことをちゃんと見てくれるから」
“そうか、気付けば羽佐奈はこんなにも近くにいるんだ”
“僕を構成する一部になってる”
“それは僕たちが同じ絆を共有してきた証なんだね”
紛れのない、羽佐奈の声が沢山聞こえた。
それは彼女にとっても僕にとっても、思い出という大切なものの中で真実であり続けている。
そして僕はもう一度立ち上がる決意をしないといけない。
僕の身体が地上で待っているから、まだ死んでなんてない、こんなことじゃ死にきれないんだ。
“僕の魂が唐突に重力を持ち出し急降下を始める”
もの凄い重力の暴風に耐えながら僕は自分の身体のある場所へ向かって地球の地上目指し降下していく。
地上に近づく事に微かに羽佐奈の声が聞こえる。これは・・・、ついさっきの出来事? 僕の身体に記憶が残されてる。僕の身体にはもう少年はいない・・・、少年は羽佐奈に憑依したんだ。これが少年の本当の目的、僕の身体はコンテナの中に放置されている。
羽佐奈は悲しんでる、僕と会えないことを、もう一緒にいられないことを、このままじゃ羽佐奈の魂もさっきの僕のように天に昇ってしまう、もう二度と一緒にいられなくなる、僕に出来るのだろうか? 僕に取り戻せるだろうか? 少年から羽佐奈を取り戻さなければならない・・・、でも今は自分に出来ることをするしかない。羽佐奈から教えてもらったこと、沢山の大切なこと、僕の中に確かにあるもの、僕はそれを信じる、今度は僕が羽佐奈のことを守れるように、そうやって僕たちは生きていくんだから。
僕は長い降下を終え僕の身体へと到達する、僕は身体の感触を確かめながらもう一度踏み出せることを確かめる、時間はそれほど残れていない、僕は立ち上がり羽佐奈のいる場所を目指して走り始めた。
*
心電図は何事もなかったかのように同じ振動を繰り返し、枯れることなく電子音を鳴らし続ける。ドアが開いたままの病室で時間は静止していた、何から口にすればいいのか分からない、感じ取ったことをそのまま言ったとしても通用するものであるとは言えない。
「幸せって何なんでしょうね・・・・・・」
涼子が長い沈黙を破った、涼子はまださっきの言葉を悩んでいるようであった。
「それは・・・、自分で考えるしかないのだろうな・・・、人に任された幸せじゃあいつか目が覚めたとき、自分の責任としか受け入れられないからな」
正論だけでは心が揺らぐばかりだろう、それでも俺は口を閉じることは出来なかった、俺にとっての幸せは羽佐奈と一緒であることが前提であるから、俺の意志が揺るぐことがあってはならないのだ。
「あなたは強いのね、私はまだ何かにすがっていないと生きていられない・・・」
「俺はここにいるよ、確かめたければ好きにすればいい」
「そう・・・、やっぱりバカみたいね・・・、私は私のままでいいのよ。最初から覚悟はできているもの、そうよね? だって羽佐奈さんは羽佐奈さんなんだから、他に変わりなんていないものね」
「そうだな、それはよかった。確かめる手間が省けたな」
涼子は自分の感情を自分で抑えた、それは俺のことを信じてくれることでもあり、涼子にとって緑くんも羽佐奈も一人しかいないことを表していた。
「大丈夫よ、羽佐奈さんは強いもの」
「なんだかな、予感がするんだ。今日はクリスマスイブだからな、恋人達が街を行き交い、絆を確かめる日なんだから。だから羽佐奈の大切な人が羽佐奈のことを守ってくれるんじゃないかと思うんだ。だってその方がロマンチックでいいだろ? きっと羽佐奈もそれを望んでいるだろうから、俺はそれを信じてみようと思う」
それは一つの大きな賭けなのかもしれない、でも俺はそうあればいいなと思った、なんだか今日はそんなことが当たり前のように起きる予感がするから。
「日和見ね、元警察の人がそんなのでいいのかしら」
涼子は笑みを浮かべながら言った、おかしいくらいクサイセリフを言ったもんだからすでに涼子は呆れ顔だった。
「こういう時の勘は意外と当たるんだよ」
病室に笑いが戻る、もう先ほどの憂鬱とした空気は消え、二人はデートの時のような信頼し合う関係に戻った。
*
信頼する二人をよそに、緑は地に手をついて息を吐きながら苦しんでいる、羽佐奈は自分を失わないように必死に抵抗を続ける、そして司は羽佐奈の元を目指しで走っていた。
時刻はすでに20時を過ぎ病院の電気は一つ一つと消えていく、未だ溶けることのない雪は地面に深く根付き、人の足跡や車のタイヤの跡でいっぱいだった。
海岸都市の上空を隠れていた星がパラパラと輝き初め、暗い上空に小さなプラネタリウムを創り出す。恋人達は何事もないように街を行き交い、走っていく少年を何事もなかったかのように振り返りもせずに通り過ぎた。
―――ラストシーン 「永遠の絆を探して」
僕は雪道を走り続ける。今更迷いなんてまるでなくて、もう一度羽佐奈と会うことだけを願って走る。病院に着いた僕はほとんどの電気が消えているのを確認し、どれだけ自分が眠っていたんだと嫌気がさした。僕は夜間入り口から出来るだけ足音を立てないようにと努めるが走るのをやめるほどに我慢は出来なかった。今更誰に見つかったって困りはしないし、僕の行き先は最初から決まっていた、僕は面倒なエレベーターは使わず奥の階段から一段一段上っていく。息が上がりそうになるのを抑えてひたすらに最上階目指して昇る、もう羽佐奈がすぐそばにいるように感じた。
最後まで昇り終えると僕は屋上の扉を開けた。
冷気に染まった冷たい風が屋上を吹き荒れていた、僕は羽佐奈がいるのを確認すると一歩ずつ奥に進んでいく。
もう、すぐそばにいる・・・、僕は僕の存在を伝えられるように叫んだ。
「―――――羽佐奈ぁぁっっっ!!!!!!」
心から愛しい人の名前を呼んだ、羽佐奈は苦しそうに僕に振り返った。
「―――――羽佐奈ぁぁっっ!! 負けるんじゃない!! 打ち勝つんだ!! 自分を信じて!! 僕とこれからも一緒にいたいんだろ!! 素直になれよっっ!! 僕も羽佐奈と変わらないぐらい一緒にいたいんだからっっっ!!!!!!」
擬音のようにガラスにヒビの入る音が聞こえた。
「ああああああぁぁぁぁああああぁぁ・・・やめろーーーっっ!!! 頭が焼けるっっっ!!!!!!」
少年の言葉で羽佐奈が悲鳴を上げる。羽佐奈が必死に抵抗している証だった。
僕はさらに近づいて羽佐奈のほんの足下まで到達する、とても辛そうな顔をしているのも近くで見るとよくわかった、早く解放してあげないと、そのためには少年を成仏させるしかないのかもしれない、それでも僕は羽佐奈を守るために容赦しないつもりだ。
「何を言ってるんだよ・・・・・・、人間なんて最後にはエゴしか残らないじゃないか・・・・・・、僕はずっと一人だったんだぞ・・・、僕は羽佐奈とずっといたいだけなんだ・・・っっ、それの何がいけないって言うんだよ!!」
少年は僕に向けてきつく言葉を吐く、孤独の中で少年の心は変質してしまったんだろう・・・、それほど変わらない僕だから痛いくらいに気持ちは分かった、でもそれじゃあ何一つ解決しないこともわかっていた。だって少年がいたいという羽佐奈はこんなことを望んじゃいないんだから。
「優しさはそんな万能じゃないんだ、それじゃあ優しさにはならないんだ・・・・・・、僕らはそうじゃないと何一つ自覚できない・・・、何一つ前に進めないんだ」
僕は羽佐奈の身体を抱きしめた。羽佐奈に憑依した少年が必死に抵抗するが決して話さない気持ちで僕は腕に力を込めて身体を押さえる。心が身体から溢れるように飛翔して僕は自然と羽佐奈の心のある位置が分かった。そして少年にだけ聞こえていた羽佐奈の声がようやく聞こえた。
「―――緑くん、涼子さんはこんなことを望みはしないんだよ」
私は緑くんに向かって訴えかける、これはすでに私の意地なのかもしれない・・・、司も来てくれたのだから無理矢理にでも緑くんを引き剥がし霊体に戻すことは出来た、しかし無理矢理引き剥がしたのでは緑くんは行き場もなく彷徨ってしまうだろう。
本当の身体に戻ることが緑くんにとって適当かつ自然的なのだから、そうしないと緑くんの肉体の方が死んでしまったら緑くんの霊体は行き場を失って上手に成仏できなくなってしまう。
私は緑くんを納得させて本来の自分の身体へと戻させないとならない、そのためには言葉で訴えかけるしかない、このまま緑くんが私に憑依しつづけることを誰も望みはしないから、それじゃあ誰も幸せにはなれないから。
「・・・・・・そんなのおかしいじゃないか!! お母さんが僕を見捨てることなんてあるわけないじゃないか!!!」
「偽りの身体じゃ誤魔化し続けることなんてできないの、涼子さんは頭がいいからわかっちゃうの、だからその証拠に涼子さんはここに来ないのよ、緑くんが本当の身体に戻ることを待ってるのよ」
涼子さんはお父さんの説得してくれたかは分からないけどきっと納得してくれていると思う、こんな非現実的な関係を維持することなんて出来ないから、涼子さんはきっと待ってくれていることだろう、随分時間が過ぎたんだ、ここにいないのだから私はそう信じる。
「――――じゃあ、僕は死ぬしかないんだ」
緑くんは自分の本当の身体がもう長くないことを自覚しているのだろう、そうでないとこんなことはしない、誰にだって生きる権利はある、その摂理はあまりにも現実を歪ませていた。生きたいというそれだけの感情を否定するのにどんな慰めが通用するのだろうか・・・、私にはとてもそこまで考えられるほどの人生経験も高尚な知恵もなかった。
「ごめんね・・・・・・、私にはもう祈ることしかできないの」
「そうか・・・、羽佐奈は人間だったね・・・、高いチャネリング能力を持っていてもやっぱり人間なんだ」
静かに時間が流れる・・・、司にも私の気持ちが伝わったのか私と同じように祈る、それ以上にできることはなかった。
一分・・・、二分・・・、三分・・・・・・、時間だけがただ過ぎていく・・・、緑くんが決意を固めるための時間・・・・・・、私と司はただただ祈り、待ち続けた・・・。
そして羽佐奈の身体が光り輝き始める、命が煌めくように、眩い光が照らす中、ゆっくりと球体をした魂が羽佐奈の中から上昇を始める。それは祈りが力に変わるような不思議な感覚と一緒に魂へと送られ、少年は静かに羽佐奈の身体を離れていく。
「―――ありがとう・・・、私に記憶を取り戻させてくれて・・・・・・」
羽佐奈はそう一言、離れていく魂に向かって言葉を伝えた。
羽佐奈は聞いたのかもしれない・・・、でも僕にはもう少年の声が届くことはなかった。
抱き合う姿勢のまま止まっていたが、やがて僕の身体に向けて徐々に力が込められる、それで羽佐奈が徐々に自分の身体を取り戻していることがわかった。
「司はやっぱり・・・、温かいね・・・」
羽佐奈は取り戻した身体で呟いた・・・、張り詰めた緊張感が抜けてそれは心地よく聞こえた。
「僕にはやっぱり羽佐奈が必要だってよくわかった・・・」
「私もだよ・・・司、やっぱり私たちは一緒じゃないとダメだね・・・」
「うん・・・・・・」
抱きしめる腕に力が入る、お互いを温め合うようにずっと僕は羽佐奈と抱き合う、今はそうしているのが一番幸安心できて幸せだった。
「最後何か言っていたかい?」
「う~ん・・・、それは秘密かな・・・、緑くんの名誉のためにも・・・、それに噛み締めたいの、私の一生に思い出になることだから。ゆっくりと、緑くんが最後に伝えたかったことだから、こんな大変な思いをしてまで伝えようとしたことだから」
それは僕に直接作った羽佐奈の初めての秘密かもしれない、でもその秘密を僕は聞こうと思わなかった・・・、きっとそれは羽佐奈にとって大切な言葉だから、だから僕はそばにいる羽佐奈のことを抱きしめる、僕にはこれ以上の幸せはないから。
「まだ言ってないことがあった・・・」
「なに? こんな恥ずかしいことまでして・・・」
「愛してる・・・・・・」
「ばかぁぁ・・・」
僕たちはお互い赤面して目が合うだけで心臓がドキドキと鼓動をして、どうしようもない状態になった。
「僕はもう迷わないよ・・・、だからいくら恥ずかしいことしたって嫌わないでね」
「今だって・・・、十分に恥ずかしいわよ・・・・・・」
出会った頃よりも少し大きくなった僕は羽佐奈とこれからも一緒にいることを選んだ、僕の胸に顔を埋める羽佐奈はずっと恥ずかしそうに顔を伏して僕に顔を見せてくれない・・・、そんな異常なくらいのかわいらしさを僕はかけがえのない大切な人の仕草だと喜ぶと共に大切にすることを誓った。
「あらあら・・・、随分私的には心配してんたけど・・・、余計なお世話だったみたいね」
「俺のカンもたまには当たるだろう?」
「何を言ってるの、二人の絆が生んだ奇跡でしょ」
俺と涼子はこっそりと屋上にやってきた、そこには恥ずかしいくらいに寒空の下で抱き合う羽佐奈と司くんの姿があった。
「これでよかったのか?」
「いいのよ、錬金術みたいなものでしょう。私だってその代償の大きさはわかっているわ、だから、今ある現実を信じるわ。きっとあの子たちの方が何が起こったのかわかっているはずだから、そんな都合のいいことはないって」
「そうだな・・・、何事も地道な努力が大切か」
なんでこんな地味な言葉で締めようとするのかわからないが俺は結論づけた、こんなハッピーエンドだって悪くない、俺には十分なくらいの結末に違いない。
「まるでキリストの復活のようね、幻想的なまでに眩しくて。肉体を失うことで魂を亡くし、肉体を取り戻すことで魂を蘇らせる。それがあの子にとっての愛を取り戻す方法なんでしょうね」
涼子のよくできた例え話だった、俺はせっかくだからその例え話に乗ることにした。
「そういえばもう21時、降誕祭の時間か・・・、時刻はキリストの誕生、起きた出来事は一晩にして起こるキリストの復活・・・、まるで演劇のようだな」
キリストの誕生である降誕祭はクリスマスイブの日没の夜21時から翌日の25日の日没まで続く、これがクリスマスイブが「クリスマスの夜」であるのに前夜と言われる所以だ。今でこそ恋人達が街を行き交う日ではあるが一応キリスト教における意味合いもあるのだ。
「ねぇ、私はね、人間は一度きりの人生だから生きる価値があって、それを意識的に享受できると思うの。
だからあの子には一度の人生として生きて欲しいわ、そのためにはやっぱりあなたが必要不可欠だと思うわけだけどね」
「ははっ・・・、それは責任重大だな。でも大丈夫さ、羽佐奈は過去の記憶に打ち勝ったんだ。そして今は大切な支えとなる人といる」
涼子も新しい決意ももっとこれからを生きていくことだろう、なぜだか今日一日でお互いのことが凄く分かった気がする・・・、そういえばそうか、これがクリスマスの力なのかもしれないな。不思議とそんな集団的幻想を信じてみたくなった、だって理由なんて後付けされたものだ、大切なのは、相手を信じること、それは改めて羽佐奈から教えてもらった。
「俺は先に帰って夕食の支度でもするかな・・・・・・」
「ダメよ、今日は帰すつもりないから・・・、それにせっかくなんだからここは空気読んで家は開けておいた方があの二人のためでしょう?」
「それは・・・、親として胸が熱くなるな・・・・・・」
そんな放任主義を許したくはなかったが、涼子に言いくるめられては無理に妨害するようなマネはできず、俺は涼子と共に屋上を後にした。
「ホントに羽佐奈にはヒーリング師の才能があるんじゃないかと思った」
「そんなものないわよ・・・、あったとしても私は信じない」
そんなことを考えてはキリがないだろうから・・・、私は助けたいと願っただけ、それは現象として不可思議なものだったかもしれないと思うけど、私は自分のしたことが特別なことだとは思わない。
「すっかり疲れちゃってね・・・」
長く続いた緊張が解け、私はすっかり脱力してしまった。
「そうだね・・・、長居するのは辛いし早く帰ろう・・・」
「えっ? 今日はずっと一緒にいてくれるんでしょう?」
私は司との時間を楽しむ、本当だったら今日は一日中デートの予定だったけど、今はそんなこと全部忘れるくらい感動的な幸せを共有してる。だから私は後悔しない、私なりに頑張った結果だから。
きっとこんな時間まで病院にいたら怒られてしまうだろう・・・、でもそこは一応謝りさえすればそれで大体のことは解決できる。
やっぱりここは寒い、寒いから大切な人を傍に感じられるとか綺麗事を言ったけど、やっぱり寒い、我が家はきっと暖かい場所だから、お父さんがもう帰ってるかは分からないけど、とりあえず司だけは捕獲して我が家に帰ろう、きっと温かいシチューでも作れば喜んで貰えるだろう、そう思えば疲れで失った身体の感覚も蘇って軽く立ち上がることが出来た、私は司と手を繋ぎ屋上を後にする。気付けばもう長く降り続いた雪は降り止んで、いつもと変わらない夜空がずっと先まで続いていた。
最後まで読んでくれた方、お疲れさまです、無事完結です。
とはいうものの結論的なものとしてエピローグは書きます。
内容は大体想像できる範囲内のものだと思います。
物語としての総括はエピローグの後にしたいと思います。
感想等何かありましたらお待ちしておりますので、よろしくお願いします。




