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最終章前編 「You want to go back」

 いよいよ最終章です。最後というだけあって一番長い章になりました。お見苦しいところもありますがどうぞよろしくお願いします。

 この章は視点がコロコロと変わるのでその辺りも踏まえて楽しんで貰えると幸いです。

 では参考まで第三部のここまでの簡単なあらすじをこの後載せておきます、気になる方はご覧ください。


「第三部あらすじ」


 ジャックとクイーンとの事件に一段落した羽佐奈だったが、父の敏夫の再婚問題が気がかりなまま畑山さんの差し金で食事に出掛ける。そこで涼子のことを聞き、お互いゆっくり考えていくことを確かめる。

 休日、司とデートに出かけた羽佐奈はクリスマスイブにデートをすることを約束する。しかし後日、羽佐奈の家で遊んでいた帰りに司は少年の差し金を元にキングに憑依されてしまう。少年は司の身体へと憑依し、司のことを探す羽佐奈であったが無理がたたって風邪になり捜索を中断する。

 そしてクリスマスイブの日、デートが出来ない失意の中羽佐奈は郵便受けに入れられた一通の手紙を見つける。それは司を誘拐した犯人からの手紙、羽佐奈はもう一度自分の足で司を捜索することを決意し、司のいるとされる海岸都市を目指し、試練の果てついに司を発見する。


 

私はね、ある時願ったんだ。

   ―――みんなが幸せでいられればいいって


  でもね、やっぱりそれって簡単な事じゃないって気づき始めたんだ


みんなの幸せをと考えれば考えるほどそれは凄く難しいことだってわかって

 ―――それで気がついたら、私は一番大切なことまで見失ってしまっていた


ねぇ? どこで私は間違ってたのかな?


声は星を渡るように願いとなって答えもなく響き渡った


これからもずっと生きていたいよ・・・

             ――――あなたと。


最終章 「You want to go back」


シーン1「二つの身体、三つの魂」


 どれだけ雪の中を走ってきたのだろう。凍り付きそうなほどの海岸線も、車のバンカーに溜まった雪の固まりも、どれも想像を絶するものだった。

 慣れるわけもない寒さと、押しつぶされそうな不安の中、何度も諦めそうになりながら一つの願いだけを心の支えにここまでやってきた、中身の想像も付かないくらいの沢山のダンボールや箱物のあるコンテナの中を外から差し込む明かりだけを頼りに中へと進んでいく、私にはもう研ぎ澄まされた感覚だけでそこにある探し求めてきた影が見えてしまっていた。

 外の温度差もさることながら埃っぽさが喉と鼻を刺激する、少し進むと確かな明かりが伺えそれがダンボールを台に置かれたいくつものロウソクの明かりであることがわかった。


「来るのが遅いから、ロウソクの明かりが全部消えてしまいそうだったよ」


「つかさ?! つかさなの?!」


 私は気が動転しそうなほどの驚きと共にぼんやりと浮かぶ正体不明の存在に向かって大声を上げた。儀式的な何かを連想させるようないくつものロウソクが一人の少年を薄く照らし出し幻想的な光景を作り上げている。私は少年のその声、その体つきからその存在を司だと判断した。

「僕は僕であると同時に彼でもあるよ、そういう意味で羽佐奈の思ってるものとは違うかもしれないね」

 司は意味の分からない言葉を私に告げた。緋色に包まれた瞳が私の心域を刺激しそれが司ではないように錯覚させる。なんだろう・・・、今まで感じたことのない様なプレッシャーが私の胸をゾクゾクと刺激し緊張感を滾らせる。

 一歩一歩歩く毎に司の姿は確かなものになり、それが本当に司だと視覚出来るようになった。

「司? 司だよね?? 帰ろう? 早く、こんな所にいたら寒いでしょ?」

 私は優しく語りかける、司がどうしてこんな所にいるのか、なぜここで私のことを待っていたのか、今の私には理解できなかった。

「羽佐奈、目を背けてはいけないよ、君はここに来るまで試練を乗り越えてきたのだろう?」

「私は司を迎えに来たの、それだけだよ」

 なんでだろう、口調も違うし表情もキツイ、せっかく会えたのにどうしてこんな態度をしてくるの? まるで私の知ってる司じゃないみたい・・・・・・。

「残念ながらこの身体を彼に返すかは羽佐奈次第だよ」

「どういうこと?」

 事も無げに司の姿をして言ってのける、私には理解できない、こんな不条理を許してしまったら現実といえるすべてのものが判別できなくなる。私は不安に駆られた、これは冗談ではなく確かに司自身に起こっていることだ、無理に連れ戻すのは容易ではないのかもしれない。

「羽佐奈がここまで来れたことに敬意を称しすべてを話してあげるよ、僕は君と再会するのをずっと心待ちにしてきたのだからね」

「あなたがすべての元凶だというの?」

 最近のオカルトな事件もろもろ、個々の事件として取り扱えることもできるが明らかな類似性や点と点を繋ぐに想像の苦しくない出来事の数々が頭の中を連想される。確かな異変の根源がここにあると判断するに十分なほど、この場にあるものは常識を逸脱していた。

「君は現実に見えることがすべてだと思うかい? 根源にあるものはいつだって想念だよ、僕らはそれによって成り立ってる、僕らは自意識なしにも物事を認識することは出来ない、だから僕がここにあるという根拠は僕と君が認めるだけで成立するんだよ。そこに科学的根拠を求めるなんて不毛な類だよ、人間を支配しているのは自意識に他ならないのだから」

 一つ一つ言葉を噛み砕こうとしても記憶するのもままならないほどに難解な内容だった。

しかしかろうじて司の姿をした彼の存在を「認めるべき」か「認めざるべき」かを最初から私は問われているのだとなんとなくわかった。

 でも仮にそうだとしてなんだというのだろう? そこから何が見えてくるというのだろう? まだ私にはそこまでは読み解くことが出来ない、論点によって変わるだろうが現時点ではどう見ても彼の方が一枚も二枚も上手だった。

「答えになってないわ、あなたは司のなんだと言うの? 私には確かに霊感のようなものがある、それがいつから“視える”ようになったかって具体的なことはわからないけど、何か非現実的なものを感じることはある、でもそれが実際問題として現実に作用しているとは判断できないことだよ」

「しかし判断できなければ、物事は仮定しないことには進むことは出来ないよ。そこで思考停止してしまったらもう何も僕の声は届かなくなってしまうだろう、そうすれば彼の魂もこのまま僕が食い尽くすことになるよ」

 認めるわけじゃない・・・、でも彼の話を聞かない限り何一つ踏み出せる要因がない。

 それは彼のルールに従うという一種の縛りゲームのように思えた。

「私は司のことを返してくれればいい、それだけなの・・・」

 私の願いは一つだけ、それが揺るぎないものであればあるほど私を締める縄はキツイものであるように思えた、自分で自分の首を絞めているのか、しかし私には計算付くでなんとかしようという考えには及ばなかった。

「大丈夫だよ、僕は羽佐奈の事を一番想ってるんだから。

 でも正直羽佐奈の優秀さには驚かされたよ、ジャックを自殺に追い込み、クイーンを憑依体から乖離させ、キングを解放したんだから。雪が降っていたのに今日は頑張ったね、本当は来れないんじゃないかって少し後悔してたんだ、キングも無事天に昇ったようでよかったよ、本人も分かっていたようだけどあれ以上はどのみち活動限界だったからね。羽佐奈に看取られたのなら光栄なことだろう」

「何のこと言ってるのかわかんないけど、全部あなたが仕組んだことなの?」

「彼らが自分の意志で判断し望んだことだよ、僕の願いに応えてくれた、それ以上でも以下でもない。

 ねぇ、そんなことよりさ、せっかく準備したんだ。ずっと置き忘れてきた“誕生日パーティー”をしようか」

 ローソクの刺されたケーキを私は見た、それはもはや狂気的な光景だった。

 いつローソクに火を付けられたかわからないが5本のローソクはすでに半分以上が溶けてしまいケーキをロウで覆い隠さんとばかりに広がっている、さらに司の背後には誰なのか分からない死骸が無造作に放置されている。

「どう考えてもおかしいじゃない!! なんだってこんなことをしないといけないのよ!!」

「何事にも犠牲は尽きものだよ、現世に留まるために憑依体は必要であった。

 すべては羽佐奈ともう一度会うためだよ」

「じゅあもういいじゃない!! 早く司を解放してよ!!!」

「そうはいかないよ、僕たちは繋がっているんだ、これは僕の意志であると同時に彼の意志でもあるからね」

 不明瞭な動機のためなのか、彼にとって何が正常なのか、まるで理解できない。

 でも彼が黒い犬の言っていた主様だというのなら、私は彼の願いを・・・・・・、未練を断ち切らないと行けない。それがあの犬から託された願いなのだから。

 私は著しく冷静さを失わないように出来るだけケーキや死骸を見ないように努める、私まで狂気にやられてしまったらどうにもならない、私は彼の言葉に耳を傾けた。

「さぁプレゼントも用意しただろう? もうせっかくの誕生日なんだから少しは楽しもうじゃないか」

「私の誕生日はクリスマスじゃないよ・・・っ」

 私は訴えかけるように言った、私には彼の望みを叶えてあげることは出来ないと激しく感じた。

「ごめんなさい・・・、私、覚えてないの・・・」

「そんなことないよ、覚えているよ。夢を見ただろう? 僕は君の記憶を見たんだから」

 取り戻せる? この人と一緒になることで・・・、失った頃の記憶を取り戻せる。

「そっか・・・、やっぱり君が夢の中で見た男の子なの・・・?」

 私は手紙の中に入っていた光輝くカードを取り出した。ホログラムの表面がロウソクの明かりで目映く輝き持っている手まで震えてくる。そしてそのカードの裏には確かに男の子の筆跡で“たんじょうびおめでとう”と書かれていた。

「全部本当のことだっていうの? 夢で見たことも全部、こんなことがあなたは真実だって言うの?」

 紛れもない証拠が手の中にあって揺るぎない真実であると訴えかけてくる。その証拠が私が何度かにかけて見た男の子の夢、交通事故の夢、それらを過去の現実としてすべて繋がっていることと証明していた。

「ようやく気付いてくれたのかな・・・、それじゃあ僕から全部話した方が早いね」

 10年前の記憶、私が忘れてしまっていて彼が覚えている記憶、夢の中の男の子は司の姿でゆっくりと語り始めた。

シーン2「君と一つになるために」


 ――およそ10年前、僕は羽佐奈と約束をした。誕生日に羽佐奈の気に入ったカードをプレゼントをすると、そして一緒の時間を過ごすと、小さな僕にとって羽佐奈と一緒の時間は何よりも楽しく大切であったから、僕はその約束を一番の楽しみに生きてきた、そう、あの交通事故の日まで。

 ――誕生日の日、期待に胸を振るわせながら、君に会うために誕生日パーティーをするというファミレスへ向かって走っていた。一分一秒が惜しいと思うほどに僕は急いでいた、早く会いたかったから、早く羽佐奈の喜ぶ顔が見たかったから。


しかし僕が無事であることはなかった。突然のトラックとの交通事故、あまりにも唐突に起きた衝突だった。


僕の魂は身体を離れ衝突したトラックと同化した、君に会いたいという想いはそのまま止まることなく僕はトラックと共に走り出した。無意識に時速は加速し、気がつけば僕は君を吹き飛ばした。

僕の魂はそこで目を覚まし自意識に目覚め自分のした罪を知った、そして君の魂は眠り視界を閉じた、僕は罪に苛まれ贖罪を決意した、僕はそうして現世に留まることを選び君の名前を呼んだ。

 「羽佐奈! 羽佐奈! 羽佐奈!!」

 君の名前を何度も呼んだ、確かに君は生きていてまだ自意識に目覚めていないだけだったから。

 「羽佐奈! 羽佐奈! 羽佐奈!! 羽佐奈!!!」

 ひたすらに僕は叫んだ、君にこの願いが届くようにと、君がまだ生きていることが伝えられるようにと。

 そして目覚めるまで何年もかかった。

 僕の声のお陰もあって長い眠りから君は目を覚ました。

 それはまさしく奇跡だった、しかし気付けば僕は死ぬことも生きることも出来なくなっていた。君が目覚めることだけを願い、君が生きることをだけを願って現世に留まった、魂の離れた君に声を語りかけられるのは僕だけだったから、それは僕の役目であったから。

 だから僕は君が目覚めたのを見送り無理にでも命を終わらすべきだった。

 でも僕の気持ちは何年もの月日の間に変わっていた、こんなにも君を想うようになり、君を見ているのがしあわせになっていた。僕はそれからも君の成長を見送ることにした。


目を覚ました君は食事を出来るようになり

一人で歩けるようになり

病院の外に出られるようになり

退院してお父さんと二人で暮らし始め

買いものをし

料理をし

洗濯をし

立派に家事をこなすようになり

君は初めて学校に通い始めた

そして勉強をし

友達を作り

恋をし

背を伸ばし

成長をし

いろんな服を着るようになり

アクセサリーを付けるようになり

化粧を覚え

綺麗になっていった

子どもの頃とは比較にならないほど綺麗になった 


僕はただその成長していく姿に恋いこがれた、そして僕は願った、もう一度会えるようにと、ちゃんとこの気持ちを君に伝えられるようにと、それがすべてのはじまりだった。

 僕の気持ちに一番に応えてくれたのは愛犬であったキングだった。彼は最初に僕の想いに賛同し、最後まで付き合ってくれた。クイーンとジャックは自ら未練を抱え現世を漂っていたところを協力者として引き入れた。


 それからのことは羽佐奈にも薄々わかっていることだろうと思う。

 本当に長い旅であったように思う。

 僕は多くの犠牲を払って今の時間を得ているのかもしれない。

 でもそれでよかったのだと思う、今この瞬間に君が成長したのを目で見ることができ、話しをすることが出来たんだから。


“そして僕は君と一つになることで、この身体を彼に還すよ”

                    *

 そのために君はその男の人を殺したの? とは言えず口を閉じた。

それを言ってしまったらこれまでのすべての経緯が成立しなくなるだろう。

「緑くん・・・、でいいんだよね?」

 男の子と意識をシンクロさせているのか、確かに少しずつ記憶が戻ってくるのが分かる。

「うん、わかってくれたんだね」

 私はどうしたいんだろう・・・、必要以上に考えさせられる・・・、緑くんは純粋だ、私が応え方を一つでも間違えれば壊れてしまう、やっぱり司を取り戻すためには緑くんに従うしかない。

「私は・・・、どうすればいいの?」

「僕と一つになるんだよ、そうすればずっと一緒にいられる」

 その言葉で私の身体に寒気が走った。本当に冗談なんかじゃなかった・・・。

 私はもう・・・、司と一緒にいられない・・・。

「怖いの・・・・・・?」

 私の表情を見て緑くんは聞いた、無理もないが余程深刻な顔をしてしまったんだろう、私は少しでも無理に笑顔を作った。

「そんなことないよ・・・、大丈夫・・・」

「いいよ、羽佐奈の思ってること僕には分かるから。それと同時に羽佐奈にも僕のことが見えるんだね・・・、確かに間違いではないよ、羽佐奈は羽佐奈でなくなってしまうかもしれないね」

 緑くんを事実だけを述べる、私の気持ちがまた一つ沈んだ。

「ねぇ・・・、一つ聞いていい?」

「どうしたんだい?」

「そこまでして生きて、何がしたいの?」

 それが一番の疑問だった、これを聞かずして私は自分の命を投げ出すことはできないと思った。

「お母さんがね、ずっとベッドの前で待ってるんだ。もう僕のことなんて諦めて自分のために生きればいいのに、まだ迷って立ち止まってるんだよ。僕の身体はもうどうにもならないと分かっているのに、それでも待ち続けているんだ。

 だからね、僕は言ってあげないといけない、その身体にはもう戻れないって、僕は僕のままではいられなくなっちゃったんだって。それでも受け入れてもらえるかはお母さん次第だよね、僕にはそこまでは予知できないから」

「そうだったんだ・・・、君はまだ生きてるんだ・・・、だからまだ天に昇れないんだ・・・」

「うん、僕は君を守るために天に昇ることを拒絶してしまったから」

 そうか・・・、やっぱり誰も悪くないんだ、誰も悪くないからこんなにも切なくて苦しいんだ、私がこのまま生きるよりもずっと素敵な未来がある。


司が無事でいられて、緑くんがもう一度生きることが出来て、緑くんのお母さんが長い呪縛から解放される世界、どれだけ素敵な未来だろう、これ以上なんてない、望むこと自体が間違ってる。


“私はもう十分生かせてもらったから・・・・・・”


もういいんだよね・・・、全部緑くんに委ねてしまって・・・、誰も答えてくれないことはわかってる、でもこれは私の願いであり覚悟を決めてやってきたことだから、だからこれでいいんだ、これが最善の選択なんだ。


「―――――――いいよ、私の全部をあげる」


 私は緑くんに告げた、この身体を緑くんに捧げさえすれば司は解放される、なら何も思い残すことはない。

「ありがとう、羽佐奈ならわかってくれると思っていたよ。一緒に行こう、外の世界へ」

 司の姿をした緑くんが立ち上がり一歩ずつ私に近づく、司は私に向かって近づいてきているんだって正しいのだけど正しくない錯覚を受けて私はドキドキと胸が鼓動を始める。


 ―――死ぬのが怖くないかって?


 ―――怖いよ、当たり前だよね、死ぬんだから


 自意識が残るかなんてわからない・・・、この身体がどうなるかなんてわからない、憑依がうまくいかなかったらお互い壊れてしまうかもしれない、非現実的だね、自分でも分かってるんだ、でもなんとなく分かってしまうから、緑くんがこの身体を操作したら私の居場所はなくなって圧迫されるように消滅するんだろうなって、それは夢が終わるようにスッと消えるのかもしれないし、無上の痛みなのかもしれない、そこまではわからない。

 私は自意識が消えるまで我慢するしかない。


 考えたらやっぱり怖いね、震えが止まらなくなるよ

 いつになればこの身体の冷たさが感じられなくなるのかな?

 そうなれば全部お終いなのかな?

 全然想像できないや・・・


「震えてるね、やっぱり怖いんだ、少し休むかい?」

 そっと司の手が私の頬に触れる、とても優しくて心地良い覚えのある温かさだった。

「大丈夫・・・、大丈夫だから・・・・・・」

「本当に?」

「ごめん・・・、そんなに優しくしないでっ・・・、涙が止まらなくなるから・・・・・・」

 卑怯だよ・・・、司にだってこんな優しくされること滅多にないのに・・・。

 私は膝が折れそうになるのを押さえて、少しでも涙が見られないように抑える。

「いいんだ、ゆっくり無意識に染めて、感じるままに僕と一つになればいい・・・」

 司の手がゆっくりとマフラーを払いのけ私の首筋に触れる、私は急に予期せぬ敏感なところ触れられたせいで目を閉じた。

「可愛いね・・・」

「そんな・・・こんな時に・・・イヤッ」

 触れるような優しい手触りに白く甘い息が昇る、司の姿をしたままの緑くんはおもむろに私の身体を引き寄せキスをした。

「うっうううッ」

 急なことで私は息が出来なくなって咽せそうになった。半ば無理矢理されたのに司が相手だと思うと抵抗できない、これは私と司との数えて4度目のキスだった。

「(・・・こんな形でキスすることになるなんて・・・っ)」

 緑くんは徐々に身体に力を込めて私の身体を封じる、私は少し抵抗しようとするがどうしていいのかもわからず、徐々に力が抜けていく。

 左手は抱き寄せたまま右手が私のトレンチコートのボタンを一つ一つ外していく。

「(そんなっ)」

 キスをしたままで私は声も上げられずただされるがままだった。

 そのまま程なくしてトレンチコートは何の抵抗もなく地面に落ちた、私は薄ピンクのセーターに紺のスカートを履いた状態になり先ほどとは段違いの肌寒さが身体を襲いかかった。

「(出来るだけ視野広く心を開いて、そうすれば痛くなくて済むから)」

「(何?! テレパシーで話してるの?)」

 私は唐突にやってきたゼロ距離の音声に驚き声を上げた。敏感なところを触る緑くんの手に必死に耐え凌ぐために私は強く目を閉じ、できるだけ頭を使わないように努める。

「(今は我慢しないと・・・っ、意識したらこんなの耐えられない・・・)」

 触っているのが司だと思うだけでどうしようもなく意識してしまう、どうにも止まらない感情の中、司の手は冷静により敏感なところへと触れていく。

 首筋から胸へと手は降りていきその手が真っ直ぐに握られていく、まだ成長過程の胸がどう反応してよいのかもわからず振動する、唇に当たる強さも徐々に増し息をするのもどんどん苦しくなってくる。私は必死に二年ぶりの衝動を抑えて耐えた。

「つかさ・・・、つかさぁぁ!! ごめん・・・、司じゃないのに・・・私・・・、でも司にしか思えないの・・・、麻痺して・・・、身体が覚えてて・・・、どうしようもなくってっ! 見えないと思うけど、どうしようもないの・・・っ」

 夢と現実が交差するように痛みと快楽が同時に襲う、望んでいたものと現実とのギャップがどうしようもなく今起こっていることを信じがたいものにさせる。


 交わりが深くなると段々と記憶がシナプスを通って走るように意識がシンクロを始める、曲線を描くようにそれはどんどんと閃光を走らせ確かな思い出を幾つも回想させる。緑くんから通される記憶と私の中に眠っていた記憶が同一項を探し合うように交差し確かな記憶となって更新される。


 少しずつ意識が落ちていくのを感じた。

 最初は声が漏れる程の身体に来る敏感さも徐々に薄れていく。

 もうすぐ私は死ぬんだとなんとなく思った。そう思うと徐々に力を込めて私の身体を触る緑くんのこともどうでもよくなり、糸を引くほどにずっとキスをして意識が混濁してくるのも、麻酔がかるように意識が麻痺していくのも心地よく堕ちさせてくれるように感じた。

「(これが一つになるってこと? 意識が遠いてく・・・、自分の身体じゃなくってく・・・)」

 ふらっと身体が安定しなくなり、体に力の入らないまま私は床に向かって倒れかかる。

 五感のすべての感覚が機能を休めていき目の前に司がいることもわからなくなる。司の腕の中にいるのか、地面に倒れかかっているのかも分からない。

「ありがとう・・・羽佐奈・・・、ずっと君のことを愛しているよ・・・」

 最後に司の声が聞こえた気がした・・・、でもきっと緑くんなんだろうな・・・、司はこんなストレートな告白しないから・・・。


ごめんね・・・。

聞こえているのかわからないけど・・・。

私は不器用だったね・・・、もっと早く司のこと抱きしめていればよかった。

暖かいんだってわかってたのに・・・、でも何も知らない司に拒絶されるのが怖かったんだ。

私はもう汚れてしまっているから・・・、触れた手を離せなくなってしまうから。


人が恋しくて、だからいつも傍にいてくれる司がよかった。

寂しがり屋なのかもしれない、だから司には司のままでいてほしかったんだと思う。

横暴だよね・・・、何も司のこと信じられてない。


本当はね、司から空中庭園でキスされたときに気付いてたんだ、求められてるって。

でも大丈夫って言えなかった、いつかに機会を失ったみたいに、本当はすぐにでも抱いて欲しかったのに、あの時の私には言えなかった・・・、どうしてだろうね・・・。


そっか・・・、だからなんだ・・・、司が寂しそうに感じていたのは。

私のことが遠くに感じていたんだね・・・、お互いに求め合っていればよかったのに。

これは私の罪だよ、だから私がずっと償うね。


“―――だから、司は生きて。私はもういないけど・・・、私はもういないけど・・・っ”


“―――司はもう一人じゃないから、ずっと感情も豊かになって、強くなったから。誰が相手でもやっていけるよ、私が保証するんだから大丈夫、私がいなくて幸せになってね、私は司が無事でいてくれるだけで十分だから”


“ごめんね、高校一緒に行けなくて、一緒に沢山勉強したのにね・・・、でも、司は優等生だから受かるよ、私は信じてる。だって年下のくせに私の先生なんだから”


“ああぁぁ・・・、やっぱりダメだ・・・、最後は泣かないようにお別れ言うと思ってたのに・・・。

でも大丈夫、最後までさよならは言うよ・・・、司が聞いてくれてるかもしれないから“


ありがとう・・・、好きになってくれて。

ありがとう・・・・・・っ、もう一度恋をさせてくれて。

ありがとう・・・・・・っっ、ずっと私の傍にいてくれて。

ありがとう・・・・・・っっっ、“―――生きていてくれて”


“さよなら”

“とっても幸せだったよ”


真っ暗な何も見えない空間の中、意識がプツリと閉じた

  

“Winter Alive”


どこまでも静かな  一つの記憶

夜半の雪が映す いつか見た白さ

誰かの声がした  透通る声

私が覚えてる  確かな「存在」


淡き色は 輪郭を得ない

消えるように 君が言った 言葉だけが残される


「さよなら」


夢のように溶けて消える雪を この手に集め遠き空を彩る 

きらめく星になれ 君にも見えるように

“どうしてこんなに 世界がきれいなの”


限りのある 月は欠けてゆく

砂時計が枯れる前に 言葉はもう届かない


季節よ 変わらずに ずっとずっと 雪を

悲しみ一つ 残さず 全て沈め

春より冷たさを 君がいた時間を

少しでもどうか 私にもう一度


私はここにいる 私は待ってるの?

どこへもいけず でもきっと分かってる

誰かの思い出を守り続けるだけ

どうしてこんなに 私は一人なの


「さよなら」


君は幻 私は雪 溶けて消えて 合わせ鏡

雪になれれば とけてしまえば 1つになれたの?

春が来るから もういかなきゃ 夢は覚める だから夢

花が咲くから きれいな花を 君に送るから



今回は最後に「Winter Alive」の歌詞を紹介しました。

シンクロ率が非常に高く、とても良い曲なので実際に聴いてみてください。私はジェンガさんの歌ってみたが好きなのでそちらを紹介します。


http://www.nicovideo.jp/watch/sm5976310


 それでは後編でいよいよ最後となります。

 数日以内に上がるので、どうぞよろしくお願いします。

 エピローグも書く予定ですが、話の内容としては最終章までがキリがいいと思います。

 沢山の方に最後の瞬間を共有できることを期待しています。

 

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