第七章 「奇跡のその向こう側
第7章「奇跡のその向こう側」
シーン1「数奇な運命の系譜」
由佳里の一件からしばらくして、私は月に一回通っているかかりつけの診療所へと向かった。
今では遠い日になってしまった私を襲った交通事故。私は頭を打ち意識を失ってそれから二年半の間植物人間となった。二年半の時を経てようやく目を覚ました私、それはまさに奇跡といえることであったけれど、私はそれから丸々半年間を病院内でのリハビリを強いられることになった。半年後ようやく退院を果たした私は事故前とは異なる1LDKのアパートで、お父さんとの共同生活を始めた。最初はまともに家事のおぼつかない日々だったけれど、リハビリのように日々を続ける中で一つ一つお父さんと二人支え合いながら乗り越えていった。学校に通い始めるまでの半年間はそうした生活の基礎を習得する期間となった。
その半年間、またそれ以前からちょくちょく関わっていた先生が今日出向く診療所の先生で、大きな病院で忙しそうにバタバタと働くような職場環境の先生とは違い、ゆったりとした空間で、小さな診療所でまるで友達のように接してくれる大切な理解者あり、尊敬している先生である。そんな特に退院してからお世話になった先生の元へと今日は向かう。
もうこれといって後遺症はないのだが、お世話になったよしみということもあり、今でも月一回は通うことにしている。まぁお父さんが心配性だから月に一回ぐらいは看てもらえと言われてるのもあるから、私も悪い気はしないので納得している。
近所の商店街を通り過ぎた少し先の通りにある場所にひっそりとその診療所はあった。
所々に枝毛が建物を被う白く清潔感のある建物。透明なガラスの張られたトビラを開くと
カランカランと涼しげな音が鳴った。
「失礼します」
朝の11時を過ぎた頃、昼前でも静かな雰囲気の待合所に入って私は挨拶をした。
「あら、羽佐奈ちゃん、ちょっと早いわね」
顔なじみの看護婦姿のお姉さんがいつものように優しく声を返してくれた。そして看護婦さんは少し中の方を確認して振り返った。
「ごめんね、もう少し待ってね、先生まだ診察してるみたいだから」
「あ、はい」
私はテレビも備え付けられた現代的な落ち着き感の備わった待合所のソファに座り、私の番になるまで待つことにした。
最近はいろんな事があった気がする・・・。
私はふとそんなことを考えていた。ここに前回来たのがおよそ一ヶ月前、まだドラマの撮影にも慣れていない頃だったと思う。撮影自体出演者が多くてなかなかスケジュールが合わないことが多かったりで、特にスタッフは大変そうにしているのを思い返す。
今にもうすぐ撮影も終わって、一種のお祭りのような日々も終わってしまうだろう。そんな風に思い返すと、沢山の苦労も感慨深く思えてしまう。
一ヶ月なんて本当あっという間だ、改めて私はそう考えた。
待っている間、ふとテレビを観るのも退屈になってソファの横に置かれた雑誌棚に手を伸ばした。
最初に触ったのはゴシック記事が多く感じる週刊誌、なにやら世紀末だかそんな予言者の話が一番のスクープに挙げられていた。
「これは、確かに世も末だわ・・・」
その手の虚偽なこじつけに満ちた情報に私は興味を沸かすことはなかった、私としてはこれを娯楽としてみるのも本気で信じ信仰することもどちらであろうと人間性を疑いかねない。そんなことを思って一冊目は印象的かつ象徴的な表紙を見た時点で戻してしまった。
二冊目は・・・、ファッション雑誌、だけれどもちょっと私が読んだりするのより年代が上だ。
「主婦向けとまでは行かないけど・・・、参考になるかな・・・」
少し疑問に思いながらもページを開いていく。雑誌には今年はやりの冬物服が何ページにもわたって紹介されている。現場ではもう春物の準備が始まろうという時期だけに・・・、不憫にもこんなときに現実感を思い知ることになるなんて。
「そういえば、今年のコートまだ買ってなかったな」
最近にいたって外は大分寒さが厳しくなってきているけれど、まだコートがすぐに必要という段階にまでには至っていなかった。私は興味も含めてパラパラとページを捲って、参考までにどんなものがあるのかチェックをした。
「みんなやっぱりスタイルいいなぁ、大人っぽいし」
いや、実際載っているのは大人なので、大人っぽいという言い方はおかしいのだが、普段自分が読むような雑誌とは違うから、綺麗な大人の女性が着飾っているのを見る度に背伸びをしてしまいたいような羨ましい気持ちになった。私は、いずれ大人になればこんな服を着るようになるんだろうなと内心思いながら一通り確認を終えて雑誌を棚に戻した。
「えと、これで最後かな・・・」
私は残ったエンタメ雑誌のページを捲った。内容が読みやすいこともあって景気良くどんどんページを開いていく。
「あっ・・・!」
私はちょっとビックリして手を止めてしまった。自分の出演しているドラマが2ページにわたっておすすめとして紹介されている。
「もうここまで視聴率も出てるんだ・・・」
初回の視聴率は現場で聞いていたけど、自分の出演している話の視聴率なんかを見ると余計に現実感が沸いてくる。自分の映ってる場面写真なんかは何度見てもドキっとするけど・・・、もう本当恥ずかしくて目を反らしたくなる。
「来週か、いよいよ・・・」
最後の撮影を来週に控え、私は本を掴む手に力が入った。あまりにも沢山の思い入れがある作品になっただけに、撮影が終わってしまうのが切なくなってしまう。
「赤津さん、ごめんなさい、お待たせしました。先生の準備できましたので診察室にどうぞ」
「あっ、はい」
突然呼ばれて私はバッと立ち上がって、慌ただしい動作で雑誌を元に戻した。
私は小さなバッグを右手に掴んで診察室の方に向かった。
「失礼します」
私がノックをして声を掛けると軽く返事が聞こえた。それを確認して私はドアのノブを開き、診察室に入った。
「こんにちわ、どうぞお掛けください」
先生はカラカラカラっとイスを身体ごとこちら側に向けて目の前のイスに座るのを勧めた。
「お変わりないですか?」
「もちろん」
先生の質問に私は一つ返事で返した。先生は笑顔でまるで心配なんてしていないように見えた。もちろんその方が安心できていいんだけど・・・、すでに目的が変わっているように錯覚してしまう。
「すっかり貫禄が出てきましたね」
「はっ? バリバリスッピンなんでやめてください」
何のことかよくわからなかったので私は適当に答えた。
「いえ、元気そうで何よりです。こんな所で油打っている場合ではないと思いますがご協力よろしくお願いします」
「そんな・・・、必要なことですから、それにちゃんと来ないとお父さんが心配しますので」
私が返事をしていると横から看護師さんが机と3,4枚のプリントを持ってきた。
「今日はすみませんが実験に二つやってみていいですか?」
「あ、はい、頑張ります」
ちなみにここは脳神経外科クリニックで、この診断用プリントの内容はIQ診断である。
脳神経外科には命に関わる病気が沢山ある、そしてそんな重症から私は立ち直った過去を持つ、その意味は先生にとっても、大きな意味や興味を持っている。
「奇跡というのは本当にあるものなんですね、羽佐奈さんのことを見ていると本当にそう思います」
「それはもう何度も聞きました」
私はプリントの問題の答えを埋めながら答えた。
この診療所の院長でもあるこの内川先生は脳神経外科の先生であり、脳神経外科は精神医学の分野において発達してきた精神外科の側面を持つことから、こうした治療復帰後の後天的な、日常生活に関わるようなIQ診断も勤めている。だからこそ、現代の医療現場においてはこうした脳神経外科の役割は老若男女通して必要性が高いと考えられている。
「前回の成績も良かったですよ」
「それは何度もしてますから、反復学習と同じで何度もすれば正解率は上がると思います、私はそれでDIQが高いと騒ぐ理由がよくわかりません」
「気持ちは分かりますが、従来のIQ診断よりも今のIQ診断、DIQとも言いますが、その方が正確性はありますし、日常生活にしても反復学習は重要です。当たり前のことが当たり前のようにできることが本当は大切なことなんです」
「それじゃあ先生が大切にしていることというのは・・・」
「はい、IQ診断は大人になってしまえば変化することはほとんどありません。それ以前の学習能力が大切になってくるのです。
私は羽佐奈さんはどれだけトレーニング、リハビリを繰り返しても知的障害は残るものと考えていました。植物人間として二年半の間社会生活から断たれていたわけですから、脳の発達に遅れが生じる、または障害が残るものと推測されていました」
私は交通事故により頭を強打し、頭部を損傷、その結果植物人間となった。今でも手術跡は頭にあるわけで、意識を取り戻したのは本当に奇跡としか言い様がなかった。
「尋常ならざる状況であったわけですから、リハビリも含め、こうして社会復帰ができたのは不思議でなりません。てんかんも一度で止まったんですよね?」
「あの時は何が何だか分からなかったですが・・・、でもそれが“てんかん”だとわかった後になって、明確な根拠があるわけでもないのに、あぁ、こんなことには二度とならないと思いました。何か痛みが引く感覚があまりに自然だったんです。頭の中がスッキリするような、周りの景色がクリアになって見えるような、そんな不思議な感覚だったのを覚えています」
それが私の脳を正常化に変えたのか、血液の循環を良くしたかどうかはわからない、でもそれから一度のてんかんも起こすことなく、驚くほどにリハビリ速度が上がったことは紛れもない事実だった。
「凄いものです、神に魅入られし身といっても響きは悪くありませんね。そういえば羽佐奈さん、チェコ人ライダーのマテイ・クスさんの話しはご存じですか?」
「いいえ、わかりませんけど・・・」
「グラスゴーで開催されていた二輪レースにマテイ・クスという名の18歳のレーサーが参戦していた。彼は英国人ではなく、チェコ人である。最近、英国にやって来たばかりで、英語でのコミュニケーションに不自由していた。
少ないボキャブラリの中から単語を2つか3つ繋げただけの片言の英語しか話せないため、自分の言いたいことを周囲のネーティブ・スピーカーになかなか理解してもらえず、彼はかなり苦労していました。
レース中、マテイさんはアクシデントに見舞われバイクに頭をもろに轢かれてしまった。事故の直後、マテイさんは呼びかけに反応せず、意識を失っていた。やがて救急車がレース場に到着し、幸い、彼は、病院に搬送されている途中に目を覚ました。45分間にわたって意識を失っていたことになります。
救急車には、彼の所属チームのプロモーターであるピーター・ウェイト氏も同乗しており、そのウェイト氏の目の前で、救急隊員に具合を聞かれたマテイさんが、なんとネーティブ並みの流暢な英語を喋り始めたのである。
ウェイト氏は言う。「彼がまさかあんなに流暢に英語で受け答えできるとは、びっくり仰天でした。本当にきれいなアクセントでした。何の訛りもありません。クラッシュ時の衝撃のせいで、彼の頭の中の回路が組み換えられてしまったのだとしか思えませんでした」と、そして、病院到着後は病院のスタッフたちとも、ネーティブと変わりない流暢な英語で会話を交わしたのだという。
しかも、単に英語を流暢に話しただけではなかった。しばらくの間、自分がいったいどこの誰かなのを忘れていた。それどころか、自分がチェコ人であることさえも忘れていた。
ところが、この話にはまだ落ちがあります。
彼は現在、療養のため母国チェコで過ごしているが、事故当日とその後2日間の記憶が完全に消失しており、記憶だけでなく、英語力も消失してしまっていました。
このように一時的にもマテイさんが英語を突然流暢に話し始めたのは、“真性異言“の一例ではないかという指摘されています。真性異言とは、習ったことのない外国語を急に話し出す現象などを指すとのことです。
ここでは記憶などは失ってしまっていますが、私は羽佐奈さんはこのような突然変異のようなことが起こったのではないかとさえ思いました。医者としてそれぐらい不思議に思ったのです。まぁ私は言いたいのはせっかく救われた命だからこそこれからも大切に生きて欲しいということだけですけどね」
私は話しを聞いている間にIQ診断のプリント終わらせ、提出した。
「私は毎日が充実していますよ、これ以上ないくらい。本当に生きていて良かったと思えます。
そういえば内川先生、私は未だ交通事故の日のことを思い出せないのですが思い出すことはあるんでしょうか?」
私は最近思っていた疑問を先生に聞くことにした。私の誕生日の日に起きた交通事故、事故の前の記憶もかなり思い出すのは大変だけど、当日に関しては衝撃的なことの割に今までまったく思い出せなかった。よくわからない既視感を除いて。
「それは難しいと思います、記憶は思い返すことがないと徐々に思い出す可能性が少なくなってしまいます。今まで一切思い出すことがないのなら、似たような現象に出会わない限り思い出すことはないでしょう」
先生はプリントをチェックしながら答えた。
「そうですか・・・」
「参考になりましたか?」
「はい、思い出そうとして思い出せなければどうしようもないですよね・・・」
私は少し当然の事実に少しガッカリして気を抜かして答えた。
「すみません、もう少し待って貰っていいですか? またお呼びしますので」
「あっ、はい」
私は先生の言うことに従って一旦診察室を離れた。
*
チャチャチャチャ、チャッチャチャッチャチャー。チャチャ、チャッチャ、チャッチャチャー。
「あっ」
携帯の軽快な着信音に気付いて私は急いで携帯を取りだした。
「(あっ、畑山刑事だ)」
私は電話の相手をしないわけにもいかず通話ボタンを押した。
出たのはちゃんと畑山刑事で内容は待ち合わせの時間の確認だった。今日会う約束をしていたから・・・、あまり長居はできないかもしれないという畑山刑事の話を聞いて私は電話を終えた。
「(ちょっと緊張して焦っちゃったな)」
そんな事を思っているとすっかり時間も過ぎて、再び診察室へ呼ばれることとなった。
「やっぱり、脳に何らかの現象が起こっていると考えた方がいいんでしょうかね」
「はぁ」
私は話しが全く見えなくて気のない返事をした。
「参考までに二年半年を取っていないことを想定したものと二つ取らせて貰いました。どちらも優秀でしたね、偏差値的にも実年齢より高いと出ています。そして最初の頃のIQ検査の数値から比べても高くなっています」
「それはどういうことですか?」
「成長速度が速いということです。こう言うとおかしな話しですけど普通の人とは見えているものが違うのかもしれないとさえ思えます。年相応にもいかなかった精神年齢が数年の経過の間に早熟している、不思議なことです。まるで経験したことが全部成長の糧になっているかのようですね」
それは、記憶能力は年を取る毎に落ちていくから・・・、その影響が眠っていた分遅れていたってこと? なんだかよくわからない話しだった。
「そういえば、高校はどちらにいかれるか決められましたか?」
分かりづらい話しが続いたことを考慮してからか先生は話題を変えた。
「あっ、言ってませんでしたっけ?」
私は今更という感じもしながら簡潔に説明した。
「しっかり勉強なされてるんですね」
「みんなが支えていてくれるからです・・・、事故にあったことなんて全部忘れられて、みんなと同じように生きて、何か恩返しできればいいなって思うんです」
「そうですか・・・、これからも頑張ってください。羽佐奈さんなら受かりますよ、人一倍頑張る子ですから」
「はい、ありがとうございます」
これで今月の診察は幕を閉じた。私は来月の予約などを済ませて診療所を出た。
次は・・・と、畑山刑事、もう来てるかな・・・。ちょっと不安になりながらも決意を新たに私は待ち合わせ場所へと向かった。
*
シーン2「協力体制」
畑山刑事とこうも簡単に会えるようになったのは、ある意味想定外だった。
言ってるみるものだと思う、お父さんは意外とあっさりとOKを出してくれて日程も合わせてくれた。この縁は大切にしないと。さて、何を話すべきなのか、未だうまく整理は付いていない、でもこのままにしておく訳にはいかなかった、また誰かが被害に遭うかもしれない、そう思うと黙っているわけにはいかない、きっと私にも出来ることがあるはずだから。
待ち合わせ場所に着いたのは私が先だった。由佳里の働く喫茶店の店の前、もちろん私の提案だった。ここならこの時間はほとんど常連客しか居ないから、情報漏洩の恐れも少ないだろう。そんな危険な話しになるかどうかはわからないけれど・・・、相手が現役刑事さんのわけだから、警戒は怠らない方が良いだろう。
茶色のブーツのおかげで三センチ増しになった身長ですっかり背伸びした感じが否めないが、周りの反応なんてオドロオドロしてしまいそうなほど予想が付かないので、落ち着かないまま待ち続ける。
「(あ〜早く来てくれないかな・・・、変に落ち着かない)」
そんな風に思いながら10分ほど過ごすとようやく畑山刑事がやってきた。
「ごめんよ。少し待たせちゃったかな」
「ちょっと怖かったです」
そんな軽口を突きながら、私たちはコーヒーの薫りが店内を包む喫茶店の中へと入っていった。
「どこがいいですか?」
「う〜ん、あのテーブルでいいか」
畑山刑事は一度テーブルを指さし、私が笑顔でお辞儀をするとそのテーブルへ向かって歩いた。
「へぇ、コーヒー飲めるんだな」
「いつの間にか飲めるようになってました。何か変ですか?」
「いや、ただ珍しいと思っただけさ」
畑山刑事はタバコを取り出して吸っても平気かと私に確認を取ってから吸い始めた。
それから10分ほど世間話を続けて、三本目のタバコに火を付けたところで話題を変えた。
「俺に協力できることなら、出来る限りさせてもらうさ」
畑山刑事は私のことが分かったように今までにない笑みを浮かべて言った。それはこれまでにないほどに私を信じさせてくれた。私は一つ覚悟を決めた。
「私、誰かに、命を狙われているかもしれないんです」
私は勇気を振り絞り意を決して言いはなった。畑山刑事のタバコを吸う動作が一瞬止まったように見えた、突然のことにおかしな捉え方をされていないか不安になったが、私は信じるほかなかった。
「それは、本当かい?」
畑山刑事はタバコを吸い殻に潰し息を吐いた。そして次の瞬間には私のことを凝視していた。今までにない力強い目で私を見る。私はドキっとしながら口を開いた。
「はい、絶対とは言えないですが、そう結論しました」
「最近は女子中高生を狙った猟奇事件が頻発しているのは知っているな? すでに死者も出ている、俺も捜査をしている」
「はい、ニュースでも学校でも話しには聞いています。それで友達が被害に遭いました」
「そうか・・・、それで今度は自分が襲われると?」
「いえ、実は話しづらいのですが・・・、脅迫状を貰って、それで私冗談だと思ったんです、そんなことあるわけないって。でも信じなかったせいで友達が代わりに襲われたんです。今は深く後悔しています。あの時気付いて警戒していればって。本当は防げたはずなのにって」
「それは、警察には報告していないのか?」
「はい・・・、どんな事情かはわからないけど、しないって決めちゃったみたいで」
「それで俺を頼ってきた訳か・・・」
「はい、そんな感じです」
私は不安を払拭できないまま、気を落としながら一つ一つ答えた。私たちの声は薄暗い店内には響かず、私たち二人の声は二人しかわからない声で店内のBGMに隠れるように続いた。
「わかった、出来る限り協力させて貰おう。何かあってからではあいつにも申し訳が立たんからな」
刑事さんにとっては厄介者だろう、でもそれでも協力してくれるというのだから感謝しないと、それから私たちは詳しく話しを詰めていった。それで猟奇事件のことも少し整理された情報を知ることが出来た。
「俺が思うには犯人は一人ではないと思う、犯行自体が単独でできるものが多いがどれも目撃証言が一致しない、それが今は捜査の妨げにもなっているな」
畑山刑事は他にも幾つかの話しをしてくれた。小一時間ほど話して折が付いたところで私たちは店を出ることにした。
「何かあったら直接電話してくれ。出来る限り協力できる体制は取っておく。犯人は必ずまだこの街にいるのだからな、油断しないようにな」
「はい、ありがとうございます。やっぱり頼って良かったです」
「しかし、随分綺麗になったものだな」
「えっ?」
「ははっ、お世辞じゃないぞ、それじゃあまた何かあればな」
そういって畑山刑事はこの場を去っていった。取り残された私は何が何だかわからなかた。
「褒められた? それとも小馬鹿にされた?」
よく判断はつかなかった。でも不安だったけれど頼りがいがあって、邪険せずに話しを聞いてくれて良かった。これで結果として私は心強い仲間を得た、きっと犯人は捕まえてみせる、私は決意を新たに喫茶店を発った。




