想い出スケッチブック(番外編)
「雪ー」
「…なあに、久」
放課後、私の隣の席の久野くんが話しかけてきた。
今は当番の仕事の日誌を書いている最中。
当番は隣同士の2人1組で回る形式だから、2人でその日の仕事をこなさなくてはいけない。
今日は地味に仕事量が多い日らしく、仕方なく放課後2人で教室に残って、最後の仕事を仕上げていた。
学校に行くようになって1年。
私が学校に行くと、当然クラス内のメンツは2つ下の学年の人達で。
留年した私を後輩でありクラスメイトである人達は物珍しそうに見ていた。
そんな中、気まずい雰囲気を出しながら座っているところに声をかけてくれたのが久野くんだった。
「んー、なんも」
「何も無いのに呼んだの?えぇ…」
「んー、んー、んー」
唸りながら、言うか言わまいか迷っているらしい久。
黒板を消す手が止まっているから、動かして欲しいなと思う。
私は無視してそのまま日誌の続きを書き始めた。
シンシンと降り続ける雪。
あれからまだ、3年。
慣れたと言われたらまだ慣れない。
慣れるのが怖いという気持ちは変わらなかった。
それでも、段々クラスの人や久と仲良くなっていくのは楽しくて。
1人で塞ぎ込んでいた時よりは世界は色付いているんだと思う。
叶だって、これを望んでいるんだもんね。
「はいはいはいー、雪、言う覚悟が出来たからこっち見て」
前から声がかかり、再び顔を久の方へむける。
黒板消しを置いて、久はこちらへやってきた。
「…仕事は」
「後でやるって。真面目だなあ雪は」
私の前で止まった久は苦笑する。
久は背が高いから、席に座っている私は見上げるのがきつい。
そういうと、久は前の席に座ってくれた。
「あんさ、言わない方がいいと思って言わないで居たんだけど、やっぱ無理だから言うわ」
「…え、悪口ですか…?」
「違うから最後まで聞いて」
「うん?」
「俺、雪のこと好きだよ」
私はその声を聞いてガタガタっと席を立った。
その拍子に机にあった筆箱が落ち、中身が床へ散乱した。
「うわ、落ちたよ中身…。てか入れ過ぎだって」
まるで何も無かったかのようにしゃがみこんで拾う久に、私は戸惑いながら声をかけた。
「…なんで…」
「なんでって言われても…」
頬を指でかきながら、久は私の方を向いて言った。
「好きな人が変わらないことしってる。雪がずっと、想ってる人が居るってこと。だけど、伝えないままいるのは嫌だった」
__ヒュゥッ、
窓から突然強い風が吹いてくる。
何、叶…、応援してるの?
心の中で戸惑う私に、久が続ける。
「俺じゃダメかな」
…それでも、私はやっぱり。
「ごめんね。私ずっと叶を好きでいるって決めたから」
「そっか」
そう断ると、久はニカッと笑った。
そのあとそのまま、私のペンを拾うのを再開させた。
「はぁ、見てみたいもんだなぁ、ここまで雪をすきにさせた人ー」
全部拾い終わり、自分の席に座った久が言う。
「見る?写真あるけど」
「え、見たいみたい」
私は携帯を取りだし、ある写真をタップして見せた。
それは二人で行った公園での写真。
ブランコに乗って、初自撮り棒写真をとった時のもの。
「わー、いいなこの写真」
「上手くとれてるでしょ?」
「ちげーよ、雪めっちゃ笑ってる」
そうかもしれない。
あの頃はとても幸せだったから。
「俺決めた!」
「は?」
「こんくらい笑顔にさせる男になるわ」
そう言いながら、私の方を向いて笑う。
「なかなか手強いからね、私」
「望むとこだよ」
二人で冗談を言い合って笑った。
叶、またあの頃のような日々で沢山になるように祈っててね。
ヒュゥと風が吹く。
そう思う私に返事をしてくれたような気がした。