さよなら。愛しき人よ。
「そんな簡単に『別れて欲しい』なんて言われても、困ります!私は、セイラさんが好きなんです。何者だろうと、私に言っていたことが、嘘ばかりだろうと関係ない。セイラさんが好きなんです!」
ソフィーの話を聞いていると、だんだん涙が込み上げてくる。
「どうしても。ですか?」
「たとえ世界と神々を敵にしても、私は、セイラさんを愛します。その事に変わりはありません」
「『魔界の王子』なんですよ?それでも、貴女はセイラを愛すると言うのですか?」
「そのつもりです」
「そうですか。ならば、強行手段に移すまで」
そう言うと、ソフィーは立ち上がり、私の前に立つ。
「何をするつもりなんですか?」
「貴女の記憶の中から、セイラと過ごした記憶を抹消するのです」
「えっ!?そんな!?」
そんなこと、絶対に嫌!
「待ってください!なんで、セイラさんとの思い出を、あなたに消されなければならないんですか!?」
「世界を守るためなんです。貴女にはお辛いでしょうが、受け入れて頂きたいのです」
「嫌だ……。そんなの絶対に嫌だ……」
ソフィーの前だけど、気持ちを抑えられなかった。
「セイラさんとの思い出全てを消すのなら、最後にセイラさんに会わせてください。少しだけでいい。最後にセイラさんと話しがしたいんです」
ソフィーはしばらく考え。
「わかりました。そのかわり、少しだけですよ」
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ソフィーの後をついていった先。
そこは、お城のテラスだった。
「ここでお待ちください。セイラを連れてきますので」
空に輝く星。
初めてセイラさんに会ったクリスマスイブの夜も、星は輝いていた。
再び、星の国に来たときも。
この思い出が、全部消されちゃうんだ。
「お待たせ」
聞き慣れた声に振り向くと。
そこにいたのは、黒いローブを着た、いつもと違う……。
「セイラさん?」
「そう。これが、本当の僕の姿。驚くよね」
「ちょっとだけ。驚いたけど……」
向かい合って座る。
「ソフィーから、聞いたでしょ?」
「色々聞きました。私たちが、別れなければいけないことも」
「嫌だよね。僕も嫌だ」
「私たちが別れなければ、ソフィーさんは、思い出を全て消すって」
「別れたとしても、ソフィーは、消すつもりだよ」
「どう言うことですか?」
「ありすちゃんの心の中に僕がいて、僕の心の中にありすちゃんがいる。そうなれば、お互いがお互いの世界の片隅に、生きていることになるんだ」
「わからないです」
「お互いの世界に存在してはいけない。天界の乱れを直すためには、思い出よりも絆を消すんだ」
「嫌だよ……。そんなの」
「ありすちゃんが暮らす世界を、消したくないんだ。僕がいない世界でも、ありすちゃんなら、大丈夫だから」
「セイラさん!私は、セイラさんが好きなんです!大好きなんです!なのに、セイラさんは……」
涙で、顔がぐしゃぐしゃ。
そんな私を、セイラさんは優しく、抱きしめてくれた。
そして、耳元で。
「さよなら。僕の、愛しき人よ」
天界より参りました。
ソフィーです。
セイラと亜李朱さんの二人の思い出、ならびに記憶を消させて頂きました。
世界の破滅を食い止めるため、仕方のないことだと思ってください。