それは、突然……。
「最初は、どこにしますか?」
入り口で貰ったリーフレットを見ながら、セイラさんに聞く。
いくら待っても、返事がない。
「セイラさん?」
隣にいるセイラさん。
聞こえているはずなのに。
リーフレットから、セイラさんがいるはずの方を見る。
だけど。
周りを見渡しても、セイラさんらしき姿がない。
「どこ行ったんだろう……」
迷子センターがあるから、そこに行って……。
いやいや。
セイラさんは、迷子になったわけじゃないし。
何も言わずにいなくなっただけで……。
「久住亜李朱さんですか?」
突然、背後から声をかけられた。
見ると、白いワンピースを着た、長い金髪の少女。
「そうですが……」
誰だろう。
「いきなりごめんなさい。貴女とセイラの事で、お話があります。ここでお話し出来る事ではないので、一緒に来て頂けますか?」
セイラさんを知っているらしいけど、わけが分からない。
「あの、あなたは誰?」
「申し遅れました。私、天界より来ました。天使のソフィーと申します」
天界?天使?
「セイラさんを知っているんですか?」
「はい」
「突然いなくなってしまったんですけど、セイラさんはどこに?」
「セイラの事は、場所を変えてお話しします」
***********************
天使のソフィーに連れて来られた場所は、なんだか星の国にある、お城に似ていた。
「貴女とセイラのデートの邪魔をしてしまい、申し訳ございません。どうぞ、お掛けください」
勧められたのは、ふかふかのソファー。
「あの。ここは、星の国ですか?」
「そうですね。主のいない、星の国です」
「それで、話と言うのは?」
「セイラのことです」
ソフィーは、話始めた。
貴女はセイラから、『神に怒られ、星の国に送られた天使』だと聞いたことでしょう。
しかしそれは、真っ赤な嘘。
セイラは『堕天使』ではありません。
本来の姿は『堕天使』ではなく、『魔界の王子』なんです。
信じていただけないでしょう。
セイラが貴女に伝えたことに、真実はないんです。
ただ、ひとつを除いて。
魔界には、人間界と違い、『誰かを愛する心』が存在しません。
ですが、セイラは知ってしまったのです。
貴女に出会い、貴女に『恋心』を抱いた。
経緯は、ご存知でしょう。
人間界の時間で、13年前。
星の国で暮らしていたセイラは、クリスマスイブの夜、映し鏡で貴女の姿を見ていました。
己と同じ、孤独に聖夜を過ごす、貴女を。
セイラは、貴女と共に、同じ時を過ごしたかったのでしょう。
本来持っている力を使い、貴女を星の国へ誘った。
星の国は元々、セイラを監禁するために神々が創造した場所。
誰も立ち入ることが出来ない。
貴女と過ごす時間は、セイラを変え始めたのです。
魔界の王子が『愛』を知った。
『誰かを愛する心』、『恋心』を。
魔界の王子が『愛』を知ってしまったことで、天界に乱れが生じました。
乱れが生じると、人間界に多大な影響を及ぼします。
その影響とは、『世界の破滅』。
神々をはじめとした天界の民は、『世界の破滅』を食い止めたい。
その為に、貴女とセイラを別れさせなければなりません。
セイラの力は強大です。
そこに『愛』の力が加われば、天界共々滅ぼしかねない。
どうかお願いです。
セイラと別れて頂けませんか?