春樹のヒロインマニュアル。
僕は画期的な方法を思いつく。
それは春樹のヒロインのパターンをまとめミドリに覚えさせることだ。そうすれば、凡庸な彼女も春樹のヒロインになるに違いない。
僕は学校に着くとマルボロ(より正確にいうならココアシガレットに)にジッポで火をつけて口にくわえた。ミドリを調教するには、もっと体系的なプログラムが必要だ。
世界史の講義の時、僕は春樹の小説でよく使われる表現を書いていった。とりあえず、一〇個程度のパターンにまとめた。
「なんなのこれは?」
「このパターンを抑えれば君でも、レズビアンでも、サルでも春樹のヒロインになれる公式だよ。」
「それよりワンピースを返して。」
「やれやれ、まあ女の子は魅力的だった。他はさておき。」
彼女は酷く驚いて言い返す。
「ちょっと、なんでシミをつけてるのよ。」
航海士の女でマスターベーションした時のシミのことか。もし、精液と言ったら面倒なことになりそうだ。
「それより、この公式集をみてくれ。」
怒りが収まらない彼女を無視し淡々と最初のパターンを指さす。
「まず、性的な会話をするとき、チンチンはペニス。オナニーはマスターベーションという。」
「なんで、いきなりセックスの話になるのよ。それよりこのシミどうするの?」
「丁度いいから。パターン4を教える。相手の言ったことを、ゆっくり繰り返す。」
「繰り返す?」
僕はそういうと彼女の瞳を覗き。
「いいか。君はいま、このシミをどうするかと言っている。」
「うん。」
「それに対して春樹的に返すなら。君はこのシミをどうするかと言う。と返すわけだ。」
「それが春樹的なの?訳が分からないわ。」
僕は彼女の成長に驚きを隠せない。
「今の訳が分からない。使いどころが完璧だ。それでいい。」
ひょっとしたら、ミドリは有望なヒロインになってくれるかもしれない。
僕は心躍らせていた。ミドリはシミのついた新刊にガッカリしていた。
そろそろ、二人目の女が必要だ。
僕は図書館で有望な新人を探す。そこで見つけた彼女はフィッツジェラルドを読んでいた。
悪くない。僕はマルボロの箱を開けココアシガレットに火をつけた。




