表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

006《第13離宮『天蝎宮』・前》

 私の名は「たかりん」こと、RING・タカツキ・BKB・ザッパー。

 ザ・サーティーンスプリンセス・オブ・KAWASAKI。

 要するにKAWASAKI帝国ザッパー家の第十三皇女。

 住まいは静止軌道上の第13離宮『天蝎宮』になる。

 一緒に暮らすお兄様である第十三皇子はとても活発なお方。


挿絵(By みてみん)

『LEBHAFT』(天蝎宮略章)

 皇帝歴450年5月。

 静止軌道上にある第13離宮「天蝎宮」は、

 直径100m。召使いなどの人員は800名ほど。

 宇宙軍第13師団は戦艦1、巡洋艦1、駆逐艦1、コルベット1。

 二番艦(空母)1、揚陸艦1。兵士600名。


 私の教育係になるのは、天秤宮の第十皇女、

RUHIG(ルーイヒ)・シセ』様。

 20歳、セネガル自治区出身。

 黒髪にブラウンの瞳、ネグロイド60%。

 異例のことだがもう一人、蘇蛇宮の第十二皇女、

TAKTIKER(タクティカァ)・ケイロス』様。

 18歳、ポルトガル自治区ポルト出身。

 栗毛にグリーンの瞳、コーカソイド60%。


 第13離宮は天秤宮と蘇蛇宮の間にあり、

 皇女MAJA・マールル様が決めた。

 どうやら私は「歴代最高のお転婆」らしく、

 乙女宮の生体アンドロイド「アリアナ」と、

 執事スタイルの「ベンナラス」まで派遣されている。

 自分ではさっぱり分からないが、

 月面宮殿でもなにかやらかしていたらしい。


 RUHIG・シセ様と、

 乙女宮の生体アンドロイドは一週間滞在。

 皇帝一族としての振る舞い方を徹底的に、

 それはもう徹底的に叩きこまれた。


 TAKTIKER・ケイロス様は天蝎宮の直前の住人。

 5月中は頻繁に往来して、色々なことを教えてくれた。

 明かされたのは驚くことばかり。

 今回、失脚された皇女とその理由。

 召喚式での私の余計な「おことば」で更迭された前・首席執事、

 思わず舌打ちしたばかりに引退に追いやられた枢機卿。

 実は戴冠式で殺されかけていた事実。

 正直なところ、納得できない点もあるが、

 それだけ大変な立場であることを自覚した。


 皇帝歴450年6月1日。土曜日。

 毎月二人ずつの皇子・皇女がジアースに降臨される。

 今月は獅子宮の第三皇子と双魚宮の第四皇女、

 磨羯宮の第七皇女と天蝎宮の第十三皇子が当番となる。

 同様に一人ずつの皇子・皇女がザムーンに参上なさっている。

 6月は双児宮の第六皇子と天秤宮の第十皇女RUHIG・シセ様。


 つまり6月1日から30日まで、

 第十三皇子のLEBHAFT・クーペル様はご不在に、

 召使いたちも半減。

 私が天蝎宮の主となる。

 いざとなって心細くなった私は、

 仲良くなったTAKTIKER・ケイロス様に相談すると、

 皇女MAJA・マールル様に伝えてくださり、

 乙女宮のアリアナとベンナラスの派遣が決まった。

 急遽、二番艦IROSASを乙女宮に迎えに行かせることに。

 一時的に第13師団の艦船は全て出払ったが、たぶん大丈夫。



 頼りない第十三皇女の、手薄な天蝎宮が、狙われた。

 実に巧妙な計画だった。



 皇帝歴450年、6月2日、日曜日。

 帝国標準時間、午前4時。大昔の言い方で「払暁」。

 この日は確か『敵は○○○にあり』という、

 歴史的大事件が起きた日だと学校で習った。


 最初の異変は宇宙ゴミとの衝突だった。

 警報が鳴り響き、プラターネが状況を報告する。

《微小なデブリが外壁を貫通し、

 第二層まで達しました。

 当該エリア周囲の隔壁は既に遮断。

 工作マシンが修復に向かっております。

 念のため非番要員も内層部に移動させます……》

 スペースデブリとの衝突は珍しいことではないらしいが、

 第二層まで達することは希だそうだ。

 スペースガード衛星の活動、

 艦船による掃海任務や、防御用のレーザーによって、

 ほとんどは排除されてしまう。

 小さくて相対速度の遅いモノは無視しても、

 せいぜい外壁に傷が付く程度なのだが……。


 天蝎宮が小さく揺れた。

 事態の進展にマザーAIが対応する。

《第二層での小規模な爆発を確認。

 デブリはレーザー防御網の哨戒範囲を越えてから、

 急激に加速したものと認められます。

 何者かによる攻撃と認定します。

 これより天蝎宮は臨戦態勢に入ります。

 第十三皇女RING・タカツキ様、

 非常事態宣言を発令してください》


 ど、ど、ど、ど、どうしよう。

 事故による非常事態宣言は過去にも何度かあったらしいが、

 外部からの攻撃など聞いたことがない。

 もちろん、こんな時のレクチャーは受けているが、

 実際に遭遇するなんて思ってもいない。

〈RING様、非常事態宣言は……〉

 フブキがティアラを通して手続きのおさらいをしてくれた。


 私は背筋を伸ばして左手をそっとティアラに添える。

 耳を押さえているように見えるが、

 王冠の非常用キーに触れている。


「第十三皇女、RING・タカツキ・BKB・ザッパーの名において(●●●●●)

 天蝎宮に非常事態を宣言します」


 第13離宮内はレッドアラート点灯。

 皇帝陛下と13人の皇子、12人の皇女には直接、

 ティアラを通して私の肉声が伝わるはずだ(と聞いている)。

 月面宮殿のマザーAI、各離宮のマザーAIにも即、通報。

 そこから帝国の各軍、諜報組織、関係機関の上層部まで速報される。


《天蝎宮に非常事態が宣言されました。

 戦闘要員は警戒態勢に、

 非戦闘要員は全員コア層まで待避。

 アステロイド12は制御不能です。

 ログによればデブリ衝突と同時に、

 第13師団の支配下から離脱しております》


 ちょっと待って!

 あの防御用岩石が制御不能なんて、悪用されたらひとたまりもない。

《アステロイド12は、天蝎宮からの離脱軌道を進んでいます。

 第13師団の艦船は全て出払っています。

 天秤宮、及び蘇蛇宮に応援要請します。

 ……御承認を》

〈RING様、御許可を!〉

「プラターネ、お願い!」

《第十三皇女、RING・タカツキ・BKB・ザッパーの名のもとに(●●●●●)

 第10師団、第12師団に応援を要請します》

 直ちに艦船の派遣が承認された。

 天秤宮には乙女宮から、蘇蛇宮には人馬宮から、

 順送りで応援が行われる。

 宇宙軍の抜き打ち訓練はよくあることだ。

 今回は手が込んでいるな。

 訓練後に振る舞われる、ちょっと豪華な食事が楽しみだ。

 最前線の兵士たちはそれくらいの認識だった。


《アステロイド12はレーダーから消えました。

 ビーコンも途絶え、ステルス処理が施された模様。

 戦闘要員は第一級戦闘服着用。

 非戦闘要員は簡易宇宙服着用を……》

 つまり衝突に備えろということだ。

 私は喉が干からびたように声が出ない。

 戸惑っていると、フブキがサポート。

〈RING様、私にお命じ下さい〉

 フブキの目を見て、コクコクと頷く。

〈戦闘要員は第一級戦闘服着用。

 非戦闘要員は簡易宇宙服を着た上で、

 防護カプセルに着座、シートベルトで固定しなさい〉

 フブキが第十三皇女の声色で命じた。

 顔色は真っ青だが、気丈な首席執事のトカルスカが召使いたちを、

 天蝎宮第13師団司令所の、副司令首席補佐官が戦闘要員を指揮。

 どちらも私からの指示と疑わない


 アステロイド12の消失はやっかいだ。

 ザムーン・GEO13離宮・LEOネットに警戒命令が発せられた。

 未知の小惑星が発見され、ジアース軌道と交差する恐れがある。と。


 今の天蝎宮にいるのは、離宮の運用を担当する兵士約100名、

 皇女付きの召使いが350名ほど。

 直径150センチ、球形の防護カプセルは一見おしゃれな椅子だ、

 簡易宇宙服を着て、シールドを閉じれば、

 本体だけで72時間は生命が維持できる脱出ポッドとなる。

 バッテリーとエアボンベの増設も可能だ。

 過去には事故からの緊急脱出の事例があった、

 その時は数珠つなぎにして宇宙を漂い、2日間生き抜いたそうだ。

 皇子・皇女用には専用の脱出ポッドも用意されているが、

 とりあえず玉座に腰をおろし、シートベルトを装着。

 首席執事のトカルスカや、召使いたちは、

 床からせり出した防護カプセルに収まる。

 フブキとクリンゲルは平気な様子で私の左右に留まる。


 小規模な振動が数回続いた。

 一瞬の停電後、非常用電源に切り替わる。嫌な予感。

《原因不明の爆発により、電源ユニットの機能が喪失しました。

 南北接続ゲート破損。

 防護カプセル射出シュート破損。

 外部との通信も、強力な妨害を受けております……》 

 大スクリーンに映し出される外側の映像では、

 もぎ取られたような太陽電池パネルが、ゆっくりと離れて行く。

 画面はすぐにブラックアウトして、小さくプラターネの認識章が映るのみ。

《これより、エマージェンシーモードに入ります。

 非戦闘員のⅠ類職員は大広間に集合。

 非戦闘員のⅡ類職員は控えの間に待機。

 戦闘員のⅠ類職員は指令所に集合。

 戦闘員のⅡ類職員はそのまま持ち場に留まりなさい》


 私の傍に控えていた召使いの半分が大広間から離れた。

 替わりに入ってきた召使いたちで部屋は満杯。

 大広間の定員は100名と聞いている。

《これより、マニュアルに従い第一層に防護樹脂を充填します。

 大広間・指令所以外の空気の循環を停止し、

 通路を含め酸素を回収しますので、以後の出入りを禁じます》

「それじゃ、他の場所にいるみんなが死んじゃう!」

〈RING様。ご心配には及びません。

 生身の人間は大広間と指令所に集めました〉

 クリンゲルが落ち着いた声で、全員に聞こえるように説明した。

「ど、どういうこと!」

〈シークレット事項でしたが、Ⅱ類職員とはアンドロイドのことです〉

 召使いたちもささめく。

 Ⅰ類職員とは皇子・皇女付きで離宮を渡り歩き、

 Ⅱ類職員は離宮付きの待遇だと認識していた。

 アンドロイドだったなんて気付きもしなかった。

 しかし、いちいち驚いているほど現実は甘くなかった。


 天蝎宮は大きく揺れた。

 大広間の召使いたちから思わず悲鳴が上がる。

 全員が第十三皇女召還と同時に採用された新人ばかりだ。

 古参の召使いたちは皇子と一緒にジアースに行っている。

《第一燃料貯蔵庫が爆発しました。

 現在、消火活動中ですが、

 燃焼により天蝎宮は加速中です。

 ジアースに向かって落下しています》

 尋常ならざる事態。

 助けを呼ぶにも、外部との通信は遮断したまま。

 師団司令所の副司令首席補佐官から進言、

 離宮内の回線は生きている。

「RING様、脱出ポッドをお使いください。

 ビーコンを発しながら、自動的に蘇蛇宮に向かいますので、

 応援艦船が救助してくれます」

 フブキとクリンゲルが行動を起こす。


「待って、皆はどうなるの」

 非常事態には皇帝一族が優先されることは、

 皇子・皇女はもとより、軍人・従者たちにも叩きこまれている。

 でも、召使いたちの不安そうな顔を見たらそのままにできない。

 皇女としては未熟者のレッテルを貼られそうだが、

 変なところで覚悟が決まった。

「RING様、お心遣い感謝いたします。

 ですがこれは臣下の務めです。

 姫様の安全が確保できなければ、

 私どもも避難する訳には参りません。

 フブキ、クリンゲル。急いでください」

 首席執事のトカルスカが務めを果たそうとする。


 再び、天蝎宮が大きく揺れた。

《第二燃料貯蔵庫が爆発しました。

 酸素の消費量が尋常ではありません。

 天蝎宮は完全に制御不能です。

 40時間後には大気圏に突入します》

「RING様、お急ぎください!

 私どもは応援艦船を待ちます」

 脱出ポッドが床からせり出してきた。

 防護カプセル2個分の大きさ、

 二人乗り戦闘機のコックピットに似ている。

 私とフブキがシートに座り、

 クリンゲル本体も収納する。

 脱出ポッドは防護カプセルと別経路を使う。

 射出シュートは無事なはずだ。

《脱出計画を策定しました。

 RING様を脱出させた後、

 同じ経路で防護カプセル射出します。

 作業はアンドロイドが行いますので準備を急いでください》



「RING! こちらLEBHAFT。聞こえるか?」

 ティアラから第十三皇子の声。

「お兄様!」

「良かった、通じたか!」

「もう、何が何だか……」

 私は半ベソだ。

「何者かが妨害している。

 ようやくスクリールと接続できた、

 現在被害状況を精査中だ……。

 うわっ、これはひどい……」

 フブキ、クリンゲルの動きが止まる。

 LEBHAFTからの通信が一対一のシークレットモードに、

「RING、よく聞いて!

 AIが乗っ取られている可能性がある。

 従者たちに気付かれないように、

 プラターネを再起動してくれ、

 上手くスクリールを介入させる……」

 大スクリーンにスクリールの認識章が加わった。

「LEBHAFT・クーペル・BKB・ザッパーだ……」

 大広間に第十三皇子の声が響く。

 召使いたちから安堵の声。

「第十三皇女の宣言した通り、天蝎宮は緊急事態である。

 LEBHAFT・クーペル・BKB・ザッパーの名において、

 天蝎宮の運用をスクリールに委ねる」

《プラターネ、承知いたしました。

 天蝎宮の運用をスクリールに移します》


《RING様、AIスクリールです。

 天蝎宮の被害状況は甚大です。

 第一・第二燃料貯蔵庫の燃焼は継続中、

 酸素の減少が止められません。

 ジアースに向かい加速しております。

 約30時間後には大気圏に突入します。

 現在人員は第十三皇女の他、

 Ⅰ類職員159名、負傷者0。

 Ⅱ類職員291体、損傷0。

 通信はLEBHAFT様と辛うじて繋がっております。

 第10師団の旗艦『ARBIL』は2時間、

 第12師団の二番艦『IAKUTIBEH』は3時間後に到着予定です。

 このまま離宮内に留まるのが賢明です》

「わ、分かりました」

「RING……、通信状況が……、悪化している……。

 ……さっきいったことを……、忘れないように……」

《LEBHAFT様との通信が途絶えました。

 RING様、為すべきことを行ってください》


【第13離宮『天蝎宮』つづく】


挿絵(By みてみん)

『ケチュア、スクリール、グアラニー』認識章

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ