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012《第13離宮『天蝎宮』・延長後》

〈〈第12師団二番艦部隊5艦。

  及び第13師団二番艦部隊2艦は直ちに停船せよ〉〉


 7艦は警告を無視。

 散開して砲口を本隊に向けようと回頭を続ける。


〈〈第12師団二番艦部隊5艦。

  及び第13師団二番艦部隊2艦は直ちに停船せよ〉〉


 7艦は回頭を続ける。

 反乱部隊と認定された。


〈〈帝国宇宙軍へ警告 本隊へのX線到達予定 1分前〉〉


 いきなり警告射撃が反乱部隊の外装を焼いた。

 7艦の砲口はまだ本隊を捉えるには至らない。

 第一師団の24艦が放射陣形から大きく離れ、

 離脱した反乱部隊をロックオンしている。


〈〈第12師団二番艦IAKUTIBEH、

  ラサルハグェ2、ケバルライ2、

  イェド・プリオル2、イェド・ポステリオル2。

  第13師団二番艦IROSAS、ジュバは、

  降伏信号を発信し慣性飛行に移れ、

  命令に従わなければ破壊する〉〉


 勧告を受けた反乱部隊の動きは止まらない。

 そして……。


〈〈帝国宇宙軍へ警告 本隊へのX線到達予定時刻となりました〉〉


 ◇◆◇


 チャンチュン(長春)のNortheast China最高議会。

 演説中のヨウ第一書記は絶句した。

 一瞬、風を感じたが、

 気付いた時には手遅れだった。

(やられた……)

 首筋にチクリと痛み。

 身体は硬直した。

 メディカルスタッフにより運び出される。

 症状は脳梗塞に酷似。


 議会は中断しなかった。

 前女王により再開が促されたのだ。

 演台に立ったのはオウ第二書記。

 最悪の事態を想定して、演説の練習はしている。

 事態が宇宙規模で動き出した以上、

 八華を裏切ることはできない。

 この賭けには何としても勝たなければならないのだ。

 しかし、第三皇子妃は敵か味方か?


 落ち着くために水を飲もうとした、

 後方からグラスの割れる音。

 驚いて振り向くと、チョウ議長が口から泡を吹いて悶絶している。

 毒を盛られたのか。

 再びメディカルスタッフにより運び出される。

 症状は心筋梗塞に酷似。


 何も知らない副議長が代行を務める。

 チンニャウ様は演説を促す。

 第二書記はようやく悟った。

 前女王が全てを知っているのは間違いない。

 その上で独立を阻止するためにここにいる。

 軍からの報告がないということは、

 既に鎮圧済みという証に他ならない。

 North ChinaとEast Chinaからの支援も望み薄。

 だからといって自分が八華を裏切れば、

 庇護下にある家族や一族郎党の身に危険が及ぶ。

 最悪の状況下で最善を尽くすには……。


「畏れながら前女王陛下であり、

 帝国第三皇子妃であらせられる、

 キムチンニャウ様に申し上げます……」

 覚悟は決めた。

 特殊部隊仕込みの腕に覚えはある。

(死ねっ!)

 懐から拳銃を抜き撃ち放つ。

 要人の血で反乱の旗印を染め上げるしかない。


 影が動いた。

 SPの一人が盾となる。

 アリアナZⅥ。Zの型式を持つ帝国のアンドロイド。

 もう一人は目の前に。

 小柄な人影は第十三皇女と瓜二つ。

 フブキZⅠ。Zの型式を持つ帝国の最新鋭アンドロイド。


 オウ第二書記の腕は跳ね上げられ、

 弾丸は天井に逸れた。

〈帝国反逆の罪により逮捕します〉

 抵抗はできない。蛇に睨まれた蛙だった。

 最高議会衛兵に引き渡された。

 議会は何も知らぬ第三書記が登壇し、

 貴賓席に向かい不手際を詫びた。

 改めて帝国への忠誠を誓い、

 軍へは帝国への恭順を指示。

 反逆勢力の一掃を命じた。



 80番目は最後の要、

 第9のチャイナことNortheast China議会。

 88の独立国家・自治区が政権・自治権を返上して、

 CHINA帝国を立ち上げる手筈。

 しかし、報じられたのは79の独立宣言への非難。

 KAWASAKI帝国への支持と恭順を宣言、

 反乱勢力の鎮圧を発表したのは第三書記。

 前女王であり、帝国第三皇子の妃でもある、

 キムチンニャウの御前で、

 グレートコリア連合王国、

 キムキョヌゥ国王への忠誠を誓った。


 ◇◆◇


 第13師団二番艦IROSASの艦橋。

 乙女宮の皇女付きアンドロイド、アリアナは拘束されていた。

 不特定多数の人命を質にされ、一時的に機能停止を受け容れた。

 能力的に脱出は可能だが、様子見に徹する。

 兵士は上官の命令に従わなければならないものだ。

 積極的に反乱に与している者を見極める必要がある。


 艦橋にはアンドロイド兵士は配属されていない様子。

 20名ほどのうち3名は身軽な軍服のまま。

 将官2名に佐官1名。

 第13師団、副司令官(第十三皇女)の首席補佐官。

 そして二番艦IROSASの艦長とその参謀。

 その他は太陽嵐対策の名目で宇宙服着用が命じられていた。

 アリアナは保留した機能で全ての様子を記録にとどめる。


 ◇◆◇


 第12師団二番艦IAKUTIBEHの艦橋。

 首席補佐官が傍らに控え、

 第十二皇女TAKTIKER・ケイロスが指揮を執る。

 浮遊円盤の『CITADEL(シタデル)』と、

 アンドロイドメイドの『CALE(カレ)』も一緒だ。 

 ここにいる者は全員が宇宙服を着用していない。

 艦橋外の下士官・兵士たちには宇宙服着用が命じられていた。


 ◇◆◇


 第12離宮、蘇蛇宮。

 第十二皇女のマザーAI『GEHEIM(ゲハイム)』と、

 第十二皇子のマザーAI『CALATRAVA(カラトラバ)』が、

 主導権争いをしていた。

 第十二皇女TAKTIKERケイロスはプログラムのスペシャリスト。

 エンブレムの青龍には二進法を象徴する『00011011』がデザインされている。

 天蝎宮、蘇蛇宮のAIに仕掛けを施した張本人だ。


 マザーAI同士の戦いは程なく終焉を迎えた。

 上位AIグランマの介入により、

 AIゲハイムの機能停止が決定されたのだ。

 しかし、第十二皇女のAIは自ら消去する道を選んだ。

 蘇蛇宮をジアースに落下させるプログラムは阻止され、

 自爆プログラムも、酸素放出プログラムも凍結された。

 最後の選択肢がデリート機能。

 特殊なプログラムに頼らず実行できる。

 すべての証拠も消し去らねばならない。


 浮遊円盤のシタデルがその事実を感知。

 アンドロイドメイドのカレに仕込まれた、

 AIゲハイムのバックアップが発動することになる。 


 蘇蛇宮のAIゲハイムが消え去ったことで、

 最後のトラップが発動する。

 離宮内に仕掛けられた爆発物がカウントダウンを刻みだした。


 ◇◆◇


 南米連邦、アルゼンチン自治区。

 帝国直轄地のブエノスアイレス宮殿。

 第13師団の揚陸艦ララワグ(Larawag)が簡易宇宙港に降り立った。


 第十三皇子LEBHAFTは苛立っていた。

 第十二皇女からの連絡はまだない。

 アルゼンチン自治軍は日和見を決め込んだ。

 自治政府ものらりくらり埒が明かない。

 独立を宣言した、アルゼンチン・チャイナの関係者だけが、

 ひっきりなしに対話を求めてくる。

(時期尚早だったか……。

 女狐(第十二皇女)にまんまとだまされたな)

 それでいて諦めの感情も湧きつつある。

(こんなものか。

 帝国の細部まで知り尽くしたと思ったのだが……)

 TAKTIKERの特技で、

 月面宮殿AIのグランマまでハッキングしていた。

 発覚した形跡はないが、ふと「泳がされていた」という疑いも。

推挙教信者(RAPTURISM)の妄言と思っていたが、

 やはりシンギュラリティが起きていたのかも)


 未だに帝国からの照会や詰問はないが、

 天蝎宮のAIスクリールは既に機能を一部制限された。

 浮遊円盤の『GUARANI(グアラニー)』経由で措置が通知され、

 第十三皇子は金牛宮のAI『SAN(サン) AGUSTIN(アグスティン)』、の支援を受けることになるが、

 アンドロイドメイドの『QUECHUA(ケチュア)』に仕込まれた、

 AIスクリールのバックアップが密かに発動。

(さて、どこに逃げたものか……)


 天蝎宮と蘇蛇宮がLEOネットを巻き込んで地上に落下すれば、

 混乱が生じチャイナ帝国成立の追い風になる。

 太陽嵐騒ぎに乗じ第一師団には壊滅的な打撃を与える。

 残った11の離宮への不意打ちも効果は高いだろう。

 月面宮殿への攻撃もジアースから直接観測できる。

 生死にかかわらず、RINGの出自を明かせば、

 少なからず不満を抱えている、皇子・皇女の寝返りも期待できる。

 充分KAWASAKI帝国に対抗できるはずという読みだった。


 何としても生き残りさえすれば、まだまだ勝負はできる。

 だが今の時点で自治政府を頼るのは危険だ。

 反乱皇子と認定されれば拘束は必至、

 証拠隠滅のために命はないだろう。

 アルゼンチン・チャイナも考えもの、

 基盤はまだまだ脆弱だ。

 現実的なのは八華の一つ、アメリカ・チャイナへの亡命。


 皇帝歴449年(西暦2568年)の『政党選挙(PPE)』で、過去最大の7州に拡大していた。

 元のアメリカ合衆国は、50の自治州が4年に一度の住民総選挙で、

 どこが第一政党になるかによって、所属する自治政府が決まる。

 前年の「PPE2568」では、

 東アメリカ共和国 19州

 西アメリカ民主国 18州

 アメリカ・チャイナ 7州

 アメリカ王国    6州

 史上初めて、王国がチャイナに抜かれた。

 国王のドナルドⅢ世は激怒し、一触即発の事態にまで発展したが、

 共和国と民主国が取りなし、事なきを得た。

 来年はPolitical party election 2572への中間選挙がおこなわれる。


【第13離宮『天蝎宮』つづく】

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