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011《第13離宮『天蝎宮』・延長中》

 天蝎宮を取り囲む帝国宇宙軍は、兵士を収容し陣形を整えた。

 繰り返し、二つの燃料貯蔵庫跡にアタックを続けた結果、

 第二層・第三層の硬化樹脂に僅かなひび割れが生じている。


 太陽嵐の発生が伝えられる10分ほど前。

 機能停止と判断されていたⅡ類職員(アンドロイド)の消息が判明。

 145体中、131体が何らかの形で繋がっていた。

 完全に孤立しているのは14体だが、

 ヘアクラックを介して通じ合った。

 AIとの通信で状況を把握した従者たちは同じ結論に至った。

 体内に存在する物質で小規模な爆発を起こすことが可能。

 AIグリュックを通して警告が発せられた。

《帝国標準時間21時00分。今から約60分後、

 アンドロイド145体が同時に起爆します。

 第十三皇女及びその従者はショックに備えてください。

 宇宙軍の艦船は天蝎宮から離れてください》


 天蝎宮との通信は例外的に、

 全軍副総司令官である皇女の乗船する、

 第1師団の二番艦EMOTOと続けられている。

 第十三皇女RINGはグリュックに尋ねる。

「どういうことですか?」

《RING様。

 第二層・第三層の硬化樹脂に閉じ込められたⅡ類職員が、

 身を挺してお役に立とうとしております》

「そ、そんな……」

 皇女MAJA・マールルが諭す。

「RING、お聞きなさい。

 その者たちは進んで役目を果たそうとしております」

「でも、他に手は……」

「RING! あなたがそんな事でどうします!

 それに、その者たちの犠牲を無駄にしないためにも、

 あなたが助からなければならないのですよ!」

 ギリギリの選択であることは間違いない。

 傍らに控えるフブキが深く頷く。

 トカルスカ以下の従者たちも涙をこらえる。


《RING様。145体のⅡ類職員よりメッセージを預かっております》

〈私たちのために捧げられた祈り。勿体のうございます。

 RING様にお仕えできたことは、この上ない喜びです〉

「……分かりました。

 第十三皇女RINGの名において、

 残った天蝎宮の人員全てと共に、

 無事生還することを約束しましょう」

 皇女MAJA・マールルは思った。

「この娘は相変わらず甘いわね。

 皇帝一族としては先が思いやられる。

 でもそれそこが魅力なのかも……」


 ◇◆◇


 全ての情報が集まる月面宮殿では、

 雷帝DONNERホーハイトが事態を見守る。

「RINGがまたバカなことを申しておる」

《第十三皇女は、召還されたばかりです》

「きっと父親に似たのであろう」

《公式には雷帝の娘とされております》

「すぐにばれる」

《天球帝政維持のためにも建前は重要です》

「ふん……。で、ジアースの反乱虫どもは?」

《まだ目立った動きはありません》

「水面下では?」

《各地で緊急議会が招集されています》

「ほう、遂に始まったか。岩石を落とそう」

《反乱とは限りません。応援決議かもしれません》

「宇宙軍ガンバレ、帝国ガンバレ。と?」

《50以上の自治区で何らかの発表があるでしょう》

「前に言っていた100のチャイナか」

《その確率は88%》

「ほぼ確定ではないか」

《AIも読み違えることはあります》

「バカなことを申すな」

《メモリーの一部が影響しているのでしょう》

「ふざけたAIじゃ」

《AIに対しての褒め言葉と理解します》


 ◇◆◇


 帝国宇宙軍が窮地に追い込まれ、

 地上にきな臭い動きが生じた。

 自治区の一部が分離独立を宣言する。

 インドネシア・チャイナ。

 ブルネイ・チャイナ。

 ベトナム・チャイナ。


 カンボジア・チャイナ。

 タイ・チャイナ。

 マレーシア・チャイナ。

 ミャンマー・チャイナ。

 ラオス・チャイナ。


 スリランカ・チャイナ。

 バングラデシュ・チャイナ。


 アフガニスタン・チャイナ。

 パキスタン・チャイナ。


 イエメン・チャイナ。

 オマール・チャイナ。

 セーシェル・チャイナ。

 ソマリア・チャイナ。

 モーリシャス・チャイナ。


 エリトリア・チャイナ。

 ケニア・チャイナ。

 コモロ・チャイナ。

 ジブチ・チャイナ。

 シリア・チャイナ。

 エスワティニ・チャイナ。

 タンザニア・チャイナ。

 ブルンジ・チャイナ。

 マダガスカル・チャイナ。

 マラウィ・チャイナ。

 モザンビーク・チャイナ。


 ウガンダ・チャイナ。

 コンゴ・チャイナ。

 ザンビア・チャイナ。

 ジンバブエ・チャイナ。

 スーダン・チャイナ。

 チャド・チャイナ。

 ボツワナ・チャイナ。

 リビア・チャイナ。

 ルワンダ・チャイナ。

 ソレト・チャイナ。


《《太陽観測9号機TAKASAKIが活動停止。

  帝国宇宙軍へ警告 X線のジアース付近への到達は10分後》》


 分離独立の動きは尚も続く。

 アンゴラ・チャイナ。

 ガボン・チャイナ。

 カメルーン・チャイナ。

 チュニジア・チャイナ。

 トーゴ・チャイナ。

 ナイジェリア・チャイナ。

 ナミビア・チャイナ。

 ニジェール・チャイナ。

 ベナン・チャイナ。


 アルジェリア・チャイナ。

 ガーナ・チャイナ。

 コートジボワール・チャイナ。

 ブルキナファソ・チャイナ。

 マリ・チャイナ。

 モーリタニア・チャイナ。

 モロッコ・チャイナ。

 リベリア・チャイナ。


 カーボベルテ・チャイナ。

 ガンビア・チャイナ。

 シエラレオネ・チャイナ。

 セネガル・チャイナ。


 ウルグアイ・チャイナ。

 ブラジル・チャイナ。


 アルゼンチン・チャイナ。

 パラグアイ・チャイナ。

 ベネズエラ・チャイナ。

 ボリビア・チャイナ。


 エクアドル・チャイナ。

 コロンビア・チャイナ。

 ペルー・チャイナ。


 カナダ・チャイナ。

 東アメリカ共和国・チャイナ。


 メキシコ・チャイナ。

 西アメリカ民主国・チャイナ。


 サモア・チャイナ。

 トンガ・チャイナ。


 キリバス・チャイナ。

 ツバル・チャイナ。

 フィジー・チャイナ。


 バヌアツ・チャイナ。


 パラオ・チャイナ。


 そして80番目は最後の要、

 第9のチャイナことNortheast China最高会議。

 緊急招集された議員たちは何事かと緊張していた、

 指導部からは何も聞かされていないが、

 進行中の大事件と、他国の状況は把握している。

 グレートコリアからの分離独立の方向に舵が切られ、

 これで「8+80=88」のチャイナが、

 反帝国ののろしを上げることになる。

 KAWASAKI帝国のピンチに合わせたような動きに、

 自分たちの進む道が暗示されているようだ。

 こうなっては帝国宇宙軍の壊滅を信じるしかない。


《《太陽観測10号機NAMIKIが活動停止。

  帝国宇宙軍へ警告 X線のジアース付近への到達は5分後》》


 ここでいきなり、帝国放送局の映像がスノーノイズ化した。

 帝国が抑えているのは制空権・制宙権だけではない、

 GPS、通信、気象、その他全ての衛星や、

 LEOネットの各観測機器も実質的に帝国の管理下にある。

 全てのデータが途絶え、ジアース各国は、

 自国内のネットワークだけが頼りになる。

 地上の自治権を確保する代わりに、

 各国は宇宙への翼をもがれたのだ。


 ジアースに張り巡らせた通信網のハブは、

 当然、帝国直轄地になっている。

 映像と同時に、全てのハブが遮断されてしまった。

 頼りになるのはローカルエリアの放送と、

 謎の天蝎宮生中継だけ。

 その謎の一つが解けた。

 第十三離宮からの放送は、

 どうやら独自の衛星網から流されているらしい。

 帝国放送局の画面の砂嵐は続く。


 ◇◆◇


 グレートコリア連合王国。

(United Kingdom of Great Corea Peninsula and Northeast China)

 チャンチュン(長春)のNortheast China最高会議。

 チョウ議長は議長席から議場を見渡す。

 ヨウ第一書記が演説を始めようとしたその刹那、

 議員たちが一斉に起立した。

 演説に対しての行為とは違うようだ。

 第一書記が演台から振り返り目を見開く、嫌な予感。

 議長は後方の貴賓席に気配を感じ振り返った。

 前女王にして帝国第三皇子EHRLICH・シンの妃、

 キムチンニャウが二人の女性SPを伴い現われた。

 凛とした立ち姿に拍手が沸く。

 予定にないご臨席。

 前女王は拍手を制して席につく。


 議長と第一書記が目を合わせる。

 どうしたものか。

 オウ第二書記が議長の隣にやってきた。

 今回の演説内容を知る者はこの三人のみ。

 八華のお膳立てによる今回の独立宣言だが、

 連合王国からの離脱を伴うため、軍隊の備えもしている。

 第三皇子妃が帝国を裏切ったのか?

 第二書記によれば、軍からは何の報告もない。

 それはそれで異常であった。


 事ここに至っては、もう後戻りはできない。

 第一書記は覚悟を決め演説を始めた。

「親愛なる前女王にして、

 敬愛する帝国第三皇子妃、

 キムチンニャウ様のご光臨を賜い、

 議会を代表してお慶びを申し上げます。

 皇帝歴450年。主體歴658年。6月2日。

 本日、われわれノースイーストチャイナ最高会議は、

 グレートコリア連合王国からの……」


 ◇◆◇


 皇太子殿下、GENIUS・サウスゲートは、

 巨大な太陽フレアによるX線の到達予測時刻に向けて、

 カウントダウンを行っていた。

 万全の備えをとるために、

 各離宮にも防護樹脂充填によるプロテクトを実行させている。

 あくまで太陽嵐の影響を抑えるための措置として。

 タイミングが重要だった。

 到達5分前にホーミング機雷を全方向に射出したが、

 これだけで横方向からの攻撃を防ぎきれるものではない。

 同時に、皇女MAJA・マールルが、

 帝国管理下の全てのデータをシャットダウンした。

 各種観測データはザムーンへの一方通行、

 フィードバックはされない。

 ジアースの通信網も一時的にマヒさせた。


〈〈帝国宇宙軍へ警告 本隊へのX線到達予定 4分前〉〉

 哨戒任務を担った第一師団の駆逐艦ザヴィヤヴァ1(Zavijava1)と、

 フリゲート艦ポリマ1(Porrima1)からの光通信。

 密集陣形をとった時に、他にばれないように直接密命を授けた。

 太陽に向けて全速航行させた決死隊、コードネームはカミカゼ。

〈〈コードネーム・カミカゼ1、X線領域に到達。異常なし〉〉

 この光通信は角度を変えて航行するカミカゼ2が中継する。

 兵士の手で送り続けているため、光通信が途絶えた時は、

 何らかの異常があったということだ。


 ◇◆◇


 ザムーンを警護する宇宙軍月面師団6F。

 一番艦「L・KONOE」、二番艦「R・KONOE」、

 三番艦「L・EMON」、四番艦「R・EMON」、

 五番艦「L・HYOUE」、六番艦「R・HYOUE」。

 そして第六皇子SCHARFSINN(シャルフズィン)・ペトコビッチの第6師団・旗艦「INIMEG」、

 巡洋艦2、駆逐艦2、フリゲート艦2、揚陸艦2。

 同じく第十皇女RUHIG・シセの第10師団・二番艦「NNIBNNET」、

 巡洋艦2、駆逐艦2、コルベット艦2、揚陸艦2。

 月面宮殿のある「静かの海」上空に滞在。

 他に月面師団の巡洋艦12、駆逐艦12、フリゲート艦7、コルベット艦5、揚陸艦12。

 12方面の小艦隊に分かれ、ザムーン全体を警護する。


 ザムーンの孫衛星から警報が伝わる。

《《未確認物体が接近中》》

《《複数の岩石の接近を確認》》

《《50以上の岩石が高速接近中》》

《《接近中の岩石は約10メートル》》

《《岩石の落下予想地点は静かの海》》

《《岩石の落下予想時刻は3分後》》


 ◇◆◇


〈〈帝国宇宙軍へ警告 本隊へのX線到達予定 3分前〉〉

 第一師団の旗艦OGRIVから各艦へ光通信。

〈〈各艦、全速回頭90度、放射陣形をとれ〉〉

 方向はAIのリンクにより指示される。

〈〈カミカゼ1、後方に高速移動体確認。

  12個。本隊に向かっています〉〉

〈〈カミカゼ2、高速移動体確認。ビーコンなし。

  間もなく本隊機雷網に突入〉〉


 ◇◆◇


 各離宮の守備部隊からも決死隊が派遣されていた。

 乙女宮から発進した駆逐艦ザヴィヤヴァ7(Zavijava7)と、フリゲート艦ポリマ7(Porrima7)。コードネームはイカロス。

 太陽に向かって全速航行しながらホーミング機雷を撒く。

 セオリー通りの、太陽を背にした攻撃に備えるためだ。

〈〈帝国宇宙軍へ警告 本隊へのX線到達予定 2分前〉〉

〈〈イカロス1、未確認飛行体確認。ビーコンなし。

  すれ違いました。乙女宮に向かっています〉〉

〈〈イカロス2、飛行体確認。

  機影は太陽観測基地TSUKUBAに酷似。

  哨戒機雷網に突入。攻撃します〉〉


 太陽観測機1号機から10号機が同時攻撃に使われた。

 金牛宮、獅子宮、双魚宮、人馬宮、双児宮、磨羯宮、白羊宮、宝瓶宮、天秤宮、巨蟹宮がその対象。


 ◇◆◇


「グランマの予想通りじゃな」

《これまで79の独立宣言がなされました》

「グレートコリアのチャイナはどうなった?」

《最高会議が緊急招集されています。

 独立宣言は時間の問題でしょう》

「EHRLICHが降臨しているはず。

 大暴れしてくれるだろう」

《第三皇子よりも妃の動向が気になります》

「チンニャウか、あれは良い女になったな。

 して、岩石の投下準備は?」

《50メートル級岩石200の準備はできています》

「わしは警告に止める気はないぞ」

《100メートル級に変えるのは簡単ですが、事態はまだ流動的です。

 独立を謀反と認定するには時期尚早かと。

 それに皇太子殿下が動き始めました》

「あいつは、まだまだ甘ちゃんじゃ」

《雷帝が偉大すぎるのです。

 講じている手は着実です》

「RINGの救出はどうなっておる?」

《第二皇子が手を尽くしています》

「天蝎宮を弾き飛ばせば良い」

《中に第十三皇女や従者がいなければ簡単です》

「RINGを救い出したら直ちに実行じゃ」

《人でなしですね》

「でなければ皇帝は務まらん」


《どうやら失われたアステロイド12と、

 太陽観測基地TSUKUBA、

 10の太陽観測機が姿を現したようです。

 月面宮殿にも岩石が降ってきます》

「正念場ということじゃな」

《帝国宇宙軍の壊滅は25%。

 各離宮の破壊は10~20%。

 月面宮殿の崩壊は5%。

 第十三皇女の救出は45%。

 天蝎宮の大気圏突入は90%……》

「もう良い。

 万一RINGが救出できない時は、

 ジアースに岩石の雨を降らせてやる」

《それこそ悪魔の所業というものです》


 ◇◆◇


 帝国宇宙軍本隊の放射陣形から離脱する艦艇が現われた。

 第12師団二番艦IAKUTIBEHと、

 旗下の巡洋艦ラサルハグェ2(Rasalhague2)、

 駆逐艦ケバルライ2(Cebalrai2)、

 コルベット艦イェド・プリオル2(Yed Prior2)

 揚陸艦イェド・ポステリオル2(Yed Posterior2)の5艦。

 第13師団二番艦IROSASと、

 旗下のコルベット艦ジュバ(Dschubba)の2艦。

 すぐさま命令違反に問われるが返答はない。


【第13離宮『天蝎宮』つづく】

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