表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

9

目が醒めると、周囲は既に明るかった。平日の朝だと言うのに、ちらほらと散歩している人が見受けられる。このままこうしている訳にはいかないので、取り敢えず昨日脱いだ服を着る。

まだ水気を含んでおり、潮の香りもする。その香りに昨日の情景がフラッシュバックするが、振り払う様に忘れる。

海に入った時よりは幾分か落ち着いていたので、そのまま車を家に走らせる。


帰宅するとすぐに、濡れた衣服を脱ぎ捨てシャワーを浴びる。

ふとした瞬間に暗い海が頭に浮かぶので、極力何も考えない様にした。体を伝うお湯が、顔から滴る水滴が、排水口を目指す水の流れが、海を思い出させる。

思考を放棄した頭は、容易に恐怖の支配を受け入れる。記憶ごと洗い流すかの如く、全身をゴシゴシ擦る。

擦りすぎて皮膚がヒリヒリと痛むが、痛みを感じている間は、恐怖を忘れられた。

30分程浴びただろうか、多少スッキリして上がると、下着だけつけ布団に倒れこんだ。髪を乾かす気も起きない。

未だ思考は戻ってこないが、先程の様に海に揺り戻されることもない。

しばらく、何をするでもなくボーッとしていると、扉が開いた。


「先輩、勘弁してくださいよ」


頭だけで訪問者を確認すると、ゼミの後輩だった。


「授業来ないし、電話も出ないし、ここ来てみても居ないし…」


迷惑かけたな、とか、どうしたら良かったんだろうな、とか色々言葉は浮かぶが口を通っていかない。


「はぁ…で?どこに居たんですか」


呆れた様に言うとベッドの側に座り込んだ。


「海…。綺麗だったよ」


溜息すら出て来ない様子だ。静寂が心地悪く、二の句を継いだ。


「怖かった…けど…」


「怖かった?」


これだけで伝わると思ったが、どうやら自意識過剰だったらしい。


「入水…したんだ。失敗したけど」


「ジュスイ?」


「自殺未遂」


端的に答えると、また静寂が訪れる。

ギシっと姿勢を変える。


「先輩、本当にやめてくださいよ…」


いつの間にか立ち上がってこちらを見下ろしている。この姿勢からでは表情までは伺えないが、口調からは言葉を選んでいる感じがした。


「ゼミのみんな、交代でここ来てたんですから…皆心配してたんですよ」


穿った見方をしてしまうのは、気の持ち様からだろうか。


「警察にも通報しようか悩んでたくらいです」


「…すまん」


ここに来てようやく謝罪が言葉になった。相変わらずうつ伏せの状態なので、謝る気がある様には見えないだろうが。


「まぁいいです、取り敢えず生きてたから。それより、ちょっと散歩しません?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ