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どれ位の間海水に浸っていただろうか。
体感的には、3時間ほど立ち尽くしている気がする。実際は30分かも知れない。
兎に角、寄せては返す波に揉まれ続け、気付けば海水面は腰を超えていた。
「っ…!そろそろっ、波に逆らえなくなってきたな…」
波が寄せる度に押し流されそうになる。波が引く度に引き込まれそうになる。
不思議と、恐怖は無かった。
膝を超えたあたりから、震えも止まり、笑いさえ込み上げていた。
「こ、これなら…」
一歩、踏み出す。波が僕を飲み込もうと、前から後ろから交互に攻め立てる。それに逆らう様に、踏ん張り、も一歩踏み出す。
また飲み込まれそうになるが堪える。へそを濡らした辺りで、ふと胸ポケットが気になった。
「あぁ、まだ湿気ってなかった」
僕の愛飲している赤マルだった。ボックスも嫌いじゃないがソフトの方が好きだ。片方だけ銀紙が剥いてある口から一本取り出す。
口に咥え、先端を手で覆いながら火をつける。震える唇では上手く吸えず、なかなか煙が上がらない。海風が吹くせいもあるかも知れない。
何度かやって、ようやくの事タバコに火がつくと、少しホッとした気持ちになった。深く吸い込み、吐き出す。その度に思い出したかの様に体が震える。
「僕は…まだ生きている…?」
そんな事を呟きながら、また煙を吸い込み、吐き出す。立ち昇る煙は、紫なんかではなく、ただただ白く、薄く広がっていく。
吐息と煙と、境界線が分からない。そのどちらも、すぐに夜闇に呑まれて消えていく。
「…怖い」
吸いきってしまった。踏み出そうと、踏み出さなければと、そう思うが足が動かない。
「これを全部吸ってしまわないとな。どうせ流されたら湿気ってしまう」
そう、誰にともなく言い訳を口にする。