6/9
6
そうして僕は、その場に立ち尽くす事しか出来なくなった。
怖い。
すぐ近くまで波が寄せる。
怖い。
空を見上げれば三日月だけが僕を照らしていた。
怖い。
遠く水平線を見渡せば全てを飲み込むかの様な黒。
怖い。
靴に海水が沁みてきた。潮が満ちてきているのだ。
寒い。
先程まで寒さなんて微塵も感じなかったのに、海水に濡れる度全身に寒さが広がる。
温かい。
水位が上がるに連れて、沈んだ部分が温かく感じる。
冷たい。
膝下まで海水面が上がってきた。脚に当たって跳ねる海水が膝や腰に打ち付け冷たい。
寒い。
もう足先の感覚はない。一方で全身の震えが止まらない。
暗い。
震えを抑えようと肩を抱くと、足元が目に入る。既に靴先は砂に埋もれており、暗い水面が更に見えなくしようとしていた。