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次に僕が向かったのは、思い出の海。以前皆で花火をしたのだ。
ここからでは反対側になってしまうが、どうせ死ぬなら思い入れのある所が良いか、と思った。他に適当な場所を知らない為、選択の余地はなかったが。
道中は何事もなかったが、もし通報されていたら警察は捜索に出たりするのだろうか、などと考えていたので、パトカーとすれ違う時には少し緊張した。
こちらの浜は、夏には海水浴場にもなるので、ちゃんとした駐車場もあり、季節でもないと言うのに何台か車が停まっていた。
浜に降りて行くと、何組かのカップルが海を眺めながら寄り添っていた。
一瞬、こいつらの目の前で入水してムードを台無しにしてやろうか、とも思ったけれど、それでは邪魔されてしまうかも知れない。
特に女の前では格好つけたがる男は多いし、良い人アピールさせてしまう事にもなり兼ねない。それどころか、勝手に助けておいて、感謝させられでもしたら堪ったもんじゃない。
取り敢えず離れようと海岸線沿いに歩いて行く。
駐車場から離れるほど人は疎らになり、波の音がはっきりと聞こえる様になる。周囲に人影が見えない所まで来ると、今度は波打ち際へと歩を進める。
先程までの歩調とは打って変わって、一歩一歩、ゆっくりと、進む。次第に足元の粒は小さくなり、足音もジャリ、ジャリ、とはっきり聞こえる様になる。
また、一歩進むごとにその足音さえも飲み込まんとする程に波音も大きさを増していく。波打ち際まで来ると、自然と足が止まってしまう。
ザブン、と打ち寄せ、さー、と引いていく。寄る波の音は確かに恐怖を駆り立てる。
しかし、静かに、ただ確実に砂を飲み込んでいく引き際にこそ強く恐怖した。海がこんなに恐ろしいものだなんて、海水浴の時や、花火に来た時などには考えもしなかった。
僕には、これ以上前に進む事は出来ない。
かと言って、引き返す程甘い覚悟でここに来たわけではない。