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海岸線を暫く走っていると、幅50メートル程の小さな浜を見つけた。ここなら、と車を停め波打ち際まで降りて行く。
綺麗な夕焼けだった。
夕日は海に半分ほど沈んでおり、濃いオレンジから藍色まで色彩の変化を辿れた。防波堤が浜の真ん中位まで伸びており、その先に先客がいた。
その人は、釣りをするわけでもなく、ただただ海を眺めていた。
「綺麗ですね」
別に話しかけるつもりはなかったが、気付けば隣に立って一緒に夕日を眺めていた。
「そうですね」
特に含みを持たせるでもなく、その人は応えた。
「何を、なさっているんですか?」
頭では、こんな綺麗な海で死ねたらどんなにか良いだろう、と考えながらも、口は意識を離れ勝手に会話を続ける。
「…多分、貴方と同じですよ」
特に思いつめた風もなくそんな事を言うので、僕は少し苛ついた。
「貴方に何が解るんです?」
そう問い詰めると、顔だけでこちらを振り返り、じっと僕の目を見つめる。
「…普通話しかけてきませんよ。気まずくなってどちらかが去るしかなくなるんですから」
その顔を見て僕は驚いた。穏やかな声色と表情ではあるのに、その目には僕はおろか、何も映してはいなかった。
「それに、貴方にだってこちらの事は解らないでしょう?」
その眼の漆黒から逃れたくて、僕は視線を外す。
「そう…ですね。すみません」
「いえ、良いんです。もう日も暮れますし」
それきり、その浜には、寄せる波音と近くを通る車の音しか聞こえなかった。
すっかり日が落ちるまで海を眺めて、それからここを立ち去る事を決めた。
「では僕はこれで…」
「さようなら」
今日始めてあったのに、まるでお互い知っていたかの様に挨拶を交わし、揃って立ち上がる。背を向け歩き出すと、ピチャピチャと水に触れる音が聞こえた。
「あの…お気を付けて…」
最後に振り返ると、その人は何かに救われた様に笑っていた。
「そちらこそ、お気を付けて」
お互いがお互いの末路を想定しながらも、何故だか口に出すのは憚られた。