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朝、目が醒めると、そろそろ演習の授業が始まりそうな時間だった。発表資料は、できていない。と言うより、昨日の時点で最早諦めて投げ出していた。


「何もかも爆発しねぇかな…」


忌々しい程明るく照りつける太陽とは裏腹に、僕の心はどんどん曇っていく。濁っていくと表現した方が適切かもしれない。

どうしようか、と部屋を見回して居ると、ふと、先日友人から返ってきたハムレットを視界の端に捉えた。


「『生きるか死ぬか、それが問題だ』…ってか」


しかし、僕には、彼の復讐の様に生死がどうでも良くなるほど固執するべき事柄もない。


「生きる希望もないけれど、死ぬ理由もない。覚悟も意思もない」


そんな腑抜けはどうするべきか。取り敢えず、授業開始5分ほど前、ケータイの電源を切った。どうせサボれば先生なり後輩なりが電話してくる。

幸い一人暮らしのアパートに固定電話はないため、電話線を抜く手間までは要らなかったが。


「もう、いいや。何もしたくない」


そう言って干してあったタオルを一枚手に取る。部屋の中に渡してある物干し竿にタオルを巻きつけ輪を作ってみる。

この部屋の中で済ますならこの方法が手っ取り早いか、と幾度となく妄想して居たため、ここまでは何も考えなくとも体は勝手に動いた。


「これじゃ無理だな…」


ただ、想像していたよりもずっと、タオルが短く、輪に頭が通らない。そこで、一度解いて、垂らしたタオルの下に首を持ってくる。


「これなら…」


その後、背伸びをして物干し竿と首を密着させ、タオルを首の下で縛った。後は足の力を抜くだけ、それだけで全部終わる。終われる。


「これで、終われる、のに…」


いざとなると、脚は震え、呼吸も乱れてくる。だが、現状既に爪先立ちであるため、覚悟が決まらなかったとしても、その内勝手に吊られる。


「そうだっ、このまま…紐解さえしなければっ…」


大した覚悟がなくとも、首を吊れる。次第に脚の力が抜けてくる。


「くっ…がぁっ…」


首が締まる。今はまだ、息がし難いだけで、呼吸できないほどではない。


「はぁっ…くっ…」


息が上がり始める。呼吸が荒くなる。手で首を押さえ、気道を確保しようとするが、もう自分の体重で引っ張られているタオルは、隙間を作ることも許さない。


「っ…」


手足に力が入らない。苦しい、でも、これで。そう思った時、カランカラン、と金属製の何かが落ちる音がした。

気づけば僕は、床に突っ伏していた。


「っ…はぁっ、はぁっ、はぁっ…」


噎せながらも起き上がってみると、首にはタオルが巻かれたまま、物干し竿も引っ付いたままだ。固定していなかった所為で、物干し竿ごと落下した様子だった。

暫く呆然としていた。

先程までは、完全に死ぬ気でいたので、その後のことなど微塵も考えていなかった。ゆっくりとタオルを解くと、物干し竿を同じ位置に戻し、もう一度同じ様に首を吊った。

苦しかったが、同じ様に失敗に終わり、暗い携帯の画面に写る自分の姿を見つめるしかなかった。

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