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「私の経験上ね、首吊りって言うのはかなり覚悟を決めている人の自殺方法だと思うの」
このおばさんは何を言っているのだろう。彼女はこのなりでカウンセラーだと言う。
派手な服に身を包み、指には大きめの指輪も何個かついている。心身喪失状態の人間と相対するのに相応しいとはとても思えなかった。
「はぁ、そうですか」
先程の発言は、私は貴方に共感していますよ、というポーズなのだろうか。そう考えると生返事しか出てこない。
僕が何故カウンセリングなんて受けているのかと言えば、後輩に騙されて連れてこられたからだ。別に後輩に裏切られただとか、許さないだなんて微塵も思っちゃいない。
ただ、こんなに心配かけてしまったのか、と実感する事と、こんな胡散臭いカウンセラーが常駐している我が校のレベルを嘆く事くらいしかできなかった。
「私はね、職業柄、死にたいって言っている人はたくさん見るの」
そりゃそうだ。そう言う人達を相手にするのが貴女の仕事なんだから。
「でもね、実際に行動に起こす程覚悟の決まった人は中々居ないのよ?」
それもまた道理だろう。
大体、自ら進んでカウンセリングを受けよう何て思う奴は、まだそこまで追い詰められて居ないか、もしくは苦しんでる自分を美化している阿呆くらいだ。
「そうですか。でも、今はもう落ち着いているんで…」
「そう言われてもね、悪いけど、私は貴方のこと信用できないの。これは解ってもらえる?」
「まぁ…昨日の今日ですし、それは仕方ないかと」
僕がここに居る訳、後輩が僕を騙してでもここに連れて来た訳。
「もう一回確認するわね?自宅で首吊り、その後入水。間違いない?」
「えぇ、そうですね」
僕は自殺に失敗したのだ。