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怪物の襲撃

  放課後。

 勇気の隣には人だかりができていた。

 朝は狭間修という学園のアイドルの死で皆がお通夜気分だったはずが今ではもうそんなことどうでもいいというようにクラスの転校生に夢中になって人が集まっている。

 人間という者は等しくして他人の死には一瞬で冷めたような態度へと変わる。

 このクラスに寄り集まる人々もまた狭間修という人物には何の思い入れも感じてはいなかったということだった。今では、彼ら、彼女らにとっては目先の転校生が注目を集める価値のある存在。

 転校生の綾蔵雪菜はにこやかな笑みを浮かべながら一人一人の質問に応じていた。

 あれではいつまでたっても帰宅できないことだろう。

 勇気には知る由もない。

 席を立ち、教室を出て昇降口へ。

 昇降口で靴を履き替える途中で後ろから駆けてくる足音が聞こえた。


「ゆっくん!」


 それは勇気の義姉である九条彩音は捕まえたというようにその肩をつかみ勇気を睨みつける。


「な、なに?」

「今、お姉ちゃんを置いて先に帰ろうとしたでしょ。今日は一緒に帰ろうって約束したの忘れたの?」


 言われて初めてようやくそのような話を朝にしていたのを思い出した。

 今日は昨日の出来事を心配した義姉は一緒に帰ろうと促していた。

 すっかりとそのことは記憶の外に追いやってしまっていたのでいつもの癖で一人で帰るつもりであった。


「あー、うん。ごめんなさい」


 これには素直に謝罪を口にした。

 別に彼女と帰ることを避けていたわけでもなくド忘れていたことは彼女に対して悪く思えた。

 正直にこれには頭を下げる。


「もう、そんな怒ってないから、頭を上げて、ね?」

「あ、うん」


 義姉に諭されては頭を上げる。

 すると、周りから妬みや嫉みの声が聞こえてくる。

 それを義姉はきつい人睨みで黙らせた。


「まったく、ゆっくんがなにかしたわけじゃないでしょ」


 噂の内容は勇気が学園の2大アイドルの一人と一緒にいるということに対しての可笑しさを侮蔑に交えて言っている。

 勇気はこの学園では良いように使われる『パシリ屋』とかいうレッテルがついている。何よりも2大アイドルの片割れでもある狭間修とは対立している存在としても有名である。

 その彼が今日は来ていないことが勇気が原因じゃないかという勝手な誇示付けをしている連中が多くてそれが恨みに拍車をかけている様子だ。

 勇気は学園の2大アイドルのうち一人とは仲がかなり良いがもう一人は対立するというまさに会う意味では有名な存在になっているのはそこに起因しているのだろう。

 義姉はその噂の騒動に対して勇気をかばい立てする言葉を吐く。

 そのようなことを言えば自分が危険なことになりかねないというのに。

 勇気は知っているのだから。

 彼が来ない理由についても。それは義姉もまた知ってしまっている。

 でも、義姉の彩音はずっと、勇気の味方だというように周囲の噂に反論をしているのだ。


「姉ちゃん、俺なんかと今は一緒にいるのは危険だ。いないほうがいい」

「ゆっくん!」


 義姉は自分の言葉にお怒りの様子をあらわにして頬を引っ張る。

 グイッとその顔を無理やり自分に向けさせニコリとほほ笑んだ。


「ゆっくんは周りの言葉なんか気にしないの。それに私はゆっくんのお姉ちゃんだよ。お姉ちゃんはいつでも弟の味方。だから、周りの目なんか気にしない。それに弟と親睦を深めようとする義姉思いを今は味わいなさい」

「姉ちゃん……」


 義姉の暖かな言葉に胸がぎゅっと締め付けられる。

 感動してしまい、涙ぐんでしまう。

 それを義姉に見られないように顔を覆い隠して袖口で拭う。


「じゃあ、帰ろう」


 義姉に手を引かれ、勇気は一緒に帰路へ向かう。


 ******


 学園を出てから数十分ほど、義姉と一緒に帰宅する途中夕飯の買い出しを行いたいという義姉の意志を尊重して勇気たちは駅付近の繁華街に来ていた。

 この辺には商店街通りも多いのでそこのスーパーへ寄るためにきていた。

 スーパーであらかた食材を買い占めてスーパーの袋を両手に下げながら義姉と一緒に歩いて、例の事件現場の傍の道を歩いていく。

 帰宅するための通り道なために歓楽街方面を通らざる得ないので事件現場近くを通るのは必然であったからしょうがない。

 しばらく、義姉と勇気は無言になった。

 規制線が引かれているとはいえ、未だに生々しい事件の跡を勇気の記憶にはよみがえる。

 警察が今日はいないのか、無人だ。

 そのためにより一層不気味な様相を醸し出す。


「早いとこ通り抜けましょう」


 義姉に言われるままに抜け出して歓楽街を通り抜けて、公園までどうにか抜けた。

 夕日が沈み、暗く青みのある夜空に変わる。

 視界もだいぶ悪くなり、心臓が早鐘をうつ。

 何か不気味なものを直感的に想像してしまいかねない。

 その時だ、公園の陰からガサゴソと音がする。


「ゆっくんっ」


 義姉が勇気の素手をぎゅっとつかむ。

 義姉にかばわれては男が廃る。

 勇気は率先して義姉の前に出た。


「ゆっくん、危険よ!」


 茂みから出てきたのは「にゃーお」と鳴き声と同時にかわいらしい三毛猫が姿を現しただけだった。

 ほっとしてお互いに笑みをこぼす。

 その時、勇気は義姉の背後に異様な黒い存在と目が合う。

 人の姿をした金色の瞳をした怪物。


(なんだこいつら!?)


 恐怖で声が引きつった。

 恐怖に驚いている暇はなかった。

 怪物は義姉を後ろから羽交い絞めにしてのだ。


「姉ちゃん!」


 義姉の口をふさぎ、その怪物は背後へ跳躍する。

 義姉の首筋を舌のようなもので舐めてゲヒタ笑いを上げた。


「姉ちゃんを離せ!」


 勇気は買い物袋を投げ捨て、男へ向かい殴り掛かった。

 次の時、勇気のことを羽交い絞めにする新たな存在が現れる。

 その存在もまた義姉を拘束する存在と同一種。


「お前ら、なんだ! なんだよ! 俺たちに何の用だよ!」


 金色の瞳をした存在は無言を貫き通して何も答えない。

 そして、金色との瞳をした存在の義姉を捕縛したほうが義姉のスカートに手を指しこみ始めた。

 義姉が苦悶に下唇をかみ、涙を浮かべる。

 勇気は吠えて暴れるが自分を羽交い絞めにする存在の膂力に叩き伏せられた。

 衝撃が肺から喉を通って「カフッ」と零れ落ちる。

 見上げながら義姉が羞恥に顔をゆがめ汚され始めようとする姿をこの目で見るのかと絶望をする。

 その時、勇気は胸元に収めていたあのナイフの感触が伝わった。

 そうだ、チャンスはある。

 勇気は叫びながら、後頭部で相手の顔面へ頭突きをかまし、相手の拘束がゆるみ脱出。

 すぐに胸元に手を指しこんで、それを握った。

 義姉を拘束していた相手の手が止まる。


「ゆっくん……?」


 勇気は義姉のことを捕縛する存在の奴の手を鞘から引き抜いたナイフで切裂いた。

 金色の瞳の存在は痛みに嘆き叫ぶ。

 標的を勇気だけに絞って鉤爪のようなものを煌めかせてその手を伸ばし勇気へ襲来する。

 咄嗟にナイフを構えたが後ろからも同じ存在が来ていた。

 二体いたことを忘れていたのだ。


「しまっ――」


 その時である。

 勇気に襲いかかろうとした背後の怪物が鳴き声を上げる。

 それは先ほど聞いた痛みに苦悶する嘆きの叫びだ。


「目の前のやつを切れ!」


 誰かの命令に身体は動き、勇気は目の前の存在をナイフで一振りに切裂いた。

 怪物はその一撃に嘆き、黒粉のような物へと変わり消滅した。

 暗がりの中ゆっくりと何者かが歩み寄ってくる。

 街灯が照らされてその姿が光に照らされた。


「綾蔵さんっ」

「危ないところね、そっちの彼女は平気?」


 勇気たちを救い出してくれたのは一振りの刀を手にした少女、転校生の綾蔵雪菜だった。

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