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最終戦争

  魔の波動。

 あらゆる存在を腐食化させ、破壊していく闇の瘴気。

 その効果を発揮して学園全体が崩壊を始めていく。

 外での救援を望んでもいるが一向に来る気配はなかった。

 もしかすれば、やられてしまったと考えるのが妥当な考え方なのだろう。

「うぁ……」

 かすむ視界の中で目の前で腐食し崩れ行く光景を前に体は動かない。

 自らも衝撃波に当てられたことで足に力が入らなかった。

 直感的な死を感じる。

 ゆっくりと魔と化した勇気がゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。

 その姿を見て愉悦に頬を染めて興奮している彩音の存在。

 彼女は悪魔アスモデウスに身を支配されてしまった。

「さぁ、殺せ! 我が傀儡、悪魔アエーシェマ!」

 悪魔に転生した勇気の手にした魔剣が振り下ろされ――

「おい、どうした!」

 と思われたが彼の手は止まり動かなかった。

「ユウキ、君はまだ意識があるんだね! 君は人間だ! 魔に飲まれるな! 私の声が聞こえるなら返事をしてくれ!」

「うぁ……ぁあ……」

 一筋の希望が見えてくる。

 悪魔は彼だけではない。

 大本の元凶が存在している。

「ぐるぉあ!」

 九条彩音の身体を侵食した悪魔アスモデウスの腕の黒刃が右から迫っていたのを殺意という気配を感じ刀で防いだ。

 予測反応が少しでも遅れていれば斬られていた。

 焦燥に顔をゆがめたこちらの表情を見て薄ら嗤う。

 さらに身体を大きくひねって力強い一撃を今度は左側から与えてくる。

 もう一方のアスモデウスの腕が刀と化して二度目の右からの攻撃が迫った。

「チッ!」

 両側から鋏のように板挟みにして両断する相手の攻撃。

 雪奈も体を踏ん張って左のほうを弾き、右側の攻撃の防御へ刀をかみ合わせるようにして動く。

 背中側から迫る左の黒刃。

(防げないっ! なら――)

 刀を地面に突き刺して握りを持ち、刀を軸にして宙へ逆立ちしてその場から逃れる。

 アクロバティックな動きに開いても虚を突かれたように目を見開いた。刀だけが粉砕されて粉々になった刀だけが地面に散らばった。

「アハハハハっ! さすがは放浪の妖魔狩り士か! だが、貴様の相手は私だけじゃない! アエーシェマいつまでうなっているつもりだ!」

 背後から悪魔に転生した勇気が魔剣を手にして襲いかかる。

「元より聖剣は闇を滅するための道具と思われているが実際は違う。それは魔を吸収して浄化する道具。より、その中に蓄えた闇が膨大になれば許容度を超え魔へと変わる」

「そうであったのを私は良く知っているっ!」

 彼の斬撃を捌き、横っ腹を蹴って吹き飛ばす。

 彼女の言葉に耳を傾けるだけで忘れたかった過去が蘇ってくる。

「昔、お前によって父は悪魔に転生させられた! 父は偉大な妖魔狩り士であり聖剣の所持者であった!」

 大本の標的であるアスモデウスへ向かい、拳を突き出す。

 その拳は彼女に捕まれることで食い止められた。

 ミシミシと骨が軋む音が鳴り始めて痛みが走る。

 そのような痛みを復讐という火で忘れさせ空いている腕で拳を作る。

「だが、貴様の策に溺れ、聖剣が闇を蓄えすぎた。さらには我が母を貴様はその手で殺し父を絶望の闇に落とし魔剣と化させた! そして、この私を手にかけようとしたが父は自害したんだ! あの光景を忘れはしないぞ!」

 作った拳には魔封じの指輪がはめ込んである。

 打ち下ろした拳を掴むことは不可能。

 しかし、彼女は笑いながらその拳を掴む。

「魔封じの指輪など上位種の悪魔のアタシには効かないぞ。ククッ、だがうまくあの後は事に及んだ。お前は私を殺すための復讐に執念を燃やし、結社の保護を蹴って一人で生活を行っていたな」

 左手の拳が砕かれて激痛が電流のように体全体に流れ始めた。

「ぃいああああああああああああああっ!」

「グヒヒヒヒッ! ヒッーヒッヒ、ヒッーヒッヒ!」 

 彼女の言うように親を殺された自分は執念に燃えてホームレス生活を続けていた過去。

 それも限界を向かえて教会に保護された。

「元妖魔狩り士のところで訓練を積んだがその妖魔狩り士も妖魔に殺された。そして、彼女の遺言でこの場所に来たようだが残念ながらそれがお前の最後の墓場となるってなっ!」

 拳をもう片方、砕いた彼女は雪奈を蹴飛ばした。

 地面を転がり、行き着いたのは悪魔と化した彼の足元だった。

「くじょう……ゆうき……」

「…………」

 彼の手元は未だに魔の瘴気を放出し続けていた。

 魔剣をゆっくりと持ち上げるその姿に終わりを見た。

「君も……復讐……を臨んでいたはずじゃないのか……っ!」

 最後の気力を振り絞って懸命に呼び掛けた。

 無理だとわかっている。

 それでも、最後に希望に縋った。

「私もそうだ……親を殺され師を殺され……絶望をした……だが……絶望は希望へと変わることもある。どんなに苦しかったことでもそれは時が経てば希望へと変われる。私はそうだった。師の遺言でこの場所へ来て君と出会い私は……」

「うるさいぞ!」

 アスモデウスが生み出した火炎の砲弾が着弾して体は吹き飛んだ。

 最後の粘りに彼の足を掴む。

「君にだって君を変えてくれた存在があるはずだ。そうだろう。それに君の復讐はまだ終わってないんじゃないか……」

「アエーシェマ! 早く終わらせろ! その女を殺し糧とするのだ! そして、我が悪魔の時代を始めるのだ! グヒヒヒヒッグヒャハハハハ!」

「悪いが俺は悪魔に命令される覚えはない!」

 次の瞬間であった。

 彼の手にした魔剣に輝きが帯びていた。

 白い光が神々しく輝きだして、その切っ先から打ち出された奔流がアスモデウスを襲った。

 アスモデウスの身体は焼き漕がれ始めて絶叫を上げる。

「な……なにをしやがる! このドぐされ野郎がぁ!」

「それはこっちのセリフだ。人の心を利用し人生までを利用しやがってもう許さない。てめぇは地獄へ戻してやる。魔王アスモデウス!」

「っ! 元に戻っただとぉ? くそがっ! クソがっ! くそがぁああああ! 『屍鬼』!」

 アスモデウスの命令で周囲の死体たちが息を吹き返したようにうごめきだして勇気へ襲いかかるがそれらは勇気から放出された光がすべてを浄化するように消し飛ばして塵とする。

「そんなっ! 馬鹿なッ!」

 勇気はそっと雪奈を抱き上げる。

「すみません、ご迷惑をおかけしました」

「目覚めるのが遅いぞ……」

「はい。あとは俺に任せてください。あなたにもらった力を有効に使います」

「ハハッ……一か八かの賭けであったが私は勝ったようだ……な」

 雪奈が意識を失った。

 徐々に半身の魔が浄化され元の人間の姿へと戻る。

 両手の甲にはそれぞれ紋様が浮かんでいた。

「まさか、綾蔵雪奈の聖剣の力をも引き継いだというのか! いや、そうなれば魔が打ち勝つはず!」

「アスモデウス、それは勘違いだ」

「なに?」

「俺に蓄えられた魔はあんたの言うように確かに強大であったのかもしれない。だが、それを上回るほどに彼女が持っていた聖の力が強かった。彼女はこの聖町で幸福を得ていたからこそだろう。聖剣の力は確かに魔にも転ずることはある。内部でそのエネルギーを蓄えることでな。だがな、一方で魔のエネルギーは契約者が幸福を得ることによって浄化もされる仕組みだ」

「ぐっ! その女があのような絶望にあって幸福に感じていたとでもいうのか!」

「だろうな。この場所でお前という存在に近づけたということが彼女にとってうれしさだったんだろう。お前に出会えたことが彼女の復讐心を幸福エネルギーへと変えていく。まぁ、お前の自爆ってやつだ」

「そんなこと、そんなことあるわけがないだろう! 何かも失っているんだぞ! それを復讐だけで生きられる人間など存在しない!」

「何言ってんだよお前。そうしたのは今お前の目の前にいるやつだぜ」

「っ!」

 勇気は一歩踏み込んだ。

 一瞬にしてアスモデウスの目ではとらえきれないほどの速さ。

 それは聖剣の二つの契約と彼に与えられた強大なエネルギーのおかげか。

 彼女の前には二振りの剣を手にした彼の存在がいた。

 右に短剣、左に刀。両方の聖剣を構えた男の存在。

「姉ちゃんを返してもらう! 地獄へ落ちろアスモデウス!」

「やめろぉおおおおおお!」

 光の猛威が彼女を襲い焼き尽くしていった。

 最後には意識を失った義姉の身体のみが横たわり勇気は慌てて彼女へと声を掛けて駆け寄るのであった。



 ********


 それから数日後。

 聖町の警察(結社)は事態の収拾に翻弄され続けている。

 トップが死亡したことでいろいろと仕事がまとまりつかずにいるようである。

 敵が本拠地にしていたと思われる学校は完全な崩壊と同時に廃校。

 さらにあらゆる箇所で餌場となっていた場所は殺害現場として警察が規制線を張って隔離区とした。

 当の事件の重要人物である者たちである自分や雪奈、彩音は普段通りの生活を送っていた。

「なんか、不思議よね。あんなことがあったとは思えないほどにいつもの日常が流れているんだもの」

 聖町の歓楽街でお茶をしながら周囲の街並みを観察して感慨にふける。

 その拍子に見える義姉の首筋の傷に一瞬だけ勇気は悲しそうに顔をゆがめた。

「ゆっくん、まだ気にしているの? これくらいどうってことないわよ」

「だけど、それは俺が……」

「おいおい、あまり気にするな。私たちのような存在では傷など勲章のようなものだ」

「だからって、二人とも女なんだからもう少し体に気を遣えよ」

 勇気は心にこもっていた気持ちを暴露すれば二人して顔を真っ赤にして視線を逸らす。

「あー、ゴホン。そういえば、今日が君たちの……」

「……うん」

「これから、向かうのよ」

「そうか。なら、私は……」

 席を立ち、その場から立ち去ろうとした彼女の手を勇気はつかんだ。

「いや、待ってくれないか。今日はただお話をしてゆっくりしようとかそういうのが目的じゃないんだ。綾蔵さんにも一緒に来てほしいんだ。これからは共にこの町を守っていくんだ」

「だとしても、私はあの人にとっては恨みの対象だろうし、私が行けばあまり良い感じにはならんだろう」

 逆側の手を今度は彩音が掴む。

「そんなことないわ。確かにあの時私もあなたに対して怒りをぶつけてしまった。でも、今になって思うの。あなたも心苦しい判断をもって私たちの父を斬ってくれたんだって。もしも、野晴らしにしたら父は大きな罪を抱えていた。それをあなたは食い止めてくれた。今は感謝しているわ」

「彩音……」

「それは俺もだ。綾蔵さんがいたからこそ、俺も姉ちゃんも救われた。この町も救われたんだ。綾蔵さんを恨む奴がいたらそれを俺たちが許さない。綾蔵さんはもう俺たちの仲間だよ」

「勇気……」

 綾蔵雪奈は心の中に満ちる暖かさを感じていく。

 そして、ようやく自分の居場所を見つけたのだと自覚する。

「あ、だからって綾蔵さんゆっくんは渡さないからね」

「アハハハ、おもしろいことを言うな。人生において君の経歴は長かろうが私と彼は力でつながっている。つまり、私のほうが上だ」

 彼女が勇気の腕をとる。

 最後の戦いによって勇気へ聖剣の力を譲渡した彼女。

 いうなれば、それは血からのリンクとも言えなくもないけれども――

「アハハハ! その力もなくなったじゃない。そんなの無効ですぅ―。人生を共に長く歩んだ義姉のほうが隣に立つ権利は上」

「血のつながってない義姉などただの他人だ」

「それでいいのよ! 結婚も子供も許されるんだから!」

 勇気はおもわずむせた。

 いったいこの人は何を言うんだろうか。

「ならば、私だって可能だ。それに彼とは力の上で相性も良かった。つまりは身体の愛称もいい!」

 勇気は三度吹き出す。

 次第に周囲の視線が集まりだして頭を抱え込んだ。

 空を見上げ、周囲を見て思う。

 未だにこの町や世界にはあらゆる妖魔が蔓延っているのだろうが今はこうして得られる平和が一番なのだろう。

 それはいろんな人たちが貢献して成り立った平和。

 俺も復讐という道を終わらせ新たな一歩を歩みだす決断をしなければならない。

 その報告をこれから墓前の父へと行うのだ。

 一台の車が自分たちの前で停車してスーツ姿の人たちが下りてくる。

「九条彩音様、勇気様、それから綾蔵様こちらへお乗りください」

「ほら、二人ともいがみあってないで行くぞ。あーったく!」

 俺は二人の手を取って車へと誘導する。

「おい、ユウキ私はまだこの女との――!」

「そうよ、ゆっくん!」

「二人とも俺にとっては大切だから言い争うなよ。それよりも、父さんに報告するんだろう。この町を任せてくれって」

 二人して目を瞬いて大きくため息をつく。

「よくも、正々堂々と」

「浮気宣言してくれちゃって」

「はぁあ? なんの話だよ」

「はいはい、行こうねゆっくん」

「今後の気苦労が丸わかりだな」

「えー、なんか俺いけないこと言った?」

 そして、3人は車へと乗って父の墓前へと向かった。

 その新しい人生への一歩を踏み出すために。

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