魔落ち
目の前では信じらぬ光景が永遠と何枚もの写真のように連続して勇気の視界には写り込んでいく。
親父がゆっくり、ゆっくりと倒れていく。
その親父を斬り殺したのは勇気が信用を置いていたはずの少女。
わかってはいる。親父が親父でなくなったものであると。
それでも許容端切れない感情がある。
悲壮感。
養父と義姉を両方とも失った悲しみは勇気の心の中で大きく膨れ上がっていく。
頭が割れるように痛かった。
心臓の鼓動が脈打つ。
ドクンドクンと早鐘を撃ち何かが体の中で暴走を起こしていた。
「まさか、結社の人間が魔剣に侵されるとは思わなかったがそもそも、魔剣がなぜここにある」
一人思慮深く考えている少女の横顔を見ていると勇気の中の何かがその少女の顔を醜くゆがめたいという衝動にかられ始めた。
それは泣いているでも恐れを抱いている顔でもいい。
いや、もっともっと絶望的な顔だ。
自らの絶望を他者に与えることで得られる幸福感を得たい。
(あれ? なんでこんなことを俺は考えているんだ)
脳内に痛みが響いていく。
そんな考えなどどうでもよくなっていく。
手には暗黒の形をした何かが握られていた。
自らの手の甲には黒光する紋様。
これをみたことはある。
その時は白であったが天井を貫くほどの光が放出された。
「嫌な気配! ん? 勇気お前っ!」
ゆがめたい標的の少女、雪奈がこちらを振り返る。
彼女が何かを察知して武器を向けてきた。
「魔に心を奪われるな! 正気を保て! お前がそちらに落ちればこの町は終わるぞ! いや、それだけじゃない世界に魔を増やす気か!」
彼女が何を言ってるのかはわからないが自分のするべきこと、したいことを行う。
手にした黒い物体を振り上げて振り下ろした。
強大な衝撃波が生まれて空間を裂き、目の前の少女を薙ぎ飛ばした。
裂かれた空間は見覚えのある風景があった。
そう、自分の通っている学校だ。
何やら騒々しい。
その声を止めよう。
「ま、待てどこ行く気だ! やめろ! 罪を作るな! 君はまだ自我を保てるはずだ! 戻って来い! 戻ってくるんだ勇気!」
足が止まる。
(ユウキ……ゆうきとは誰だったか)
身体がふらついて机に手をついた。
その時、何かに触れた。
人の死体だ。
その見覚えのある顔を知っている。
「ね……ぇ……ちゃん」
義姉との記憶がどんどんと記憶の中に川の濁流のごとく流れ込んできた。
「うぁ……ぁあ……ああ!」
混乱していく思考回路。
わからない。
なんだかわからない。
「ああああ!」
空間の割れ目へ飛び込んだ。
周囲に何人もの人がいた。
見知った顔が何人もいる。
ここは教室だ。
「え、くじょ――」
近くにいた男子を殴り飛ばす。
心が安らぐあの場所へ帰りたい。
どこだったか。
わからないわからない。
何人もの人がまるで自分から逃げるようにして離れていく。
教師数人が見えた。
なんだろう。
「止まりなさい九条!」
「その姿は何があったんだ!」
「オレの邪魔をするなぁああ!」
二人の男性教師を殴り飛ばす。
行く手を遮るな。
あの場所に帰るんだ。
とある一つの部屋の前に行き着いた。
「警察は来ないの! どうして来ないの!」
その部屋の中から聞こえてくる焦燥感の声。
放送音声も聞こえてくるが何と言ってるかもうわからない。
耳は遠くなっていた。
「ひっ」
「なんてことだ……。どうして仲間は来ない! こうなれば!」
「綾野先生!?」
一人の男性教諭が何か光の剣のようなものを手にして向かってきた。
彼から感じるのは殺意という脅威。
その脅威を恐怖には感じなかった。
ただ、消し飛ばすという思考だけが動いた。
「ぐふっ!」
突き出した手が彼の腹部を貫いた。
手元で輝いていた光の剣は消滅する。
ほかにも3人の教師が光の剣を展開した。。
「他の先生方は生徒を避難させてください。それから、警察へ連絡を」
「ここは我々が押さえます」
「早く!」
どうやら、他教師は良く事情を知らないような顔をしている。
自分へ向かおうとしているのは学園に隠れていた『結社』の存在なのだ。
でも、なんで狙われているのかわからない。
(でも、そんなのどうでもいい。今は消し飛ばすだけ)
黒く光った紋様が熱を帯び始めて手元に何かの感触が伝わった。
そう、僕が親から譲り受けたあの剣だ。
どうやら、戻ってきてくれた。
「何がどうなっているんだ!」
「彼は聖剣所持者だったはず! あれは悪魔ではないか!」
「大月隊長! どうするんですか!」
「とにかく、彼はもう悪魔だ! 今は討伐に対処する!」
「「了解!」」
3人が一斉に取り囲むように襲いかかる。
うざいんだよ。
「何もかもが煩わしい! もう何もいらない!」
暗黒の奔流が周囲を焼き焦がした。




