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義姉の救援

 必死で勇気は逃げ惑っていた。

 背後から襲い来る髪の長い不気味な妖魔の女。

 背中をエビぞりにして明らかに体の向きがおかしな感じで四足歩行で襲い来る。

 某ホラー映画のようなワンシーンを思わせるような恐怖な光景。

 勇気は視界から逃れるようにして一つの教室へ飛び込んだ。

 その教室の中へ入るとそこもだいぶあちこちが古く痛んでいて今にも崩れそうな感じである。

 いったいここはどこなのだろうか。

 見た目は勇気の知っている戸澗学園の音楽室と変わらない。

 古びたピアノに古びて染みの入った壁と歴代の音楽家の壁画。

 見るからに戸澗学園の音楽室そっくりだったがまるで時間が進み切った未来の世界のように年季が入りすぎている。

「俺はどこに来ちまったんだよ」

 手にした携帯はどこかへ落としてしまい連絡手段は絶たれていた。

 このまま、自らがここで朽ち果てていく嫌な想像をしてしまう。

(大丈夫だ、大丈夫)

 胸元に手を伸ばして取り出す。

 刀身輝く、金の装飾を施された手持ちの短剣『聖剣』である。

 それで一度空間を切裂いてみるけれども反応はない。

「やっぱり、変わらない。ここは敵が作った空間じゃないのか?」

 その思考回路に行きついたとき、ガタガタと古びたピアノが動き出した。

 不気味にピアノが音を奏でだした。

 思わず背筋が凍りつき、鳥肌が立つ。

 ゆっくりと後ろへ数歩下がっていくと何かに背中が当たる。

 恐る恐る振り返ると例の黒髪女が立っていた。

 喉元を引きつらせて喚きながら聖剣を振りかざして切裂いた。

「ぐぎゃぁああああああ」

 どうやら、妖魔なのは間違いなく致命傷となって女は消滅する。

 以外にあっけなく死んだと思った時、身体が途端に重く感じた。

(あれ……)

 右肩に鈍い痛み。

 服を脱ぎ捨て上裸になって右肩を見てみた。

 そこにはくっきりと手形の後が浮かんでいた。

 おもわず、喉を引きつらせて絶句する。

「なんだよ、これ……」

 手形の痕は青あざのようにくっきりと浮かんでいるがそれはどんどんとまるで毒素が広がっていくように肌色を黒く侵食していく。

 身体の重さはそれが原因のようであった。

 手元で何かが脈動をしているのを感じる。

 聖剣を見てみればそれが神々しく輝いて右手に侵食していた毒素がそこだけに回っていない。

「一か八か」

 息をのんで一思いに右肩を突き刺した。

 感じたこともないような激痛が走る。

 意識を一瞬奪われかけるがどうにか、奥場を噛み締めて持ち答えた。

 生き悶えになったところに影が差しこんだ。

 恐る恐る顔を上げればピアノがいた。

 そして、ピアノは蓋のような部位の大屋根を開いてまるで口のようにして何度も開け閉めを繰り返す。

 その間にも不気味に音はなり、映画でよくある襲い来るものから逃げる存在を現すあのベートベンの魔王が流れていく。

「マジかよ……」

 ピアノが空中高く上がってその口を開けて上空から飛び込んでくる。

 行動に予測して後ろへ跳躍した勇気はどうにか回避に成功した。

 ピアノは顔を上げるようにして起き上がると何度も口を開閉して再び襲撃してきた。

 勇気は慌てて廊下へ飛び出して駆け込んでいく。

 曲がり角を使ったりなどして振り切っていこうとして見るも振り切ることができない。

 ついには行き止まり。

「万事休すか」

 絶体絶命のピンチにあきらめ抱えたその時――

「ゆっくぅうううん!」

 どこからか幻聴とも思える義姉の声を聴いた。

 ピアノが突然どこからか飛来した衝撃に爆散した。

 足元にピアノであった残骸が流れてくるように落ちた。

「ようやく、見つけたよ」

 いるはずのない存在が目の前にいた。

 自らはどこかに飛ばされたはずなのにどうして彼女までいるのか。

 一人の女性はゆっくりと近づいてその手を指し伸ばした。

「無事でよかったよ」

 それは九条彩音。

 勇気の愛する義姉であった。

 

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