結社内部
聖なる町とも呼ばれる聖町の中央区に大きな建物のビルがある。
その中には多くの人があわただしく日夜働きづめている。
ビルの名前は『陰陽聖典教示妖魔対処機関』通称『結社』と呼ばれる。
業務内容は主にこの町の管理に加え、全世界に蔓延る『妖魔』と呼ばれる悪しき存在の除去とそれらを除去する退治屋の監督である。
妖魔退治の元締めにして大本。
この世界を裏から支えて守り続けてきている世界的組織。
その世界的組織が管理するのがこの組織が拠点を置く街である。
そして、この聖町においては警察と同義の組織でもある。
『結社内部』の本日は電話がひっきりなしにやまない事態が続いていた。
『結社』の一人の男、無精ひげを生やした40代のダンディな男の部屋の内線電話はひっきりなしに鳴り続ける。
男は頭を抱えながら電話を手に取る。
「なに? 今度は第2地区で死体が出ただと? わかった。すぐに人員を回す」
電話を切って近くの部下に命令をだす。
また再び電話が鳴って応答すれば今度は別の場所で死体が出たという話だった。
この連続的な死体発見の報せがここ数時間ほど続いていた。
一日でこれだけの死体の知らせは初めてのことであった。
そもそも、ここ数日において失踪も起きており男、九条武蔵はその事件を調べていた。
その矢先の今日の夕刻からおかしくなった。
事件の真相まであと一歩で各区における死体の発見の報せが相次いだのだ。
「くそ、どうしてこんなことになっているんだ。やはり、あの時から何もかもがおかしくなっている」
2か月ほど前に起きた厄災。
この聖町に突如として現れた神々しい輝きが聖町を覆う妖魔から身を守らせるための防衛結界を突き破り外へ漏れだした。
その光の正体は聖典の光と呼ばれる『浄化の力』の根源であった。
その光に呼び寄せられるようにして穴の開いた結界を通って多くの妖魔が聖町に侵入してしまった。
今まで隠れた町、安全な施設として確立化させてきたこの聖町に初めて妖魔という悪の存在を侵入させてしまったのだ。
結果として内部で事件が初めて起こった。
即座に警察と共同体制で事件の対処にあたり妖魔を消滅させたが数は増えるばかり。
結界の修復もできたとしても内部に潜んだ妖魔はすべて取り除けたわけではなかった。
未だにその妖魔を除去するために活動しているくらいなのだ。
妖魔が今日になって急激に活発化し始めた。
これがどんな理由かはわからないが奴らが人間へ戦争を仕掛けてきたとしか思えない。
「外部に協力を頼むか? いや、そんなことをすれば聖町を壊滅させる指示が来る。そんなことをすれば聖町に住まう市民が全滅させられる。どうすれば……」
思い悩んだとき――
「九条第1対策室長」
部下の一人の呼びかけに顔を上げる。
外での事件の詳細の情報を集めていたものであった。
彼が一枚の書類を机の上に置く。
「これをご覧ください。現在の死体現場の詳細な情報と写真データです」
一枚一枚の書類を拝見する。
どれもここ数日に直接自分が現場で足を運び見た死体のものと同じ死に方に近い。
さらに、共通点があった。
「おい、こいつらどれも失踪していた楯宮と戸澗の生徒たちじゃねぇか」
「はい。例の失踪事件の被害者たちです。それから、例の斡旋所で見つけた証拠の名簿に載っていた場所にこの死体たちは存在します」
「なに?」
「さらに、斡旋所では別のモノが先に来ていた痕跡もありました。私たちが来る直前に何者かがあそこから何かを持ち去った痕跡もあったとの情報が入りました」
「なんだと!?」
おもわず椅子から立ち上がって、部下の胸ぐらをつかみかかる。
「いったいどういうことだ! あそこには俺が出向いていたが何か奪われた痕跡はなかったはずだぞ!」
「それがあの時、九条室長たちが去った後に持ち逃げしたみたいでして」
「つまりは、俺がいた時にあの場に隠れていたやつがいたというわけか」
「は、はい」
自らの失態におもわず悔しさが込み上げてため息がこぼれる。
何年も結社として働いてきたという自分がまさか第3者の気配に気づけなかったとは笑い話にもならん。
「ほかに情報はあるのか?」
「実は、先ほど楯宮と戸澗へ捜査員を向かわせたところ連絡が途絶えておりまして。内部に侵入している捜査員とも連絡はつかずでして……」
「なんだと?」
内部には娘も侵入していた。
それは例の護衛対象がいるからであり、重要な任務であった。
「おい、例の護衛対象はどうなっている! 九条彩音潜入調査員と連絡はつかないのか?」
「それは音信不通でして」
「ぐっ!」
おもわず机に拳を叩きつけた。
部下に奴当たってしまう。
別に彼がいけないわけではないのだが、正直怒りが抑えられそうにない。
「今すぐに私も向かう。それから各区に要注意厳戒態勢を敷け。妖魔が理由はどうあれ餌を放置しているのも何か理由があるやもしれぬ。いや、もしかしたら、こちらを錯乱させる罠か。どちらにしても厳戒態勢を敷いておけ」
「九条室長、しかし今室長に出られては内部の職務が回り切らず――」
「そんなおお前がやっておけ! 海道、銀一緒に来い! 学園へ行くぞ」
九条武蔵は愛する娘と息子の身の危険を感じて急ぎ、学園に向かいだした。
(二人とも生きていてくれよ)




