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教室の手がかり

学園に戻り最初に感じたのは不気味な違和感だった。

なんだろうか、この澱むような空気は。

しかし、学園は通常の放課後の様相を呈していて、部活動にいそしむもの、帰宅するものと何ら変わらない日常の風景である。

でも、そこに異様なものを感じていた。

学校内の校舎に足を踏み入れた時、その異様さは上気を逸して感じた。

一人一人の学生の顔を見てみれば、全員の表情がどこか虚ろな瞳をしていて虚空を見ているような状態である。

(これは催眠状態!?)

広範囲にわたる精神作用の術が働いている。

そのような攻撃をできる存在がただの妖魔であるはずはない。

学園にいる強大な存在が姿を現し始めたということなのだろうか。

「今更になって正体を晒す理由は何だ?」

 理由はどうあれ、彼の捜索を優先する。

 携帯へ電話をしたが連絡が通じないとなれば彼の気配を感じる個所を当たるように向かうしかない。

 気配は生徒指導室で感知したが、そこに人の気配は感じることはできなかった。

 だけれど――

「妙だな」

 感じはしないにしてもそこに確かに何かが存在するようなそんな空気を肌で感じ取れた。

 生徒指導室の扉を開き中に入る。

 あらゆる部屋の個所を見回して触る。

 手に付着する黄色い粉のようなもの。

 匂いを嗅ぐと鼻につくような腐った卵のようなにおい。

 硫黄の匂いだった。

「悪魔か」

 おおよそ、彼が悪魔にさらわれたのだと推測が成り立っていく。

 もしかしたら、一ノ瀬卓也の協力者に違いはないことだろう。

 それが誰なのかが見当がつかない。

「彼と協力していたとするのならば常に学校で行動を一緒にできる立場の人間だな」

 熟考し、一つの結論が導き出される。

「……同じクラスのモノか」

 同じクラスであれば互いに協力してチームワークで目標の勇気を罠にはめたり観察することも容易であろう。

 さらに、学園の生徒一人一人を餌にするという行いもできうることだ。

「まずは教室か」

 教室へ向かい訪問すると、教室の中にはもう誰も残ってはいなかった。

 一ノ瀬卓也の席へ向かい、机の中を探ってみる。

「ん?」

 一枚の紙を取り出すとそこには例の歓楽街裏で勇気を呼び出す計画のような文面が書かれていた。

 さらに裏には数人の男女の名前と学年とクラス。

 他校の生徒の名前もあった。

 バツと丸の印がある。

「これはどういう意味だ? 餌にしたか餌にしていないかというわけか?」

 もう一度机の中を探ってみてまた紙が一枚出てきた。

「一ノ瀬卓也があのインキュバスの男を殺した犯人で間違いはなかったわけか」

 恨みつらみといったような内容が二枚目の紙には出てきていた。

 さらにはその紙の裏はセロハンテープのようなものが張り付いていた痕跡があった。

「何かが張り付いていた?」

 触ってみると粉がまた指に付着した。

「……硫黄か……」

 一ノ瀬卓也が悪魔のものと協力している可能性はあると思っていたのは確実だと認識できた。

「おい、何をしている? って、綾蔵。お前今頃学校へ来たのか」

 教室に入ってきたのはこの学校の教師である如月冴女教師であった。

 彼女が怪訝な顔でこちらを見ている。

 彼女の顔も虚ろな表情で魂が抜けきっている。

(催眠状態にあっても普通の会話を交わせるようにされているわけか。相手の意図がわからんが不愉快だな)

 その気持ちがおもわず顔に出てしまう。

「なんだ、怖い顔をして。というか、なんだ、綾蔵? おまえ一ノ瀬のことが気になっているのか? だからって机の中を勝手に漁っちゃいかんぞ」

 勝手な勘違いで住んでくれたほうが気は助かる。

 回収した紙は隠すようにポケットへしまい込んで教師の下へ歩み寄る。

「すまない。何分、転入したばかりで机を間違えたようだ」

「なんだ、つまらんな。美人な転入生が意中の相手でも見つけたのだと先生は思ったが違うのか」

「如月先生、私にはまだ恋路という者はわからん」

「ふーん、それで何をしに来たんだ?」

「急ぎ教室へ忘れた者を取りに来ただけだ。体調も戻ったからな」

 わざと自分の机へ移動して中から適当なものを取り出してそれを手に握りしめる。

「忘れ物とやらはあったか?」

「あったぞ、先生」

「それにしても、綾蔵、それは明日じゃダメなもんだったのか」

「そうなのだ」

「ふーん。まぁ、いいさ。早くお前も変えれ。今日はもう完全下校時間になった。部活動している連中もいるが今から放送をっといってる傍からだな」

 校内放送で完全下校を促す放送が流れだした。

 なんとも、唐突である放送だったが学生一人一人は騒ぐこともなく平然と外が帰宅ムードに包まれるような喧騒の声が聞こえてくる。

「じゃあ、お前も帰れよ」

「そうだ、如月先生」

「ん?」

「九条彩音先輩がまだ学園にいるのだがどこにいるかご存じないだろうか?」

「九条? 綾蔵はあいつと知り合いだったのか?」

「ちょっと、付き合いがあるだけだ」

「…………そうか」

 なんだろうか。

 一瞬の間を感じた。

「九条ならば、もう今日は帰宅したとは思うが」

「そうか」

「だけど、最後に図書室へ行くとも言っていたような記憶もある。そういえば、職員室に弟の勇気を探しに来たぞ」

「それは何分ごろだろうか?」

「今から1時間も前だぞ。さすがに帰宅はしているんじゃないか?」

 先ほどから連絡のつかない相手の一人でもある彼女が帰宅しているなどありえない。

 彼女もまだ学園に残っているはずだ。

「あ、綾蔵どこへ行くんだ?」

「九条先輩を探しに行きます」

「あ、おい! ったく、完全下校時刻だというのにな。わからぬ―――だ」

 最後に先生が何と言ったのかはよく聞き取れなかったが嫌な予感がぬぐえなかったために急いだ。

 今この学園にいる人の言葉など信用はできない。

 適当にあしらい自分の足で探すしかないのだろう。

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