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愛する人を探した果てに

  綾蔵雪奈へ救助連絡を行い終えた後に九条彩音は勇気のクラスに訪れていた。

 彼の居場所を聞くと勇気のクラスメイトの一人が如月先生に呼び出されたことを教えてくれた。

 どうやら、授業態度が悪かったらしく生徒指導室へ呼び出しを受けているということでそのまま生徒指導室に向かうがいなかった。

 話は終わったにしても携帯くらいに出てもおかしくはなかった。

 ふと、足元に何かが当たる音がした。

 見れば、そこには彼の携帯電話が落ちていた。

 何とも不気味な感じで背筋に悪寒が走る。

 九条はなりふり構わずに職員室に向かっていく。

 職員室にたどり着いてその扉を開けて入っていく。

 教師たちの怒号が飛び交う中で構わずに彼女に掴みかかった。

「ゆっくんはどこ!」

「な、なにをするんだ!」

 突然の責め立てに彼女は驚いている。

 気遣うことなどしない。

 すべての要因から考えるに最後に彼といたのは彼女、如月先生しかいない。

 もしかすれば、彼女もまた人間の皮をかぶった妖魔の可能性はある。

 懐から指輪を取り出して彼女の額に押し当てた。

 『退魔の指輪』と呼ばれる魔道具の一つでこれにやけどなどの反応を示せばその者が妖魔だというのは判明する。

 だけれど、彼女の額に押し付けた指輪に何一つ効果はなかった。

 自分の身体を後ろから数人の教師が羽交い絞めにして抑え込んできた。

「ちょっと、離して! 私はゆっくんを探さなきゃ……探さなきゃダメなのよ!!」

「落ち着きなさい!」

 数人の教師たちが抑え込んでくることで自由が効かない。

 耳元では教師が警察へ連絡を行っていた。

「急にどうしたのだね九条さん! ゆっくんというのは誰だね。いったい誰を探しているのだい?」

 ここにいる教師の中には数人だけ同じ結社所属の人間もいる。

 だが、一部には普通の人も混じっているためにあまり公には離すことはできない。

 取り押さえこんできた教師も不思議がって尋ねてきても無視をして謝って大人しくその場に立ち上がらされた。

「ようやくおとなしくなったか。話を聞くからまずはゆっくりと言ってごらん。どうして、如月先生に乱暴を働いた?」

 優しく諭しかける眼鏡の男性教師。

 この学園の国語担当の教師である伊藤大輔先生だった。

 結社の人間であるが今の彼も自分の知る彼であるのかは保証できない。

 何しろ綾蔵雪奈の情報であれば学園内にも妖魔が紛れ込んでいる。それも複数。

 そうならば、むやみに応じてしまえば身の危険となるだろう。

「伊藤先生、警察は?」

「呼ばなくていい。おとなしくなった」

「…………」

 だいぶ落ち着いた物腰でちゃんとこちらのことを考えて応対してくれてはいる彼。

 少し信用してしまいそうになるがもしかしたら、それも妖魔のやり口なのかもしれないと考えるとやはり口を開けなかった。

「話す気はないか。まぁ、いい。今回のことは大目に見るからまずは如月先生に謝ってすぐに次の授業も始まるから教室へ戻りなさい」

 指示通りに如月先生に謝って教室へ戻るようにして職員室を出ていった。

 職員室の外の廊下で立ち付くしながら目じりに涙が浮かぶ。

 如月先生は何も知らないどころか、ただの普通の人間のように見えた。

 だが、それも本当にそうかさえわからない。

 もう今いる子の場所さえ恐怖に感じて押しつぶされそうになる。

「ゆっくん……どこへ行ったの」

 その嘆きの言葉に反応するようにわずかに彼の声が聞こえた気がした。

「ゆっくん?」

 かすかに聞こえた方向へ走った。

 声のした方角は今は使われていない旧図書室である。

 現代は電子書籍が進み、紙媒体の本はない現代では扱うこともなくなったこの部屋に入っていく。

 重く澱んだ空気が身体の全神経を支配するかのように重くのしかかる。

「なにこれ……」

 強い音が響く。

 後ろを振り返ると勝手に旧図書室の扉が閉じられていた。

 一種のポルターガイスト現象である。

 本棚もガタガタと音が鳴り響いていて何かの気配が感じられる。

「ゆっくん! ゆっくんいるの! 返事をして!」

 周囲の騒音に負けずと彼の愛称を叫んで呼ぶ。

 返答はない。

 ポルターガイストのラップ音がより強さを増してついには天井や床に「ドドドドドドッ」という音が伴い手形ができていく。

 今は昼だというのにこの部屋の中だけが異様に暗くなっていく。

 急いで携帯を起動して結社に電話を掛けようとした。

 この事態は自分だけではもはや手に負えるよう状況ではなくなってきた。

 綾蔵雪奈だけでは無理だ。

 自分だけでも無理。

 ならば、本局にいる人間でしか対処できない。

「払い給え清めたまえ!」

 祝詞を叫び、聖水を巻く。

 手形の後から嘆きの声が聞こえてくるがそれは煽っただけに過ぎなかった。

 突然と身体から重力がなくなって宙に浮かばされてそのまま横へ圧力という衝撃がかかった。

 身体は壁に打ち付けられて一瞬意識が揺らぐ。

 かすむ視界に半透明な姿をした人影が写り込む。

「ククッ、よもや九条先輩がねぇ来るとは思わなかったんだよ。来るとしたら綾蔵雪菜だと思ったけど違うとはこれまた意外だよ」

「あなた……ゆっくんに捕らわれていた……」

「九条先輩、あなたには消えてもらいます。ここは僕たちの捕食場なんで邪魔されると面倒なんですよ」

 半透明の存在は答えを返さない。

 ただ、殺意だけをバラまいて首を絞めつけてきた。

 確信したことが一つだけで来た。

「捕食場……そっか。ここはもう手遅れだったのね……」

 哀れな自分の最後を悟った。

 敵の猛襲が始まっているのだとしたらもう彼もどこかへ捕らわれてしまっていることだろう。

「ねぇ、一つ聞かせて頂戴」

「なんだい九条先輩」

「あなたたちが捕食したこの学園の失踪した女子生徒たちや男子生徒は多くが結社の人間だった。それは狙ってしたこと? それとも偶然?」

 その質問に対して無言だった。

 ただ、一言笑いだけが返ってきて――

「俺は与えられた餌しか食ってないんでその辺はよくわかんないんだよ。だから、すいません先輩。これも指示なんで消えてくださいね」

 腹に強烈な激痛が走る。

 何かが腹を貫いた感触。

 その物体は腹から引き抜かれた。

 意識は薄れゆく。

 ゆっくん……最後にあなたの声が……。

「聞きたかった……」

 

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